二十七話 国家群
ここんとこ大陸は動乱期にあるらしい。
法暦二十年、ナルガザン帝国北部、旧王国領とほぼ重なる領土が帝国から独立を宣言し、エレメン教国と名を変えた。帝国には十年間朝貢の形で貢物を捧げる事で独立を認めさせた。最初は北ナルガザン帝国と南ナルガザン帝国という名前になりそうだったのだが、帝国側が国名に高いプライドを持っていたので教国が妥協した経緯がある。
エレメン教国は精霊教の大司教改め教皇をトップに据えた宗教国家だ。国土が大陸北端の山脈にある魔王軍本拠地に面しているため、アンデッドの襲撃が多く、またそれに対抗する精霊使いの数、精霊の分布数も多い。
教皇が政治のトップなんて、政教分離はどうした? と突っ込むのは気が早い。この時代にそんな概念はねーです。それに実在する信仰対象である精霊がいるのだから早々権力腐敗は起きないし起こさせない。キッチリ政治が運営されるなら宗教と政治がごっちゃになっても別にいいんじゃね? 唯一の問題点は俺が心変わりして無茶苦茶やる事だが、既に十分無茶苦茶やってるし、善意で精霊システムを敷いてる訳でもないんだから今更だ。
エレメン教国の初代教皇はニパだ。ニパの内政能力が予想以上に高く、また新興国のトップが建国してすぐにコロリと逝ったのでは国が瓦解しかねないため、殺すのは取りやめにした。ただし何かの拍子に魔術の訓練を始めたら即座に事故死してもらう。魔力覚醒していて魔法が使えない奴は魔術に至る可能性が高い、と個人的には思っている。
しかしニパはなんだかんだで長生きしそうな気がしてならん。第一次魔王城攻城戦でもそうだったが、こいつしょっちゅう死ぬか生きるかギリギリの位置にいる割になんでか生き残るんだよなぁ……
ちなみに教皇は次代からは最も力のある、つまり高度なスペルを行使できる、もしくは対アンデッド戦で戦果をあげた精霊使いが就任する。つまりは俺次第。
我ながらなんという完璧な傀儡政権……自らがいいように踊らされていると気付きもせず、気付いた所でどうしようもない究極のマッチポンプ。見ろ! 人がゴミのようだ! ゴミ扱いはしないけど。
一方、帝国としては教国の独立は気に食わないが致し方なし、というスタンスだ。帝国は現在精鋭隊と魔法使いを失い国力が低下していて、独立を阻止するだけの戦力を揃えられるか怪しい所だし、せっかく王国から奪い取った領土を失うのは痛いが、最もアンデッドの被害が多い地域を手放したと考えれば儲けもの。更に北から南に魔王城、教国、帝国、という順番で存在するから、アンデッドが侵攻をかけてきた時には教国が壁になってくれる。そこに十年間の朝貢というプッシュが来ればそりゃー独立も許そうというものだ。
帝国は討伐隊の生き残りの一人、シモンが新しく皇帝に立ち、かつ内輪もめの原因になっていた精霊派が国外退去(?)したためまとまりも随分もどっている。ごっそり抜けた軍の再編、訓練をしたり、警備体制の強化をしたり。不安定な武術大会による皇帝の選定も取りやめ、シモンの血族が皇帝の位を引き継ぐようになったりもした。時の皇帝、ババンバですら死んだ戦いを生き延びた英雄の子孫なら、という事で帝国民からの反発もあまりない。
それで平和的に国は二つに分かれました、良かったね! となれば良かったんだが、悪い事は続くもので、更にめんどくさい揉め事がしゃしゃりでてくるのが世の中の嫌な所だ。
俺達がいる大陸に存在するのはなにも帝国と教国だけじゃない。南西部に小国家群が存在している。帝国が俺TSUEEEEやってた内はそいつらも大人しくほぼ属国な地位に甘んじていたのだが、帝国が弱ったと見るやここぞとばかりに蜂起しおった。教国が帝国から分裂した直後の事である。
