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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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七話 連合国軍お断り


 表向きにはアンデッドに殺された者はアンデッドになるという事になっているし、戦争や飢饉などで大量に死者が出ると負のエネルギー(笑)が集まってアンデッドになるという事になっている。

 しかし実際は死体をアンデッドにするためには数時間かかるので、死体の首を即座に刎ねられたり焼いて灰にされたりするとアンデッドにする事はできない。今回の最初の会戦では上手い事死体を始末される前にインターセプトして地中に引きずり込みアンデッドを量産できたが、次の戦いでは早速対応され、死体の処理を徹底されて有体アンデッドを創れなかった。こんな事を続けられれば有体アンデッドの消費量が生産量を上回る可能性がでてくるし、死体をキッチリ処理しさえすれば人間同士で戦争してもだいじょーぶ! なんて思われそうだ。増殖時に肉体が必要ないウィスプがいるから戦力不足に陥る事はないんだが。

 で、負のエネルギーが満ちた場所で死んだ死体を焼いたり首を刎ねたりすると負のエネルギーや怨念が肉体に定着せず、宙に留まってウィスプになる、という事にした。後付設定万歳。これなら死体を作る事そのものを避けるようになるはずだ。戦争で死体が出れば確実にアンデッドがゴッソリ生まれるという事だから。この設定はいきなりポンと出しても違和感を抱かれるかもしれないので、ある程度経験則的に発見されるように仕向ける事にする。

 負のエネルギーが満ちた場所で~という条件をつけなかった場合自然死だろうが事故死だろうがウィスプやゾンビが生まれてしまうのでそこは必須だ。いくらなんでも死体全部がアンデッドの材料になったら人間は生き残れない。ほどほどにストレスを与えてほどほどに助けるのが大切だ。

 …………と、いう事で防壁が完成した途端連合国が攻めてきた。その数、一万二千。

 防備についているアンデッドの数はたかだか二百、ウィスプが多少残っていてもアンデッドが数体増えていても構うものか、この兵力差ならチョロいぜ! とばかりに突っ込んできた訳だが、どっこいこっちは二百じゃねぇのだ。三千二百だ。予備兵力としてウィスプも一万ほど潜り込ませておいてある。こうなるともう負ける方が難しい。チョロいぜ!

 防壁は大体南東から北西方向へ200kmの長さで建造したから、三千二百で守るとなると一体あたり約62mを守ればいい計算になる。これが帝国と連動して帝国側と連合国側から挟み撃ちにしてこられたらウィスプを防衛に使わないと厳しかっただろうが、相手は連合国のみ。これなら外見上の実働はほぼ有体アンデッドだけでいける。

 一体あたり62mとは言ってもそれは単純計算で、実際は連合国は200kmを均等に面攻撃してこない。防壁の両端と中央の三点を四千ずつで同時に攻める事にしたようだ。アンデッドが三点のどこかに兵力を集中したとしても十倍の兵力差があり十分押し切れるし、三点に均等に兵力を配備していれば尚更簡単に占領できる。情報が筒抜けになっていなければまあ順当な良い作戦だと言えるだろう。

 連合国は今回の作戦で唯一ウィスプの存在を警戒しているようだが、十中八九大丈夫だろうとも考えているようだ。

 現時点でウィスプが一万二千の兵を跳ね返すほど大量に防壁周辺にいるなら、とっくに連合国や帝国、教国に攻め込んでいてもおかしくない。何よりも先日の帝国とアンデッドの戦いでウィスプによるものと見られる攻撃が途中から途絶えた。温存しているという可能性もなくはないが、ウィスプを温存した結果有体アンデッドの大多数が削り取られたというのは合理的でないので、やはり帝国によって想定以上にアンデッド達は消耗したという事だろう。アンデッド達にとっても防壁は要所なのであろうし、時間を置けば防備につくアンデッドは新たに増えていくだろうから、数が少ない今のうちに短期決戦で片をつけるに限る。事実、ここ数日の間に周辺地域のアンデッド達の活動が活発化しているという報告も多数上がっていた。

