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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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十六話 アラシェプトナにて


 ヌラァフ達は俺が自分達以上の魔法技術を持っている事を理解しているようで、暴君の墓の調査を依頼してきた。

「例のあの人」的感覚で恐れられていた暴君さんは死んでなお恐れられている。一応死体は燃やして骨と灰にして百個の壷に分けて入れて厳重に封をして魔法で小岩の中に転送して地中にプールを作って沈めて埋めてその上に巨大な岩を置いて封印してあるらしいが、それでも復活するんじゃないかと不安なんだとか。

 はっきり言って過剰なぐらいの封印処置だと思う。灰にした時点で復活しねーから。というか死んだ直後に魔力固定をしなかったならその時点でもう復活不可能。ゴーストになっていた場合は死体は抜け殻だから弄っても意味無し。まあゴーストにはなっていないと思うが。並列思考できないと三日で体を保てなくなるし。

 何にしても依頼は依頼なので墓がある街まで赴く。

 オロス山の南にあるラクス湖の畔に墓はあった。そこは元々暴君の部族が拠点にしていた場所らしく、圧政の時代に急速に人とゾンビが集まって発展したため、随分と大きな都市になっている。ゾンビの無限労働と魔法を併用して造られた石造りの町並みには大小様々な水路が縦横無尽に走り、上下水道の区別もされているとか。

 暴君とやらは先進的な思考を持っていたらしい。信長みたいな奴だったのかね。良いものはどんどん使ってダメなものは斬る。優秀な人材を収集し、支配下に置き、魔法を与え、彼の時代にフビッタ達の文化・技術水準は概ね急上昇したが、手段を選ばなかったため殺られた。怖い怖い。

 この街にはアラシェプトナというフビッタ語で「栄光の都」を意味する立派な名前がついているのだが、今は墓の監視警戒役のヌラァフが数人住んでいるだけのゾンビタウンになっている。その監視役も持ち回り制で、全員嫌々やっているという。嫌われてんなあ……

 監視役のヌラァフに案内されて俺は墓の前まで来た。大型トラックを地面に突き刺したような直方体の石碑がドドンと広場の中心に鎮座していて、石碑の表面にはフビッタ語でずらずらと文字が書かれている。流し読みしたが要約すると「お願いですから大人しく埋まってて下さい」だった。

 俺はさっそく石碑の下に魔力を伸ばし、転送魔法で地下プールに沈んでいた小岩を地上に出した。振り返ると案内役のヌラァフが二十メートルほど離れた物陰からこそっと顔を出していた。怖がり過ぎだろ。

 小岩を砕き、壷を出す。蓋を切断すると中に骨が入っていた。この骨が蠢いて再生しながら動き出したら流石に引く。

 調査と言ってもやる事は簡単だ。魔法がかかっているのは有り得ないから(死亡直前に魔法を使ったとしても時間経過でとっくの昔に効果が切れている)、法術がかかっているかどうかチェックするだけ。魔質をマホウ大陸から転送してきて骨が持つ魔力を成分分析したが、法術特有のダークマターの偏りは確認できなかった。骨に含まれていた魔力量・密度も通常の物質と何も変わらない。

 結論、白。ただの骨です。

 調査結果を伝えると、ヌラァフ達はこぞってアラシェプトナに移住し始めた。おっかない奴が甦らないと分かればやっぱり太陽の下でしっかりとした街に住みたいらしい。百年以上ほとんど放置されて街並みを侵食していた草木をばっさばっさと切り払い、朽ちた家の戸を付け直し、崩れた壁を補修して、ヌラァフ達は全員アラシェプトナに住み着いた。

 あと大改修の余波というとなんだが、フビッタ=ザクゥが見つかった。

 アラシェプトナはかなり広大な敷地面積を持つ都市で、使われていない建物や水が止まった水路が山ほどあり、駐留するヌラァフは特定の場所・道しか使わない。墓の見張り以外でヌラァフが寄り付かないアラシェプトナはザクゥにとって絶好の隠れ家になっていた。生き残った千数百人のザクゥは全員ここに隠れ住んでいたらしい。

 今まで静かだったアラシェプトナにヌラァフが突然大挙してやってきて街の掃除を始めたため、ザクゥ達は泡を喰っててんやわんやの大騒ぎになった。逃げようともしたようだがあまりに唐突過ぎて準備も何もなく、他に住めるような場所もない。病人や妊婦、老人などすぐには逃げられない者もいる。

 そこで意を決してザクゥの代表が命がけの交渉にヌラァフの下に赴いたのだが、ヌラァフにとって既にザクゥはどうでも良い相手である。交渉は三分で終わった。

 特に襲うつもりはない、アラシェプトナの家屋や施設はヌラァフが優先的に使うが、空き家は好きにしろと一方的に告げられ五体満足で何もされずに追い返された代表は、何が起きたか分からないという顔をしていた。そりゃまあ数代に渡って自分達を容赦なく迫害してきた天敵にいきなり不干渉を宣言されたら喜びより困惑が先に立つだろう。

