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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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三十六話 191年宇宙の旅

 エルフィリアでは科学が発達していた前世の地球が存在する世界をガイア、マッチポンプ世界をエーリュシオンと呼んでいる。主に人文学の研究の過程で名称が無いと不便だった。星の名前には困らないんだけど(※)、流石に世界の名前はね、欲しかった。

 エーリュシオンの天体は地球ととてもよく似ている。月が一つあり、太陽がある。多少歪ではあったがよくよく探して見ればオリオン座らしき星座もあった。望遠鏡が開発され、精度が上がり、天文学も発達し、水金地火木土天海、太陽系の惑星が全て存在する事はかなり昔に分かっている。

 エルフィリアでは法暦73年頃から一応宇宙開発がされている。

 トラペゾヘドロンの魔力送受信+タキオンの加速を利用し、ロケットを打ち上げて星に送り込んでいるのだ。魔法を使って目標の星への距離や角度を確認し適宜軌道修正できるので、科学的な制御機構は全く付けていない。魔法万歳。

 魔法技術を使った宇宙開発の最大の利点は、一度目標の星に辿り着けば容易に相互移動出来るようになる事だろう。

 トラペゾヘドロンを介して魔力を送受信する事で、何光年離れた星間であっても転送魔法で一瞬にして移動できる。ロケットを目標の星に落としさえすれば、後は転送魔法の乱打で人材なり物資なりをいくらでも送り込めるし、逆に目標の星から資源を輸入するのも自由自在。

 例えば月には既に基地が造られている。月の地表や大気成分の分析、月面地図の作成など科学的な研究から、月の地中に含まれる魔力の密度・総魔力量の計測、魔力鎖の解析など魔法的アプローチの研究も行われている。

 月にはナトリウムやカリウムなどからなる大気が存在するが、地球の大気に比べると10^17分の1(十京分の一)ほどの希薄さであり、表面は実質的に真空である。従ってウィスプによる活動は不可能。基地内外の活動はゾンビによって行われる。ゾンビは呼吸も食事も要らず、温度変化に強く、体力無限で、低重力下でも筋力が衰えないので宇宙開発に適している。ついでに言えば紫外線の影響も無い。エルフの研究者や観光客も時々基地を訪れるものの、基本的にゾンビがメインだ。最近ではリビングアーマーの割合も増えているが。

 他にも金星と火星に基地が造られ、まー色々と活動中である。現在は法暦191年、宇宙開発開始から百年以上が経過しており、既に太陽系の外にまでトラペゾヘドロンを介して移動できるようになっている。

 数多くの星々にトラペゾヘドロンを送り込み、天文学的な研究は猛スピードで進んだが、それは科学的観点での天文学だけではなく、魔法的観点での天文学でも同じ事が言える。

 星全体で保有する魔力量を計測計算すると、星によって異なっているのが分かる。そりゃまあ月と金星あたりを比べれば体積が全然違うのだから魔力量が等量である方が可笑しい。しかし星の体積に対する魔力量で比較しても差異がある。端的に言えば星によって無機物中の魔力密度が異なる。

 地球上の無機物中の魔力密度は0.11mpだ。これは偶然にも無機物の自然魔力帯性と等しい。

 星が違えば無機物中の自然魔力密度も異なり、0.109mpであったり0.112mpであったりする。別に無機物の自然魔力帯性が違っているわけではない。自然魔力帯性が0.11mpでも、星全体が保有する魔力量が少なければ、少ない魔力を星の無機物全体で共有するので0.108mp、0.107mpといった低い魔力密度にならざるを得ない。逆に星全体が保有する魔力量が多ければ、過剰な魔力も星の無機物全体で共有するので0.112mp、0.113mpといった高い魔力密度になる。

 トラペゾヘドロンを設置した観測地点(星)が増えるにつれて分かったのだが、この星毎の魔力密度差にはある程度規則性がある。特定の方向に近付くにつれて星の魔力密度が上がっていき、遠ざかるにつれて下がっていくのだ。数光年~十数光年の単位で比較しなければ分からない程度のものではあるが、歴然とした事実である。

 太陽系の外に探索の手は伸びているが、現在の探索範囲は宇宙全体で見れば一億分の一も探索できておらず、未だ天の川銀河系の中に留まっている。宇宙の探索が終わるより不測の事態で俺が消滅する方が100%早い。確か宇宙は常に膨張してるとかなんとか言ってた気がするし。探索領域は絞るべきだ。従ってここ数十年では専ら魔力密度が濃くなる方向、即ち宇宙で最も魔力密度が高くなると思われる座標Xがある方向へ重点的に探索を進めている。

