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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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十一話 魔法の活用と応用

 研究を再開するにあたり、まずはエマーリオの遺した資料の中で検証が不足している物を補完していく事にした。

 魔力密度の上限や自然状態で生物が保持する魔力密度と量の法則性など労力が必要だったり検証方法の見当がつかない物は保留。簡単な物から片付けていく。

 最初のテーマは魔法の活用についていくつか。

 一つ目、魔法射程延長。

 魔法は自身の形質魔力がある座標にしか魔法を発現できない。従って「最大魔力放出距離=射程」となる訳だが、厳密には少し違う。

 例えば三ミールまでしか魔力を伸ばせない魔法使いがいるとしよう。その魔法使いの射程は三ミールだ。

 しかし三ミールまで魔力を伸ばし、その先端の魔力で「前方に向かって飛んでいく火球」を発生させれば魔力を伸ばしても届かない距離へ攻撃できる。別に火球以外……水球や土槍でも良いし、なんなら手近な木材か石ころに魔法をかけて投げつけても良い。

 その際の射程は魔力を伸ばし直接発動した場合と比べ飛躍的に伸びる。

 火球や水球をあまり遠くへ飛ばそうとすれば途中で効果時間が切れ着弾前に消失するが、石ころや木材を投擲すればその心配もない。

 ……が、火球だろうが石の投擲だろうが遠方から飛来するのが見えればいくらでも対策のとりようがある。防御するもよし、回避するもよし、迎撃するもよし。

 魔法の最大のアドバンテージは攻撃の瞬間まで(魔力覚醒していない者には)見えない所にある。射程が伸びても見えてしまうと普通の矢や投石とあまり変わらない。

 それでも外見的には非武装無動作で攻撃できるのは大きい。使い方次第だろう。

 ここまでが前振りだ。

 本題。自身の魔力が存在する場所が射程圏なのだから、物質に魔法をかけて射出するのと同じように魔力に魔法をかけて射出できれば隠密性を維持したまま射程を伸ばす事ができる可能性がある。

 魔力そのものにそのまま射出する魔法をかけても飛ばすべき魔力が射出する魔法の発動に消費されてしまうため、「射出される形質魔力、核」を「射出する形質魔力、殻」で包み込み、殻に魔法をかけて射出してみた。

 結果、失敗。

 確かに目論見は上手くいき核を飛ばす事はできたのだが、魔力放出距離外に出た瞬間に形質魔力が制御を離れ純魔力になってしまったのだ。純魔力では当然魔法は使えない。

 殻への魔法行使と核の魔力維持の二つを一人でやろうとしたのが拙かったのかと考え、俺が全神経を集中させて魔力固定している形質魔力をシルフィアの魔力で包み込み射出してみたりもしたのだがやはり失敗。

 どちらの場合も射出された核は制御を離れ純魔力になりこそしたが、殻の魔法が切れるまで密度を保ち拡散しなかった。

 射程延長には失敗したものの、実験から分かった事が二つ。

 一つ、形質魔力は魔力放出の限界距離を越えると拡散するのではなく、一度純魔力になりその結果制御を離れ拡散する。

 これは利用できる。

 人間の魔法使いa、bがいるとしよう。aの魔力密度は5.0、魔力固定はある程度できるが魔力圧縮ができない。bの魔力密度は10.0。bがそのままaに魔力を受け渡しても、bとaの形質魔力が混ざりaは魔法を使えない。

 ここで今回の発見が問題を解決する。

 まずbが魔力を伸ばし、aが自分の魔力でbの魔力を包み込む。その状態を保ったままaとbが距離を離すとbの最大魔力放出距離を割った時点でaが包み込んでいるbの魔力が純魔力になる。あとはaがb由来の純魔力を体内に入れて一晩もすれば純魔力はaの形質魔力、それも魔力密度10.0の形質魔力に変化する。

 aは魔力圧縮できなくとも自身の魔力密度よりも高い密度の魔力で魔法を使えるようになるのだ。

 まあゴーストがそんな事したら純魔力に押されて体が保てなくなり消滅する事確実だから俺には使えない方法だが、肉体があれば問題無くできるはず。

 近いうちに魔力密度上昇実験もしてみたい。俺はいくら自分の魔力密度を上げても魔法を使うたびに一々手動で魔力密度と量を戻さなければならないが、魔力が自然回復する種族ならば一度上がった魔力密度がそのままデフォルトの密度になる可能性は十分ある。

 上手くいけばゾンビを全員リッチにして無双状態に! ……とはいえ今のとこ捕らぬ狸の皮算用。検証結果次第だ。

 二つ、魔法は魔力に干渉可能である。

 魔法が完全に物理化しているならば殻は核を置き去りにしてかっ飛んで行ったはず。「射出する魔法の殻」が「魔力の核」を運ぶ、即ち魔法が魔力を包み込み拡散を防ぐ性質を多かれ少なかれ持っていたという事。

