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ここだけの話だけど・・・と愚痴ったら、婚約者候補から外れた件

作者: ひとみん

誤字脱字報告、ありがとうございました!!

◆**◆**ルミエール**◆**◆


色とりどりの花が咲き乱れる王宮の庭園は、見事なまでに美しい。


その美しい庭を眺めながら、知り合ったばかりの庭師のおじさんとたわいない話をしていた私。


先程までギスギスした空気で膨れ上がった部屋に居た所為か、余計に外の空気が美味しく感じる。

解放感の所為なのか、上から目線で嫌みを言われたストレスからなのか、ついつい庭師のおじさんに愚痴をこぼしてしまった。


「聞いてくださいよ!あの部屋にいた公爵令嬢!たしか・・・タッセル公爵令嬢だったかな?超臭いの!!香水一瓶被ってきたんじゃない??ってくらいに!周りの人達は平気な顔してるから私だけ?と思ったんだけど、ランナー伯爵令嬢だったかな?も、陰で鼻つまんでたから、私だけじゃなかったんだって。ホッとしちゃった!あっ、ここだけの話だからね!」


公爵令嬢は一応、私より爵位は上だからね、この話聞かれたらヤバいでしょ。まぁ、現実的には全く怖くないけど。


でもさ、貴族令嬢が十人も集まれば・・・そりゃぁ、香水臭くなるよね・・・

本日この王宮に集められた令嬢達は、王太子妃候補に選ばれた人達。なんでか、田舎者の私も入ってるのよ。



私、ルミエール・オブライトはオブライト辺境伯の娘。

我がフロース国とアウル帝国との国境に位置する領地で、最前線で国境を守っている。

めったに自領から出る事がなくて、私にとっては初めての王都。まぁ、正直なとこ王都に興味ないんだよね。

というのも、遠いからね!そうそう来れないわ。まぁ、自国の王都より、隣のアウル帝国の帝都の方が近いし。

ぶっちゃけ自国の貴族よりも、お隣の領でもあり私の姉が嫁いだガルシア辺境伯領の人達とか、アウル帝国と仲良くしてて、別段この国でのマウントの取り合いとかには興味がないのよ。


「取り敢えず、王命での招集だから一応(・・)は行かないといけないけど、王都観光だと思って気楽にね」

と母に言われて、仕方なく来たけど・・・あの令嬢達とは、ことごとく合わなかったわ。無理。

主役の王太子も、うちの領の男どもに比べたらひょろひょろで、無理。

金髪碧眼だけど、容姿は普通・・・まぁ、私に言わせりゃ、没個性。王族オーラなし!

顔は普通でも王太子だからね。令嬢達にちやほやされて、ご満悦だったわ。


「大体、王太子の嫁選びに何で私が呼ばれてるのかな?うちの父なんて、めちゃくちゃ怒ってたのよね。絶対、王都には行かせないって騒いでたんだけど、母が選ばれる事は絶対ないから、王都観光しといでって、送り出してくれたから来れたのよ。私的には正直、来たくなかったんだけど」


だって、私の愛馬の出産が近かったんだもの。生まれた仔馬は隣の領に嫁いだ姉の子供に譲る約束をしていたから、出産を見届けたかったわ!


「それにさ、集められた令嬢達って流行に遅れてるよね。私のドレスを貶したのよ?これは、アウル帝国で超流行っているドレスなのに。田舎者にちょうどいいわね、だって。この国にはまだ入ってきていない最先端よ?田舎者はどっちなのかしらね。このドレスが流行った時のあいつらの顔が見ものだわ」


