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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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二十四話 戦後

「どんな感じでしょうか」

「収支としてはプラス、だな」

 魔王城にやってきた討伐隊を殲滅してから一日後、俺は東の森の里でシルフィアに今回の戦いの結果を知らせていた。

 第一次魔王城攻城戦は大成功のうちに終わった。人間にしてみりゃ帝国史上最大の大敗北だろうが。

 今回の戦いで俺達は人間にアンデッドの恐怖を刷り込み、精霊魔法を手放せなくした。加えて帝国が魔法使いを全員投入してきたお陰で魔法使いの根絶にも成功している。一人だけ魔力覚醒してる奴が生き残ったが、そいつも数年以内に不幸な事故でこの世を去るだろう。

 スケルトンとデュラハンを全て殺されたのは予想外だった。二、三十体は残ると踏んでいたんだが。しかし討伐隊の死体を再利用して新しくごっそりゾンビ・リッチ・デュラハンを作ったのでむしろ第一次魔王城攻城戦の前よりも数を増やしている。収支がプラスってのはそういう意味。加えてベースになったのが生粋の武人ばかりだ。数だけでなく質も大幅に向上している。

 脅威度だけなら目に見えず障害物をすり抜け魔法を使ってくるウィスプの方が高いけども、目に見える分かり易い恐怖の対象として実体のあるゾンビやリッチは使い勝手がいい。なんかよくわからんナニカが襲ってくるのも怖いけど、隣人がいつの間にかアンデッドにすり替わってたり人ごみにアンデッドが紛れてたりするのはもっと怖いかんな。アレだ、地震が来るんじゃないかって心配する恐怖と強盗に対する恐怖みたいなモンだ。脅威度と恐怖度は必ずしも比例しない。

 まーそういう事で、分かり易い恐怖である容姿が人間と同一のアンデッドは常にある程度の数を確保し、人間にちょっかいをかけ続ける必要がある。バラバラになって死んだ死体はアンデッドにできなかったが、虫の息の人間を回収したり、テントから誘拐したりしてアンデッド化し、ゾンビ・リッチの数を確保できたのは幸いだった。戦い方によっては死体が残らずバラバラになる可能性もあったから。

 エルマーが俺も戦いたいとゴネたので追従するシルフィアと共に魔王城での決戦に参加させたりもしたが特にハプニングも起こらず。里と魔王城の送迎に使ったシルフ転送網ってやっぱ便利だナーと実感したぐらいだ。同種の精霊が存在する場所なら地の果てから果てまでもあらゆるモノを瞬時に送れるっていうね。俺、ぱねぇ。

 あと折角だからと色々考えてみた集団戦における戦い方、即ち、奇襲、心理戦、戦法、陣形その他諸々も面白いぐらい成功した。帝国があまりにもあっさりとこっちの手管に嵌るので罠かと警戒したぐらいだ。いやまあ帝国がゴリ押ししてきたとか地の利があったとか兵の質の利があったとか情報が丸々筒抜けだったとか、これで負けたら馬鹿というかカスだよね、って状況だったからまるで自慢にならんけども。俺の戦略は有利を超有利にしただけだからさ。本当の優れた戦略ってのは絶望的な不利を覆して勝つものを言うんだと思う。

「だろ?」

「いきなり言われても分かりませんが。あ、エルマーが良い実戦稽古になった、感謝している、と大御祖父様に伝えてくれと言っていました」

「そーかい、そりゃ良かった」

 折角の人の命を大量に葬り去るビッグイベントだ。やれる事はやっておいただけの話。腕っこきの戦士達と命がけの死闘をする機会なんざそうそう無い。エルマーは今回の経験を生かして剣技に一層磨きをかける事だろう。今回の虐殺は最大限に利用する。

 殺した分はこれからキッチリ人間達に還元させて頂きやす。












 ハンス達が山から命からがら(?)逃げ帰り、最寄の村にたどり着くと、その村に居た精霊使いから即座に『ウィスパー』で討伐失敗の報が帝国本部に送られ、帝国中に激震が走った。上層部は情報を隠そうとしたようだったが、村にいた精霊使いが軍属ではなかったため口止めされたにもかかわらずあっさりと言いふらしてしまった。お調子者で口が軽い奴だったのが災いだった。

