七話 簡単に魔王倒す方法思いついたwww
1:名無しの魔王:237/03/19(日) 08:55:32 ID:999e6BH72
残念! ID腹筋でした!
執務室から中庭に急行した精霊使い達が見たのは、地面を抉る直径数メートルのクレーターと、それを中心に散乱する肉片だった。未だ血を滴らせる千切れた腕もあれば、蛇のようにとぐろを巻いた腸もあり。胴で真っ二つになった死体、元が何かも分からないピンク色の臓物、骨が飛び出た足。
濃密な血の臭いと凄惨な光景にアテられて、何人かの精霊使いが青い顔で口を押さえた。
既に攻撃の後だった。しかしクレーターから離れた場所に倒れている数人が呻き声を上げている。まだ生きている。
「救助を!」
「待て」
生存者に駆け寄ろうとした若い精霊使いを別の精霊使いが制した。若い精霊使いは反抗的な顔で振り返ったが、はっと気づいて踏みとどまる。
生存者の中に犯人が紛れ込んでいる可能性は大いにある。救助も重要だが、迂闊に近づいて更に犠牲者を増やす訳にはいかない。
精霊使い達は顔を見合わせた。敵かどうか見分けるには精霊魔法を唱えさせるのが一番確実だ。アンデッドならば精霊が見分けられるが、死霊教徒だったら精霊には分からない。
しかし見回しただけでも半狂乱で泣き叫んでいる者、赤い泡をふいて痙攣している者、真っ赤に染まった腹を押さえて声もなく震えている者など、喋る事すら難しい者が多すぎる。敵味方の判別は難しい。かといって用心してこのまま遠巻きにしていれば重傷者の命が危ない。何の罪も無い人間を見捨てるのは人道に反する。
「……防御魔法を展開しながら救助。ゼルクラッド、リジット、アリシアは距離を取って警戒」
数秒の躊躇の後、大司教は指示を下した。精霊使い達はそれぞれ思うところはあれど指示通りに動き出す。
「大丈夫か? 安心しろ、助けにきたぞ。喋れるか?」
「うぅううううぅ……」
「駄目か。出血が酷いな……『清らかなる水よ。癒しの精霊ウンディーネよ。体を巡り、不浄を清めよ。生命は再び――――』」
「ちょっと君大丈夫、じゃないね、どう見ても。申し訳ないけど私は水スペル使えないから、もうちょっと我慢できる?」
「む、無理だ、死ぬ……」
「こういう時は『死ぬ』じゃなくて『生きたい』って言った方がいいよ。ほら頑張れ、水属性使いの手が空くまで止血だけしとこうか」
「うあぁぁあああぁあ!」
「落ち着きなさい、傷に障る。深呼吸をして……」
「俺の、俺の娘が! さっきまで手を繋いでいたのに! いきなり爆発して、血が、赤い血が、どうしてこんな……! あ"あ"あ"ぁ…」
Lv3の水属性使いの数は多くない。他の精霊使い達は負傷者の応急処置をしたり、落ち着かせたりしている。
ゼルクラッドは負傷者の一挙一動に目を光らせるが、怪しい行動をしている者は誰もいない。犯人は既にどさくさに紛れて逃走したのだろうか。それとも巧妙に擬態して負傷者に紛れ込んでいるのか。
やがて一通りの治療が終わった。酷く錯乱している者には睡眠薬を飲ませて眠らせ、そうでない者には呪文を唱えさせようとしたのだが。
「え、なんで呪文なんて?」
「……念のためだ。唱えるだけでいい」
「念のため? え? ……あれ? ……あ!? 疑ってるんですか!? 私を!?」
「い、いや、そういうわけでは」
「すみません呪文覚えてないんですけど。なんでしたっけ、えーと、『水、水ヨ』? だめだ思い出せな……あれ、な、なんでそんな怖い顔してるんですか」
「いや、酷い光景だったからな。顔が強張っただけだ」
「でも前にアンデッドと戦って帰ってきた時は平然としてたじゃないですか。俺何かしました?」
「それは話をそらそうとしているのか? いいから呪文を唱えてみろ」
「話をそらすって……なんか変ですよ、どうしたんですか」
悲惨な事態に巻き込まれ神経を尖らせている彼らは、自らに向けられる精霊使いの警戒を敏感に感じ取った。精霊使いもあり得ないと思っていた獅子身中の虫への猜疑心を隠せていない。
