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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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二十一話 這い寄る精霊

 精霊魔法(笑)システムの始動に伴い、俺は辻褄あわせに奔走する事になった。

 まずアンデッドが人類の敵であるという設定上、スケルトンやゾンビが里を闊歩しているのは非常にまずい。里そのものまで人類の敵認定されかねない。

 したがって、これまでは里長シルフィアがアンデッドを制御していたが、魔王が力を取り戻してきて制御が難しくなったため手放した、という事にしておいた。

 死後里を守るためにスケルトンになるのは既に里の慣習と言っても過言ではなくなっていたが、そこは魔王が復活したから今までおとなしかったスケルトンも邪悪な魔力にアテられてなんちゃら、という説明で誤魔化しておく。ゾンビも同様だ。里のスケルトンとゾンビはアニマルも含めて全員里を離れ魔王の元に集合する事になる。

 ただしラキ、シルフィア、エルマーはヴァンパイアでありアンデッドに含まれていないので除外。この世界には吸血行為への忌避感がほぼないため、別段吸血するからといって悪と見なされる事はない。精々が不便な体質だな、と思われる程度だろう。そりゃあ忌避感のあるなしに関係なく誰だって自分の血を吸われるのは嫌だろうが、闇夜の晩に暗がりから襲い掛かって血をすする訳でなし。任意で吸わせてもらっているのだし相応の見返りも用意している(里ではヴァンパイアに献血した人間は減税や嗜好品の優先的配給が行われる)。問題はないだろう。

 ヴァンパイアが体質的にアンデッドに近い事についての疑問を投げかけられたら沈黙をもって答える予定だ。世の中、弁解するよりも黙っていた方が良い時もある。意味深に沈黙を貫いてればあとは勝手に想像してくれる。

 しかしそれだけでは足りない。沈黙した結果、想像が悪い方向にいってしまう事もある。里と魔王が結託している、とか。魔王に魂を売って不死の術を手に入れたのだ、とか。邪推すればいくらでも。

 そこで補強策としてアンデッドの代わりに里に精霊を大量配備した。善・正義の象徴である精霊がワラワラいればそれだけでヴァンパイアが善の側の存在である証拠になる。

 更に念のため王国時代の生きた記憶が完全に人々から消え去るまで四十年ほどの間、里の存在は隠しておく。東の森への道を消したり、それとなく情報操作したり、東の森に目を向ける余裕を無くさせたり。

 精霊魔法が完全に世の中に浸透した後ならば、まさか精霊が集まる里に攻め込もうなどとは思わないだろう。

 一方で里から引き抜いたアンデッドは北西の山脈の奥地、魔王城建設予定地に移動させた。

 俺達の住むこの大陸の北側の海に面している陸地には急峻な山脈が連なっている。その山脈は海からの湿った風の影響で雪深く、またそれなりに高緯度にある標高の高い山なので年中寒い。人間が住むには厳しく、人の手が全くと言っていいほど入っておらず、アンデッドが集まるには格好の場所だった。

 建設予定地を山脈の中でも北西地域にしたのはできるだけ里から遠ざけるためだ。これから幾度となく魔王城からの魔王軍の侵攻、もしくは人間側からの魔王討伐部隊の派遣が予測されるわけで、その度に里の近くを移動されたら流石に里の存在を隠すのは厳しくなる。里としては対岸の火事を眺めるスタンスでいきたい。

 その北西山脈の奥地に建てる魔王城だが、精霊魔法始動の直後から急いでほとんどの全員の駄レイスを建設予定地に移動させ、急ピッチで建設を開始した。

 魔法が発動するギリギリの密度まで魔力を薄め、文字通り山の中に入り、岩盤をくりぬいて転送魔法で外に送る。くりぬいた岩盤は積み上げて城の材料にし、くりぬかれてできた山の中の空洞は出入り口をつくり蟻の巣のようなダンジョン風味にしておく。城の建築ノウハウはエマーリオの遺した建築方式の一部の流用と帝国に建設中の城、及び旧王国の王城を参考にする事でなんとかした。設計には五日ほどしかかけていないが、例によっておよそ千人分の思考回路を使ったので実質五千日……十四年近くかけたに等しい。ノーライフは眠らないから睡眠が必要な人間の十四年よりも密度は高いだろう。欠陥設計にはなっていないはずだ。