 とまあ連合国としてはそういう認識だ。どう認識していようが負け確定なんだけどな。正確に言えば文字通り勝負にならない。

 こちらの対応策としては「防壁に近づけさせない、壊させない」これに尽きる。

 俺は精霊と魔王のマッチポンプでトータル人類のプラスになるように調節している。あまり戦争で死なれるとその分のリカバリーが大変だ。繰り返すが今回の防壁防衛では極力死者を出さない方向でいく。

 まず防壁を囲むように深い堀を掘る。深さは三メートル、幅四メートルほどで、容易に飛び越せず埋められない堀だ。そして堀の底を埋めるようにウィスプを配備。まあ埋めると言っても魔力覚醒してない奴には分からんだろうが、とにかく堀の底にウィスプを配備しておく。

 ゾンビとリッチはまずは防壁全体に広く均等に配置しておく。情報が筒抜けになっている事を悟られると面倒なので、連合国側の動きに呼応して兵力を三点に集中させたというポーズを取らなければならない。連合国が攻めてきたら、ウィスプで意地悪して時間を稼いでいる間にゾンビを戦地に集中させ、石礫の雨を降らせて撃退する。打ち所が悪ければ死ぬだろうが、兜を被っていれば死にはしないだろうし、兜なしでもでっかいコブができるぐらいで済むだろう。目標、敵の死者五十人以内。

 ウィスプは色々やるが、ゾンビの役割は石礫を投げるだけの簡単なお仕事だ。

 ちなみにこのゾンビの出所だが、死霊教徒が志願してきたのとか、金持ちの拷問遊びで廃人同然になって廃棄されたのを拾ってきて治療したのとか、快楽殺人の賞金首をとっ捕まえたのとか、まあ色々だ。クリエイト・アンデッドはある種究極の洗脳だから、生前どんな性格の奴だったか関係ないんだよ。極悪人でも命令してしまえば善人のような素行を取らせる事ができるから非常に便利。

 んじゃまあ連合国軍が堀の前に到着したようだし、出来レースをはじめようか。













 シャダイ将軍は防壁の中央部を攻める部隊を指揮していた。先のノーヴァー連合国主席代表との通信によってこの作戦を成功させれば大将軍に昇格する事が確定したシャダイ将軍は、内心の高笑いが漏れそうになるのを押さえながら整然と並んだ四千の兵を背に先頭に立ち、長大な防壁を睥睨している。

 装飾も何も無い、高さ三ミールほどの石壁が地平線の向こうまで続く、どこか寒々しさを感じる防壁だ。見張り台の無ければ出丸も尖塔もなく、本当に壁しかない。ただやぐらを組んで高所から確かめた所、防壁は帝国側と連合国側にそれぞれ面する二重構造になっており、防壁と防壁の間には歩哨が歩けるよう通路ができていた。横の断面を見ればちょうど「H」のようになっていると見られる。

 その通路には大体1kmおきにアンデッドらしき人影が腰をかがめ覗き穴から警戒にあたっている。巧遅より拙速とばかりに隠れもせず堂々と進軍してきた連合国軍は確実に捕捉されている事だろう。

 だからこそシャダイ将軍は勝利を思い描きながらも心の奥底に微かな懸念を抱いていた。

 四千もの軍が防壁に接近しても、アンデッド側にまるで動きが無いのである。

 防壁の長さは約200kmであるから、1kmおきに見張りを立たせたのではそれだけで想定されている全アンデッドが割り振られる事になる。連合国は三箇所に同時に進行しており、アンデッドがそれを察知している事は明白なのだから、少ない戦力を集中させて一箇所だけでも守ろうとするだろうと踏んでいたのだが、実際は無反応。彼我の兵力差に抵抗を諦めたのだろうとシャダイ将軍は推測しているが、それにしては逃げる様子もない。帝国側に兵はいないのだから逃げようと思えばそちらに簡単に逃げれる。むしろ逃げた先で帝国にいやがらせをしてはくれないものかと思っていたのだが、アンデッド達は不気味な沈黙を保っている。

 アンデッドは魔王によって完璧に統制されているため、いかなる状態でも混乱や動揺が生じない。裏切りや命令無視が起きず、飲食不要で、士気が下がる事もない。理想の兵と言っても良い。これ以上観察し洞察しようとしてもボロは出さないだろう、とシャダイ将軍は判断した。