 なんだかんだで「ま、勝てて当然かな!」と楽観していた帝国人達の混乱ぶりは凄かった。なまじ風精霊の『ウィスパー』により未熟ながらも高速通信網が形成されていたばかりに、凶報は一夜にして帝国中に駆け巡り、大混乱を引き起こした。

 アンデッドが次の新月の晩に人間を滅ぼそうと大挙して襲ってくる、というそれっぽいデマが飛び交い、それを鵜呑みにして逃げる者。取るものとりあえず家から逃げてきたはいいもののどこへ逃げ込めば安全なのか分からず途方に暮れるもの。今度は全面戦争が起こると予測し、商魂逞しく食料を高値で売りつける商人。それによる食料品の値段の急騰。自衛のために民衆は武器や防具を争うようにして買い求め、店頭からは武器という武器が消えた。

 皇帝という心の拠り所、帝国の強さの象徴があっさりと敗れ去った。その知らせは帝国民の心を鷲掴みにしてギリギリと締め付けていく。建国時から破竹の勢いで領土を拡大し、小競り合いで負ける事はあれど大規模な戦いで負けた事の無い帝国の軍が、それも選りすぐりの精鋭隊が、完膚なきまでにべっこんぼっこんにされたのだ。今までの信頼が高かった分、負けた時の絶望感の落差は激しくなる。

 そして皇帝という旗頭を失った帝国民はまんまと策略にかかり、精霊に縋りついた。

 あっちでもこっちでも精霊使いが引っ張りだこ。精霊使いも討伐隊に含まれていてコテンパンにされた事は承知でも、古代、精霊が魔王を封じたという噂は広まっており、「それでも精霊なら……精霊ならなんとかしてくれる!」と期待しているようだった。

 二週間経ち、混乱は最高潮に達し、帝国各地で暴動が頻発し、火事場泥棒が横行した。トップをごっそり無くした帝国の軍の動きは悪く、鎮圧は後手後手に回り被害は拡大した。

 一ヶ月経ち、精霊使いを帝国首都の防備に回すか最前線の大陸北部に回すかで文官の意見が真っ二つに割れた。その間も武官は暴動の鎮圧に奔走する。

 二ヵ月経ち、暴動は散発的になり始めた。秋になり、収穫の時期が到来し、農民は暴動をやめて収穫作業に回らざるを得なくなっていた。

 三ヶ月経ち、暴動はほぼ収まった。元々何をどこにどれだけどのように要求するかも曖昧だった暴動だ。長続きしなかった。諸悪の根源は魔王にある。帝国軍の体たらくを攻めてもなにもならない。

 半年経ち、再び街中に出没し始めたアンデッドに帝国民は恐怖する。が、出没数が第一次魔王城攻城戦前と比べて格段に少ない。魔王軍も痛手を負ったらしいと判明。単に俺は市街地に放つアンデッドの数を減らしただけなんだけどさ。

 しかし実態はどうあれ人々は一先ずの安堵を得、混乱は収束し、落ち着きを取り戻し……そして対立を始めた。

 なにやってんのお前ら今は団結する時だろ、と突っ込みたい所だがまー想定したパターンの一つではある。

 急激に精霊の数・精霊使いの数を増やすのも不自然だから、精霊はゆっくりと増加させている(ように思わせている)。

 アンデッドに対抗できるのは最早精霊しかいないというのにその精霊が不足している。従来の戦力では使い物にならん。ここ数年、精霊が現れ、アンデッドが現れ、絶対的な力の象徴であった皇帝は敗れ去り、国家は揺らいでいる。変革の時だ。

 元々歪んだ政治形態をとっていた国家。近い将来崩れるだろうなと思っていたが割と早かったようだ。崩壊を早めたのは九割俺のせいなんだけどさ。

 いくつか先行きの予想は立てているが、さて。

 帝国の行く末はどうなる事か。



 二章タイトル変更しました。今まで計画していた二章を二章と三章に分け、三章を四章にズラしました。「魔力の深奥」ってタイトルなのに思いのほか話が長引いて全然魔力の深奥に触れられていないので。

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