私のドレスは帝国のさる高貴な方からの贈り物なのだ。ある意味、外交問題に発展しそうだよね。


私がそう呟くと、庭師のおじさんは顔面蒼白に。

そんなおじさんに「大丈夫、言わないから」と笑えば、あからさまにホッとしたようだった。


「ところで、お母上様は何故、ご令嬢が選ばれないと?」

ずっと相槌しか打っていなかったおじさんが、母の言葉が気になったみたいで質問してきた。

「あれ?おじさんは知らないの?結構有名な話だと思うんだけど」

「有名?」

おじさん、王城の庭師歴が長いなら、知っていると思うんだけど・・・

「実はね・・・」と、私は声を潜めた。

「それこそ、本当にここだけの話なんだけど・・・偉い人の耳に入ったら、おじさんもこれかもよ」

そう言って、私は自分の首の前ですっと手を水平に振った。

「そ、そんな大変な話なのかい?」

「いや、別に。ただ、私の言葉が不敬になるからよ。だから、一緒にいるおじさんも見つかったら連座される可能性があるってだけ」

「・・・・・・・」

「まぁ、多分大丈夫!」安心させるように笑えば、胡乱な目を向けてくるおじさん。

「王家はさ、うちらに貶されても仕方のない事をしたんだから、うちらオブライトには何を言われても何もできないって。というか、物理的にもできないと思うし」

おじさんを安心させようと思ったんだけど、またも顔色を悪くしてる。何でかしらね。

不敬で罰せられると思ってるみたいだから、内緒話するくらいに声を潜めた。


「実はね、うちの母はこの国の現国王の元婚約者なのよ」

おじさんはギョッとしたように目を剥いた。

「うちの母は公爵令嬢でね、王様が王太子の時の婚約者だったの。でもね、王太子が浮気して婚約破棄になったの」

あっけらかんと告白する私に、おじさんは目ん玉が飛び出るのではって位、目を見開いている。

「でね、その浮気者が選んだ女ってのが、計算高い顔だけ馬鹿女だったらしいのよね」

「・・・・・それって、現王妃?」

「そう。なんでも真実の愛だとか?笑っちゃうよね~。学生時代から高位貴族の男にすり寄ってたらしいのよ。その中でも王族がまぁ、頂点じゃん?見事に落としちゃったってわけ」

多分、王太子が廃嫡になっていたら、捨てられてただろうね。身分に救われた感じ?

「常識的に考えて、婚約者のいる人間に色目使う事自体、ないわぁ。当時から、色んな男と肉体関係持っていた事が有名で、阿婆擦れって言われてたみたい。王太子の耳には入ってなかったみたいだけど」

現国王夫妻の息子だって、正直なところ国王の血が流れてるかも怪しいらしいし。なんたって彼、国王に全く似てなくて、王妃似だから。

「阿婆擦れに落ちたもんだから、失笑されてたみたいよ。しかも、王妃教育、未だに終わってないのに王妃だなんて・・・ウケるよね!」

周りには交際を反対されてたみたいだけど、それって二人にとっては気持ちを燃え上がらせる燃料にしかならないし。


そんな馬鹿王太子と、うちの母が結婚しなくて、本当に良かったよ。


そう、うちの母は現国王が王太子時代の婚約者だった。

学生時代に平民生まれの伯爵庶子令嬢にコロッと騙された王太子は、優秀だった母を妬んでいて公衆の面前で婚約破棄して恥をかかせようとしたのだ。

でもね、実際恥をかいたのは王太子。婚約破棄を言い渡した瞬間に、母には周りの令息達からの求婚が殺到したのだから。

母が手を取ったのは、当時オブライト次期辺境伯だった父。

実は母の領地と父の領地はお隣同士で、幼馴染だったの。お互い淡い恋心を抱いてはいたけど、王命には逆らえずそれぞれの道を歩もうとしていた時に、降って湧いた僥倖。

父も婚約破棄の場に居て、すぐに母を攫うように連れ去って、即行で結婚したのよ。

だって、下手すれば頭の悪い王妃の代わりに、仕事をさせられそうだったから。それも側室として。

「ふざけてるよね。真実の愛だとか何だとか騒いで婚約破棄した令嬢をさ、側室として縛り付けて仕事だけさせようとしたんだからさ。飼い殺しだよ?自分は頭の悪い女と乳繰り合う為にさ。だったら、補佐として誰か雇えばいいじゃん。誰もやりたくないだろうけど。しかも、側室にして本当に手を出すつもりだったって言うから・・・下衆の極みだよね」


あー気持ちワル!と同意を求める様におじさんを見れば、さっき以上に顔面蒼白に。真っ白になってた。

あぁ・・・不敬罪を恐れてるのね。

「おじさん、大丈夫?不敬罪になんてならないから大丈夫よ」

こんな王城の中で、堂々と国王夫妻をこき下ろしてるんだもんね。ビビっちゃうよね。

「まぁ、母の事で因縁があるから、私が王家に入る事は無いんだよ」

「・・・・そうなのかい?ご令嬢が王家に嫁いで双方の遺恨を水に流して・・・・」

「おじさん、私の話聞いてた?」

なに、都合の良い事を・・・と、キッとおじさんを睨む。

「母が王太子の婚約者に選ばれたのは、王太子が国王になる為の修養についていけなかったからなんだよ。できない事を補わせるための婚約。まず、それを王太子本人が自覚ない事自体が罪。やってもらって当然と思っていた事も罪。しかも婚約破棄するために冤罪のてんこ盛り。誰がそんな害悪としか言いようがない奴等がいるとこに娘を嫁がせる?」

いくら王命でも、無理!

「そんな人間が国王だなんて、みんな事実を知ってるのに、よく恥ずかしげもなく顔出してるよね。前国王夫妻に子供が一人しかいなかったとはいえ、無能に無能を足しちゃったんだから。黙って、王太子を廃嫡にして現王叔父殿下、当時の王弟殿下に王位を譲ればよかったのよ。結局、前も今も政務を執っているのは宰相となった王叔父殿下なんでしょ?特に今の国王夫妻なんてお飾りじゃん。何かあった時に責任取らせるためだけに生かされてるんじゃん」(現王から見て叔父なので王太子時代の王弟は現在王叔父になっている)


