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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第5話 再挑戦

 前回と同じ展開だと確信を得たハヤトは、アースタイガーの姿が見えた瞬間に叫んだ。


「アミ! 今だ!」


 呼応するようにアミの杖が浅葱色の光をまとう。


「アイスニードル!」


 アミの声と共に光が弾け、彼女の頭上に無数の氷の針を生み出す。

 そしてそれらは、次々とアースタイガーの顔面に向かって宙を駆けた。


 さすがのアースタイガーも、出現直後の攻撃には反応できなかったらしい。

 氷の雨に怯んだ呻き声をあげ、わずかに身体を縮める。


「町の方へ走れ!」


 ハヤトの号令にアミは駆け出す。

 すぐさまハヤトも地面を蹴り、彼女のあとに続いた。


 しかし、アースタイガーはちいさな耳を動かし、敏感に彼らの足音を聞き取った。

 さらに魔力の流れを感知して、どちらが自身を攻撃したかを瞬時に判別する。


 そのようになると、あとは速度勝負。


 アースタイガーはカッと目を見開き、攻撃を仕掛けたアミの方に飛びかかってきた。


 その勢いたるや風のごとく。

 気付いたときにはアミのすぐ傍まで接近していた。


 だが――それをハヤトは見逃さなかった。


――攻撃のタイミングを合わせろ!


 ハヤトは軸足に力を込め、思いきり長剣を横に振るう。


 重量の乗った渾身の一撃。

 下位階級のモンスターであれば両断されてもおかしくないその一閃で、アースタイガーの噛みつきからアミを守ろうとする。


 ガキンッ――と。

 刀身と牙の衝突する音がハヤトの耳を突いた。


「ハヤト君っ!」

「足を止めるな! 走れ、っ!」


 ハヤトは声を絞り出しつつ、刀身を受け止めたアースタイガーとせり合う。


 人の首をたやすく噛み砕くアースタイガーの咬合力では、長剣もいつまで保つかわからない。

 それでもハヤトは諦めず、長剣を握る両腕に全力を込める。


 その瞬間、アミが叫んだ。


「アイスニードルッ!」


 ハヤトの真横、アースタイガーの顔面間近からアミは氷の針を放ったのだ。


 避ける暇もない距離だった。

 そのため、ハヤトを凝視していたアースタイガーの目に鋭い連撃が突き刺さる。


 アースタイガーは悲鳴を轟かせ、ハヤトの長剣から口を離した。


「ハヤト君! 今のうちに!」


 アミはハヤトの腕を引いて駆け出した。

 ハヤトは足を動かしつつ、アースタイガーの様子を窺う。


 アースタイガーは地面をのたうち回り、苦悶の声をあげていた。


――ゲームの性質上、よほどのイベントがなければ町中までモンスターが来ることはないはず……!


 ハヤトは視線を前方へ戻し、走ることに集中した。


 彼の心臓は激しく脈打っていた。

 それは緊張と興奮、かすかな恐怖が彼の中で渦巻いていたためである。


 幸いにしてアースタイガーの追撃はなかった。

 それでも完璧に安心するため、ハヤト達は町の門番達の元に辿り着くまで走る速度を緩めなかった。


「どうした? そんなに息を切らして」


 なにも知らない門番のひとりが呑気に声をかけてくる。

 ハヤトはすぐさま門番に告げた。


「上位階級のモンスターが出現している! ダンジョン前にいるんだけど、なんとかならないか?」


 すると門番がギョッとした表情になった。


「なんだって? それはマズいな。詰所で詳しい話を聞かせてもらえるか?」


 門番の言葉を聞いたハヤトとアミは頷く。

 さっそく歩き出した門番のあとに続きながら、アミはちいさく息を吐いた。


「……怖かったぁ」


 そっと呟く彼女の声には安堵の色が滲んでいた。


「ハヤト君、ありがとう。私、ようやくあのダンジョンから出られたよ」

「いや……感謝をするのは俺の方だよ。アミが魔術を使ってくれたから、アースタイガーから逃げられた」

「あのときは無我夢中だったから……」


 照れくさそうに笑うアミ。

 それを見てハヤトも表情を和らげた。


 ダンジョン付近の静けさとは一変、町中は活気に満ちて賑やかだった。

 軽く周囲を見回しただけでも、エルフやドワーフなど、さまざまな人種のNPCやプレイヤーが歩き回っている。


 MMOではよく見かけるその光景に、ハヤトはようやく《ゲームが始まった》という高揚を覚えた。


 だからだろうか。

 人混みの中に佇む不審な男への警戒が遅れたのは。


 その男はハヤトとアミほどではないが若い風貌で、細身ながらにたくましい体つきをしている。

 しかし鎧のたぐいは付けておらず、冒険者というよりは一介の町民の雰囲気を漂わせる軽装だった。


 異質であるのは、その手に抜き身の短剣を握っていること。


 その短剣の切っ先が動いたと思ったときには、男はハヤトに肉薄していた。


「――え、っ?」


 次の瞬間、ハヤトは腹部に妙な衝撃を受ける。

 反射的に視線を落とすと、胸当てと腰当ての隙間に短剣が潜り込んでいた。


「残念だが、お前には退場してもらう」


 紫色の目に冷たい光を湛えた男がハヤトに囁く。

 そして、無情にもハヤトの腹部から短剣が引き抜かれた。


 途端にハヤトは、全身から力が抜けるのを感じた。


「ハヤト君!?」


 狼狽したアミの声が頭上から降ってくる。

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