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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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三話 冬

 森に初雪が降った日にはなんとか村の概形が完成していた。

 トレントを中心として森が円形に切り開かれ、中心付近に密集して掘っ建て小屋が二十数軒建てられている。

 密集地から森までは十五ミールほど何もない土地が開いていて、そこは春になったら畑にする予定だ。一応小麦や雑穀の種は持ってきてあるが、町の辺りとは気候も土壌も違うため育つかは分からない。一年目の収穫を期待できないだろう。

 森と畑の境界線には大人の腰の高さ程度の柵を作成。大型の獣が来たら突破されるし小型だと隙間を抜けられるが、中型の獣はある程度防げる。現在ゾンビ達が柵の外側に堀を作り補強中。掘り出した土は内側に盛って土塁にしていた。森→堀→土塁→柵→畑、という形になる。

 畑に使う水、飲料に使う水は村の近くに湧いている石清水を利用している。当然生水だが飲料にする分は魔法で煮沸しているので腹を壊す心配は無い。魔力にも限りがあり百三十人分の飲み水を沸かせる訳ではなかったが、魔法で足りない分は普通に薪を使えばいい。魔法煮沸はあくまでも薪節約のために使っている。

 雪が降り始めてから外で働いているのはゾンビとヴァンパイアのみだった。

 寒さは筋肉を硬直させ、体力を奪う。エネルギーの消費が増えれば食料も多く必要になる。冬は大人しく屋内でじっとしているのが一番だ。

 が、物理とは別の何かで動いているゾンビ達にはそんな物関係ない。氷点下で霜が降りていても普通に動ける。寒い事は寒いが肌寒い程度にしか感じていないようで、寒空の下で毎日元気に働いている。

 尚、ゾンビは命令さえすればそれが当たり前だと思って行動するため延々とこき使っても不満が出ないが、ヴァンパイアは自由意思で動いているため適度に休みを入れさせている。肉体は疲れなくとも精神的疲れはたまるし、一日中休み無く働き続けるのは苦痛だ。

 人間の方は昼間の比較的暖かい時間帯にちょろちょろ外で働き、朝夕は屋内で内職して日が暮れたらさっさと寝ている。

 雪の日の夜なんぞは特に冷え込むが、秋に狩った獣の毛皮があるので防寒はなんとかなる。

 あ、内職は皮なめしとか木製食器作りとかなんかそこらへん。指示出してるのはシルフィアで、俺の管轄じゃないから詳しくは分からん。

 冬の間は身を寄せ合って家にこもるため男女のカップルがちらほらできる。が、下世話な話だが子作りは禁止されている。

 少なくとも四、五年は人口を増やしたくない。なぜってそりゃあ食い扶持を増やさないために決まっている。食料の安定供給ができるようになるまでは生活環境の整備に腐心したかった。

 どんどん産ませて増やしてある程度育ったら殺してゾンビにして忠実な手駒を確保する、という人間家畜化超鬼畜ルートも無いではないが、それが必要になる程切羽詰まってもいないのでやらない(シルフィア談)。切羽詰まってもやろうとすんなよと思うのは俺が甘いからだろうか。

 人間にはできるだけ普通に暮らしてもらいたい。ゾンビ、ヴァンパイアetcの情報を漏らされると困るので村の外には出せないが。














 最近の俺の仕事は情報整理と分類だ。帝国の潜入捜査員から送られてくる情報を纏めてシルフィアに伝えたり、魔法についての資料をまとめたり。

 ヴァンパイアは大人しくしてるし、ムスクマロイの栽培は植え替えの時期が悪かったのか失敗したが春になってからまた色々試す予定なので今は原生地の監視のみでいい。すると増えるのは別の仕事、つまり情報収集とその編集で。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからずと言う。俺達の場合「敵を知り」が帝国の偵察、「己を知れ」が魔法魔術研究に当てはまる。

 それ両方俺の仕事じゃねーか馬鹿。帝国の情報纏めてる内にいつの間にか諜報部長になってたしさぁ。役職が増えたふぁっく。

 生活に適度な張り合いがあるのは実に結構な事だが、忙殺されるのは御免だ。家族のためならちったあ頑張るが頑張りすぎるつもりはない。シルフィアにはこれ以上俺の仕事を増やすなと念押ししておいた。

