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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
一章 不死の起源
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七話 森林、木霊

 大気中の魔力を取り込むとしばらく気分が悪くなり、体から異物感と違和感が抜けない。三日程で体調は回復するため最速で行けば三日に一度のペースで濃度を上げて行ける訳だが、苦しい事に手を出すのは誰だって嫌なものだ。だって人間だもの。

 誰に強制された訳でも無い、時間制限も無い。俺は休みを挟みつつ急がず焦らず自分のペースで濃度を上げて行った。

 最初は人恋しくなる事もあったが何にでも慣れてしまう物で、やがて独りが苦にならなくなる。いつしか年月もあやふやになる。

 多分五十年経った頃、俺は大気と同程度まで自分の濃度を上げる事に成功していた。これで四六時中魔力操作をせずとも消滅する事は無い。自然体で過ごす事が出来る。自由っていいなぁ……

 もっとも魔力操作は五十年ぐらい二十四時間三百六十五日いつでもどこでも休む事無く続けていたので既に本能レベルで身に着いていた。呼吸をするように無意識に魔力を自分に引き止めている。

 しかしまだまだ動物に触ると呆気なく霧散する。多少楽になったが消滅の危険は去っていない。

 俺は次のステップに進む事にした。生物の魔力に体をならし始める。まずは草から。

 大気の魔力に慣れてからは草原の草に触れても消滅しなくなっていた。強烈な吐き気と圧迫感、体がねじれてよじれる嫌ーな感覚がするがひとまず消えはしない。

 冬は草が枯れてしまうので休憩期間にして、専ら春から秋にかけてじわじわと草の魔力を極少量取り込んで濃度を上げて行った。

 時間的なペースは四分の三になった。しかし魔力が濃くなって以前より霊体が安定したのか若干濃い目の魔力にも耐えられる様になっており、濃度上昇速度は結果的に早くなった。YES、確かに進歩している。俺はやれば出来る子。

 大気に慣れるまでより短い歳月を経て――恐らく三十年弱――俺は草原の草の魔力濃度にも慣れた。途中で鷲っぽい鳥の体当たりで体をほとんど半分消されなければもう数年は短縮できただろうが悔やんでも仕方無い。

 草原で蛍の光を三番まで歌って別れを告げ、東の森に移動した。










 鬱蒼とした深い森で、頭上の枝には蔦が絡まり日の光を遮っている。昼間でも薄暗くどこかおどろおどろしく、お化けでも出そうだった。ああ俺がお化けだったわ。

 森の中は小動物が忙しなく飛び回っていて危険極まり無いので、まずは森の入口で膝丈ほどの若木を見つけてそれにならせた。

 若木は成長するにつれて微妙に魔力密度を上げていき、丁度良い塩梅で俺の魔力密度上昇と釣り合った。なんか木の苗を植えてその上を毎日跳び越し、十年後には強靱な脚力が貴方の物に! みたいな訓練法をしている気分になる。

 森の奥の姿の見えない動物達の鳴き声を聞きながら、ここでも俺はじわじわと魔力濃度を上げて行った。八十年だか九十年だかそれぐらいの間延々と地味な作業を続けていた俺は半ば悟りの境地に入っていた。当初の人間の近くで暮らすためという目的が薄れる。

 なんかね、同じ事繰り返してると心の不純物が取れるね。感謝の突き一万回じゃないけどさ、そこはかとない充実感が無くも無い。やっぱり面倒臭い事には変わり無いんだけども。

 あーああ! どっかに一瞬で世界最強レベルまで強くなれるアイテム落ちてねーかなぁ! ……落ちてないよなぁ。

 まあ早々都合良く強化アイテムをゲットできたら誰も苦労しない訳で、俺は若木と共にまた一歩ずつじわじわと濃くなっていった。もうホントこれ亀の歩み。塵も積もれば山となるとか継続は力なりとかそういう言葉が似合う男だと思うよ俺は。八、九十年て。考えてみれば人生丸々一回分じゃねえか。

