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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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八話 結末

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははけほっけほっ!」

 里にある邸宅の居間でエルマーと一緒に優雅に紅茶を嗜みながら俺のジオラマ中継を見ていたシルフィアは、突入しようとした連合国兵が堀に落ちていくのを見て爆笑し過ぎてむせていた。笑い過ぎだろ。気持ちは分からんでもないが。

 橋が落ちたのは単に兵の突入に合わせて俺が魔法で橋を切断しただけだ。特急で造った頼みの綱の橋が一瞬で破壊された連合国軍。ねえどんな気持ち? 今どんな気持ち?

 橋が落ちたのを見て急ブレーキをかけた後続の兵は、堀の中に落ちて消え去った橋の残骸と先頭の兵達を見て恐れおののいていた。落ちて死ぬのではなく、落ちて消滅。死ぬより怖いだろう。まー落ちた兵は魔王城に送って今毒殺してるところなんだけど。死んだら勿論アンデッドにする。

 橋が落とされたのを知ったシャダイ将軍の判断は早かった。もう一度橋をかける時間は無いと見たようで(もう一度橋をかけてもまた壊されるとも考えたのだろう)、内部への侵入を諦め防壁に攻撃を始めた。

 防壁への攻撃の大部分は精霊魔法で行われた。まー石の壁に矢を放っても効果は薄いのは自明だし、防壁の内側に隠れているアンデッドに矢を山なりに放つにしても相当な技術がないと命中するしない以前に届きもしない。破城槌を使おうとしても手前の堀が邪魔して上手くいかない。

 そういう訳で精霊魔法メインで攻め立ててきたんだが、忘れてはいけない、精霊は俺だ。防壁は壊させない。

 精霊使い達はファイヤーボールやフリーズランサーを掻き消す防壁に動揺した。実際防壁がスペルを無効化しているのではなく精霊が手抜きをしているだけなんだが(防壁に命中した瞬間消失する、という条件付けをしている)、そんな事は夢にも思わない精霊使いは防壁がスペルを無効化していると思い込む。精霊使いの補助で散発的に行われた投石程度では防壁を欠けさせる事もできず、連合国は手詰まりとなる。

 堀を埋めるのは無理。越えるのも無理。防壁の破壊も無理。守備兵を倒すのもほぼ無理。仮に包囲して篭城させたとしても疲労するのは連合国だけ。

 結論、どうしようもない。

 シャダイ将軍は顔を真っ青にしていたが、引き際は心得ていたようで、アンデッドが集結し一方的な反撃を喰らう直前に撤退していった。連合国の連中は利に聡いから扱い易くて助かる。これが帝国だったら無策で突っ込んできて堀にぼとぼと落ちるところだ。で、数人は堀を飛び越えてきて防壁の中でアンデッドを数十体薙ぎ倒す。あそこはそーいう国だ。手に負えん。

 防壁を攻めていた三部隊は多少の時間差はあれど概ね全て同じ判断を下し、損害が拡大しない内に引いていった。結局まともな戦闘は無かったな。堀に落ちたのが合計十一人。急いで橋を造ってる時に運悪くぶっとい木材で頭をホームランされて死んだのが一人。合計死者十二人。アンデッド側は死者(行動不能者か?)ゼロ。一万二千の軍が攻めてきてこれなら上出来だ。

 計画通り、と一人頷いていると、食い入るようにジオラマを凝視していたエルマーが撤退していく軍隊を見てつまらなそうにため息を吐いているのに気付いた。

「なんだ、どうした」

「いやさ……俺の出番なかったなと思ってさ……」

 お前が出たら血みどろじゃねえか馬鹿。

「ああ……斬りたいなー。スケルトン斬るのはもう飽きた」

「大根でも斬ってろエルマー」

「何を馬鹿な事言ってるんですか大御祖父様。エルマーは人間を斬りた」

「よし! ちょっと大根斬って来る!」

「ほんとに斬るのかよ」

「名案ですね大御祖父様。待ってくださいエルマー、私も行きます」

 二人は風のように去って行った。

 こいつらはもう……本当にもう……ブレないなあ……

 










 連合国としては今回の領土戦争は完璧に赤字になったと言える。一万二千を動員しておいて成果無し。万死の長城(精霊を通して正式に命名させた)のアンデッド達を監視するための要員を相当数裂かなければならなくなり、連合国の財政は領土戦争前よりも圧迫された形になる。こちらから攻めるつもりは毛頭ないんだが、んな事律儀に知らせてやるつもりはない。攻めてくるのか来ないのか分からないモヤモヤを抱き続けてもらう。連合国なら万死の長城に動きが無い限り、薮蛇を突く危険を冒すより大人しく監視を選ぶ。実際、連合国議会ではそう決定された。