息子可愛さもわかるけど、一国の王様だよ?正直なとこ、お飾りに血税を使ってるなんて腹立つよね。

国王は何か自覚あるらしくて宰相に従順らしいけど、王妃は何にも気付いてないらしく我儘三昧。なんか勘違いしたままらしいわね。


「それにまだ正式に発表されてないけど、私、アウル帝国の第二皇子と婚約が内定してるんだよね」

「えっ!?」

今日一番の元気な返事のおじさん。まぁ、驚くよね。

「第二皇子のアリオスとは幼馴染でね、うちの領の隣の帝国領、サンフィールド領の領主になるの。その正式発表と一緒に私の婚約を発表する予定だったんだけど」

正式にこっちの王家に書状を送ってないのよ。横槍入れられたらいやだからって事後報告するつもりだったんだけど・・・・タイミングが悪く、招集されたってわけ。


「まぁ、ぶっちゃけ、母に酷い事をした王家に誰が嫁ぐかって話よね。常識的に考えても、生理的に考えても、無理。それを打診してくる人間性というか、厚顔さに呆れるし嫌悪しかないし。まぁ、王家としては、自分達が犯した醜態を水に流してうちの領と蜜月したいんだろうけど、流せるわけないじゃん」


よく宰相が許したわよね。と漏らせば、おじさんの顔が強張る。

相変わらずおじさんの顔色はすこぶる悪い。ごめんねぇ。私って口が悪いからさ、不敬で捕まるかもって。怖いんだろうね。

でもさ、敬う価値もない人間に、従う事はできないよね。特にうちら辺境伯領は仕事に命張ってるからさ。人間性は大事。信頼できないモノには命かけれないって。


アウル帝国、我がオブライト領、そしてお隣のガルシア領がちょうど接するところに、異民族が住み着いているの。それは何百年も前からの話。

当時から帝国領内だったから、色んな取り決めをして友好的に付き合っていたんだけど、近年暴力的になってきたの。

数代前の首長が「ここは我々の国だ!」と訳の分からない主張をし始め、最近ますます攻撃的なんだよね。

彼等との攻防は時には怪我人を出す事もあり、彼等を制圧する方向で両辺境伯と帝国で話がついていた。

特に新領主となるアリオスは、自分の領内にある異物を排除し、安寧を取り戻し私を迎えてくれようとしているのよ。


この異民族問題は、アウル帝国は勿論だけど、うちの領とガルシア領もものすごく迷惑を被ってる。

「だけど王家からの予算はビビたるもの。王都に住んでたらこっちの現状なんてわかんないもんね」

いっそのこと、あいつらを王都に解き放てば少しはうちらの大変さわかるかしらね。冗談のつもりで言ったのに、おじさん胸に手を当ててうずくまっちゃったわ。


なんだか一気に老けた感があるおじさん。これ以上私の愚痴に付き合わせちゃったら、おじさん倒れちゃいそうだから話を切り上げて、私は宛てがわれた部屋に戻る事にした。

でも最後に一応、念を押しておく。


「おじさん、ここだけの話にしておいてね」と。




*‥*‥フロース国王‥*‥*



今日は我が息子、フロース国王太子の妃候補との顔合わせの日。


自分は失敗してしまった、妃選び・・・・・息子には自分の二の舞にならない様にと思っているのだが。

気になって気になって、国宝である聖物『変化(へんげ)の指輪』を使い、顔合わせの為の部屋が良く見える庭で庭師の振りをしつつ見守っていた。


王太子妃の最有力候補は、オブライト辺境伯の娘ルミエール嬢。

宰相である叔父上には大反対されたが、自分がごり押しして通した。正直な所、来てくれるか不安だったが、無事王都に入ったと聞いてホッとした。

そう、ほっとしたのに何故彼女が庭にいるのか・・・・

彼女、ルミエール嬢は部屋を抜けだし、大きな溜め息をついた後、深く深く深呼吸をしていた。

そして私を見つけると、嬉しそうに声をかけてきたのだ。


それが私にとって、地獄の始まりだと知る由もなく。


「聞いてくださいよ!あの部屋にいた公爵令嬢!たしか・・・タッセル公爵令嬢だったかな?超臭いの!!香水一瓶被ってきたんじゃない??ってくらいに!周りの人達は平気な顔してるから私だけ?と思ったんだけど、ランナー伯爵令嬢だったかな?も、陰で鼻つまんでたから、私だけじゃなかったんだって。ホッとしちゃった!あっ、ここだけの話だからね!」


黒い艶やかな髪に、瞳は夏空を思わせるような紺碧の青。母親に似てとても美しい容姿をしているのだが、父親に似たのか口から出る言葉は容赦ない。

国境を守るオブライト辺境伯領。彼らとは浅からぬ因縁もあり、出来ることなら令嬢と縁を結び拗れた関係を修正したくて呼んだのだが・・・


「大体、王太子の嫁選びに何で私が呼ばれてるのかな?うちの父なんて、めちゃくちゃ怒ってたのよね。絶対、王都には行かせないって騒いでたんだけど、母が選ばれる事は絶対ないから、王都観光しといでって、送り出してくれたから来れたのよ。私的には正直、来たくなかったんだけど」


・・・・・なんてことだ・・・彼らは未だに根に持っているのか?