 勿論忙しくなった対価として新しく情報も入った。

 それによると、帝国はマンドラゴラは入手したものの毒の中和法は手に入れ損ねたそうだ。毒の中和法は口伝でしか残されておらず、中和法を知る魔法使いを皆殺しにしてしまったため綺麗さっぱり失伝したとか。ざまぁ。南無。

 えー、それで、仕事が増えるにあたり、秘書というか側近というかそんな役割のゾンビを一人常に俺の傍に置く事にした。

 書類をまとめるためにいちいち魔法で物理干渉していたら文字通りの意味で体が保たない。適当なゾンビを場当たり的に呼んで物理干渉を代行させるより、一人をそういう役に任命して鍛えていった方が断然効率がいい。

 選んだゾンビはロザリーという名の女性だ。肉体年齢は二十歳、ひょろっとした細身長身でそこそこの胸、金髪ショートカット。日溜まりで丸くなった猫みたいに弛んだ顔してる割に頭が回り、そこを買って側近にした。生前は小さな商家の一人娘だったそうだ。

 で、

「ロバさんロバさん、魔法が使えるゾンビ魔法が使えないゾンビって書き分けるのめんどーじゃないですか? というか私がめんどーなんですけど」

「ああ……まあそうだな。別個の名前つけとくか。案あるか?」

「ゾンベ、ゾンボ、ヴァンパイパイ、ヴァンパインとか良さげじゃないでしょーか」

「……俺が考える」

 ロザリーを採用してから間もなくそんなやり取りがあり、不死族の名称を細分化した。




ノーライフ……魔術によって生まれた存在の総称

ゴースト……魔法が使えない霊体

レイス……魔法が使える事以外ゴーストに同じ

ドッペルゲンガー……身体の形状を自在に変えられる事以外ゴーストに同じ

ドッペルレイス……レイスとドッペルゲンガー両方の条件を満たした者

ゾンビ……従来の定義のゾンビの中で魔法が使えない者

リッチ……魔法が使える事以外ゾンビに同じ

スケルトン……そのまま

レッサーヴァンパイア……従来の定義のヴァンパイアの中で魔法が使えない者(密度不足or魔力未覚醒)

ヴァンパイア……魔法が使える事以外レッサーヴァンパイアに同じ




 上記に加えてクリエイト系の魔術が使える様になると頭に「ハイ」がつき、動物だと「アニマル」、植物だと「プラント」がつく。

 つまり俺は人間のゴーストで、魔法が使え、魔術が使え、ドッペルゲンガー技術は他人に化けようとすると福笑いになるレベルに留まっているため「ハイ・レイス」となる。

 そしてこの分類に従って村の人口を分けると、




ハイ・レイス……1

ゾンビ……44

リッチ……6

スケルトン……30

レッサーヴァンパイア……16

ヴァンパイア……4(内二人はシルフィアとエルマー)

アニマルゾンビ……120

アニマルスケルトン……40

人間……130




 となる。

 アニマルヴァンパイアが居ないのは同種食がネックになって町から村への移動の際に皆腐り落ちたためだ。

 アニマル系は村の付近の森の中で自由にさせているから補食されたり魔力が尽きたりしていくらか減っているかも知れない。

 分類統計が終わったあたりで人間にスケルトンの存在を認識させたりもした。それまではスケルトンは単なる不気味な野晒し白骨死体としか認識されていなかったのだ。

 しかしゾンビやヴァンパイアは見た目人間なので違和感なく魔法使いとして受け入れられてきたが、流石に骨だけのスケルトンが魔法使いだと言い張るには無理がある。

 そこでシルフィアは死体だと認めた上で嘘を吐く事にした。

 スケルトンは死してなお同胞を護らんと蘇った、かつて魔法使いであった者だと説明したのだ。スケルトンは村で侵入者撃退に使うつもりだし、まああながち嘘とも言い切れない。

 さらにデモンストレーションとしてスケルトン達に木槍を持たせ整列させ、シルフィアの号令に合わせて行進させた事で、ただの動く骨ではなく理知的な存在なのだと誤認させる事に成功した。それでもまだ薄気味悪そうな目を向ける者は多いが、拒絶感を示す者は見受けられない。

 そんなこんなでちゃくちゃくと案件を処理している内に長い冬は過ぎていった。

 村のあれこれが一段落ついて手が空いたら今日も森のどこかで踊り狂っているであろう木霊を探しに行くのもいいかも知れない。



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