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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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十九話 ぼくがかんがえたかっこいいせいれい

 法暦十四年、俺は無1、駄44、土4、水4、風36、火1、合計90体となる。サラマンダーは四ヶ月も火を燃やし続けなければならないため燃料確保の問題で分裂していない。

 研究室には精霊の分裂を受け、大人一人押し込めるぐらいの大きさの水瓶と、長方形のプランターが設置された。研究室には常時水瓶の中のウンディーネとプランターの中のノームとシルフとレイスが詰めている。サラマンダーがいると蒸し暑くなるのでサラマンダーだけは外にいた。

 最近は全員精霊魔法の実用化に向けてルックスを調整中だ。まさかそのへんを探せば転がっているような平凡な面構えと体格で精霊を名乗る訳にもいくまい。

 一番手、シルフのコンセプトは『悪戯少女』。……少女、だ。

「まさか転生後二百数十年で今更TSする事になろうとは」

 水瓶の水面を鏡代わりに服装を調整しながら溜め息を吐く。普通転生と性転換はセットがお約束だろ? 小説的に考えて。

「外見だけじゃーないですか。大丈夫、中身は冴えない男のままですから。どんな姿になってもロバさんはロバさんです」

 ロザリー、慰めてるのかけなしてるのかはっきりしろ。

 シルフの外見年齢は十一、二歳、容姿のベースは今は亡き俺の妻。それなりに長い付き合いだったから笑っている顔も泣いている顔もよく覚えている。実に可愛らしく愛らしい正に可愛いは正義な顔立ちに、好奇心にキラキラ輝く碧眼(精霊は全員碧眼)。ただしセミロングの金髪は緑色に変えておいた。

 シルフィアには美化補正がかかっているんじゃないかと言われたがそんな事はない。

 そんな事はない。

 服装は若草色の薄手のワンピースで腰にベルトがついていて、その上から深緑色のベストを着ている。靴は先が少し尖ったよく妖精がはいているような革靴だ。

 ちなみにワンピースの下は覗いてもなんだかよくわからないモヤモヤが邪魔して見えないようになっている。チラリズム? お断りだ馬鹿が。

 そんな愛くるしい姿でおにーさんボイスは色々致命的である事に気づいて変えようとしたら割と普通に変えられたので、そこも子供らしい無邪気な―――ただし多少霞がかって神秘的な―――声に変えてある。あとはちょいちょい仕草を子供っぽいものにしていきながら服飾の細かい部分に調整を加えていけばいいだろう。蔦と花の冠はアリか?

「なんだかなー、俺が家族を自作自演で再現してる淋しい奴になってる気がしないでもねーなと思うね」

「んなこたーないと思いますがその声でその口調は勘弁して下さいいやほんとに」

 ウンディーネで水瓶から伸び上がり縁に頬杖ついて言ったらロザリーに懇願された。

 二番手、ウンディーネのコンセプトは『癒しの美人』だ。

 容姿のベースは今は亡き俺の娘の大人の姿。当初はシルフィアをベースにしようとしたが、本人が嫌がったし、帝国にシルフィアの容姿を覚えている奴がいないとも限らないので止めておいた。ハマり役だと思うんだけどなぁ。まー仕方ない。

 かつて村中の男を虜にした優しく麗しく儚げな美貌に、イヤミにならないギリギリのレベルの起伏に富んだ身体。腰まで届くロングストレートの髪は凪いだ海を思わせる深い蒼。

 反対側が透けて見える極薄の布を何重にも重ねてできたゆったりとした水色の羽衣を身にまとい、胸元には貝殻のペンダントをかけている。

 声は微かにエコーがかかった耳にするりと入り込む優しげな美声だ。

 完璧。まさにウンディーネ。

 シルフィアには美化補正がかかって(ry

 シルフとウンディーネは外見上の性別が女なので擬態するにあたってなんとも言えないモヤモヤ感を抱くが、そこまで忌避感は強くない。微妙に人事な感覚、というか……多分女神像を彫る彫刻家か女性ロボットのデザイナーがこんな感覚を覚えるんじゃないだろうか。実際どうかは知らんけど。

 それにまあ、俺の感覚云々は別にしても精霊が全員男だと将来的に精霊魔法が広がった時に男尊女卑が進む気がする。理由もなく全員男ってのも不自然だしさ。

 本質的には男のままだしその内シルフとウンディーネにも慣れるだろう。慣れたら慣れたで何か哀しいが。ノームとサラマンダーは男だから半分は男のまま、いや半数は男のまま……じゃない、レイスと駄レイスをカウントすればってか種族的には男女比が……あれよく分からなくなってきた。まあいいか。