魔王軍との戦いで精鋭達はいなくなり、魔法使いも全滅し、更に精霊使いの大部分は教国に引き抜かれ、国土を分割したばかりで指示系統もあやふや、軍の再編は終わっているものの練度が低い。そんなベストタイミングだった。
南西の国家群は豊かな土地から取れる豊富な作物に、海から取れる多様な海産物、船を利用した海運と、生産性に優れている。紅茶と香辛料を生産しているのはこの国家群だし、砂糖もその大部分を生産している。
で、帝国はその商品の数々を武力を背景にやっすく買い叩いていた訳だ。そら独立したくもなるわ。
しかし国家群も一国一国では弱っているとは言え帝国にはとても太刀打ちできない。作物や商品の輸出を止めても、帝国だって相応に農業も漁業もやっているのだから、帝国が餓えて力尽きるかどうかは怪しい。いや無理に近いだろう。
だから国家群は協力して「ノーヴァー連合国」として一つにまとまり、一丸となって帝国を攻め立てた。
持久戦になると兵力の差がモロに出て連合国は負ける。しかし帝国もさっさとカタをつけて自国の建て直しに戻らないと、勝てても国内がボロボロになる。連合国はそれが分かっていたから、開戦直後に連勝し、勝っている内に講和へ移るという作戦を取った。前世でもあった作戦だ。第一次か二次の世界大戦で日本が最初そういう方針で戦ったんじゃなかったか。うろ覚えだけども。
それは二ヵ月程度の戦争だったが、帝国が連合国との国境付近に置いていた要塞はぶん取られ、連合国の内部に駐在していた帝国の手の者は一人残らず叩き出された。帝国ェ……最近ホントいいとこねーな。やられっぱじゃねーか。マンドラゴラは消されるわ魔法使いは失うわ魔王討伐に大失敗するわ教国に独立されるわ連合国にいいようにされるわ……あ、ほとんど俺のせいだったサーセン。
帝国は本音を言えば連合国に攻め込み完全に属国にしてしまいたかったんだろうが、疲弊した帝国と期を待って力を溜めていた連合国では泥沼になる。泥沼になると双方疲弊した所で魔王軍が漁夫の利を取りかねない。アンデッドは今は大人しくなっているが、戦争の規模を拡大すれば死に誘われて急速に力を取り戻す(という設定)。帝国は連合国と正常な関税を定め、対等な条約を結んで独立させる他に道は無かった。
かくして大陸のほとんどを支配した帝国は、二十年で三つある国の内の一つにまで落ちぶれたのである。
大陸北部のエレメン教国。
大陸中央部から南部にかけてのナルガザン帝国。
大陸南西部一帯のノーヴァー連合国。
大陸北端の山脈に存在する魔王城。
大陸北東部の未開の地に隠れ住んでいる里の住人達。
大陸の勢力図としてはこんなもんか。帝国にも連合国にも教国には及ばないが精霊がある程度いるし、里にも精霊は配置してあり、魔王城は言うもまでもない。大陸に存在する全ての勢力に「俺」が食い込んでいる事になる。
大陸全土に散らばる俺とアンデッドの情報をまとめると、連合国の独立を終えた所で混乱期の大きな騒ぎは全て片がついたと判断して良さそうだ。当面の間厄介ごとになりそうな芽はもう残っていない。正確には裏から手を回して簡単に処理できる程度の芽しか残っていない。
強いて言えば怖いのは天災だろうか。この世界にあるか知らんがペストやインフルエンザが流行ったら俺でもどうしようもない。魔法で体力は回復できるが、病は治せないのだ。あとは地震。これもどうしようもない。もっとも、俺はこの世界に生まれてから一度も地震を経験していないし、各地に残る記録にも過去にごく軽い地震があった事を示唆する昔話が散見されるのみだから、この大陸はプレートの境目から外れているのだろう。日本のようにポンポン大地震が起こる事もあるまい。
総評して問題無し。
ようやく大陸は安定期に入り出したと言えるだろう。やれやれだ。
キリキリ進めます。作者としては早く研究のターンに入りたくて仕方ないのに書いておくべき事が多すぎる