 もっともこれは確信に近い推論ができていた事でもある。

 エマーリオの屋敷にいた頃に既にゴーストに魔法が効く事は分かっていた。ゴーストは形質魔力の塊であるから、ゴーストに魔法で干渉できれば魔力にも魔法で干渉できる事は推測できる。ただゴーストは意思を持ち人間の姿をとり行動する変則的な形質魔力であるため普通の形質魔力にも当てはまるとは断言できなかった。

 既存の理論の補強をした形になる。

 変わって実験の二つ目、複製魔法について。

 複製魔法はいつだったかエマーリオが爆発した砂時計を修復する時に使っていた魔法だ。コピー元になる物とコピー元を再現するために必要な材料を用意し、両方を魔力で包み魔法を使う事で複製を行うというもの。

 材料と本物さえあれば寸分たりとも狂いのない完璧な複製を作成できる反則魔法である。王国でも密かに一部の芸術品の複製に使われていたとか。

 なにせ陶器でも剣でも傑作を一度でも造れば同じ品質のものを量産できるのだ。まさにチート。お陰で現代知識の一つ、活版印刷が完全に要らない子になっていた。

 勿論良い面ばかりではなく悪い面もある。例えば通貨の偽造。どれほど精密な細工を施しても、材料がありふれた物であれば簡単に完璧に複製されてしまう。紙幣なんてもっての他。

 村に貨幣経済を導入する時は用意するのが難しい稀少な材料が必要になってくるだろう。金か銀か、それ以外か。シルフィアはあと四、五十年ぐらいで村人(人間)に魔法を開放するつもりだと言っているからそれまでには丁度良い材料を用意しておかなければならない。

 ここまで前振り。

 本題、複製魔法は生物にも使えるか?

 生物の複製は禁忌に分類される魔法だと思う。前世、クローンでさえ物議をかもしていた事を思えば、生命の完璧な複製は神をも恐れぬ所業だろう。

 とは言っても神様なんて存在しないのだから恐れるも何も無い。サクッと実験に入る。

 まずは植物から。草の種を試す。

 見本となる種と、見本の種と同種の種を二つすり潰したもの(材料)を用意する。材料が種二つなのは個体差による組成の微妙な違いを考慮したからだ。二つ分の材料を用意すれば足りないなんて事はないだろう。

 実験の結果は成功。見事オリジナルと全く同じ種が出来上がった。余分だった材料は使われずにそのまま変化していない。

 試しに植えてみるとオリジナルも複製品も両方発芽し、見た目だけでなく中身も複製できている事を示していた。

 成功する可能性は半々ぐらいかと根拠もなく思っていたので、複製した種が発芽しているのを見た時は魔法に対して畏敬の念が湧き上がった。俺が知る限り前世の科学でも不可能だった完璧な生命の複製をこれほど簡単に成し遂げたのだ。魔法すげぇ。

 続く草木の複製も成功。しかし動物実験の段階に入り、ネズミで実験したら失敗した。

 材料の死体二匹が組み立て途中で放置されたかのように骨まる見え内蔵剥き出しのデロデロしたナニカになってしまった。時々ピクピク痙攣するのが気色悪くおぞましい。

 くっ、やはり生体錬成は禁忌っ……右腕を持っていかれなかっただけマシか……

 なんて事も思わないでもなかったが、植物が成功して動物が失敗するのはなにか相応の理由があるのだろう。ネズミの複製も全くの失敗ではなく、ネズミになりかけた形跡が見える。

 データが植物と哺乳類一種類だけでは法則が掴めない。植物、昆虫、哺乳類、魚、爬虫類をそれぞれ数種類ずつ試してみた。

 結果、哺乳類、魚、爬虫類は失敗。植物は成功。昆虫は一部成功。

 多少主観も混ざってはいるが明らかに哺乳類や魚の失敗度合いに差が見られ、どうも高等な生物ほどデロデロ具合が酷かった。ネズミはまだなんとか原型を留めていたが、熊はグチャグチャの肉塊にしかならない。逆に魚はネズミよりも少し原型が分かる。

 成否が分かれた昆虫にもその傾向があり、カブトムシが失敗、しゃくとり虫が成功していた。動物が高等かどうかなんぞ人間の主観なのだからはっきりしないが、種族差による法則性があるのは間違いない。

 光明が見えたのはやはり唯一成否が分かれた種族である昆虫だ。シルフィアの所からラキを借りて複製実験を手伝わせていたのだが、あるダンゴムシを複製した際にラキは失敗し俺は成功した。

 ラキが複製に失敗した、しかしあまりデロデロしていないダンゴムシと、俺が複製した元気に這い回っているダンゴムシを見比べた時に電流が走った。

 ラキは俺よりも魔力密度が低い。魔力密度が複製の成否を分けているのではないか?