 魔力密度が高くなっていくその先に何があるかについては「dmアダム論」「中性子星理論」の二つが有力視されている。

「dmアダム理論」はダークマターの起源は座標Xであるとする理論だ。

 ダークマターは座標Xで発生し、もしくは発生し続けており、そこから宇宙塵や隕石を介して宇宙全体へ広がっている。恐らく宇宙のはじまりであるビッグバンと同時にダークマターは発生したのであろう、というのが概略。この理論が提唱されてからは科学的アプローチで宇宙の謎を解明しようという動きも高まっている。

「中性子星理論」は座標Xはかつて中性子星があった地点であるとする理論だ。

 中性子星とは質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種である。俺も詳しくは覚えていないが、中性子が主な成分の天体で密度は太陽の密度の百兆倍以上とかなんとか。具体的な数値で表すと1cm³当たりで10億t。重力は地球の重力の2×10^11倍もの大きさがある。

 で、中性子星も昔は恒星であった訳で。恒星にだってダークマターは存在していて、それが星全体に均一に分布している。恒星から中性子星へ、星が収縮する時、ダークマターの量はそのままに星の体積は小さくなる。百兆分の一以下になる。魔力密度は百兆倍。

 魔力密度は6216^2=38638656mpが限界であり、この密度に達するとダークマターはマナとして結晶化(物質化)する。物質化すれば重力の影響を受けるようになり、中性子星の途方も無い重力に引き付けられ、無理やり圧縮される。

 物質の魔化は陽子数を基準として起こるため、中性子星で魔力がどのような動きをするのかは不明だ。中性子の塊であるから、中性子星全体が消失するのかも知れない。ダークマターが弾き飛ばされるのかも知れないし、むしろダークマターの方が中性子に変化する可能性もある。

 数ある可能性の一つとして、中性子星においては中性子とダークマターは独立して動き、ダークマターはマナ結晶になると仮定した実験を行った。マナ結晶は重力の影響を受けて超高圧の状態になる。超高圧下でマナがどうなるかぐらいは地上でも実験によって確かめる事ができる。

 実験の結果、圧力が一定以上に達した瞬間、マナ結晶は結晶化を解除し、二倍の量のダークマターになって飛散した。この時飛散したダークマターは保有オドが空だったので、マナ結晶は超高圧下においてオドをダークマターに変え飛散すると考えられる。

 つまり、

 ダークマター分子→圧縮されてマナになる→更に圧縮されてオドが空のダークマター分子×2になる→ダークマターが質量を変換してオドを充填→再び圧縮されてマナになる

 というループが起きると予想される。ダークマターは中性子の塊の中でも質量変換を行えると仮定した場合だが。

 要約すれば、中性子星の莫大な質量の大部分がダークマターに変換され、途方も無い量のダークマターができ、そのダークマターが宇宙塵や隕石を介してその周辺に広がった。このような考えが「中性子星理論」だ。

 ちなみに「dmアダム理論」と「中性子星理論」を複合した理論も提唱されていて、個人的にはこれが一番真実に近いのではないかと思っている。

 真空中で魔力はランダムな方向に吹っ飛んでいくが、どうも精密に観測してみると座標Xを基準とした座標系で停止してるっぽいんだ。座標Xに対して地球や太陽系や銀河系は運動しているから、相対的に秒速数百kmで移動しているように見えるのだ。dmの発生地点を基準としてdmが真空中で停止するというのはけっこうしっくりくる。それに中性子星理論にも矛盾はないから、dmは座標Xで発生し、中性子星で更に量を増やしているのというのが正しいんじゃあないかとね。

 真相は宇宙の中。何百年後か宇宙探索が更に進めばはっきりする時も来るのかも知れない。長生きしよう。


 実際の所、恒星から中性子星になる過程で少なくとも鉄は確実に魔化すると思います。恒星は元素を燃料に核融合を行っていて、水素から順にヘリウム、炭素と消費していき、最終的に鉄の元素が残るので。鉄より原子量が小さい元素の魔質もできる可能性は充分にあります。宇宙のどこかには天然の魔質をたっぷり含んだ星があるのかも。夢が広がる。

 あと恒星が中性子星になるとは限らねーんだよ、という突っ込みはしても良いですが本編では触れません。話がややこしくなるので。



三十六話まとめ

・マナに高圧をかけるとdmになる。その時オドがdmになる(dmが増える)

・中性子星ではdmを量産してる気がする

・dmはビッグバンが起きた地点で発生し、そこから広がっていったんじゃねーの?

・真空中ではdmに慣性が働かず静止するが、ビッグバンが起きた地点を基準にした座標系で静止しているっぽい。



 実際にはエルフィリアではエーリュシオンに存在する星をビルテファ語の現地名で呼び、ガイアに存在する星を日本語で呼ぶ事で区別しています。ただし作中では基本的に統一して日本語表記。

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