 何にせよこれだけの兵力を動員した以上はもう攻めるしか無いのだ。なんだか怪しいから何もせず戻りました、ではいい笑いものになる。実際は罠が無いのに罠があるように見せかけ、警戒させて時間を稼ごうとしているという事も考えられる。

 黙って考えを巡らせていたシャダイ将軍は風精霊使いからの耳打ちをされ、作戦開始の時刻が来た事を知った。シャダイ将軍は采配を掲げ、予定通りに兵を動かす。

 采配が上がったのを見た兵は、四千の内三千がその場に留まり、千が前に出た。その内重装備の六百が四百の前に出て盾を防壁側に構え攻撃に備え、その後ろの四百……精霊使い達が一斉に呪文を唱えはじめる。三千を後方に残しているのは不意の魔法の一撃で全滅するのを防ぐためだ。かつて栄華を誇ったビルテファ王国の時代から、魔法を相手にする時は兵を密集させないのが鉄則だった。

 連合国軍は防壁を奪おうというのだから、あまり派手に破壊するわけにもいかない。多少の損傷は連合国軍が寄せ手である以上どうしても出してしまうが、あまり広範囲を破壊してしまうのも考え物だ。修理に金がかかるから。できるだけ防壁を壊さず占領するのが望ましい。故にまずは防壁の内部に侵入する事が必要で、そのためには堀を越えなければならない。シャダイ将軍が採った方法は「堀の埋め立て」である。

 深さ三ミール、幅四ミールもの堀を人力で埋めるとなると相当な時間がかかってしまうが、精霊の助けを借りれば簡単に成せる。

 土属性Lv2スペル、アースウォール。Lv1スペル、アースシェイク(土を耕す)の上位互換で、厚さ半ミール、幅三ミール、高さ二ミールもの土壁をせり上がらせる事ができる。これを堀の手前に斜めに傾けて出し、自重で倒せばかなりの速さで埋め立てる事ができる。四百人の内土精霊使いは百人。百人が一回アースウォールを唱えるだけでざっと二十五ミールの堀を埋める事ができる計算、だったのだが。

「……なぜ戻って来ない?」

 シャダイ将軍は訝しげに言った。埋め立て部隊には呪文を唱え、堀を埋めたら戻って来いと指示してあった。確かに呪文を唱え、せりあがった土壁が一斉に掘の中に倒れていくのがシャダイ将軍の目にも見えたが、精霊使いは困惑した様子でその場に留まっている。

 精霊使い達が互いにひそひそと声を交わすのをシャダイ将軍はイライラと睨み付けた。シャダイ将軍は何か不測の事態が起こる事が覚悟していたし、それを許容するだけの器もあったが、作戦の初手で躓くのは気分が良くない。それでも何かが起きてしまった事は間違いなく、仕方なく近衛に様子を見に行かせる。近衛は精霊使い達と二言三言言葉を交わし、堀をしばらく覗き込んでからすぐに戻ってきた。シャダイ将軍は不機嫌に尋ねる。

「何が起きていた?」

「は。堀に落とした土が消失したようです」

「……消失? そんな馬鹿な。何かの間違いではないのか?」

「いえ。小官の目の前で精霊使い一人にアースウォールを使わせたのですが、土が底に落ちた瞬間に消失した事を確認しました」

 実際は堀の底でスタンバイしていたウィスプが逐一転送魔法で魔王城付近の空き地に転送しているだけなのだが、連合国軍は知る由も無い。

「底なしの堀、か……なるほど。アンデッド共の数が少なかったのはこういう訳か」

 故にシャダイ将軍はロバートの思惑通りに勘違いをした。なまじ魔法という物の理不尽さを知っているだけに、「底なし」という本来ならば魔法を使っても有り得ない(できたとしても効果は長続きしない)現象を鵜呑みにしてしまったのである。

 シャダイ将軍は念のためもう一度試してみるように指示し、土精霊使い達にアースウォールを唱えさせ、また同じように消失したという報告を受け取ると次の指示を出した。

「堀の埋め立ては断念する。物見矢倉の建材に予備があっただろう? それを使って橋をかけろ。精霊使いは橋をかけている間アンデッド側から妨害されぬよう警戒させておけ」

 アンデッドは底なしの堀に頼って寡兵でもって防戦をしているのだとシャダイ将軍は考える。橋は埋め立てた場合と違い破壊されて通行不能になる可能性があるが、この際仕方ない。