「それにさ、集められた令嬢達って流行に遅れてるよね。私のドレスを貶したのよ?これは、アウル帝国で超流行っているドレスなのに。田舎者にちょうどいいわね、だって。この国にはまだ入ってきていない最先端よ?田舎者はどっちなのかしらね。このドレスが流行った時のあいつらの顔が見ものだわ。私のドレスは帝国のさる高貴な方からの贈り物なのよ。ある意味、外交問題に発展しそうだよね」

と笑う令嬢が懐かしい母親の顔と重なるも、聞き捨てならないその言葉に血の気が失せる。

冗談だと笑う令嬢に、ほっと胸を撫で下ろすものの、怖くてしょうがない。

だから話を変えることにした。


「ところで、お母上様は何故、ご令嬢が選ばれないと?」

私の言葉に、キョトンとする令嬢。

「あれ?おじさんは知らないの?結構有名な話だと思うんだけど」

「有名?」

「実はね・・・」と、声を潜める令嬢に嫌な予感しかない。

「それこそ、本当にここだけの話なんだけど・・・偉い人の耳に入ったら、おじさんもこれかもよ」

そう言って、自分の首の前ですっと手を水平に振った。

「そ、そんな大変な話なのかい?」

「いや、別に。ただ、私の言葉が不敬になるからよ。だから、一緒にいるおじさんも見つかったら連座される可能性があるってだけ」

口が悪いと、自覚はあるんだ・・・

「まぁ、多分大丈夫!」安心させるように笑うが、私の中では余計なことを言ってしまったと後悔しかない。

「王家はさ、うちらに貶されても仕方のない事をしたんだから、うちらオブライトには何を言われても何もできないって。というか、物理的にもできないと思うし」

確かに、物理的には敵わない。なにせ令嬢が王都に来る事になってオブライト辺境伯は、自領の騎士達でまわりを固めて来たのだから。それもかなりの人数で。

彼女の母の実家でもある公爵家の、王都にある屋敷で待機中だという。


不敬で罰せられると思ってるようで、内緒話するくらいに声を潜めるが、それが今以上の恐怖を煽るのだからたまらない。


「実はね、うちの母はこの国の現国王の元婚約者なのよ」

全部知ってたのか!

「うちの母は公爵令嬢でね、王様が王太子の時の婚約者だったの。でもね、王太子が浮気して婚約破棄になったの」

あっけらかんと告白する令嬢。私の黒歴史がこれから語られるのかと思うと、居た堪れない。

「でね、その浮気者が選んだ女ってのが、計算高い顔だけ馬鹿女だったらしいのよね」

「・・・・・それって、現王妃?」

「そう。なんでも真実の愛だとか?笑っちゃうよね~。学生時代から高位貴族の男にすり寄ってたらしいのよ。その中でも王族がまぁ、頂点じゃん?見事に落としちゃったってわけ。多分、王太子が廃嫡になっていたら、捨てられてただろうね。身分に救われた感じ?」

・・・・知っている。いや、あの時は気づかなかっただけで・・・・

「常識的に考えて、婚約者のいる人間に色目使う事自体、ないわぁ。当時から、色んな男と肉体関係持っていた事が有名で、阿婆擦れって言われてたみたい。王太子の耳には入ってなかったみたいだけど」

そう、私は何も知らなかった。知ろうともしなかった。彼女のことで私に諫言してくる彼らを疎ましく思い、遠ざけたから。

そのツケが回ってきたかのように、彼女の妊娠が発覚した事で色んな問題が浮き上がってきたのだ。例えば、妊娠と関係をもった時期が合わない・・・そう思った事がきっかけだった。

「阿婆擦れに落ちたもんだから、失笑されてたみたいよ。しかも、妃教育が未だに終わってないのに王妃だなんて・・・ウケるよね!」

あぁ、耳が痛い・・・令嬢が言う通り、彼女は未だに妃教育が終わっていない。王妃というものを、ただ贅沢をし皆に傅かれる事が仕事だと思っているのだから。


「そんな馬鹿王太子と、うちの母が結婚しなくて、本当に良かったよ」

令嬢の言葉が容赦なく私に突き刺さる。すでに瀕死の状態だ。


「ふざけてるよね。真実の愛だとか何だとか騒いで婚約破棄した令嬢をさ、側室として縛り付けて仕事だけさせようとしたんだからさ。飼い殺しだよ?自分は頭の悪い女と乳繰り合う為にさ。だったら、補佐として誰か雇えばいいじゃん。誰もやりたくないだろうけど。しかも、側室にして本当に手を出すつもりだったって言うから・・・下衆の極みだよね」


