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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第6話 ゲームと現実

 アースタイガーの技に貫かれた際も、辛うじて身体を動かすことはできていた。

 だが、今のハヤトは指の一本も動かせない。


 それどころか視界が二重三重にぶれ、ノイズが走り、まともに周囲を視認できなくなった。


――なんだこれ……! なにが起きているんだ!?


 歪んだ視界の中で、人々の足がまばらに往来していく。

 どこからともなく談笑さえ聞こえてくるが、誰もハヤトの異変に気付いた様子はない。


 強烈な違和感がハヤトの不安をことさらに煽る。


「よぉ、アミ。突然で悪いな」


 ハヤトの頭上では、さきほどの男が親しみのある口調でアミに話しかけていた。


「リュカク、さん……? なぜ……?」


 アミは現状に理解が追いついていないのか、呆然とした声を漏らしている。


「なぜ? お前がそういう運命だからかな。死ぬ運命ってやつ。ま、オレのことを恨めるんなら恨んでくれ」


 男が軽い口調で不穏な言葉を並べ立てる。


 その直後――アミの呻く声が聞こえた。


「あ、っ、ぅぐ……!」


 痛みを堪えるような苦悶の声。

 続けて、重いものが地面に落ちる音。


 その音はハヤトに、草原で見たアミの死体を連想させた。


――アミもあの男に刺されたんだ……!


 状況を推察したハヤトの中に、さまざまな感情がこみ上げる。


 悔しさと、情けなさ。

 苛立ちに戸惑い、悲しみまで。


 途端にノイズが激しくなり、ハヤトの視界が暗転。

 同時に周囲の音も消え失せた。


――これは……またクエスト失敗か。


 見覚えのある演出に、ハヤトはアミの死を確信する。

 いろいろと思うところはありつつも、彼は一旦、復活のときをおとなしく待つことにした。


 けれど、いつまで経っても暗闇と静寂は続いていく。


 ただ、一瞬だけ。

 ヘッドギアの電源が落ちる音が聞こえた。





 早坂裕斗は暗い画面をしばらく見つめていた。


 しかし、ゲームが再起動しないことを悟ると、困惑気味にヘッドギアを取り外した。


「……勝手にゲームが終了した?」


 呆気に取られたように呟く裕斗。

 それがやけに自身の耳についたのは、絶えず聞こえていた人々の声が唐突に途絶えたせいだろう。


 声だけではない。

 華やかで広い街並みは、乳白色の壁と天井に囲まれた四畳半へ。

 舗装された道は、艶のないフローリングへ。


 ヘッドギア越しに見ていた世界は、見慣れた自室へ戻っていた。


――あぁ、現実だ。


 裕斗の胸中に虚しさがこみ上げてくる。


 学校と勉強だけの日々。

 刺激のない平坦な生活。


 それらを実感するのが嫌で、裕斗はVRMMOの世界にのめり込んでいたというのに。


「まさか……壊れたわけじゃないよな?」


 裕斗はヘッドギアを軽く振り、電源のオンオフを確認する。

 そして問題なく動くことがわかると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「今のはゲーム上の演出ってことか? まぁ……ゲームを勝手に終了させるシステムはたしかに使い古されているけど、MMOでやることか……?」


 ブツブツと文句を並べつつ、裕斗はヘッドギアをベッドの上に置いた。

 そして自身も、そのまま仰向けに倒れ込む。


――ゲームを再起動すれば、またアミはリスポーンするのかな。それなら、今度はアミにあの男について聞いてみて、アースタイガーのときみたいに対策を……。


 裕斗は天井を眺めながら思案するものの、なかなかヘッドギアを再装着する気分にはなれない。


 クエストを失敗したあと、すぐさま復活していたなら、アミを守るという使命感も維持できていたことだろう。

 だが、唐突に現実に引き戻されたことで、裕斗の中に一気に徒労感が押し寄せてきたのだ。


――すこし休憩を取るか。


 裕斗はおもむろに瞼を下ろし、深く息を吐き出す。

 そして、改めてこの《ラジカルファンタジア》というゲームについて考えを巡らせた。


 VRMMORPGの中でもかなりの自由度を誇り、かつメインストーリーにも深みがあるということで、ゲーマー達から高評価を得ていたはずだ。

 しかし、裕斗はその事前情報と、実際のゲーム体験に差異があると感じていた。


――普通のMMOっぽくないというか……なんか違和感があるんだよな。


 かすかに眉をひそめる裕斗。

 喉の奥に魚の骨が引っかかったような、些細だが無視のできない感覚が裕斗の中に留まっていた。


「いっそのこと……見てみるか、攻略サイト」


 やがて裕斗はちいさく呟き、瞼を上げた。

 それから身体を起こすと、彼はベッドから立ち上がった。


 しかし、裕斗が向かったのはスマートフォンを置いた学習机ではなく自室のドアだった。


――その前に、台所ですこし水分を摂ってこよう。


 裕斗は朝食後、一度も水分補給をせずにゲームに没頭していた。

 現実に戻り、集中力が途切れたことで、彼は喉や唇の渇きに気付いたのだ。


――ゲームに熱中しすぎて脱水症状……なんていうのは、よく聞く話だからな。気を付けないと。


 のんびりとした足取りで裕斗は自室から出る。

 そして、階段を軋ませながら一階へと降りていった。

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