表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
59/125

九話 魔力の成分分析

 法暦46年、四つ目の魔質を発見した。魔化したのは予想通り原子番号8の元素、酸素。16.0mpで魔化したから、単体の原子が原子番号×2で魔化するという法則は確定でいいだろう。

 大気中で14.0mp以上になると窒素が魔化してしまうのは面倒だったが、そこは水の中で密度上げをする事で魔化を回避してある。水は14.0mp以上でも魔化しないのだ。水の魔化密度は不明なので(そもそも化合物である水が魔化するのかも分からん)16.0mpになる前に水が魔化する可能性もあったが、それはそれで良かった。水が魔化したら鉄の塊でも作ってその中で密度上げをすればいいだけの話。

 基本的に精霊やウィスプのロールプレイをしたり索敵・探索活動に勤しむ俺は14.0mpより低密度を保ち、密度上げ要員の数万体の俺は川や海や貯め池の水の中に沈んで密度上げをしていた。この数年でかなり魚介類と親交を深めた気がする。

 酸素が魔化してできたのはテカテカした緑色の液体だった。外見としては緑色の水銀という表現が一番的確だと思う。ただし密度は水銀ほどではなく、水より若干重い程度。融点は多分-200℃程度、沸点は恐らく1000℃を超える。

 緑色の液体、という事で酸素の魔質はメタトロンと命名した。

 メタトロンをチオチモリンに入れると溶けた。というか均一に混ざった。そこにグブレイシアンを入れるとメタトロンは底に溜まり、溶質はグブレイシアンになる。タキオン>グブレイシアン>メタトロンの優先順位で溶けるようだ。これが何を示しているのかは未ださっぱり分からないが、意味ありげだ。その内分かる時が来るんだろうか。

 で、メタトロン特有の魔法的性質だが、これがまた面白い。メタトロンの中では魔法が使えないのだ。正確には次のような事が起きる。

 メタトロンの中に純魔力、もしくは形質魔力を押し込むと、押し込もうとした魔力の内二分の一がメタトロンの中に入り、残りの二分の一は膜でもあるかのように拒絶されてメタトロンに入れる事ができず、しかも形質魔力だった場合拒絶された魔力も中に入った魔力も純魔力になる。魔質が魔化密度と同じ密度まで魔力を保有できる法則は適用されるが(メタトロンは16mpまで保有できた)、どうしても純魔力になってしまう。

 はじめメタトロンは短時間に大量の魔力を受け入れられない魔質なのでは? と考えたがそうではなかった。ゆっくり魔力を押し込んでも、低密度の魔力でも高密度の魔力でも必ず入れようとした魔力の内二分の一が拒絶されてしまう。

 魔力を半減させて受け入れているのかと言えばそれも違った。拒絶されて締め出しを喰らった純魔力を容器状に変化させた形質魔力で捕まえて再度押し込もうとした所、何度来てもテメーはダメだと言わんばかりに全て拒絶された。

 魔力にはメタトロンに受け入れられる魔力と拒絶される魔力の二種類があるという事である。

 今までも純魔力と形質魔力の二種類に分けてきたのだし、魔力に種類があるという事に違和感は無いんだが、形質魔力を押し込むと純魔力になるって所がひっかかる。なぜ形質魔力をメタトロンに押し込むと純魔力になるのか?

 まず思いついたのは魔法を使用した時の現象だった。魔法を使用すると使用した形質魔力の内八分の七が純魔力になる。今回の現象に似ている。

 魔力には魔法になる魔力とならない魔力があり、メタトロンや魔法で形質魔力が純魔力になるのは魔法になる魔力とならない魔力で分けられているのでは? と一瞬考えたが、すぐにそんな訳が無いと思い直す。その理屈だとメタトロンと魔法で純魔力になる割合が異なるのはおかしい。

 そこで俺は考えた。純魔力純魔力と考えていたが、それは果たして本当に純魔力なのだろうか?

 定義としては純魔力は無生物中にある魔力の事であり、形質魔力は生物が持つ魔力である。純魔力は生物の体内に取り込まれるとその生物の性質を記録した形質魔力になる。

 形質魔力は直接操る事ができ、純魔力は直接操れないから、そこから純魔力か形質魔力かを判断していたのだが、考えてみれば操れない魔力が全て「純魔力」という一種類の魔力である根拠はどこにも無いのだ。

 大気中にある純魔力と、魔法行使でできる純魔力と、メタトロンでできる純魔力は「形質魔力ではなく、直接操れない」事は確かだが、それだけで全く同質の魔力とは言えない。

 つまる所、魔力はもっと細かく分類できるのではないだろうか?