 思い立ったが吉日、すぐに魔力密度を下げて複製してみた所、今まで複製できていた昆虫が二種類ほど複製できなくなった。

 予想通りだった。複製の成否には魔力密度が関係する。確認されている限り非生物は全て魔法発動に必要な最低密度で複製でき、生物は魔力密度が高いほど高等な(?)ものを複製できるようになる。

 恐らく魔力密度さえ足りていれば人間の複製も可能だろう。人間が複製できるほど魔力密度が高まるのはいつになるか分かったものではないが、流石に嫌な気分になる。材料があり、魔力密度が足りていれば同じ人間を苦もなく量産できるのだ。さながら工場のように。

 シルフィアも同じ心境だったのだろう。

 生物(含ノーライフ)の複製は禁術となった。研究以外での使用は禁止。

 死体を蘇らせるのはアリで複製は無しというのはおかしい気がしないでもないが、自分をベースに考えるとよくわかると思う。

 自分が死んだら生き返らせられた。血を吸わなければ生きていけないが不老、その他色々。

 いつの間にか自分のコピーが量産されていた。全く同じ顔、全く同じ記憶、全く同じ性格の人間が何人も自分を見ている。

 どちらが恐ろしいだろうか?

 俺もシルフィアもエルマーも後者だった。自分は自分だけでいい。

 しんみりした所で三つ目、治療魔法について。

 原則的に治癒魔法では「治癒促進」を行う。従って自然治癒しないものは治せない。

 裂傷や打撲、火傷などであればすぐに治る。軽い擦り傷程度ならば三十秒程度で痕も残さず完全完治だ。

 傷が重くなれば何回も魔法をかける必要があり、ものによっては数日に渡り断続的に魔法をかける必要がある。魔力密度が高いほど(魔法の威力が高いほど)急速に治癒するが、瞬間完治は不可能なのだ。

 あくまでも治癒を促進する魔法だから手足の再生をしようとしても無駄だ。

 例えば腕を生やそうとしても「腕のような何か」が生えてくるだけで、生えても神経は通っていないし動かない。血行も悪く、やがて腐り落ちる。

 生えてきた腕を解剖すると組成も構造も違っている。これは魔法が行使者の認識に依存し、「ぼくがかんがえた健康な腕」を生やす事しかできないからだ。人間がイメージする漠然とした腕だから当然本物の腕とは似てもつかない。

 切られた新鮮な腕があれば切断面をくっつけ治癒魔法をかけまくって繋げる事ができるので、生やすよりはそちらの方が現実的だろう。

 治療魔法の効果が行使者の認識に依存するというのがネックで、目に見えない内部の損傷に弱い。魔法があれば切開せずに癌を摘出するのも理論的には可能だが、まず癌がどこにあるかミリ単位で正確に把握しなければうっかり心臓を摘出しかねない。

 事前に身体の異常を探る魔法をかければ損傷部も分かりそうな物だが、過去にそれを試みた者が突然昏倒し、目を覚ました時には廃人になっていた、という記録が残っている。

 エマーリオは研究資料の中で「対象の膨大な量の肉体情報を一気に取得したため脳がパンクしたのだろう(要約)」と推測していた。俺も同意見だ。

 実際に色々と検証してみたい所ではあるが、それには確実に複数人の魔法使いを犠牲にしなければならない。今の里の状態では到底無理だった。

 また上記のような理由でマンドラゴラによる帝国の魔法使い達の疾患の治療は現状不可能だ。

 と、ここまでが前振り。といっても本題も大した事をしないのだが。

 本題は複製魔法を利用した移植手術。例えば片方の腎臓が駄目になった時に残った腎臓を複製して移植したり。自分の臓器なのだから拒絶反応の心配は全くない。……治療魔法というか複製魔法の分野かもしれない。

 人間の臓器は複製できないので虫の臓器と言うか手足で試してみたが上手くいった。しかしまあ虫で成功したから人間でも成功すると断定する訳にもいかないので魔力密度の上昇を待たなければどうにも、ね。

 そんなこんなでいくつか実験してみたが、やはり魔力密度が高い方ができる事が多い。

 魔力密度を上げる地味で地道な飽きやすく少し不快な作業……面倒臭いがコツコツやらなきゃなるまいて。ああ面倒臭い面倒臭い。



あんまり推敲してないから解説が不十分だったり矛盾してたりする、かも

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