 やがて若木は俺の身長を追い越し立派に実をつけるまで成長したのだが、所詮は植物。現状以上に魔力は濃くなりそうもなかった。

 木は草と比べて魔力が濃いが、動物よりは薄い。スモウレスラーが三人集まって作ったようなぶっとい幹の大木でさえ密度は小ネズミに劣る。その代わりに魔力量は動物より成長量が多いが俺の役には立たない。俺は蛍の光を一番だけ歌って森の中へ突入した。










 霊体は物質をすり抜ける。

 この特性は非常に便利で、俺は森の大木に体を飲み込ませて安全を確保した。幹に完全に埋まっているのでうっかり動物に接触してアボンなんてこたぁ無い。俺天才。

 大木の幹から顔だけ外に出し、木から生えた生首みたいな状態で動物が通りかかるのを待つ。動物が木の前を横切ったら素早く幹から出て動物の体から漏れる魔力をほんの少し頂戴し、素早く幹の中に戻る。この繰り返し。

 時折キツツキが幹に穴を開け始めるのでその時はまた安全な大木を探してその中に移住し、俺はまったりのんびりと成長した。消失の危険性は限り無くゼロに近いのだから急がず焦らず。マイペースマイペース。









「それ」に遭遇したのはキツツキに追われて住家を変える事三回目の移動中だった。

 くねくねと曲がった枝に白い幹の大木の枝の上で半透明な……あー、マンドラゴラ?みたいな奴が踊っていた。なんかこう、大根を根分かれさせて棒みたいな手足を作り、葉っぱを大雑把に髪に見える様に整えようとして失敗したみたいな姿をしている。顔は無い。のっぺらぼうだ。

 え、モンスター? 今更?

 なんだこいつはとしばらく観察していたが、腰を振り頭の葉っぱを振り乱して陽気に踊るばかりでどうも悪い奴には見えない。半透明だし俺と同じ霊体だろうか。

 見た所「それ」の魔力密度は俺よりも少し低い。接触しても安全だろうと判断し、「それ」の正面まで飛んで行って手を振ってみた。

「!」

 体を硬直させ、「それ」は踊りを止めた。顔が無いから判断がつきにくいが、顔に当たる部分を俺に近付けて凝視しているように見える。

 言葉通じるのかコレ、と悩んでいると「それ」の手が動き、先程俺がしたのと同じ動作で振った。手を振り返してくれたらしい。大根モドキが盛んにぶんぶん手を振る姿には妙に愛嬌があった。

 良い奴っぽい。











 俺は大根モドキに主にジェスチャーで会話を試みた。言葉が分からなかったからだ。

 身振り手振りの説明を十日ほどかけてなんとか判読した所によると、大根モドキはある種の木の霊らしい。木の霊だから木霊、と安直に命名したら名前の概念を知らない様で説明に苦労したが、なんとか個体名を認識させる事に成功した。

 それはともかく。

 木霊の元になった木の葉には魔力を目覚めさせる作用があった。秘薬の薬草の木バージョンらしい。しかし同時に強力な毒を持っていたため、虫や鳥に脅かされる事無く順調に成長していた。

 そして順調に成長して、成長しきり、老い、寿命を迎えて枯れた。

 木霊はその木の霊体だった。自然にゆっくりと生命活動を止めたせいか急激に魔力を散らす事も無く、かなり小さくなりはしたもののじんわりと無事霊体になったらしい。魔力を目覚めさせる木なのだから、まあ少しぐらい魔力操作が出来ても不思議では無い。

 人間以外も霊体になるんだな。確率めっちゃ低そうだけどさ。

 納得した所でそれじゃあその踊りは一体なんなんだと聞いてみた。まさか木霊の元になった木は歌って踊れるスーパーツリーだったのか、と問詰めると頭をぷるぷる横に振る。

 一生懸命身振り手振りで説明を始めたので腰を据えて再び解読作業に入ると、数匹の猿が木霊と同じステップで踊りながら俺達の居る木の下を通り過ぎて行くのが見えた。

 OK、把握。ファンキーなモンキーから学んだんだな。

 その後マイムマイムを教えてやると喜んでいた。






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