あー気持ちワル!と同意を求める様に私を見る令嬢。

あぁ・・・確かに気持ちが悪い・・・・

しかも、当時は私も知らなかった事実を、年の離れた令嬢から暴露され、改めてあの頃の傲慢さを突きつけられ、血の気が失せる。

頭の中では、婚約者でもあった若かりし公爵令嬢の姿を思い浮かべていた。美しく利発で礼儀作法も完璧な、元婚約者。

それに比べ、何もかもが平凡で彼女に勝るところが一つもない、愚鈍な王子だった自分。

嫉妬していたのだ。そして心の奥底では、彼女が婚約者であることに歓喜していた。誰しもが認める、美しい婚約者。

でもそれは決して表には出ることのない感情。腹の足しにもならない矜持が邪魔をして。

そんな時に出会ったのが、妻となる彼女だ。貴族令嬢らしからぬ言葉、行動、態度は愚鈍な私にはあまりに眩しく、私より愚かな全てが私の心を気持ちよくして守ってくれた。

私より愚かな彼女を愛し、見下していたのだ。

だが、元婚約者と離れまわりを見られる程に冷静になって、選んだ彼女と元婚約者を比べては、じわじわと真綿で首を絞められるように追い込まれていった。

・・・自分は間違えたのだと気づいて。


急に黙り込んだ私を気遣う令嬢が、元婚約者に見えてつい、胸の奥底で蠢いていた未練が言葉となってしがみ付く。

「・・・・ご令嬢が王家に嫁いで双方の遺恨を水に流して・・・・」と。

そんな私に令嬢は不快そうに眉を潜めた。

「母が王太子の婚約者に選ばれたのは、王太子が国王になる為の修養についていけなかったからなんだよ。できない事を補わせるための婚約。まず、それを王太子本人が自覚ない事自体が罪。やってもらって当然と思っていた事も罪。しかも婚約破棄するために冤罪のてんこ盛り。誰がそんな害悪としか言いようがない奴等がいるとこに娘を嫁がせる?」

あまりにもっともな事で、ぐうの音もでない。ましてや「いくら王命でも、無理!」とまで言われては。

そして令嬢はとんでもない爆弾を落としてくれた。


「それにまだ正式に発表されてないけど、私、アウル帝国の第二皇子と婚約が内定してるんだよね」

「えっ!?」

頭の中が真っ白になる。

アウル帝国の第二皇子だと?彼の噂は私の耳にも届いている。皇太子を凌ぐほど優秀で、狡猾な人物だと。実際に会ったこともあるが、美しい容姿を鼻にかけることのない、好青年の印象しかない。

実力から言っても第二皇子の方が皇帝にふさわしいと言われていたが、彼は頑なに拒否し兄である皇太子を陰から支える事を選んだのだと。

私と違ってそれだけ優秀なのであれば、自らその椅子を望むのだと思っていた。おそらく私が彼ならそうしている。

だから、その話を聞いたときは彼の事が理解できなかったのを覚えている。

「第二皇子のアリオスとは幼馴染でね、うちの領の隣の帝国領、サンフィールド領の領主になるの。その正式発表と一緒に私の婚約を発表する予定だったんだけど」

幼馴染・・・・・その一言で何となくだが、第二皇子の思惑が見えた気がする。

彼は皇帝の椅子ではなく、令嬢を選んだのか・・・・まるで叔父上のようだ・・・・


あの婚約破棄事件で、本当は私は廃嫡される予定だった。そして叔父上が国王になるはずだったのだが、それを拒否されたのだ。

「俺が国王?普通に嫌だけど。妻とゆっくり過ごせないじゃないか。どうしてもって言うなら、陰で動くから何かあったときの責任はそっちでとって」と、あっさり夫人をとった。