もちろん、言われるがまま訳も分からず呪文を唱え、無実を証明した者もいた。素直に犯人かどうか疑われていると言われて納得し、呪文を唱えた者もいた。
だが厄介な事に、中には自分が疑われていると知って興奮しだす者もいた。
無理もない。何事も無い朝を過ごしていたら、突然中庭に集まれと言われ。何故か物々しい警備を敷かれ不安を抱えながら身を寄せ合っていたら、一瞬にして死と血に溢れる惨劇に叩き落とされた。狂乱の中精霊使いが駆け付け、治療を受けて安心したと思ったら、今度はその精霊使いから疑われる。
訳が分からないだろう。普通は混乱するし、精神に異常を起こしても何の不思議もない。一般人が冷静に対処するには難しい。
だからこそ、興奮して呪文を唱える事を拒否して喚き散らしている者達が本当に混乱しているのか、混乱しているフリをして逃げようとしている魔王の配下なのか、判断できなかった。
興奮状態になった数人に、精霊使いはどうすればいいものかと困惑している。精霊使いは専ら警備や戦闘、事務を仕事としていて、精神科医ではない。錯乱している人間を落ち着かせる方法といえば殴って気絶させるぐらいだ。あるいは睡眠薬を嗅がせるか。
しかしゼルクラッドは違う。前世、警察として仕事をしていた時、薬物中毒の犯罪者を何度か取り押さえた事がある。精神を病んだ犯罪者と交渉した事もあるし、逆にそういった「フリ」をした犯罪者を見た経験もある。
ゼルクラッドの目が微妙な違和感を捉えた。中庭の中でも最も精霊殿の出口、門に近い位置で喚いている中年の女性。金髪碧眼、細身で、取り立てて特徴もない。パンナという名の料理人だ。パンナは髪を振り乱して精霊使いに怒鳴り散らしているが、さり気なく、気のせいかとも思える目の動きでチラチラと周囲の様子を伺っていた。
本当に錯乱している者がそんな事をするだろうか? 普通なら目の前の相手しか見えなくなるはずだ。錯乱しているからこそ疑心暗鬼に陥って襲われるのを警戒しているともとれるが、それにしては巧妙に隠している。
ゼルクラッドは迷わなかった。パンナの死角になる位置で腰の投擲ナイフを抜く。それを最低限のモーションでパンナに向けて投げる。狙いはパンナの首の横十センチ。パンナとゼルクラッドの距離は十メートルほど離れていたが、この程度ならば誤差五センチで命中させる事ができる。
パンナの怪しい動きがゼルクラッドの深読みなら、パンナは何も反応しないし、できないだろう。錯乱中の一般人がナイフの奇襲に反応できる方がおかしい。
だが、敵陣に潜入して作戦を遂行する手練れなら、必ず何か反応する。
ゼルクラッドは祈った。それが反応して欲しい(早く犯人を特定したい)という祈りなのか、して欲しくないという祈りなのかは自分でも分からなかったが。
そして空気を裂いて飛んだナイフは、パンナの首スレスレに近づき……
見えない壁に、弾かれた。
一瞬、時が止まったようにその場にいた全員が静止した。障壁に弾かれたナイフが、軌跡を変えてくるくると回りながらあさっての方向に飛んでいく。
一拍置いてゼルクラッドが叫んだ。
「見つけたぞ!」
その言葉が終わるか終らないかの時点でパンナが豹変した。怒りを浮かべていた顔から表情が抜け落ち、くるりと振り返って門に向って駆け出す。同時にパンナの周囲に前触れも無く生まれた無数の火球が、尾を引いて一番近くにいた精霊使いに襲い掛かった。
「ぐっ!?」
火球は精霊使いが張っていた風の防壁に連続して着弾し、吹き飛ばした。防壁のおかげで死にはしなかったが、火に包まれて地面に転がる精霊使いに水属性使いが慌てて駆け寄り、詠唱を始める。
他の精霊使い達も一斉に動いた。牽制の投げナイフが、火球が、氷槍が、雨あられとパンナに降り注ぐ。
しかしどれも不可視の障壁に弾かれ、届かない。パンナの足は驚くほど速く、みるみる門に近づいていく。門の近くで外側へ向けて防御魔法を展開していた精霊使いが何事かと振り向き、直後に頭が吹き飛んだ。
「リッチか!?」
「攻撃が効かん!」
「なら足を止めろ!」