 魔法はこういう時にとてつもない利便性を発揮するもので、資材をえっちらおっちら運ぶ時間を転送魔法で短縮できたし、資材を加工する時間も転送魔法で短縮できた(※)。途中から加わった実体あるアンデッド達の不眠不休労働もあいまって工期五日という頭がおかしい早さで魔王城は完成した(※2)。チートってレベルじゃねーぞ。

 完成した城の大きさは大体安土城ぐらいだろうか。基本的に西洋城の様式をとっていて、城壁から尖塔まで不自然なまでに壁面が滑らかに加工されている。魔法で加工したのだから当然だ。その不自然さが魔王城を見た者に不気味さと異質な気配を感じさせるだろう。使われている石材に統一性はなく、一面白い部分もあれば赤黒まだらになっている部分もあった。

 城は奥深い山の中の切り立った崖を背にして建っており、周囲はちょっとした広場になっていて(そうなるように整地した)見晴らしがいい。夏でも薄く雪が積もる広場には追々墓や石碑を追加していく予定だ。

 そんな魔王城の中に外に、アンデッドがうろついている。

 主にゾンビを城内、スケルトン、デュラハン、グールを広場、駄レイスから改名したウィスプを空、という分担で配置した。なんだかんだで人間の感性を持つゾンビはやはり野ざらしよりは屋根の下の方が良いのだ。スケルトン、デュラハン、グールは意思が希薄だから風雨に晒しておいても問題はない。

 リッチについては帝国で色々と引っ掻き回してもらっている。精霊がそれとなく調査しマークした悪人を襲いゾンビやリッチを増やしたり(クリエイト・ゾンビの工程は魔王城に移動しなかったウィスプが行っている)、荷馬車を襲撃してチクチク嫌がらせをしたり、帝国の城に侵入したり(今度は警戒していたので発見された直後に自爆できた)、墓場に集まって怪しげな儀式をする所を目撃させ不安を煽ったり。

 アンデッドの活動が急に活発になった原因については、今までは精霊に気づかれないように大人しくしていたが気づかれたので表に出始めた、という事にしてある。

 アンデッド対精霊(人間)の構図にこれヤラセじゃね? とか自作自演だろ! などという不埒で正しい疑問を抱く者はいなかった。アンデッドと精霊が突然沸いて出たのならそんな事を考える者もでたかもしれないが、アンデッドの出没は突発的なものではなく、予兆があった。精霊の出現とアンデッドの出現の時期はズレている。

 年老いる事のない旅人の噂(リッチ偵察部隊)がそうだったし、ガロンが誘拐に失敗した時に出た人食い鬼の噂もそうだ。両方アンデッドが今回の事件の相当前から帝国に潜んでいた証拠になる。そしてやがて精霊が姿を現しはじめ、それに危機感を抱いたアンデッドが人間に牙を剥いた。ストーリーにおかしな所は何もない。

 加え、実際にアンデッドの仕業な事件以外でも不審な点のある犯罪、怪しげな噂の多くがアンデッドの所為という事にされていた。それによってますますアンデッド=悪の公式が人々に刻まれたようだったのであえて訂正はしない。大いにアンデッドのせいにするといい。アンデッドの悪名は上がれば上がるほどいいのだ。

 そんなアンデッド達に対抗するため、帝国は事態を重く受け止め急遽精霊使いを増やしにかかった。精霊は人々に紛れたアンデッドを見ただけで見破れるし、戦力増強にもなる。勿論従来の魔法使いも増やしたいところだがそこはマンドラゴラの数に限りがあるので上手くいっていない。

 精霊使いによる潜伏中のアンデッドの討伐はそれなりの成果を挙げた。というか挙げるように調節した。全く成果が挙がらないのでは精霊=口ほどにもない、の印象がついてしまうし、あまり成果が挙がり過ぎると来るべき魔王軍侵攻の時に手駒が少なくて苦労する事になる。アンデッド側からも反撃させて精霊使い(とその精霊)を三十人ほど殺害させたので、痛みわけになったという印象を与えられたはずだ。

 最初の精霊使いが生まれてから二ヶ月ほどは精霊使いとアンデッドの散発的な戦いが各地で起こるように仕向け、三ヶ月目からはぱったりと戦いが止むように仕向けた。嵐の前の静けさってやつだ。

 軽い抗争でアンデッドがどのようなものか実体験で理解してもらった後は準備期間を設ける。その間に対策を立てさせ、精霊使いの数を増やさせてから攻め込むのだ。むしろ攻め込まれてもいい。大規模な戦いでアンデッドの脅威を刻み込む事が肝要だ。お互い数が増えない内に小競り合いを繰り返してもどうしてもインパクトが薄くなる。