 疑問があったら即検証。俺はまずグブレイシアンを使った完全無魔力空間を作り、保有魔力密度2.1mp(魔法が使える)の里の人間を三人魔力覚醒させ(三人用意したのはあるかも知れない個人差を無くすため)、魔力を全て引っこ抜いた上で完全無魔力空間に放り込んだ。

 グブレイシアンの火が消え、空間内部に一切魔力が存在しない事を確認してから、圧縮した大気中の純魔力をゴッソリ空間内に入れる。そして二十四時間時間を置く。

 いきなり魔法を与えられたらかと思ったら丸一日待ちぼうけを喰らわされ困惑している里人達に何か身体強化魔法を使ってみるように指示すると、問題無く魔法は発動した。大気中の魔力が形質魔力に変換されたという事だ。生物の体内で形質魔力に変換されるのが純魔力の性質だから、大気中の魔力は間違いなく純魔力である。

 次に魔法使用時にできた八分の七の純魔力を捕まえて同様に実験してみた所、魔法は発動し、形質魔力になっている事が確認された。これも純魔力と言える。

 最後にメタトロンに拒絶されてできた純魔力を捕まえて同様に実験してみた所、魔法は発動しなかった。しかも全く操れない。

 これは純魔力ではない!

 純魔力は形質魔力に変化し形質魔力は純魔力に変化するので一応純魔力と形質魔力は同質であると言えるが、メタトロンに拒絶された魔力は形質魔力になれない、純魔力と形質魔力とは別種の魔力と言える。

 ……のだが。

 物質には自然状態で帯びる魔力密度=魔力帯性がある。シルフィアなら2.5mp、エルマーなら3.1mp、無機物中なら0.11mp。この魔力帯性以上の魔力を持とうとすると魔力固定やら魔力圧縮やらの魔力操作技術が必要になる。

 ずっと魔力操作を続けていれば魔力帯性に逆らって高密度の魔力を維持できるが、魔力操作を止めれば魔力帯性以上の過剰な魔力は放出され、密度は魔力帯性まで戻る。以前ラキとロザリーに試させた魔力密度上昇実験で起きた現象がこれだ。

 メタトロンに押し込んだ魔力は純魔力になるから魔力操作で取り出す事はできないのだが、魔力帯性以上の魔力密度にした後魔力操作をしなければ過剰な魔力を勝手に放出するため、結果的にメタトロンが取り込んだ魔力を捕集する事が可能だ。

 そういう方法で捕集した「メタトロンが取り込んだ魔力」で実験しても形質魔力にはならなかった。

 が、「メタトロンが取り込んだ魔力」と「メタトロンが拒絶した魔力」を同時に完全無魔力空間に入れて実験した所、魔法は発動した。形質魔力になったのだ。

 以上より、

 メタトロンが受け入れる魔力+メタトロンが拒絶する魔力=純魔力→形質魔力

 という事が分かった。メタトロンは「魔力」を「魔/力」に分別するのである。

 そして更にここからもっと魔力を細分化できる。

 沸点と融点の検証をしている際にふと思い付いて試してみたのだが、メタトロンは温度によって保有・分離する魔力の種類を変える事が判明した。

 ~72℃でA式分離。

 72℃~252℃でB式分離。

 252℃~でC式分離。

 ABCは全て魔力を二種類、半々に分離させる事に違いは無いのだが、分離させる魔力の種類に違いがある。

 A式分離で拒絶された魔力を捕集してB式分離すると、魔力は更に拒絶と受け入れで二分割される。そのB式分離で拒絶された魔力を捕集してC式分離すると、もう二分割され、最終的に最初の魔力量の丁度八分の一の魔力が拒絶され弾き出される。A→C→B、B→A→C、B→C→A、C→A→B、C→B→Aでも全て同じく魔力は半減していき、最終的に最初の魔力量の八分の一が拒絶され弾き出される。

 逆にA、B、Cに受け入れられた魔力を捕集していっても、同様に半減していき、最終的に最初の魔力の八分の一がメタトロンに保有される。

 ABC全てに拒絶された魔力と全てに受け入れられた魔力を混ぜても形質魔力にする事はできない(操作できず、魔法が発動しない)。つまり魔力は三種類以上ある。というか多分八種類ある。

