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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
一章 不死の起源
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三話 薬草、実験

 俺は生後二年を知恵熱でふいにした訳だが、一年で全て取り戻していた。赤ん坊のや~わらかい脳味噌に高校生の精神だか魂だかそんなもんをぶち込んだ影響か、知恵熱が収まってからは異様に頭が回った。思考速度は早いわ記憶力は高いわ二つの物事を同時に考えられるわ。特に最後が便利だ。なんだったかな、マルチタスク? 今の俺なら数学の方程式解きながら作文書けるぜ。

 しかし反面身体はあまり強く無かった。生まれて二年間頭痛に苦しんでろくに身体を動かさなかったもんだから筋肉の発達が遅れている。致し方なし。

 でも農業が産業の主体のこの村で身体の発育が遅いのは不味いから軽く腹筋とか腕立てとかしてる。あんまり小さい頃から筋肉つけると身長が伸びないからほどほどにね。何事もほどほどが一番だ。

 四歳の頃から少しずつ家事を手伝わされる様になった。家の家族構成は無口で寡黙な父、顔はパッとしないがとにかく巨乳な母、物知りで物静かな祖母。皆金髪碧眼だ。当然俺も金髪碧眼。

 鏡も無いので水瓶の水面で自分の顔を確かめてみたが、不細工でもなければ格好良くも無い微妙な顔立ちだった。なんかこう……彫りが深いとか柔和とか中世的とか目が釣りあがってるとか、そういう特徴が見当たらず、適当にイギリス人の幼児を想像して個性をそぎ落とした後に申し訳程度に顔を整えようとしたが途中で面倒くさくなって放棄しましたみたいな感じだ。言うなれば西洋版田中太郎? 全国の田中太郎さんには申し訳ないがイメージとしてはそれであっているはず。

 ちなみにじーちゃんは昔村を襲った二十人の盗賊を一人で撃退し、その時の傷で亡くなったらしい。強かったんだな、じいちゃん。

 俺はばーちゃんの手伝いをよくした。専ら薬草摘みだ。この村の長は医者と裁判官を兼ねた役割を果たしていた。怪我したら村長。揉めたら村長。そんな感じだ。

 揉め事の仲裁の仕方を学ぶにはまだ早いと判断されたらしく、ばーちゃんにくっついて薬草学の勉学。知恵熱を乗り越えた自慢の頭脳でどんどん知識を吸収していくのでばーちゃんは嬉しそうだった。

 あれは切り傷に効く、それは咳に効く、これは痺れ薬になる、などなどと教えてくれ、季節が一巡りする頃には全ての薬草を知り、効果を暗記してしまった。ばーちゃんは食卓で俺を褒めそやす。ママンは手放しで褒めてくれたし、とーちゃんは無言で頭を撫でてくれた。

 村の子供達は村長の子供だということで遠慮しているのか声をかけて来なかった。こっちからグイグイ突っ込んでも無理矢理遊ばせるみたいで嫌だなと思って俺から声をかけるのを遠慮していたら、いつの間にかそういう性格だと思われたらしい。漏れ聞いた所によると俺はばーちゃんっ子で独り遊びが好きな変わり者なんだってさ。大体合ってる。確かにばーちゃんは好きだし精神年齢を子供に下げて皆と遊ぶより独りで勝手に遊ぶ方が気楽だ。

 六歳にして薬草学免許皆伝を貰い、俺は十二歳まで暇を出された。薬草学を修了し、村人の裁き方を学び終えるとそのまま村長の権限は移行する。今から裁き方を教えると十にも満たない村長が誕生してしまいそうなので、しばらく自由に遊んでよし、との事だった。

 そんなん言われてもなぁ。

 現代知識で農業を進歩させてみようかとも思ったが、地質が良いのか現状で収穫量に困っていないのでやる意味が無い。水脈が地下にあるようで井戸も各家庭に一つあり、水車や水道を作る意味も無い。電気は……実用的な段階まで開発するのは無理だろ。

 こうしてみると案外やる事無いんだな。まあ無理して現代知識を使う必要も無いやね。

 しっかし好きに遊んでろって言われても同年代の子は(寒村だからか二、三人しかいない)畑の草むしりを手伝ってるし、目的も無く遊び惚けるのはなぁ……

 薬草研究でもしますかね。効能のはっきりしない薬草とか使い道の分からない薬草とかあるし。










 まさか効果の分からない薬草をいきなり人間に試す訳にもいかないので、魚とネズミで試す事にした。

 村から少し離れた平原の小川で小魚を捕まえ、川の傍に石を組んで作った小池を作って隔離しておく。そして同じ様な池を幾つか作り、すりつぶした薬草を放り込んでいくのだ。

 魚が弱ったり浮いたりしたら毒がある。元気だったら毒は無い。それだけ確かめ、後はネズミに試す。毒は痺れ毒だけで間に合っているので、試すのは薬になりそうな薬草のみだ。

 ネズミはよくしなる木の枝と硬い枝を組み合わせて作った簡単な罠で捕まえた。中に熟れた木の実を入れておくだけで簡単に捕まる。村のそばの森にはネズミが沢山いた。作物を食い荒らす害獣退治にもなって一石二鳥だ。

 俺が喜々として実験に取組むのを村人達は変な目で見ていたが、子供の遊びだと思ったのか口を出しては来なかった。まあ半分遊びみたいなもんだし、変に話し掛けられるよりはそっとしておいてくれたほうが実験に集中でき……あれ、そういえば俺、家族以外とまともに会話した覚えが無い。

 ぼっち? 俺ぼっちなの?