 今も帝国はアンデッドを警戒してこそいるものの楽観的な見方をしている者が多い。精霊から伝え聞いただけでは脅威を認識しきれていないのだ。厄介だが、まあ勝てるだろう。そう考えている。それを「やべぇぇぇぇ油断したら死ぬ! 精霊がいないと生きていけない!」レベルまで引き上げなければならない。

 理想は第一次魔王軍侵攻で帝国半壊、なんとか魔王軍を撤退させる事に成功、というシチュエーションだ。もしくは魔王城に送った精鋭討伐隊が一人しか帰ってこず、その生き残りも間もなく死んだ、とか。

 そんな状況を作るためにも俺は数ヶ月の間、アンデッドせいれいに忙しく働く事になった。













 精霊魔法システムの稼動から十ヶ月ほど経ち、年が変わって法暦16年になった。

 精霊は土264、水272、風2280、火20、とそろそろ数えるのも面倒な数になってきている。駄レイス=ウィスプに至っては2816体だ。多分ウィスプだけで帝国を滅ぼせる。やらないけどな。もう一、二年前から帝国滅ぼせる状態になってるし今更過ぎる。

 帝国の精霊使いの数は百五十人となり、魔法使い百七十人。当初の設定を変更して精霊魔法と従来の魔法を併用できるという事にしてあるので精霊使いと魔法使いは五人被っていて、正確には精霊使い百四十五人、魔法使い百六十五人、ハイブリッド五人だ。

 ちなみに俺達がいる大陸に存在する国は、帝国を除けば国とは名ばかりの小国家がいくつかあるのみで、その小国家群もほとんど帝国の属国と化している。もちろんその国々に魔法使いはいない。が、精霊使いは数人いる。帝国にだけアンデッドの脅威を警告するのは不自然であるため小国家も精霊使いを保持するようにしたのだ。しかし彼らについては数も少ないし基本的に帝国の意向に従う形で動くので考えなくていい。

 そんな帝国に対し、魔王軍はゾンビ70、リッチ15、スケルトン40、アニマルゾンビ200、アニマルスケルトン60、グール5、デュラハン10、ウィスプ300、というラインナップになっている。流石にウィスプを2816体導入したら帝国が確実に負けるので戦いに参加するのは300体にしておく。もっとも帝国側の損害に応じて増減させるから、帝国が奮戦すれば400体になる可能性もある。まあ要するに帝国がどれほど奮闘し八面六臂の大活躍をしても引き分けかそれに順ずる結果で終わるのは確定しているのだ。悲しいけどこれマッチポンプなのよね。帝国ェ……

 本来リッチは三十体ほどに増えていたのだが、法暦十五年の暮れにマンドラゴラを根絶やしにした戦いで死んだため十五体になっている。

 帝国はマンドラゴラ警備によりにもよって精霊使いを配置したのだ。いや仕方ない事ではあるんだけどさ。普通の魔法使いにゾンビ・リッチを見分ける事はできないから、見分けられる精霊使い(正確には精霊が見分けているのだが)を見張りに立たせるのは当然とも言える。しかし誠に遺憾ながら精霊とアンデッドはグルな訳で……マンドラゴラの情報がアンデッド側に筒抜けになった。

 精霊使いがマンドラゴラ警備に配備された直後に襲撃すると怪しまれるので、アンデッドがなりを潜めてしばらく時間を空け、緊張が緩んだところを狙ってリッチで徒党を組んで各地の栽培地を襲撃した。激しい抵抗にあったがなんとか押し切り、マンドラゴラの殲滅に成功する。更に内部からの手引き(精霊からの情報横流し)の甲斐あってアンデッド側の犠牲が予定より少なく済んだどころか密かにマンドラゴラを一株奪取することにすら成功した。

 ……里に持ち込んだら三日で枯れたが。栽培法は帝国がしていたものを精霊経由で知りその通りにしていたから、気候の問題のようだった。マンドラゴラもムスクマロイもデリケートでいかん。いやデリケートだからいいのか? 適応力と繁殖力が高かったら今頃大陸中に溢れていただろうし。

 そんな感じで精霊からの情報リークでマンドラゴラの処理は上手くいったのだが、そう何度も精霊から得た情報を利用する訳にもいかない。「精霊からしか得られない情報」をアンデッドが知り過ぎていると怪しまれるからだ。基本は素知らぬフリで通し、ここぞという時にこっそりと裏の繋がりを利用するに限る。

