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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
一章 不死の起源
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二話 赤子、異世界

 死んだ直後にオギャアだったら楽なものを、俺が意識を持ったのは授乳の最中だった。

 母乳吹いたよ。なんせ目の前にでかい乳がドアップだったからな。ドアップってか顔を埋めてた。

 授乳プレイとかマジ勘弁と身を引いて胸をはだけさせた金髪ねーちゃんの顔を拝んでビビり、身を引いたせいで抱えられた腕の中から落ちそうになってビビり、体が小さくなっている事に気付いてビビり、赤ん坊になっている事を自覚してまあいいやと思った。

 赤ん坊が母乳を吸う。これ哺乳類の常識。高校生が乳にむしゃぶりついたら逮捕だけど赤ん坊なら許される。今の状況セーフ。

 乳を押し付けてくる母っぽい金髪さんにイヤイヤと首を振り、もう要らんと意思表示をする。すると金髪さんは胸をしまって歌を歌い始めた。

 多分子守歌。聞いた事無い言葉だったから意味は知らん。歌を聞いてゆっくりと揺らされながら考える。

 なんだろーなこれは。夢かな。にしてはリアル過ぎるな。バーチャルリアリティか? マトリックスみたいな。いやいや赤ん坊でスタートとかねーよ、記憶あるし。すると転生か? 前世の記憶を消去し損ねた転生。

 ……それが一番アタリっぽいな。つーか転生があるって事は魂かそれに準ずる何かが存在したって事だよなぁ。ごめん宗教家の皆さん、今まで人間は電気信号で動いてると思ってたわ。

 子守歌はラテン系っぽいから欧州のどこかだろうか?

 ……あー、なんか眠くなってきた。まだ考えるべき事はあるけど眠い。もうだめだ俺は寝る。











 異常な状況下でも持ち前のマイペースを発揮して転生先に馴染めるかと思ったが、甘かった。ベッタベタに甘かった。

 子守歌で寝て起きたら猛烈な頭痛が襲ってきて悲鳴を上げた。なんだこれどういうことだと原因を考えると益々頭痛が強くなる。悲鳴を聞きつけてばたばた駆け寄る金髪ママンにヘルプヘルプともがくがママンはオロオロするばかり。使えねー! と思ったけども俺も原因が分からん。責めたらいかんな。

 あばばばばばば頭蓋骨割れる砕け散る! 脳味噌飛び散ってない? 大丈夫? この痛みは大丈夫じゃねぇなうわばばばばば!











 正体不明の頭痛はそれから実に二年近くも続きやがった。ぼーっとしていてもズキズキと痛み、何か考えようとすると激痛が走るので思考放棄して流れに身を任せた。お陰で二年間の記憶がほとんど無いが結果オーライだ。なんせ授乳の記憶も排泄物垂れ流しにした記憶も薄ぼんやりとしか無い。

 二年経って頭痛も収まり、俺はどうも知恵熱だったらしい事に思い当たった。

 医学が指す知恵熱は母体から受け継いだ抗体が期限切れになって免疫力が低下し、病への耐性が下がる事が原因の症状だが、俺の場合は読んで字の如くだ。恐らく赤ん坊の未発達な脳内回路が高校生の思考力に耐えられなかったのだと思われる。

 だってさあ、生まれて数日の赤ん坊の思考は「快」「不快」しか無いんだぜ?脳神経もそれ相応だ。そんなスカスカの脳味噌に理知的な情報把握処理をやらせようとしたらそりゃーオーバーヒートするわ。

 んで二年経ってようやく脳味噌がこなれてきてまともな思考が出来るようになった訳だけども、すんげぇ田舎なんだな俺が住んでる地域は。

 電気製品は見た事無いしさ、水道無くて井戸水だしさ、行商人らしい人が馬に乗って来るんだぜ? 中世かっての。

 言葉はまだ覚えていないので詳しい所は分からないが、とりあえず今住んでいるのは牧歌的な山間の村だ。見る家見る家全て木造平屋で、ガラス窓なんて洒落たものは無い。道路は勿論舗装されておらず土むき出し。お隣さんの鶏は毎朝コケコッコークックドゥールドゥーとうるさい。時折間延びしたンモォ~なんて鳴き声が聞こえるから多分牛もいる。

 ド田舎もド田舎。郵便ポストさえ見当たらないし、転生ついでに時間溯行でもしたんじゃないかと思えてくる。ハハハッ!










 ハハハ……











 笑えねぇ。三歳になってようやく言葉を覚え、母に尋ねた所聞いた事も無い国名が飛び出してきた。ビルテファ王国? 何そのちょっと間抜けな響きの国名。地図にも載らない小国とか? え? 大陸一の大国?

 ウェイ、ストップ、落ち着こうぜ。からかって無いよねマイマザー。からかう理由はどこにも無いから大まじめだって分かるけどさ。

 転生に加え異世界なのかこれ。世界史は詳しくないから国名知らないだけで時間逆行なのかも知れないけどさ、服とか家とか見ると中世の手前ぐらいにはなってるはずなんだよ。

 それなのにその名轟くローマ帝国に全く聞き覚えは無いんですって。あらまあ奥さん、こいつぁマジだ。

 平行世界か全くの異世界か知らんが前世の世界とかけ離れた世界である事は間違い無いっぽい。

参ったな……いつか金貯めて日本へ行こうと思ってたんだけどな……完璧に無理だ。

 ま、無理なら無理でいいか。

 異世界ならそれはそれでアリだ。幸い家は村の長みたいな役割を果たしてる家柄らしいし、余程の大飢饉でもない限り冬も餓えない程度の収穫を確保できている。

 食う寝るに困らず地位も普通以上。五体満足で両親健在。充分だろ。現代科学に埋もれて過ごした感性で見れば不便な世界だが、頭痛に苦しんで過ごした三年間で培った感性で見れば新鮮味に満ち溢れた世界だ。

 第二の人生も無理せずグダグダにならない程度に頑張ってほどほどに生きよう。現代知識を活かせば驚異的な立身出世も可能な気がするけどそんな面倒な事はしない。地位も名誉もくれたら貰うけど、進んで欲しいとは思わない。その程度の物のために馬車馬の様に働くのは嫌なのさ。

 どんな環境だろうと本人が幸せだと思えば幸せだ。そして俺は寒村の村長(予定)で満足できるチンケな男なのだよ。

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