幼い頃から、父上よりも叔父上の方が優秀で、容姿もまた美しかった。

まわりの貴族たちは叔父上を国王にしたかったようだが、本人が頑なに首を縦に振らず、公爵を賜り臣下となったと聞いている。

それもこれも全て、幼馴染でもあり叔父上の妻でもある公爵夫人の為だという。

公爵夫人は実家が伯爵家ではあるが、伯爵の中でも下位に位置する家柄だった。

幼い頃から叔父上は夫人の事が大好きで、余計な苦労をかけたくないと思っていたそうだ。

国王になってしまったら、今以上の苦労が待っているのがわかっているから。


そして私はお飾りの国王となり、選んだ彼女は名ばかりの王妃となった。

お飾りとはいえ、一国の王だ。王として父として、息子の妃候補には口を出させてもらった。

この妃選びに、オブライト辺境伯令嬢を選定する事を叔父上は最後まで反対していた。

これ以上、辺境伯との仲を険悪にするなと。あまり無理を通すと彼らはこの国から独立してしまうから、刺激するなと。


正直なところ、叔父上が何を心配しているのかが、わからなかった。もう、十五年以上前の話だ。子供たちは何も知らないだろう。考え過ぎだと。

そんな私に叔父上は苦い顔をして「甘い!」と一言。公爵家をコケにしたんだから恨まれて当然だと。令嬢は母方の祖父に溺愛されているとも聞くと。

そして叔父上曰く「女性というものは、自分にされた嫌な事はずっと忘れないものだ」と言われたが、自分の記憶にある元婚約者にはそんなイメージが全くなかった。

それに私は、本当は元婚約者の事を愛していた事に気づいたのだ。だから、彼女によく似ているという令嬢を手元においておきたかった、のだが・・・・


確かに容姿は元婚約者にそっくりで美しい。だが、口を開けばかなりの毒舌。

令嬢は、現在の辺境の状況と貴族達の意識の隔たりにも憤ってもいた。王都の貴族には危機感がないと。


そして、一通り脅しのような愚痴を言い終えると、念を押すように「おじさん、ここだけの話にしておいてね」と言ってその場を後にしたのだった。


令嬢の行く先に待っていたのは、彼女が連れていた護衛騎士。

にこやかに令嬢に手を差し伸べる彼は、見事な銀髪にアメジストのような瞳。

ふとこちらに視線を向けると、勝ち誇ったような笑みを寄越した。


どこかで見たことのある顔だと見つめ、はっと気づく。

オブライト家の騎士服に身を包み、前髪を下ろしあまり瞳の色が目立たないように容姿を隠しているが、彼の国を訪問した際、私たちのエスコートもしてくれていたのが彼だった。


あぁ・・・すでに叔父上とは話は通っているのだな・・・


嬉しそうに駆けていく令嬢の後ろ姿を、静かに見送ることしかできなかった。


そして彼女はその日のうちに、王太子妃候補から外れたのだった。




◇**◇**アリオス**◇**◇


ルミエールが庭師に化けた国王と別れその場を離れようとしているのを見つけ、護衛に変装してついてきた僕はルミエールへと手を差し伸べた。

オブライト辺境伯領の騎士服に身を包み、この国では珍しい銀髪の前髪を垂らし容姿と皇室特有のアメジストの瞳を隠そうとしたが、あまり意味が無いとルミエールには笑われた。

僕はあまり表舞台には立たず、他国にも顔を売っていないから、この国の主要人物にしか僕の顔を知る者はいない。まぁ、宰相殿にはバラしているが。

実際、庭師に変装していた国王は僕の顔を見て固まっている。

不法入国ではないよ?宰相殿には手紙で知らせているし。


アウル帝国第二皇子でもある僕アリオス・アウルは、ルミエールより四つ年上の二十歳。

近々、サンフィールド領の領主になることが決まっている。

元々ルミエールとの婚約は内定していて、彼女の成人する十六歳になるのを待って、領主就任と婚約を発表する予定だったんだ。


それに水を差したのが、今回のフロース国の王太子妃候補にルミエールが選ばれた事だった。


腹が立ったね。何て恥知らずだと。

彼女の母親に対し屈辱的な婚約破棄したくせに、今度は娘を。

まぁ、向こうが何を言ってもルミエールは僕のものだけど。あんなクズの息子に、僕の大事な愛おしい天使を渡すわけないじゃない。



ルミエールとは、幼少時病弱だった僕がお忍びでオブライト辺境伯領に療養のため滞在していた時からの付き合いだ。

僕には二歳年上の兄がいるが、兄弟仲はとても良好。普通は皇帝の座を争ってなんて言う争いもあるかもしれないけど、うちは家族仲がいい。


だけど、それぞれの思惑を持つ貴族たちが兄弟それぞれに付き、故意に仲互いさせようとしていた時期があった。

元々、体が弱かった僕は汚い大人たちの思惑に踊らされ、寝込むことが多くなってしまった。

弱すぎる僕を心配した父でもある皇帝は、宰相の伝手を使い極秘に隣国でもあるフロース国オブライト辺境伯領へと預けたのだ。

全てから引き離し、療養させるために。

帝国の宰相とルミエールの祖父が旧知の仲であったために、できた荒技である。


ルミエール六歳、僕が十歳。辺境の地に美しい花が咲き乱れ始めた、春の季節の頃だった。


オブライト領に来た当初の僕は、家族と離ればなれになったことでずっと泣き暮らしていた。

何かあればすぐに体調を崩し周りに迷惑ばかりかけていたから、家族に捨てられたのだと。今思えば何故そんな被害妄想を・・・・とも思うが、当時はまわりをうろついていた腹黒い貴族達に翻弄されてもいたから、精神的にも不安定で致し方なかったのかもしれない。


そんなひねくれた僕の世話係に任命されたのが、ルミエールだった。

艶やかな黒髪に、爽やかな夏空のような紺碧の青の瞳。あまりの愛らしさに目を奪われたものの、その時の僕は素直になれなかった。

頑なに拒絶しても、言葉汚く罵っても、翌日の朝には笑顔でやってくるのだ。「おはよう!」と。

そのしつこさに、次第に自分のしていることが恥ずかしくなってきた。僕より四つも年下の女の子に、八つ当たりしまくったのだから。

まぁ、正直なところルミエールの粘り勝ちではあったんだけどね。

これまでの態度を反省して「ごめんなさい」と謝れば、それはそれは嬉しそうに笑ったんだ。まさに花が咲いたかのように。


そして僕は、彼女に落ちたんだ。


帝国では、ある意味貴族らしく皇族らしく育てられ教育されていた僕は、ルミエールや辺境伯領の人々の裏表のないおおらかさに驚きながらも心も体も癒されていった。

特にルミエールには驚かされてばかりだった。母親に似て美しい容姿をしているのに、やることは野性の猿並。木に登ったり野原を駆け回ったり、時には食料だといって動物を狩ってくる。