 指示を出し、このままでは他の侵攻地点を攻めている将軍達に先を越されるかとシャダイ将軍が苦い思いをしているとまた伝令がやってきて近衛に耳打ちした。耳打ちされた近衛の顔色を見て、将軍はまた厄介事かと舌打ちをしたくなった。

「将軍」

「今度は何だ?」

「物見から連絡が。現在我々が攻めている三箇所にアンデッドが集まりだしているようです」

「ふん、ようやくか。まあ百足らずのアンデッドならばいくら攻撃されようが充分に防――――」

「その数、一箇所約千体です」

「――――なんだと?」

「は。我々が攻めている現地点に千体、他の二地点にも千体ずつのアンデッドが集結しています。防壁の内部から出てきたようです」

 報告する近衛もシャダイ将軍と同じく信じられないらしく、半信半疑の声色だった。一体どこから沸いて出た、とシャダイ将軍は混乱する。帝国は建造途中のアンデッドを襲撃する際、致命傷を負った味方に蘇らないよう処理を施していたのを確認している。処理し損ねた者がいたとしても百体には届かないであろうし、建造開始から現時点までずっと工程を監視していたが、新たにアンデッドが集まってきたという報告は無かった。夜陰に乗じて監視の目を潜り抜けた可能性もあるにはあるが、ここ数日は満月の前後であり晴れていて、月明かりがあったので計三千にも及ぶアンデッドを丸々見逃したとは考え難い。

「その報告は確かか?」

「確かです。三箇所の物見から同じ報告が上がっています」

「ちっ、橋渡しを急がせろ! アンデッド共が集まりきる前に防壁に侵入し、侵入経路を死守するのだ! 精霊使いには魔法を山なりに撃ち防壁の内側を攻撃し、集合の足止めをするように伝えろ! 後ろの三千の兵を上げろ! 橋が出来次第すぐに突入させる!」

 シャダイ将軍は矢継ぎ早に指示を飛ばした。千の兵で防壁を護られたら連合国軍が勝てるか怪しくなる。攻める位置を変えてもそれに合わせてあちらも移動するだけだろう。アンデッドには疲労が無く飲食も睡眠も不要であるため、篭城させても連合国軍側が疲弊するばかりだ。

 一度防壁の内部に侵入すれば勝ちの目は充分出てくる。防壁内部の通路は狭い。自然敵味方は密集し、一対一の小競り合いの連続となる。味方の誤射や防壁を巻き込み崩壊させる事を恐れ、アンデッドは広範囲の魔法を使ってこないだろう。兵力差の利は生かせなくなるが、一対一で千体屠ればいいだけという事でもある。連合国軍にも相当の犠牲が出る事が予測されるが、防壁を奪取できず手ぶらで引き返すよりは良い、とシャダイ将軍は判断した。

 シャダイ将軍は急げ、急げ、と口の中で何度も繰り返しながら、精霊使い達の放った氷槍フリーズランサー火球ファイアーボールが山なりに弧を描いて防壁の内側に吸い込まれていくのを祈るような心持ちで見上げた。

 精霊使いは対人間戦闘では防御系スペルしか使えない。精霊はアンデッドを滅ぼすために存在しているため、アンデッドを作り出す原因となる人間同士の戦いを嫌がるのだ。人間に向けて殺傷力のあるスペルを唱えても不発に終わる。従って予定していた帝国との戦争では防御に専念させる事になっていたのだが、こうして見ていると良く分かる。やはり精霊使いの攻撃スペルは圧巻だ。

 なんとか精霊魔法を対人に使えないだろうか、とシャダイ将軍の思考がわき道に逸れかけた所で橋渡しが終わったという報告が上がった。

「急造ですので強度に不安がありますが」

「構わん、突入させろ!」

 シャダイ将軍が唾を飛ばして大声を上げると、橋の手前で今か今かと待っていた兵士が鬨の声を上げ、急ごしらえの橋に一歩を踏み出し、

 その瞬間橋が真っ二つに割れ、橋を渡ろうとした先頭の兵ごと堀の底に飲み込まれた。


 以前キリが良くなるまで一気に書いて投稿したら更新間隔がかなり空いてしまった事があったので、ちょっと半端ですが分割して投稿する事に。後半へー続くー

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