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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
一章 不死の起源
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一話 死亡、転生

 何の事は無い、どこにでもある様な人生だった。

 母が新興宗教にはまって両親が離婚するハメになったりトラックに撥ねられて手術を受けたりしたが、経済的には終止困る事は無かったし、友人もそれなりにいて成績も平均以上は常に取っていた。家庭内暴力も無い。

 少々変わった経験を積んだ俺は高校に入る頃にはある程度達観した考えを持っていた。

 紛争地帯ではなくこれでもかと言うほど平和で豊かな日本に生まれた時点でかなりのアタリクジを引いたのだ。交通事故で手術も両親の離婚も珍しく無い出来事だ。むしろ五体満足で大学まで進める環境にある事を感謝すべき。

 ……とは言ってもガリガリ勉学に打ち込んだり白球を追いかけて青春をスポーツに費やしたりはせず、ほどほどに勉強してほどほどに遊び、それなりの大学を目指し、模試でB判定を貰って満足していた。

 元来苦境を苦境と感じない気性だったのだろうと思う。手術も両親の離婚も人生に影を落とす事は無く、マイペースにマイペースに生きていた。

 特徴が無いと言われるほど没個性的でも無い。クラスを引っ張っていくほどリーダーシップを発揮してもいない。

 クラスメイトに俺の印象を聞けば「現国が強い」とか「身体力測定の幅跳びで超跳んでた」とか「カラオケでよく音程を外す」とかそんな評価を頂けるだろう。

 日本人高校生平均と比べてちょっと人生思索を多くしてきた、しかし自慢できるほど輝くものも無い平凡な学生。それが俺だった。









 それが俺「だった」。









 大学入試の三日前にトラックに撥ねられ、俺は病院に担ぎ込まれた。

 幸い大事は無く両手の骨折のみという事で、トラックの若い運ちゃんの平謝りを俺と父は許した。勿論賠償金は相応の金額を頂いたが。

 災難だったなぁと見舞いに来る友人に人生二度もトラックに撥ねられるなんて俺はトラックに好かれてるんだなと冗談を言う余裕すらあった。入試は来年に持ち越しだと安堵すればいいのやら悔しがればいいのやら分からない気分になる。

 しかし入院二日目の深夜に急転直下、首にかかる吐息に目を覚ますと俺の上に髪を振り乱した女がのしかかっていた。

 えっ、ナースの夜這い? それなんてエロゲ?

「あんたのせいで……あんたのせいで俊也は会社クビになったのよ!どうしてくれんの!?」

 あ、違った。包丁持って目を血走らせるナースなんて居ねえわ。

 俺は自分でも驚くほど冷静にナースコールを押そうとした。トラックの運ちゃんの彼女か妻か妹かそんな感じらしいがどう贔屓目に考えても正気じゃない。が、手はギプスでがっちり固定され上手く動かない。そろそろナースコールに手を伸ばすと女の目がギョロンと動き、包丁の柄で俺の手をもろにぶっ叩いた。手術して間もない骨が悲鳴を上げる。当然俺の口からも悲鳴が出る。痛いなんてもんじゃない。腕が爆発したかと思った。

 結果的に絶叫がナースコールの代わりになったのかにわかに病室の外が騒がしくなった。女は忌々しそうに舌打ちをする。

 九死に一生だと激烈な痛みに涙を流しながら耐えていると、俺の頭上で包丁を振りかぶっている女の姿が目に入ってしまった。どうやら一生すら許してくれないらしい。

「お、お姉さん、おお落ち着、いでぇ! あだだだだぁあ゛!」

「あんたにお姉さんなんて呼ばれる筋合いは無いわよぉおおお!」

「ちょ、ま」

 ザクッと。

 首に包丁が付きたてられ。

 そんな馬鹿な話があるかと考えて。

 走馬灯を見る隙さえ無く再び振り上げられる包丁の切っ先が俺の人生に引導を渡した。










 まあ、結論から言えばぶっちゃけ転生した。それも明らかに日本では無い寒村に。

 輪廻転生はさっぱり信じて無かったんだけどなぁ。なんせ母がどっぷり浸かったオカルト宗教が死後の人生が~、魂を清らかに~、手から高次元の波動が~、なーんて事を言っちゃってたもんだからそれこそ輪廻転生(笑)だったんだけどさ俺にとっては。転生したもんは仕方無い。

 もしかしたら俺が転生したと錯覚しているだけで今の肉体の持ち主が日本人高校生の十八年分の夢を見ていただけかも知れないし、あるいは生まれた直後の赤ん坊に憑依しただけかも知れん。

 そのあたりはっきりしないけども我思う、故に我ありって言うしね、転生で片付けておこうと思うよ俺は。

 ……さて、現実逃避はやめて授乳に戻ろうか。

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[良い点] 初っ端から面白いですww [一言] これからよろしくお願いします
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