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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第4話 助ける約束

 口調だけではない。

 憂いを帯びたアミの表情も、助けを求めるようなアミの視線も。

 すべて、初対面では見られなかった反応である。


――あれ? 同じクエスト……だよな?


 ハヤトはわずかに動揺し、返答が遅れた。

 ゆえにアミはますます眉を寄せ、さらに声を張った。


「えっと……あの、すみません!」


 それでハヤトは我に返った。

 彼は慌ててアミの元へ駆け寄る。


「ごめん! 俺はハヤト。きみは魔術師のアミだろ?」


 先走ってハヤトが言うと、アミは目をおおきく見開いた。


「そうですけど……どこかでお会いしましたか?」

「あーっと、まぁ、いろいろ。その辺りの前置きはいいや。アミはここから出られなくて困っているんだよな?」


 ゲームを早く進めたいハヤトは単刀直入に切り出す。

 途端にアミは驚愕を示した。


「な、なぜ、それを知っているんですか?」

「俺はアミを助けに来たんだ」


 ハヤトは意気よく宣言する。

 アミは呆気に取られた様子でハヤトを見つめていたが、やがて気まずそうに視線を逸らした。


「……ごめんなさい。状況が、よくわからなくて……」


 口ごもるアミに、今度はハヤトが目を丸くした。

 NPCであればすこし会話が噛み合わなくてもクエストを進行してくれるだろうと、彼は考えていたからだ。


 それゆえにこのアミの態度が、ハヤトにはことさら不自然に映った。


――この子……クエスト進行に関わっているからプレイヤーではないはずだけど……。


 とはいえ、このままでは堂々巡りである。

 ハヤトは困った様子で頭を掻いた。


「ハヤトさんは……私のためにここに来たんですか?」


 そのとき、アミがこわごわとハヤトに尋ねた。


「え? あ、あぁ。そうだけど」

「私……困っているのは、ほんとうなんです。どのくらいここにいるのかわからない。早く町に帰りたい」


 視線を彷徨わせ、切実な声を漏らすアミ。

 そのうちに彼女は意を決したように顔を上げた。


「だから、ハヤトさんのことを信じます。どうか私を助けてください」


 わらにも縋るような熱い眼差しを受け、ハヤトはちいさく息を呑む。


 ハヤトもまた、痛ましいアミの死を目撃したこともあり、すっかり彼女に同情していた。

 だからこのとき、ハヤトの中に《アミを守る》という使命感がたしかに灯ったのだ。


「ああ……任せろ!」


 ハヤトは自身の胸元を叩き、力強く返事する。

 それを聞いたアミの表情がほんのかすかに和らいだ。


「とりあえず、敬語じゃなくていいよ。たぶん同い年くらいだと思うし」

「うーん……それなら、ハヤト君って呼ぶね」


 アミはすこし悩む素振りを見せてから微笑した。

 彼女から敬語が抜けたことで堅苦しさがなくなり、ハヤトは一気に話しやすくなったと感じた。


「まず、外の状況なんだけど、出口のすぐ傍にアースタイガーが潜んでいるんだ」

「アースタイガー!?」

「なぜかこの地域にいるみたいで……とにかく、初級冒険者の俺達だと討伐は難しい。なにかアースタイガーの対処方法とか知らないかな?」


 アミは動揺しながらも自身の顎に手を添える。

 ブツブツとアースタイガーの特徴を呟き、思案を重ねていた彼女はやがて、「……目くらまし、とか」とポツリと述べた。


「私は氷系の魔術が使えるから、うまく顔面に当てられたら逃げる隙は作れる……かも?」


 アミの提案はあくまで希望的観測だ。

 それでも、ハヤトにとっては可能性の感じられる意見だった。


「わかった。それで行こう」

「ほ、ほんとうに? 自分で提案したけど、私、あまり自信がない……」


 しょんぼりと俯くアミ。

 たしかに、実戦経験の乏しい初級冒険者に自信を持てと言う方が難しいのかもしれない。


 それでもハヤトは迷わず口を開いた。


「大丈夫。アミには仲間を助ける度胸がある。必ずできるよ!」


 瀕死のハヤトを助けるため、果敢に魔術を放ったアミ。

 あの瞬間を知っているからこそ、アミなら遂行できるとハヤトは確信したのだ。


 アミは彼の発言に目を瞬かせ、それから表情を緩めた。


「ハヤト君って、不思議な人だね」

「あ、ちょっと怪しいやつに見えた……かな?」

「ふふっ。でも心強いよ」


 口元に手を当て、穏やかに笑うアミ。

 それは不意に零れたような、自然な笑顔だった。


 だからハヤトも、つられて口角を上げそうになる。

 けれど、彼はすぐに表情を引き締めた。


「アースタイガーは真正面から出てくる。だから、俺が合図を出した瞬間に魔術を撃ってほしい」


 ハヤトの真摯な声を聞き、アミも真剣な顔つきになる。


「うん。わかった」

「それじゃあ、行こう」


 ふたりは出口へ向けて歩き出した。

 広大な草原はさきほどと変わらず、ひりついた静寂に包まれている。


 ハヤトは長剣を鞘から引き抜いた。

 いざというときにアミを守るためだ。


 アミも腰に下げた収納袋から杖を取り出し、利き手で構えた。


 慎重に一歩を踏み出すハヤト。

 その瞬間――あの激しい咆哮が響き渡った。


 間を置かずして、ふたりの目前の土が盛り上がる。

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