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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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十一話 南へ

 酸素が魔化し、次に魔化すると予測されるのはフッ素だが、フッ素の単体をどうやって得るのか分からない。フッ素の次のネオンも分からない。すると次に発見されると予想される魔質は22.0mpでナトリウムだ。ナトリウムは塩の融解塩電解で得られている。

 16.0mpから22.0mpまで密度を上げるにはこれまでのペースから計算すると十九年かかる。俺はそれまでの時間を使って探索をする事にした。

 エレメン教国、ナルガザン帝国、ノーヴァー連合国がある大陸、通称マホウ大陸の探索は既に完了している。壁画やら現生人類と形が違う人骨やらも見つけ、大切に保護してある。発見された遺跡の数々からは原始的な文字が見つかった。その文字は王国語に似ていたから、王国語と王国語に似た帝国語のルーツは恐らくこれだ。イクシニア語は百年ほど前に作られた言語だから起源もなにもない。

 北端の山脈の永久凍土から氷漬けの人間が見つかったりもした。金髪碧眼で荒く縫い合わせた毛皮を着ていて、粗末な石斧も同時に発見。ビルテファ人の祖先だろう。足の骨が折れていたので、狩りか探索に来て負傷し、動けなくなりそのまま凍りついたのだと推測される。

 しかしそういう普通の発見はあったが、古代超文明やら魔法文明やらの痕跡は無かった。壁画にも魔法を示唆する絵は無し。この世界の人類は前世の地球の人類と同じような進化の過程を辿り、ビルテファ王国が初めて魔法を発見したようだ。ビルテファ王国は結局滅亡したが、信頼性の高い資料で確認できる限りでは小国が乱立していた時代を安定して生き抜き最低でも四百年は存続していたらしい。ちなみに信頼できない資料を含めると神々の時代である(と王国は主張している)六千年前から存続していた事になる。六千年(笑)。

 さて、千年単位でサバ読みをしていた王国の話は放っておいて、マホウ大陸の外に目を向けてみよう。

 ウィスプで高高度まで舞い上がり、上空から下を見下ろすと、瓢箪形のマホウ大陸の他にも大陸がある事が分かる。

 南に連合国の領土と同じぐらいの広さの大陸、というか大きな島。西には群島があり、北から東にかけてはフの字のような形のでかい大陸がある。あとは小さな島がほんの少しある程度。

 この星の陸地面積は地球よりも少ないようだった。ウィスプで星中を探索したが、陸地は北半球に集中していて、しかも合計でオーストラリア四つ分ぐらいしかない(※)。南半球は海ばかり。

 まず俺はマホウ大陸の南にある大陸に向けて探索を進める事にした。

 探索をするのは勿論ウィスプだ。空気中の窒素が魔化してしまわないように13.9mp程度の密度を保ったウィスプ一万体で南下する。途中で海に潜り、海図も作る事も忘れない。

 南の海は赤道が近いだけあり珊瑚礁が見事だった。色彩豊かな魚、イソギンチャク、ウミウシがこれまた極彩色の珊瑚の間を泳ぎ回ったり、隠れたりしている。

 マホウ大陸から南に進み、南の大陸との中間地点になると水深が深くなり、海流も激しくなった。マホウ大陸製で一番性能がいい船は連合国製だが、お世辞にも性能が良いとは言えない。精々が沖合いでも波の比較的穏やかな海域でなんとか漁ができる程度のものだ。この海流を越えるのは難しいだろう。

 激しい海流を抜けて更に南下すると、ようやく南の大陸が見えてきた。海岸線には白い砂浜が広がり、その向こうには鬱蒼とした深い森が見える。

 ウィスプはひとまず千体ほどで上陸し、

 そして森の奥から放たれた大量の槍で一気に三百体ほどが消滅した。

「え? ちょっ、まじかこれ」

 やばいやばいやばいやばいやばい。残りの俺は大急ぎで海中に隠れるやばい。

 ウィスプが消滅したという事は、あれはただの槍ではなく魔法の槍だやばい。ウィスプを貫いた槍は海に落ちて数秒で消えたから間違いないやばい。

 この大陸には俺はまだいない。と、いう事は今俺を襲ったこの魔法は原住民の放ったものだやばい。

 うっはー。この大陸にも魔法あったんだなヤバス。

 場合によっちゃあ俺全滅しかねないぞこれ。この大陸に魔法を使う原住民がどれぐらいいるか知らんが、この島の生物はどんな生物でも魔法が使えるという可能性もあるにはあるのだ。しかもいきなり攻撃してきた。友好的とは言いがたい。俺、ピンチ。