腹黒い貴族しか見たことがない僕にとっては、こんな令嬢が存在するのかと、まさに目から鱗。世界が色づいた瞬間でもあった。


異民族との小競り合いがあるものの、当時の辺境伯領は比較的平和でルミエールとともに穏やかで刺激のある日々を送っていた。

辺境伯領滞在一年で、僕は人並みに健康になり、帝国から付いてきていた世話役から遅れ気味だった帝王学を学んだ。家族仲が良いとはいえ、所詮僕は兄のスペア。兄が結婚し世継ぎをもうけるまでは、僕の継承権は消失しない。

でも、僕はすでに自分の未来を描いていたから、皇帝になる気はさらさらない。だが、身に付けた知識はいずれ自分の力になるはずだからと、いろんな知識を身に付けていった。

全ては、ルミエールとの未来の為に。


実質、五年ほど辺境伯領に滞在することができた。本当であれば二年ほどで帝国へ帰る予定だったのだが、ルミエールが大好きすぎて離れたくないとあの手この手で引き伸ばしたのだ。


何としても帝国に帰ってきてほしい父達に僕は、二つの条件を出した。

ひとつは、当時は皇帝直轄領でもあった帝国領、サンフィールド領を貰い受けること。ここは国境を挟んでオブライト領の隣だから。

そしてふたつめが、フロース国オブライト辺境伯の令嬢でもあるルミエールとの婚約。


僕が十五歳、ルミエール十一歳。春の花から夏の花へと移り変わる頃、その条件は受諾され僕は泣く泣く帝国へと戻っていったのだ。


ルミエールとの婚約は、確定ではなく内定にとどまった。と言うのも、フロース国もアウル帝国も、双方十六の成人にならなければ正式に婚約を結べないから。

帝国は元々そのような法律があったが、フロース国は、現国王のやらかしによって改めて定められたみたいだ。

現国王とルミエールの母親との婚約は、五歳の時に定められたもので、婚約破棄の理由の一つに『幼い頃から結婚相手を決められていて窮屈だった』と。

単に遊びたかっただけだろう、という意見が大多数だったことは言うまでもない。王族としての自覚がなかっただけなのだろうな。

王妃になる為の教育は、早い方がいい。成人してからの王妃教育は大変な事だ。となれば、自然とお相手は高位の貴族令嬢へと絞られてくるのに。

つかの間の自由を手にしようとして、相手を選ぶ選択肢を狭めただけだった事に気づいているのだろうか・・・・


正式に婚約を結べるまでに五年はある。その間に、サンフィールド領の問題を片付けようと、帝国に戻った僕は、これまで学んだ知識と辺境伯領で鍛えられた剣の腕で異民族問題に取り組んだ。

嫁いでくるルミエールに安心して生活してもらうために。

蓋を開ければ、異民族の人達も争いは望んではいなかった事がわかった。首長とそのまわりの人達だけが騒いで問題を起こしているだけで、其処に住んでいる人達は、この安定した生活を脅かす人物として彼らを支持してはいなかったのだ。要は、自分達の生活を守ってくれるのであれば、指導者には誰が立ってもいいと思っていたのだ。

そんな彼らの心理を利用し、首長達に揺さぶりをかけ組織を解体をする事にしたのだが。それも一朝一夕でできるわけもなく、根回しが必要。ルミエールが成人するまでを目標に計画し動いてきた。