 三番手、ノームのコンセプトは『職人気質の爺さん』だ。

 容姿のベースは俺の父。ただし身長は下げてある。140cmぐらいか。灰褐色の短髪には白髪が混ざり、風雨に削られた巌のような顔はゴツゴツした印象の他にも不思議な滑らかさを感じさせる。長い口髭と顎髭は髪よりは白っぽい。頭には赤いとんがり帽子が乗っかっている。

 背筋はシャキッと伸び、こげ茶の長袖シャツとズボン、革の長靴を装備。なんだか庭小人かドワーフっぽいが別に構いやしない。シルフだって妖精似だし、この世界に四元素精霊の元ネタ知ってる奴はいない。

 声は重々しい威厳のある低音。もっとも設定上の性格が寡黙だから喋る機会はほとんどないだろうが。

 エルマーには思い出補正がかかっているんじゃないかと言われたがそんな事はない。

 そんな事はない。

 ラストバッター四番手、サラマンダーのコンセプトは『筋肉兄貴』だ。

 サラマンダーだけは特にベースがない。猛禽類をイメージした厳つい青年の顔に、短く刈り込まれた燃えるような(実際燃えてるようなものだ)赤毛。全身ムキムキで、上半身裸だから鍛え上げられた筋肉を見せつけるにはもってこいだ。着ている服は黒いハーフパンツのみ、靴すらはいていない。装飾に乏しい代わりに身体の輪郭が陽炎のようにゆらめくエフェクトをつけておいた。

 声は若本さんリスペクト。

 そんな感じで精霊達の外見をそれっぽく調整しながら、平行してそれぞれに設定された属性に応じた呪文・魔法を考えているのだが、想定していたよりも精霊が精霊らしい性質を持っている事が分かってきた。

 端的に言えば精霊は自分の属性――――同調対象と同じ性質の魔法の魔力効率が良い。

 以前エマーリオと実験した時、魔法発動時に消費される形質魔力の内八分の一が魔法に、八分の七が純魔力になっている事が判明した。これが例えばサラマンダーの場合、火魔法の形質魔力のおよそ八分の二が魔法になり、八分の六が純魔力になるという結果が出た。当然威力は二倍だ。ウンディーネなら水魔法の形質魔力の八分の二が魔法になり、八分の六が純魔力になる。

 ただし例えばノームが「土を動かす魔法」を使っても魔力効率はさほど上がらない。土魔法というよりも念動魔法の側面が強いからだろう。「土を創造する魔法」を使えば魔力効率は八分の二に上昇する。

 特定の性質を記録した魔力を持つ精霊はその性質に基づく魔法の魔力効率が良く、特に記録した物質・現象を擬似的に創造した時に効率の上昇が顕著である、といった方が正確だろう。長ったらしいが。

 特定の魔法を使い続けていると魔力効率が上がるという法則と、今回発見した法則から考えるに、多少飛躍するが、魔法は「使用する己の形質魔力を指定(意識する)→指定した形質魔力がイメージによって魔法に適した性質に変わる→発動」という手順を踏んで発動していると考えられる。

 火の情報を記録したサラマンダーなら、形質魔力を火魔法の魔力に変換する時に事前記録分の魔力が上乗せ(?)され、発動時に火になる魔力が多くなる、という理屈だ。

 ちなみにゾンビの場合はゾンビを創造する魔法の魔力効率が良いし、ヴァンパイアはヴァンパイアを創造する魔法の魔力効率が良い。

 いや成功する訳がないからやったんだけどさ。実際人間を創造する魔法を使っても、感覚を研ぎ澄ましよ~く注視してやっと刹那の一瞬なにか空間に現れたような気がするけど気のせいだったかも、程度だ。魔法による質量の創造はどうしても時間制限がつく。

 そうして精霊の研究をしていたら魔法の法則が判明した訳だが、科学や数学でも別方向の理論を煮詰めていくうちに一つの結論に集約される事がある。魔法もそうなのだろう。

あともう一つ発見した事。

 同種の精霊は各個体の形質魔力が限りなく近い性質を持っているらしい。100%完全に一致しているかどうかは知らないが、ニアイコールで結べる程度には近いはずだ。なんたって転送魔法が使える。

 通常、転送・空間転移の魔法は自分の形質魔力がある場所から形質魔力がある場所にしか行えない。里に居ながら帝都に爆弾を転送してテロ行為、なんてのは不可能だ。そんな長大な距離になるととてもじゃないが魔力を伸ばせない。

 ところが同種の精霊の場合、各個体がバラバラに行動できるにもかかわらずそれぞれがほぼ同質の形質魔力を持っているし、意識も共有している。故にシルフAがシルフBの魔力を意識するという行為が成立する。シルフAが転送対象を魔力で包み、シルフBの魔力を魔法の発動に消費する魔力として意識しながら転送魔法を使えば、シルフAが包んでいた品はシルフBの魔力がある場所に転送されるのだ(シルフとウンディーネやノームとサラマンダーなど別種の精霊間では不可能)。

