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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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二話 ないせい

 村の掘っ建て小屋の数が両手で数えられなくなり、なんとか人間全員が夜露を凌げるようになった頃、俺はシルフィアに魔法管理長に任命された。

 仕事は魔法研究管理。魔法そのものやそれに付随する技術の流出を防ぎ、また発展させる。これで魔法関係については一任と言うか丸投げされた形になる。

 手に職をつけたのは死んで以来か? ゴーストになってからこっち、ずっとプーさんだったから感慨深い。

 アンデッド連中の管理にはあまり労力が必要ないが、エマーリオが遺した研究資料の編纂やら秘薬薬草の保護やらでなかなか忙しい。

 例のシルフィアとエルマーの愛の巣だとばかり思っていたログハウスは倉庫だったらしく、エマーリオの芸術品や書物の類が劣化しないよう傷まないよう丁寧に大切に保管されていた。

 その中から研究資料を取り出し、選別し、まとめる。資料の余白に書かれた意図が読めない走り書きなどの解読と補足も平行しているから、編纂が終わるまで一年二年じゃ済まないだろう。長いスパンで片付けていきたい。

 秘薬薬草の保護は俺が発見した方の薬草の話だ。木霊の木は食べると死ぬし、王国の薬草には手が出せないが、俺が発見した薬草は無防備ににょきにょきっと生えている。一番使い勝手がいい薬草が一番無防備。イカンよ、実にイカン。

 東の森とその周辺は辺境だが、いつになるかは知らんがいずれ開拓され、秘薬薬草を発見されるのは確実。分かっていて放置するのも阿呆らしいので、とりあえず群生地に魔法が使えるゾンビを一人派遣して見張らせ、また、苗を村に持ってきて栽培を試みている。

 あといつまでも秘薬薬草秘薬薬草呼んでるとややこしくて仕方がないのでムスクマロイと命名した。あと木霊の木もついでにトレントに改名、王国の薬草も「神秘の草」やら「魔法の草」やら、無闇やたらと名称が多く正式名称がないようだったので(あるのかも知れないが俺達は知らない)マンドラゴラと呼ぶ事にした。別に人型でもないし悲鳴も上げないらしいが、有毒だし魔法の草だからいいかなと思った。反省も後悔もしていない。

 で、俺ばかり動いているわけもなく、愛に生きるのだと主張している割にシルフィアとエルマーも普通に働いていた。

 シルフィアは魔法管理以外のほぼ全ての問題処理をしている。

 ゾンビ達が集めた食料の分配、冬に向けた保存食作りとその貯蔵、不平不満の対応、喧嘩の仲裁、制裁、仕事の指示、etc……

 人数が少ないとは言え村を上手く回せているシルフィアを見ていて、こいつは研究者よりも為政者向きだと思った。

 シルフィアはみてくれが異様にいいから第一印象がいい。初対面でシルフィアを嫌える奴はまずいない。

 更にちょっと微笑むだけで特殊な性癖を持つ男以外はコロリと落ちる。一部の女も特殊な性癖に目覚めてコロリと堕ちる。ブラックホールのような吸引力だ。

 熱い視線を向けられていても本人がエルマーの嫁を公言して憚らないから痴情のもつれでブスリも多分ないだろーし、村人がシルフィアに好意的ならそれだけ統治は楽になる。

 美人は何かと得だ。当のシルフィアはエルマーのために肌と髪の手入れやら体重食事睡眠時間管理やら適度な運動やらを徹底しただけであって、エルマー以外の人間に好かれようなんて思っていなかったそうだが。

 そしてそんなシルフィアの愛を一身に受ける果報者、エルマー。エルマーは孤児の出という事もあり平均的な王国民を少し下回る程度の知識知能しか持っていないのでシルフィアを手伝う事はできず、専ら単独で狩りに出かけている。頭使うよりも剣を振る方が性に合っているらしい。

 エルマーは毎日剣を手にふらっと森に入り、獲物を担いで帰ってくる。で、狩りの後はあれこれ指示を出したり陳情を聞いたりするシルフィアの傍でひたすらぼーっとしている。

 一度ぼんやりとシルフィアを目で追っているエルマーに暇じゃないのか? と聞いたら、返った言葉が

「は?」

 だった。真顔だった。シルフィアを見守っているだけで満足らしい。気持ちは分かるが若干キモい。

 魔法管理を俺、統治総合をシルフィア、一匹狼で食料補充をエルマーという役割分担。俺はゾンビ達に食料を集めるように指示を出しているから食料調達係も兼任している形になる。

 ちなみに採取してきた物が食べられるかどうかの判断は俺がしている。以前この森で長いこと暮らして動物を観察していたため、記憶にある動物が食べていた物と照合して食べられる食べ物を見分けられるのだ。データが無く食べられるか分からない物を除外しても順調に越冬のための食料はたまってきている。

 そして食料調達を一手に引き受けるゾンビ達だが、ノーマルな人間には魔法使いだと認識されているようだった。魔力覚醒もしていない人間に魔法も魔術も分かりゃしない。

 不思議な事は全部魔法。魔法使いは神の僕。偉い。凄い。そんなイメージらしい。

 魔法にできる事できない事が分からないため、ゾンビ達が不眠不休で動いていたり、傷から血が出ていなかったり、触れた手の体温がひんやりしていても「そういう魔法なんだ」と納得していた。