 八種類だと考えた理由はどの順番で魔力を分離しても半減していく所にある。

 まずABCはそれぞれ四種類の魔力を受け入れる事ができると考える。

 拒絶をNoのN、受け入れをYesのYとして表すと、ABCどれにも拒絶される魔力はNNN、どれもが保有できる魔力はYYY。

 Aだけが保有できる魔力YNN、Bだけが保有できる魔力NYN、Cだけが保有できる魔力NNY。

 AとBが保有できる魔力YYN、AとCが保有できる魔力YNY、BとCが保有できる魔力NYY。

 つまりAはY??を保有でき、Bは?Y?を保有でき、Cは??Yを保有できるという事だ。?はYNどちらを入れても良い。

 こう考えればABCどの順番で分離しても魔力が半減していく現象はぴったり説明できる。

 でもまあこれは理屈上の矛盾が無いだけで実際この通りだとは限らないので。よーしパパ検証しちゃうぞー。

 魔力が八種類である=形質魔力の構築&魔法の構築には八種類の魔力が必要である、と仮定すると、七種類では魔法は使えない。魔力を八種類に分離し、一種類でも欠ければ魔法が発動しない事を証明できれば良い。

 そのためには魔力を八種類に分類する必要がある。

 ABCどれにも拒絶された魔力を捕集。NNNとする。

 Aの保有魔力をCに入れた際に拒絶された魔力をBに入れ、Bにも拒絶された魔力を捕集。YNNとする。

 Bの保有魔力をCに入れた際に拒絶された魔力をAに入れ、Aにも拒絶された魔力を捕集。NYNとする。

 Cの保有魔力をBに入れた際に拒絶された魔力をAに入れ、Aにも拒絶された魔力を捕集。NNYとする。

 Aの保有魔力をBに入れ、そのBの保有魔力をCに入れた際に拒絶された魔力を捕集。YYNとする。

 Cの保有魔力をAに入れ、そのAの保有魔力をBに入れた際に拒絶された魔力を捕集。YNYとする。

 Cの保有魔力をBに入れ、そのBの保有魔力をAに入れた際に拒絶された魔力を捕集。NYYとする。

 ABCどれにも受け入れられた魔力を捕集。YYYとする。

 これで八種類。俺の予測が確かならNNN~YYYの魔力は全て別種になっているはずだ。ちなみにYYYはメタトロンの温度を72℃未満から252℃を越える温度まで上げれば、温度が基準値を超えるたびに魔力を放出していき、最終的にメタトロンの中にはYYYのみが残るため、その方法で観測してもいい。

 NNN~YYY全てを混ぜた所、形質魔力に変化して魔法が発動した。しかしNNN~YYYの内一種類でも欠けると形質魔力にならず、魔法は発動しなかった。NNN~YYYの内、同一のものを別の呼称で呼んでいるという事が無く、全て紛れも無く別の種類であり、純魔力はNNN~YYYの八種類から成っているという事がこれで証明できた。

 実は魔力は八種類ではなく十六種類であり、NNNは更にNNNαとNNNβに分離でき……という可能性もあるというか高いのだが、そんなものは原子が中性子と陽子と電子からできています、というようなものだ。とりあえず今確認できる限りでは魔力は八種類から成り立っていると考えて間違いは無い。

 俺は八種類の魔力構成要素を「ダークマター」と命名し、NNNダークマター、YNNダークマター、NYNダークマター、と分けて呼ぶ事にした。魔力はNNN~YYYダークマターを全て使って構成されている、という事になる。

 うっはwwwwwこの鮮やかな論理展開wwwww俺天才じゃねwwwwwwとか思ってたらエマーリオが遺した資料に「魔力六or八型」という走り書きを見つけて凹んだ。一体何をどうすればあの時点でこれの予想ができるんだ。六か八か迷ってたっぽいが充分凄い。お前はどこまで研究結果を先取りしてくるの? なんなの? 天才なの? 生き返るの?

 あいつは自分から死にに行ったんだから生き返る事はないだろうが、やろうと思ったらできたのかも知れない。エマーリオ、大した奴だ……



九話のまとめ:

・純魔力はNNN~YYYダークマターという八種類の要素で構成されている。

・酸素が魔化すると緑色の液体になる。これをメタトロンという。

・メタトロンを使って純魔力を八種類のダークマターに分離できる。


2012.3/27

ダークマターの分類をギリシア文字からY/Nに変更

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 食事も排泄も出来ず暗闇(多分)に24時間放置とか正常でいられなくなりそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