 渡った先の生物・人間が魔法を使えるというのも視野に入れてはいたが、まさかいきなり攻撃されるとは思わなかった。ただ上陸しようとしただけで警告も無しに問答無用で攻撃。これは相当好戦的な……

 いや待てよ?

 千体の魔力でできた冴えない男が海の向こうから群れをなして飛んでくる。

 ……普通に怖いな。これ、攻撃されたのも無理は無いかも知れん。

 この大陸の住民がどのような魔法を使うかは不明だ。魔法しか使えない初歩段階かも知れないし、俺よりも上の段階にいて法術を自在に操れるのかも知れない。全く未知の魔法体系を確立していて、ウィスプ一体に特殊な魔法を撃ち込むだけでコンピュータに感染したコンピュータウイルスの様に連鎖的に全ての俺に広がり、俺全員死滅! という事も考えられる。

 異文化交流は命がけ。久々にちょっと生命の危機を感じる。

 しかしこちらがあちらの情報が分からないように、多分あちらもこちらの情報が分からないはずだ。問答無用で殲滅したかったなら千体を全て殺していたはず。三百体しか殺さなかったという事は、それだけしか殺せなかったか、それだけしか殺さなかったか。前者ならいざとなれば力ずくでもなんとかなりそうだし、後者なら交渉の余地もあるだろう。

 いつまでも海中に潜っている訳にもいかない。俺は一体だけそーっと海面から頭を出して森の様子を伺った。波の音のせいで森で物音がしているかどうかは分からない。まだ森の陰からこちらを警戒しているのか、それとも俺が逃げたと見て引き上げたのか……大して時間経ってないし、まだ警戒してると思うんだが。

 海中から全身を出し、ホールドアップしてゆっくりふよふよと砂浜に近づいていく。ホールドアップの意味が異世界の、しかも別大陸の住民に分かるとも思えないが、ファイティングポーズを取るよりは多分マシだろう。

 ホールドアップしたまま砂浜に到着。ゴーストだから大地を踏みしめた訳ではないが、とにかく上陸に成功した。攻撃はされない。やっぱり群れをなして押し寄せたのが不味かったのか。

 俺は上陸地点で停止し、じっと槍が飛んできたあたりの森を見つめた。上陸前に正確に狙いをつけて槍を放ってきたのだから、こちらの姿は認識できているはずだ。大挙して押し寄せたのは確かだがこちらは攻撃的姿勢をとっていない。じっとして無害さをアピールしておけばあちらから接触してくる……はず。

 狙いは当たり、優に一時間は経った頃、森の奥から一人の男が姿を現した。しっかりした造りの槍(恐らく材質は鉄)を手に持ち、白と黒に染められ袖がだらんと垂れた全体的にゆったりとした服を着ている。短く刈り込んだ黒髪に、黒目。厳つい顔をしている。背は子供並に低く、肌は褐色。

 こちらから目を離さず歩み寄ってくるその小男は、魔力を背中から背後の森の中に伸ばしていた。ふむ、魔力覚醒しているのは確定か。

 小男は俺の前で立ち止まるとじろじろと全身を嘗め回すように見た。槍の石突で俺をつつこうとし、スカッたのを見て「ヌオゥ!」と小さく驚きの声を上げる。なんだ、ゴーストは知らないのか?