 実に都合のいい勘違いなので放置確定。死んで蘇ったなんて知られたらどうなるか分からんから。なぁに、黙ってりゃあ大丈夫だ。何年か経って歳を取らない事に気付いても「そういう魔法」で押し切れる。魔法万歳。












 さて、情報収集は基本的にゾンビのテレパスを利用する事にした。配下のゾンビを派遣し、テレパスで情報を送ってもらう。

 ゾンビ側から俺に送られてくるイメージはぼやけるが、色々試してみた所単純なイメージなら比較的はっきり伝わる事が判明したので、曖昧なイメージの補足にモールス信号を使う事に。ただしトンツーの組み合わせで言葉を表すという事しか覚えていなかったため正規のモールス信号とは違う。そもそも日本語でもアルファベットでもなく王国語変換だから否が応でも正規のものとは違う物になるんだけども。

 こんな面倒な事をせずとも創造者→被支配者のテレパスが鮮明、被支配者→創造者のテレパスが曖昧、という法則が成り立つなら配下のゾンビに更にゾンビを創らせればもっとスマートに行くのだが(※)、配下にクリエイトゾンビができるほど魔力操作に熟達したゾンビがいなかったため検証すらできない。

 クリエイトゾンビは「魔力を放出して対象を包み込み」「対象から魔力が漏れないよう、かつ自分の魔力が混ざらない魔力固定し」「その状態を八~十時間保つ」という手順を踏まねばならず、高度な魔力操作が要求される。もう五年ほど訓練しているシルフィアでさえまだできないのだから、魔力覚醒して一年も経っていないゾンビにできる道理はない。

 しばらくはモールス信号で我慢しておく。致し方なし。

 それでまあ、念の為情報収集をする諜報員には魔法が使えるゾンビを抜擢した。

 魔法があればちょっとやそっとの不都合厄介事はちょちょいと解決できる。情報収集だけとは言え敵国に潜入するのだから予防線は張っておいて損はない。

 俺の配下のゾンビ五十名の内、魔法が使えるゾンビは六人。一人はムスクマロイの群生地を監視していて、一人は村の警備に残しておきたい。従って諜報員は四人だ。

 四人にできるだけバラバラな町に入り辺境に避難していたが戻ってきた難民のフリをするよう命令し、送り出す。人間の思考を保っているから臨機応変に対応して人混みに溶け込めるだろう。出戻り難民という設定も半分ぐらい本当だ。

 そして情報が届きだしたのが送り出して十日後。ゾンビは疲労しないため夜通し走り続ける事ができる。移動にかかる時間は俺よりよっぽど短い。

 情報によると、やっぱり、王国は滅びていた。王国側は残存勢力を王都に集めて抵抗したものの、古来より援軍の見込みがない籠城をすればその先に待つのは敗北のみと相場が決まっている。王国は帝国に包囲され、物量に押し切られて滅亡。どうやら教会もアボンしたらしい。

 諜報員四人が短期間で集めた情報で分かった事はあまりないが、もう一つ愛すべき馬鹿話も知る事ができた。

 帝国がエマーリオを「敵ながら天晴れ!」と賞賛しているらしい。

 馬鹿だろ。懐広すぎるだろ。阿呆だろ。もう大好きだ。

 自軍をメタメタにした敵国の英雄をヨイショするなんてどうかしてる。政治的に見ればド三流だ。勝ったなら思う存分自分達を美化し、正当性を主張し、自国の戦績を誇張するべき。たった一人にいいようになぶられた戦いを喧伝していい事なんざ何一つなく、むしろマイナスにしかならない。

 しかし武人として見れば喝采すべきだろう。単騎であれだけ暴れ華々しく散ったエマーリオは称えられては然るべきだという意見には深く賛同する。

 それを政治レベルでやってしまう所には呆れるが、素晴らしい阿呆だと言わざるを得ない。

 とシルフィアに言ったら阿呆なのは大御祖父様ですと言われた。なぜ。

「お祖父様に対する帝国の対応はおおまかに考えて二通り考えられました」

 シルフィアが指を二本立てる。

「お祖父様との戦いで出た犠牲は少なかったと偽り、大魔法使い恐るるに足りずと喧伝する」

 指を一本折る。

「逆にお祖父様との戦いで出た犠牲をそのまま公表し、それほどの大魔法使いも帝国の前にはひれ伏したと喧伝する。帝国が選んだのはこちらですね」

「……なるほど。しかしどうも帝国は何も考えずに褒めちぎってるようにしか感じられないんだが」

 ゾンビからのイメージからもそんな印象を受けた、と言うと、シルフィアはそうでしょうねとあっさり頷いた。

「武術大会の優勝者が王になる野蛮な国ですし、素直に賞賛しているだけで裏の意図はないのかも知れません。が、裏の意図があってもなくても民衆へ及ぼす効果は同じです」

「それもそうか。まー俺はエマーリオが正当に評価されたならなんでもいい」

「私も同じです。ほんの少し帝国を見直しました」

 どうやら帝国は気持ちのいい国であるらしかった。そう思わせるのが策略なのかも知れんがそれはそれで。 


※解説する必要も無いかも知れませんが一応補足


①創造者がゾンビ(A)を創る。

②ゾンビ(A)がゾンビ(a)を創る。

③創造者とゾンビ(a)は村に残り、ゾンビ(A)が情報収集を行う。

④村→任地は創造者→ゾンビ(A)、任地→村はゾンビ(A)→ゾンビ(a)でテレパスを使えば鮮明なイメージのやり取りができる。


6/21 帝国の記述について修正

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