実際は五年もかからずに解体できてしまったが・・・・

ただ、首長とそれに連なる数人が逃亡し捜索中。だが意外とあっさり逃亡潜伏先も特定し今は捕縛に向け監視、計画を立てていた矢先・・・


「ルミエールが王太子妃候補に選ばれただと!?」


ルミエールは今月で成人を迎える。

帝国とオブライト辺境伯で、本格的に婚約とサンフィールド領の領主襲名の話し合いも出ていた。

そんな時まるで僕達の邪魔をするかのように、降って湧いた王太子妃候補の話。しかも、ルミエールを推しているのが現国王だというではないか。


何て恥知らずな!と、誰もが思い憤慨した。勿論、僕も怒り心頭だ。

だが意外にも冷静だったのは、ルミエールの母でもある辺境伯夫人だった。

「あの子が婚約者になることはないから大丈夫よ」と。

聞けばこの話がきてすぐに宰相へ、ルミエールが今月成人した時点でアウル帝国第二皇子アリオス・アウルと婚約が確定していると、手紙を送っていたのだそうだ。

実は、帝国からも同じような内容で親書を送ろうとしていた。というか、即行で送った。


そして、彼女が王都に行くのなら護衛として一緒に行ってくれば?と、夫人がとんでもない提案をしてくれた。

ルミエールの突拍子もないところは、夫人に似たのだなとしみじみ納得した瞬間だった。


ルミエールと一緒に王宮に着くと、自分の用事を済ませるために非常に不本意だが彼女と別れ僕はすぐさま宰相と面会をした。

まぁ、僕とルミエールの幸せな未来の為だから致し方ない。

宰相は申し訳なさそうに僕に謝罪してきた。

「どんなに反対しても、駄目だった」と。

お飾りとはいえ一応は国王なのだ。中途半端に権力を持たせると碌な事がないな。

取りあえず宰相には、帝国からの要望が書かれた親書を手渡す。

宰相の息子はとても優秀なのだと聞く。現王太子と国王の頭の中身は瓜二つだ。


「何がこの国の最善なのか、よく考えて判断して下さい。我々帝国は、貴方が勇気ある決断をすると信じていますから」


宰相は眉間にシワを寄せ、苦悶の表情で小さく頷いた。


取りあえず僕の仕事は終わったとばかりに、ルミエールが庭にいることを聞きまっすぐ迎えに行った。

僕を見つけると嬉しそうに駆けてくるルミエールが愛らしい。僕が贈ったドレスも相まって、まさに天使!

だけど、麗しい僕の天使を田舎者と貶めた奴等がいたそうだな。全て把握した。今後帝国から輸出されるドレスや装飾品関係の全て、そいつらには売らないよう通達しておかなくてはな。

なんせ、田舎臭いドレスだそうだから。


駆けてくる彼女の後ろには、彼女の話し相手をしてくれていた庭師がいた。

彼女を見送る庭師は、僕の顔を見て呆然としていた。

あぁ、そういえば国王は庭師に変装していたんだったな。ってか、国王より庭師の方がお似合いだ。


この王太子妃選びも無駄に終わるだろう。宰相には三人の息子がいて、三人とも優秀だと聞く。

長男次男には婚約者がいて、三男も内定していると聞く。


誰が国王になっても、申し分ないな。


ルミエールの笑顔を堪能しながら、これからやるべき事を頭の中で巡らせる。

異民族の首謀者達は皆、捕まったと連絡があった。

捕まった首長の意向なのか、彼等の生活基準はあまりにも原始的で目を疑ったのを今も鮮明に覚えている。

あまり衛生的でもなかったその生活基盤を変えるのに、結構時間がかかっていた。特に変化を好まない、年寄り達がうるさくて。


ご先祖さまも、土地に住まわせ税金とるのもいいけど、放置は駄目だよ・・・

よくこれまで、疫病とか流行らなかったよな・・・


僕の行動全てはルミエールが安全に幸せに暮らす事に繋がっている。

異民族だろうが誰だろうが、ルミエールに良くない影響を及ぼすのであれば、容赦なく切り捨てるのみ。


「リオ、どうしたの?眉間にシワ寄ってるよ?」

宛てがわれた部屋に戻り、僕の膝の上にちょこんと座り可愛らしく小首を傾げる愛おしい天使は、涼やかな声で僕の愛称を呼ぶ。先ほどまでの剣呑とした空気は霧散し、甘やかな空気に早変わり。

「ルウ、何でもないよ。王都観光も済んだしお土産も買った。明日の早朝にはここを発つよ」

僕も愛しさを込めて、呼び慣れた愛称で答える。

「え?私帰っていいの?」

爽やかな夏を思い起こさせる瞳を見開き驚く様は、ただ可愛い。

「いいんだよ。お母上も言ってただろ?妃に選ばれる事はないって。・・・それとも、ルウは残りたかった?」

「まさか!ただ、本当に王都観光しにきただけだなって」

拍子抜けした顔をしている。それもまた、可愛い。

「僕と結婚すれば、もう王都には来ることもないだろうし。婚前旅行みたいで、よかったんじゃない?」

「婚前・・・」と呟きながら頬を染める顔も、あぁ・・・愛おしい!早く結婚したい!!


一日でも早く結婚できるよう双方の親達を丸め込まなくてはと、僕の頭の中は彼女との結婚生活の妄想一色。

愛おしくてたまらなくてルミエールの瞼に口付けながら、彼女の安寧の為の異民族対策だったけど「ま、首謀者も捕まったし、他の事は結婚してからでも遅くはないか」とあっさり考えを翻し、ルミエールとの甘い新婚生活に気持ちを馳せる。


毎日、愛を囁き抱き合って眠る。愛おしい人を抱きしめて目覚める朝は、きっと、何よりも幸せで黄金のようなの日々なのだろう。

そんな未来を思い描きながら、ルミエールに優しい口付けを贈った。


誤字脱字報告、改めてありがとうございます。

いただいたご報告を適応するにあたり、何かエラー表示が出るのですが、見れば適応されているようでほっとしてます。


ご報告いただきました、「王叔父」の注釈をそのまま使用させていただきました。ありがとうございました!

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