 簡単に言えば同種の精霊が居る場所ならどこからどこにでも、なんでも瞬間転移できるという事。資源や兵力、品物の輸送にむちゃくちゃ便利です。

世界中に精霊がはびこったあかつきには一日世界旅行ツアーを企画してみるのもいいかも知れない。妄そ……夢が広がるぜ。











 法暦十五年、俺は無1、駄352、土33、水34、風288、火3、合計711体となる。いよいよ手がつけられなくなってきた。既に帝国軍を真正面から打ち破れるだろう。

 精霊の数が増えてきたので各地に散らばり目撃情報作りに取りかかった。ついでに帝国……というか大陸の簡易地図作成も同時進行。

 シルフは風通しが良い草原や山。

 ウンディーネは澄んだ湖や川。

 ノームは森や岩山。

 サラマンダーは山火事や長時間燃え続けた焚き火の中。

 それぞれ属性に合った場所に出現し、まずは「こういう環境に出没するんだな」というイメージを民衆に植え付ける。魔力覚醒していない人間に精霊の姿は見えないが、シルフが起こした砂埃は見えるし、ウンディーネが水と同調して水面から伸び上がれば人間の姿をしているのが分かる。認識については問題ない。

 当面の間は十年スパンで精霊の存在を常識として人々の意識に刷り込むのを目的に動く。ただうろちょろするだけで何もせず何も語らず話しかけられても無視し、害もなく益もないものだと思わせ、土着の信仰との衝突を回避。神の類ではなくアニミズム的超自然存在だと思わせる事ができればベストだろう。

 そうして精霊の存在を浸透させている間に人里離れた辺境に古代文明遺跡(笑)を捏造。精霊の発生源はそこであるという設定を追加、期を見計らって精霊側から精霊魔法☆を持ちかける、と。

 精霊の拡散ついでに情報収集も行っている。何気ない風を装って人間の周囲をチョロチョロするついでにね。ちょっとね。しかも精霊はそれぞれ別個の意思で独立行動してるって設定だから、万一精霊に致命的な情報がバレてもバレた精霊一体を始末すれば事足りると思ってくれる。

 精霊ではないレイスの分身、駄レイスはゾンビ達と共に森の北の山々に散らばり鉱脈探しをしている。いい加減鉱物資源が欲しい。木の鍬に石の鎌ってお前、あるあr……ねーよ。草生やす気力も失せるわ。弥生時代じゃねーんだから。












 そうして精霊魔法作戦を始めて二ヶ月ほどした頃。事件は立て続けに起こった。

 ノームが潜伏中の人気のない森で密会していた帝国高官から、現在マンドラゴラは四つに株分けされ派閥で二つずつ計四カ所で栽培されている事が判明。内、会話内容から推測し三カ所栽培地を絞り込む事に成功。マンドラゴラを殲滅するなら一株も残さず一気に灰にしたかったため三カ所の栽培地をマークするだけマークしておき保留。

 ところがその日の内に王都別邸において病床に臥していたエカテリーナが死去。その報は瞬く間に広がり、帝国の政治の勢力図を書き換えた。

 帝国は真っ二つに割れ、いつ内乱になってもおかしくない一触即発状態に移行する。

 同日、王都に潜伏していたリッチ、ガロンがあからさまに怪しいフードの集団がコソコソと木箱を運搬しているのを発見。不審に思い後をつけていった所、魔力を周囲に広げて警戒している人間――――魔法使いに木箱を渡している現場を目撃。その時のやりとりから箱の中身がマンドラゴラだと判明した。勢力図が変わった関係で今までの栽培場所が使えなくなり、急遽移動する事になったようだった。

 この機会を逃せば四つ目のマンドラゴラはまた行方不明になる。ガロンはテレパシーで俺に許可を求め、俺はそれを了承。

 他三箇所の栽培場所を張っていたシルフと同時にマンドラゴラを焼き尽く、

 そうとした瞬間にガロンが帝国魔法使いに捕まってしまった。あれよあれよという間に連行され、自爆もできずその体の特異性の一部を知られてしまう始末。

 現在ガロンは拘束され拷問にかけられている。なにもかもが急展開すぎて正直状況についていけない。どうしてこうなった。

 ど う し た こ う な っ た !



 プロットでは十六話から次話までで一話だったはずが実際書いてみるとこの始末。後半へー続くー


 研究はしばらく止まります。ここから魔法カードが出るまでずっとストーリーのターン

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話のテンポが気持ち良い [気になる点] 最後の文"どうしたこうなった"がたぶん誤字な気がします
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