 さて帝国側もいいように嬲られてばかりではいられない。帝国にとってマンドラゴラを消されたのは致命的で、精霊使いの重要性はますます高まった。それに応じて国策として精霊の復活速度を早めにかかる。

 精霊は現在力を失っており、回復している最中である、という設定だ。実際のところは力を失っているどころか今が絶好調であり、回復しているというよりも(魔力密度が)成長している真っ最中なのだが、こちらから言い出さない限り成長しているのか力をとりもどしているのかの判別はできやしない……それはともかく。

 精霊から力を引き出すには呪文を唱えなければならない。しかし現在精霊は全盛期の力を出せず、強力な呪文を唱えても発動させる事ができない。強力な呪文を使うためには精霊に力を取り戻させなければならない。精霊は放っておいても自力で力を回復させていくが、環境を整えればより早く回復するし、条件が整えば分裂して増える事もある(という事にしてある。流石に四ヶ月おきに倍々で増える事ができるという性質を表ざたにすると戦力のインフレが起きるためまずいと判断した)。よしならば環境を整えてやろう、とまあそんな流れ。

 精霊が力を取り戻し易い環境作りは基本的に裏表両方で利益がでるようにした。

 例えばノームの場合、肥えた土に住んでいると回復が早まる、という設定になっている。ノームは東の森の土……腐葉土をベースにして生まれた精霊だ。同じ土でも砂浜や粘土などでは成分が違うため同調率が激減する。従ってノームを十全に機能させるためには帝国の国土に適したノームを作るか、帝国の国土を東の森の地質に近づける必要がある。

 俺が選んだのは後者だ。地質ごとにいちいちこのノームが適している、あのノームは使えるけどそっちのノームは使えない、なんて分類するのは面倒過ぎる。時間はかかるだろうが長い目で見れば大陸全体の地質をフラットにしてしまった方が楽なのだ。流石に大陸中の地質を完全に同一にするのは不可能だろうしそんな事をしたら生態系が狂うだろうからやらないが、なにも地質を完璧に同一にしなくても数割腐葉土の成分が混ざっていればノームは力を発揮できる。荒れた土地、砂と石ばかりの荒涼とした土地に腐葉土を入れて土を肥やせばノームの活動範囲は広まるし、農地だって増える。ノーム強化と農地改善・拡大が一度にできて一石二鳥って寸法だ。

 ウンディーネの場合は綺麗な水が回復を促すという事になっている。

 ウンディーネが同調する成分は水だ。泥水でも動かせるが、その場合は厳密に言えば水が動くのに伴って泥の成分も流動しているだけで、泥は動かせない。水99%、泥1%の泥水なら同調率は100分の99になる。

 さらにそこに別の不純物が混ざり、水98%、泥1%不純物1%になったとしよう。そうなると当然同調率は100分の98に落ちる。さらに不純物が多いと分裂の際に最悪ウンディーネになれない。水100%のウンディーネがどろどろの泥水の中で分裂しようとすると駄レイスになるのだ。水と泥水は別物だからこういう事もあり得る。

 汚れた水が多ければ多いほどウンディーネは駄レイスになりやすくなるし、同調率も下がる。そりゃあ目に見えて同調率が下がるとなれば水90%不純物10%ぐらいからだろうし、工場もないこの時代に川や湖の水がそこまで濁るなんて早々あり得ない事ではあるものの、水が綺麗であるに越した事はない。なにもウンディーネのためだけではない。水が綺麗なら民衆にも利益がある。例えば上下水道の概念が定着すれば河川の水は飛躍的に綺麗になり、ウンディーネが住み易くなり、病気も減るだろう。今の時代糞尿たれながした川の水で洗濯したり食器洗ったり挙句の果てには飲んだりしてるんだぜ? 正気じゃない。いや里ではそのへん徹底してるけど帝国はね。ほんと酷いから。

 まああれだ、水を綺麗にすればウンディーネ強化と病の予防が一度にできて一石二鳥って寸法だ。 

 サラマンダー……サラマンダーは火を食べて成長するという設定だ。それも長く燃えた火であるほどいい。長期に渡って燃え続けた火があれば分裂もできる。

 サラマンダーはデフォルトで熱を発し続けているから、長い目でみれば四ヶ月もの間火を焚き続けるのもマイナスにはならない。サラマンダーが一家に一体いるだけで冬を薪なしで越す事ができるのである。その恩恵は計り知れない。魔力密度が上がれば精鉄なんぞにも使えるようになるだろう。