土属性の呪文でパンナの足元に穴が空いた。が、パンナは空中を蹴って穴の向こう側へ着地し、速度を緩めず走る。もう門まで十歩もない。風の刃や土の砲弾の集中砲火も意に介さず駆けていく。
また周囲に火球を浮かべ背後に乱打したパンナはそのまま門の外に走り抜けようとして……突然目の前に現れたゼルクラッドと正面衝突した。風属性Lv3スペル、テレポートだ。
絡み合って地面を転がったゼルクラッドは、驚いて固まっているパンナを押さえて素早く手足の関節を外した。一瞬の早業である。そして巴投げで放り投げ、獣のように跳んで距離を取る。投げられたパンナは空中で一瞬白い炎に包まれた。熱波がゼルクラッドの位置まで届き、ぶわっと噴き出した冷や汗が一瞬で乾く。
自身を障壁で護りながら自分を炎で包めば、焼けるのは組み付いてたゼルクラッドだけ。投げるのが一秒遅ければ高温の炎に焼かれて死んでいた。
「関節を外した! 包囲!」
鎮火して地面に落ちたパンナに精霊使い達が追い付いて取り囲んだ。パンナは数度立ち上がろうともがいたが、両手両足の関節を外されていると気付くと動かなくなった。
包囲網が完成し、精霊使い達の荒い息遣いが場を包む。パンナは魔法も使わず、逃げようとする素振りも見せず、指一本動かない。
そのまま数分が経過し、緊張が困惑に変わり始める。
「死んだ、のかね?」
「いえ、関節を外しただけですが……」
大司教の疑問にゼルクラッドが答えた。フム、と一つ頷いた大司教は防御呪文を唱え直し、慎重な足取りで倒れ伏すパンナに近づいていく。リジットとゼルクラッドがそれに追従した。
大司教が足の先でパンナを転がすと、パンナは無機質な瞳で三人を見た。数秒見つめ合っていると、パンナが瞬きをした。生きている。
「逃げるのはやめたのか?」
「…………」
「答えるわけもない、か。まあいい。『暗く狭い棺の中で、身じろぎもせず彼の者は眠る。目覚めた後も封は解かれず、永遠の拘束にただ嘆くのみ。アースバインド』」
リジットが呪文を唱えると、地面から盛り上がった土がパンナの手足に枷をかけ、硬化した。パンナは手足にかかった枷をちらりと見たが、沈黙したまま動かない。
運よく捕獲に成功はしたものの、処分に困った。通常アンデッドは見つけ次第殺すものだが、パンナは特殊な例だ。できる事なら情報を引き出したい。
が、アンデッド、あるいは死霊教徒は決して口を割らない事で有名だ。捕縛されたら即座に自殺するし、これまで何度か自殺できない状態で拘束して拷問が行われた事もあったが、呪いの言葉を吐くか沈黙するかで何一つ有益な情報は漏らさなかった。
大司教は念のためにその場を離れ、ゼルクラッドを含めた何人かにパンナから情報収集するように命じた。
言葉を喋らなくとも解剖ならばできる。物理的に解剖しても魔法的な情報は得られないが、やらないよりはマシだ。
下手に動かすと何があるか分からないので、その場で情報収集が始まる。最早全員パンナを人間だと思っていないため、容赦なく服を剥ぎ取り、昆虫標本を弄るように検分を始める。
「なぜ魔法を使わないんだ?」
手首をナイフで切って出血を確かめるリジットの呟きにゼルクラッドが答えた。
「恐らく魔力切れでしょう」
「魔力切れ?」
「死霊魔法は古代魔法の一種です。精霊魔法と違い自身が持つ魔力を消費するので、魔力を使い切ると魔法を使えなくなります」
「ほう。ならばもう魔法は使えないのか」
「恐らく。しかし魔力は時間経過で回復しますし、魔力切れのフリをしているのかもしれません。警戒は続けて下さい」
「了解した。どの程度時間が経つと魔法が使えるようになる?」
「そこまでは分かりませんが、約二十四時間で全快するようです」
「では一時間で済ませよう」
数人がかりの検分は淡々と進む。
「服は全て一般的に市販されているものです」
「この黒い指輪は?」
「見かけないな。どことなく精霊の指輪に似ているが」
「体温はありますね」
「死霊教徒か」
「いえ――――脈がありません」
「何?」
「体温はありますが、心臓が動いていません」