 シャダイ将軍はクビになった。物理的にはセーフだったが職は失った。他の将軍二人は一階級降格で済んだんだが、シャダイ将軍は哀れにも建造段階で阻止しなかった責任を押し付けられてしまった。だからあれほど一番良い装備を選んでおけと……は言わなかったか。死傷者は少なかったし三階級降格ぐらいかと思っていたんだが、シャダイ将軍を引き摺り降ろしたい派閥からのパッシングが激しく。連合国はギスギスしてるからなー。帝国が単純過ぎるのかも知れんが。

 その帝国は連合国から数日遅れて攻めてきた。が、三千の兵から成る精鋭部隊は半数が堀の底へ。二人ほどカエルもかくやという跳躍で堀を飛び越えて防壁内に侵入しやがったが、アンデッド側の被害は数人で済んだ。やはり第一次魔王城攻城戦で確保した元精鋭部隊のゾンビを当てたのは正解だった。元皇帝ババンバは有体アンデッドの中ではエルマーの次に強い。

 建造中に攻めて来たのと合わせて二連続でフルボッコにされた帝国は、新皇帝がフルボッコ状態だった。嫁に。

 英雄シモンの血を引く若き皇帝は世継ぎを作るために嫁さんを娶っていたんだが、強さは正義な国なだけあって見目麗しいというよりゴリラな嫁だった。太ももガチガチ。胸が脂肪じゃなくて筋肉。珠の肌じゃなくて鋼の肌。良妻賢母ってか猟妻拳母。色々やばい。

 その嫁は夫がヘマをやったと知るや、怒り狂って文字通りの夜のプロレスをかました。夫、全治一ヶ月。妻に政治の実権を握られる。皇帝は犠牲になったのだ……

 嫁は脳筋な帝国人にしてはなかなかやり手で、即座に万死の長城を攻め落とすのは不可能だと判断した。魔王を倒せばアンデッドは消える(という設定)のだから、アンデッドが造り出した防壁も魔王を倒せば消える可能性が高い。が、魔王を倒すには魔王城を攻略しなければならない。魔王城の攻略には少なくとも前回の攻城戦を遥かに上回る兵力が必要となる。莫大な兵力を支えるにはまず下地を整える必要がある。

 という事で帝国は農業に力を入れ始めた。大量の食料を安定して生産できるようにし、専門軍人を大量に確保しようという目論見だ。びっくりするほどマトモ。

 国民は最初「そんなチンタラしてらんねーよ早く攻めようぜ」と不満げだったが、未だ武官を選出する目的で開かれている武術大会で皇帝の嫁が圧勝し、以降大人しくなった。実に帝国らしい。

 にしても嫁つええ。伊達に身長二メートル越えてないな。

 教国は精霊との結びつきが強い国であり、特に対アンデッド戦に熱心な国だから、最初からアンデッドを大量に生み出しかねない帝連領土戦争には否定的だった。アンデッドが増えるどころか厄介な防壁ができてしまった今回の結果を受け、激怒。かと言って連合国に圧力をかけると弱った隙に連合国がアンデッドに潰されかねない。教国は国家間の視点で見れば今回の騒動では蚊帳の外なのだから口出しをし過ぎるのも妙な話。

 そこで教国は連合国に精霊教を国教とするように要求し、代わりに万死の長城の監視役として精霊使いを大量に派遣する事を提案。連合国はこれを受け入れた。

 連合国は宗教の概念が薄く損得で動き、これまで国教が無かったから、精霊教を受け入れる事にも強い反発は無かった。精霊を拝むだけでアンデッドの被害が減るなら安いものだ、という考えだ。精霊は理不尽な要求をしないというのも大きかった。イケニエ捧げろー、とか、お布施をよこせー、とか、毎朝礼拝しろー、とか、そういうの無いからさ。唯一ある自然を守れって教えはそのまま精霊の強化=呪文の威力強化や精霊の個体数増加に直結する(という設定)から、実利がある。

 かくして帝連領土戦争は終結し、大陸はアンデッドの脅威に怯えつつも戦乱の無い安定期に突入したのである……

 ……となる事を祈ろう。


 若干予定を変更して戦闘シーンを丸ごと引っこ抜いたらかなり短くなった。次話からはまた研究のターン。

 感想で色々と質疑応答していますが、たまに本編が感想での返答と違う展開・設定になっている事があります。それは感想返しをしてから該当シーン執筆までの間に不都合な点を見つけて修正した結果ですので、混乱させてしまうかも知れませんがそういうものだと思っておいて下さい。

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