 ザクゥ達は一体何がどうなっているんだと訝り、恐る恐るヌラァフに事情の説明を要求。面倒くさそうに成り行きの説明を受けたザクゥ達は怒りと脱力と安堵が入り混じった複雑な顔をしていた。トランプの方が自分達の命よりも重いと言われたに等しいのだ。怒るのも無理はない。

 同胞を面白半分に散々狩られたザクゥ達には当然相当の怒りや憎しみがあったが、復讐に走ったら今度こそ全滅させられる。憎悪よりも恐怖の方が勝ったらしく、衝突は起きなかった。

 潜在的な敵対関係を保ちつつも、ザクゥとヌラァフはとりあえず平和に共存し始めた。

 さて、アラシェプトナの大改修が終わり、情勢が落ち着き、本格的な交易が始まる。 

 ヌラァフ大陸の主な特産品は香辛料だ。マホウ大陸でも連合国で少量生産されているが、ヌラァフ大陸の方が収穫量も種類も桁違いに多い。香辛料の他にも陸稲や果物など、植物資源が豊富だ。

 食事を取らないヌラァフは料理と栽培のノウハウをほぼ完全に失っていたので、俺はそのあたりをザクゥに頼る事にした。ザクゥは魔力覚醒しておらず俺の姿が見えないので、ロザリーを代役に立てて交渉する。ロザリーもヌラァフと同じゾンビなのだが、髪の色も背の高さも顔の作りも違うマホウ大陸産のゾンビはヌラァフと同列視される事なく、至って平和的に話は進んだ。

 ザクゥはアラシェプトナ近郊で細々と香辛料や果物の栽培をしており、それらの調理法も熟知していた。鳴き声でヌラァフに見つかるのを恐れて家畜は飼っておらず、肉料理はほとんど無かったが、逆にその他の料理法は多種多様だった。

 労働力はこちらで用意できるので、栽培と料理のノウハウを教えてもらい、種と苗を分けてもらった。対価としてヌラァフとの間を取り持ち、いくつか基本的な権利を認める取り決めを結ぶ。この取り決めでザクゥは俺に栽培・料理のノウハウと種と苗を渡し、俺はヌラァフに握りこぶし大のグブレイシアンの珠を渡し、ヌラァフはザクゥにアラシェプトラでの正式な居住権とザクゥを法の枠組みに入れる事を認めた。

 グブレイシアンはヌラァフ達がやたらと欲しがったので交渉材料に使った。熱の無い永遠に燃える火はさぞ神秘的で崇高なものに思えたのだろう。グブレイシアン単体で錬金術に辿りつかれるのはありえないから渡しても構わない。ヌラァフ達はグブレイシアンを暴君の墓の石碑に窪みを掘って安置していた。復活しないと分かってもヌラァフにとって暴君の墓は汚らわしく恐ろしい場所なようで、その穢れをグブレイシアンで祓うとかなんとか……まあ好きにすればいいんだけども。

 ザクゥを法の枠組みに入れた、というのは端的に言えば道端の石ころから最下級の人間にランクアップした、という事だ。今までは虫ケラのように無造作に殺されていたが、今後はヌラァフがザクゥを殺したり、ザクゥの所有物を盗んだり、その他危害を加えたりするとヌラァフはザクゥに罰金を支払わなければならない。罰則は一律罰金で、しかもそこまで大きな額ではなく、逆にザクゥがヌラァフに危害を加えると段違いに重い罰則が下るが、一応法の保護下に置かれたというのは大きいだろう。

 資源の安定的入手の目処が立ったので、ヌラァフと先の取引とは別に交渉して土地を借り(チオチモリンを対価に使った)、ゾンビを投入して作物の栽培を始める。これでもう里での料理のために連合国から香辛料をチョロまかす必要はない。

 香辛料を使った料理か……これだけ種類があればカレー作れるかなあ。連合国産の香辛料だけだと種類が足りなかったんだよな。醤油や味噌も料理に耐えうるものができたし、稲も見つかったし、既に前世で食べた事がある料理は全て再現できる。完成図は分かっても料理法が分からず「モドキ」にしかならない料理もかなりあるが、モドキでいいならOKだ。

 ……なんだかなー。里の食文化がますます発展していくのは喜ばしいんだが、自分で食べれないのが少しもどかしい。ウィスプの体はこれはこれで便利だが、肉体があった方が便利な事もある。一々物理干渉するために魔法使う必要ないし。味のチェックに一々誰か人間に食べてもらう必要ないし。

 再び肉体を得る研究をしてもいいかも知れない。


ヌラァフ大陸編終了。次は西の群島の話。こっちは一話か二話で終わる。


百年以上昔の灰が灰と分かる状態のままかどうかは分かりません。普通なら土っぽくなっているのかも知れませんが、突っ込まないで下さい。特に話は広がりません。

2012.4/23

修正。灰→骨

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