 手を下ろし気をつけの姿勢で動かない俺の回りをぐるぐる回ってあらゆる角度から不躾に眺め回した小男は、俺の正面に戻ってきて言った。

「××××××?」

「ビルテファ語かナルガザン語かイクシニア語か日本語でOK」

 はい出ました。外国語です。何言ってるのか分かりません。翻訳魔法なんて便利なものねーから。

「××××××……×××、×××××?」

 小男は海の向こう、俺が来た方向を指差して何か言った。「お前は海の向こうから来たのか?」と聞いてきたのだと推測し、頷いておく(※2)。小男は顎を撫でて唸った。次に海中を指してまた何か言ってきたので、多分こういうことだろうな、と推測し、海中に潜んでいた俺七百体を頭だけだした。

「ギャ!」

 小男が悲鳴を上げた。うん、ごめん。全く同じ顔のゴーストが何百体も一斉に海面から頭だけ出したら怖いよね。俺が悪かった。あんまり刺激するのも不味いのですぐに海中に引っ込める。

 小男は砂浜に石突を使って絵を描きはじめた。海を描き、海岸を森を描く。森の先になにやら洞窟? 岩屋? のようなものを描く。更に海に何十体もの人間を描き、海岸に二人人間を描いた。森にも数人の人間を描く。小男は俺を指差し、海岸の人間の内片方を指差した。これが俺、という事だろう。小男は自分を指差し、もう片方の人間の絵を指差す。はいはい、それがあんたね。

 俺が頷くと、小男は俺の絵を丸で囲み、線を引っ張って岩屋へ矢印で結んだ。そして俺の顔を見る。

「何? 俺だけ連行されるの?」

「××××××」

「あー、もういいや、好きにしてくれ」

 言葉の意味が分からん。俺はまたホールドアップした。小男はそれが無抵抗を意味する仕草だと理解したようで、背後の森を振り返って槍を数度左右に振った。

 すると森の中からぞろぞろと人間が出てきた。

 容姿の特徴や服装、手に持っている槍などは小男と同じで、大人の体格と顔をしえているのに身長は一様に低い。一番高い者でようやく130cmぐらいだ。なるほど、最初に出てきた男だけがチビなのではなくそういう種族らしい。

 男は彫の深い厳めしい顔をしている者が多く、女は可愛いというよりも凛々しい者が多かった。男は全員髪を短く刈り込んでいて、女は全員三つ編みにしている。そういう文化なのだろうか。

 小人達は俺を取り囲んでヒソヒソ話しながら好奇の視線を向けてきた。過剰な警戒は解けたようだが、警戒されている時よりも落ち着かない。

 そわそわしていると小人が一人輪から抜け、俺を槍の石突でつついてきた。その小人がささっと戻ると、他の小人達に質問攻めにされていた。客寄せパンダにでもなった気分だ。

 しばらくすると最初の男が手を叩いた。すると小人達はお喋りを止め、二つに分かれて道を空ける。男は自分と俺を指差し、森の奥を指差した。付いて来いって事ね。把握。

 男が背を向けて歩き出したので、俺はふわりと浮いてその後ろに付いていく。小人達は俺が浮かぶのを見てざわ……ざわ……と衝撃を受けていた。よくわからん。大方改めて俺が飛ぶのを見て驚いたとかそんなところだろうが。

 小人達は先導する男から一定距離を保つ俺を取り囲むようにして付いてきた、ただ付いて来るだけではなく、めいめいに魔力を操り、より合わせて半径三ミールほどのドームを作って俺を覆った。

 どうも一人では作れない魔力のドームを、複数人で協力する事で作っているらしい。なかなか魔力操作が上手いな。ドームに揺らぎはなく、固定強度もそれなりにあると見える。これならクリエイト・ゾンビぐらいの魔術も使えるかも知れん。

 魔力のドームを作ったという事は、俺が魔力でできているのが分かっているという事だろう。魔力のドームは生物には何の意味も成さないが、魔力でできているゴーストにとっては堅固な檻となる。魔法を撃てば紙のように破れる檻ではあるが、そんな事をしたらその瞬間に反撃を受けて消滅する。俺は要警戒人物(?)として護送中という訳だ。一体どこに連れていかれるのやら。

 俺は一抹の不安とそれ以上の期待を抱きながら、小人達に連行されていった。


ロバートがいる星にオーストラリアがある訳じゃないのになんで分かるんだ? という突っ込みは無用。ロバートは感覚的に多分これぐらいかな、と考えているだけです


※2

頷く=Yesというのは共通認識という事で。ご都合主義万歳

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