 ……まあいいや。別に苛められてる訳でなし。友達居なくてもばーちゃんが構ってくれるからな。

 そうして黙々と研究を続け、何十匹と無くネズミを毒殺してしまい、従来の物より効き目の高い薬草を三種類見つけた時、俺は九歳になっていた。

 薬草研究ってのは凄く地道な作業だ。何に効くか分からないので片端から試すしか無く、乾燥させると劣化するものも多いのでなるべく新鮮な薬草で実験したい。そうなると自然に実験数と実験期間が限られるのだ。

 俺は化膿止めになると分かった薬草の名前を木の板に石で書き付け、次の薬草の実験に取り掛かった。

 書いたのはこっちの文字だ。アラビア文字っぽいが左から書く。村で文字を書けるのは村長一家だけだった。

 薬草研究が一段落したら識字率向上を目指してみようか? 地味に喜ばれそうだ。

 四種目の薬草は魚に与えてもネズミに与えても何の変化も見られなかった。また用途の無い雑草かなと思いすりつぶした液を舐めてみる。

 お、甘い? 甘いなこれ。

 しばらく舌の上で転がし、飲み込んだ。十分ほどじっと待ってみたが体に異変は見られない。散々ネズミで試したので遅効性の毒という事も無かろう。

 俺はニヤけながら残りの液を飲み込んだ。青臭いけども果物とはまた違った甘さがあって良い。なかなかの発見かも知れない。












 甘い薬草を舐め尽くした夜、俺は粗末なベッドの上でイライラしていた。眠れないのだ。

 全身がむず痒いと言うかもぞもぞすると言うか、妙な気分がする。ばーちゃんに相談しようかとちらりと思ったが、もう寝ているだろうし、何か変な物を食べたのだろうと言われたらグウの音も出ない。あの甘い薬草が原因か?

 痒さとはちょっと違うムズムズ感にイライラする。ムズムズに効く薬草なんぞ知らんわ。どないせえっちゅうんだ。

 イライラムズムズが我慢できなくなり、手で全身を掻いてみたらなぜかムズムズ感が手に集まった。

……なんだこれ。超絶ムズムズだ。むしろソワソワする。

 ムズムズが手に集まるとか有り得るのだろうか。実際集まったのだから有り得るのだろうけども。

 しばらく首を傾げていたが、手に集まったなら切り離しも可能なのでは無いかと思い立った。ベッドの縁に手を擦り付け、離れろ、離れろ~、と念じるとムズムズはポロリと手から離れた。

もうムズムズもソワソワも感じない。

 訳分からん。なんだったんだ?

 疑問に思いはしたもののムズムズが取れてスッキリしたので、深くは考えずに素直に眠りについた。

 ところが翌朝、凄まじいソワソワで目が覚めた。体の奥底から溢れ出るソワソワ感。もうソワッソワ。思わず飛び起きて叫びながら部屋を駆け回ってしまった。

 何事かと顔を覗かせたとーちゃんの厳つい顔を見て我に帰り言い繕う。

「ごめんなさい、良い朝だったから嬉しくて」

「……曇りだぞ」

「お、俺、実は曇りが好きなんだ」

「…………」

 とーちゃん、無言で首を引っ込めないで。気になる。

 気にはなったがこのソワソワをなんとかするのが先だ。俺は昨日の様に体を撫で、手にソワソワを集めて投げ捨てた。うむ、スッキリ。

 俺は清々しい気分で朝食へ向かった。











 次の日もその次の日も正体不明の感覚が付き纏った。日を追うごとにくすぐったさは消え、ソワソワもムズムズも感じなくなったが依然として「何かがある」事は感じる。

 最初は手で集めて捨てていたが念じるだけでも集められる事が分かり、ソワソワ感が完全に消えてからは体の中で「何か」を移動させて遊んでいた。

 また変な薬草に当たると嫌なので薬草研究は止め、自室の椅子に腰掛けて「何か」を操る練習をしながらうつらうつらする事が多くなった。

 家族からは魚・ネズミに雑草を喰わせる遊びに飽きたと思われているらしい。間違ってはいない。

 「何か」が何なのかは分からなかったが、確かにそこにあるのは分かった。まるで五感につぐ感覚器ができたかの様にその存在を感じ取る事が出来た。あたかも――――あたかも……

 ……魔力のような?

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