「瞳孔は拡大しています」
「アンデッド、なのか? これが?」
「精霊は感知していないぞ?」
「動脈を数ヶ所切ってみましたが、出血はありません。死んでいます」
「……アンデッドだ。間違いなく」
検分していた精霊使いの全員の動きが止まった。戦慄の目がパンナに集まる。パンナは不気味な沈黙を続けていたが、口の端が僅かに吊り上がり冒涜的な笑みを作った。
パンナは体温はあるが間違いなく死んでいる。死んでいるのに、動いている。つまりアンデッドだ。
アンデッドならば精霊が感知するはずなのに、反応は無かった。
愕然とした。ゼルクラッドの中で形成されていた精霊への信頼感がガラガラと崩壊する。今も目の前にあからさまにアンデッドがいるにも関わらず、精霊は知らんふりをしている。異常事態だ。パンナの前にも精霊はアンデッドを見逃していたのかも知れない。不倶戴天の敵であるはずのアンデッドを、精霊は見逃している。
これが何を意味するか。ゼルクラッドが導き出したのは絶望的な結論だ。
精霊はアンデッドと―――――
――――人間を区別できない場合があるのだ。
精霊のアンデッド感知能力への信頼は完全に壊れた。
精霊はアンデッドと人間を区別できる、という人類の砦の一つが崩落したのだ。いや、とっくの昔に砦は崩されていて、今気付いただけなのかも知れない。どちらにせよこれで人類はかなり不利になる。
なにしろアンデッドが人ごみに紛れ込んでいても判別できない。心臓は動いていないようなので分からない事もないが、体温もあるため、触っただけでは分からない。まさか道行く人を片端から捕まえて脈をとるわけにもいかないだろう。
アンデッドは進化する。魔王復活当初よりもアンデッドの種類は増えている。体温があるアンデッドが現れたなら、いずれ心臓の鼓動を偽装したアンデッドが出てきても不思議はない。そうなればもう手の打ちようがない。かつて魔王に滅ぼされた古代文明もそうして沈んだのだろうか。
忌々しい事実だった。ゼルクラッドによって精霊・人間勢力は勢いを増したが、魔王勢力もまた力をつけていたのだ。
「皆落ち着け。冷静に、できる事から片付けよう。まずは……こいつにとどめを刺す。検分は一通り終わった。これ以上魔力を回復する時間を与える事はできない。アリシア」
リジットが震える声で言うと、アリシアが戸惑いながら立ち上がり、剣を抜いた。
「まさかこんな事になるなんて……」
「呪われろ。全て、ひとり残らず。苦しみぬいて絶望しながら無様に死ね」
「!」
パンナがそこで始めて表情を変え、底冷えするような声で言った。言葉とは裏腹に、まるで聖人のような、曇りのない綺麗な笑顔だった。それがかえって恐ろしい。剣を構えたアリシアの顔が引きつる。
「耳を貸すな。やれ」
「は、はい」
剣は無慈悲に振り下ろされ、パンナの首を落とした。
だが気付かない。ヒントが出ても正答にたどり着くとは限らないよね(ゲス顔)
ところで先日大変な事に気付いてしまった。以下読み飛ばし可。
計算してみたら、同体積の時、マナを分解して得られるdm量より、魔質を物質に戻した(魔力的に還元した)時に放出するdm量の方が圧倒的に多かった。軽く一億倍は違う。アイエエ……テストに出ないよお……
マナは「圧縮→二倍の量のdm’にする→質量変換でdmになる→圧縮してマナ結晶にする」のループでdmを増やせるメリットがあるから、マナをエネルギーソースにするのは間違ってると断言できるわけじゃないんだけど、流石に一億倍も違ったら(一億倍はかなり大雑把に見積もった最低値。魔質次第では百億倍かそれ以上)、長期間補給無しで稼働する魔道具でもない限り絶対魔質還元の方が優れてる。チオチモリンを使って粒子状に分解しておけばアムリタで還元する時に表面だけ還元されて中は魔質のまま、なんて事にもならないし。
強いてマナ使用のメリットを上げるなら純粋なdmの塊であるが故に使用後の廃棄物が出ない事か。魔質は還元すると物質が残る。
まあ今更変えるのも面倒なので、このままでいきます。