 短期的には焚き火の燃料集めが負担になるが、長期的に見ればサラマンダーが増えて森林伐採の防止にもなり一石二鳥って寸法だ。

 シルフ……シルフは特に何もしていない。大気汚染すんなっても別に大気汚染するほどガスだしちゃいないからな。シルフはこの広く清い大空がある限りどこまでも自由に飛んでいき、何ものにも縛られずあり続ける。故に四精霊の中で最も数が多い精霊なのである……本当は単に初期に分裂したからなんだが例によって黙っていればわかりゃしない。ふひひ、サーセン。

 前世、俺の世界では利便性や豊かな暮らしと引き換えに多くの自然を失った。今世、分かっていて前世と同じ轍を踏む事はない。

 精霊を強くし、増やせば暮らしが豊かになり戦力増強にもなる、そのためには自然破壊厳禁、自然破壊しなければ豊かな自然と暮らしの両立ができる。我ながら見事な三段論法だと自画自賛してみる。サラマンダーがいれば料理も鍛冶も燃料いらず。ウンディーネがいれば旱魃も怖くない。ノームがいれば畑仕事が楽になるし、土塁を築くのも簡単だ。シルフがいれば移動も通信も格段に速くなる。

 まあ工業・産業による自然破壊がなくなった代わりに魔王軍による侵攻があるからそこまで良い世界にはならないだろうが……それでも収支はプラスに傾くだろう。常に魔王という分かり易い悪がぶら下がっているのも大きい。魔王が虎視眈々と人間を滅ぼす機会を伺っている限り、人間同士で大きな戦争を起こして隙を見せる事はないだろうから。










 さて、精霊の強化に勤しみつつも帝国は魔王討伐作戦を計画しはじめていた。

 マンドラゴラが根絶やしにされ、魔法使いの増産が不可能になった。以後時間が経てば経つほど魔法使いの数は減っていき、やがていなくなる。

 魔法使いにできて精霊使いにできない事は多い。精霊魔法の多くは魔力を消費しないから従来の魔法と違って乱発できる一方で、属性が限られる。複数の精霊の属性を掛け合わせれば精霊魔法でも従来の魔法と同じ魔法が使えるようになるが、そこまでの……実も蓋も無い言い方をするなら、そこまでのアップデートはまだまだ先だ。今のところ精霊使いは一属性しか使えない事になっている。精霊の力が完全に復活していないため使える詠唱が限られているが、それはアンデッドも同じ。精霊が力をとりもどすのを待っていればアンデッドも強大になってしまう。

 時が経ち魔法使いがいなくなってしまう前にこちらから攻めよう、という考えは帝国首脳陣の間で概ね歓迎され、武装を整えたり魔王城までの道のりを地図にしたりとちゃくちゃくと準備を整えている。

 なんだかんだでナルガザン帝国は一度も敗北した事がない。魔法使い擁するビルテファ王国を魔法使い無しで破った経歴もある。今回も犠牲は出るだろうが勝つだろうとどいつもこいつも楽観していて、士気は高かった。古代文明を滅ぼしたっつっても今は弱体化してんだろ? ちゃちゃっと叩き潰してやんよ! というムードだ。

 まー攻めてくるなら攻めてくるで一向に構わん。ぶっちゃけ潜在的にはどうやって負ければいいのか分からんレベルの隔絶した戦力差がある。英雄クラスの英傑が一ダース揃い踏みしていても蹴散らせるだろう。問題は第一次魔王城攻城戦をどう演出するか、だ。

 帝国にどの程度の犠牲を強いるか。どの程度生かして返すか。アンデッド側の手札をどこまで見せるか、どこまで攻め込ませるか。今年中には速攻で攻めてくるだろうからそれまでに決めておく必要がある。

 正直出来レースにもほどがあるが、ここはあえて言っておこう。














 大侵攻(笑)を、始めよう。



例えば球を作りたい場合、資材の中に球形の魔力を浸透させて転送魔法を使いくり抜けば一瞬にして球を作る事ができる。



※2

平均的な西洋城に使用されている石材の体積のデータがあればよかったのですが、探しても見つからなかったので(そりゃそうだ)建築にかかった日数は相当適当になっています。したがって駄レイスの魔力量と回復速度的にありえない日数になっているかもしれませんが、計算が面倒なので検証していません。このあたりはまるっとスルーして下さい。 



次話は帝国サイド

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