表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

第21話 バグではない

 アースタイガーがハヤトの気配を感知して振り返ったが、ハヤトは怯まずに手を伸ばす。


 そして短剣のひとつを掴み、思いきり押し込んだ。


「う、わっ……!」


 再度アースタイガーが悲鳴をあげて暴れ出す。

 ハヤトは咄嗟にアースタイガーの首元にしがみつき、振り払われないよう懸命に耐えた。


 その間もハヤトは決して短剣を離さなかった。


 短い格闘だったが、ハヤトにはそれが長い時間に感じられた。

 次第にアースタイガーは動きが鈍くなっていき、最終的にグラリと体勢を崩す。


 そのまま、ハヤトはアースタイガーの下敷きになった。


 上位階級のモンスターを相手にした割には、あまりにあっさりとした決着だった。


「やった……の、か?」


 ピクリとも動かなくなったアースタイガーの顔を押し退け、外に這い出そうとするハヤト。

 すると、目の前にリュカクの手が差し出される。


「よぉ。さすがの度胸だな、プレイヤー」


 薄く笑みを浮かべるリュカク。

 ハヤトはすこし悩みながらも、素直に彼の手に掴まった。


「なぜ俺達を助けたんだ?」

「そりゃあ、お前らの様子を見るって約束したから」

「約束した覚えはないんだけど、なっ」


 リュカクの力を借り、ハヤトはアースタイガーの下から脱出する。

 そこにアミが、片手剣を持って駆け寄ってくる。


「ハヤト君! リュカクさん!」


 彼女は複雑そうな表情でふたりを見やり、それからハヤトに片手剣を差し出した。


「あまり無茶をしないで……私、気が気じゃなかったよ。リュカクさんがいなかったら、どうなっていたことか……」


 ハヤトは片手剣を受け取りつつ、ごめん、とアミに謝る。

 けれど、結果的にアースタイガーを倒せたことにハヤトは満足感を抱いており、後悔の念は薄かった。


「リュカクはなぜここに?」

「お前らのことを観察しようと思って」

「……つけてきたのか?」

「探して見つけた、の方が正しいな。オレはバグの位置がざっくりとわかるんでね。お前らが森に向かったのを感知したから、来てみたってわけ」


 ふたりのやり取りを聞いていたアミは、リュカクに深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、リュカクさん。おかげで助かりました」


 リュカクはかすかに目を丸くし、「調子が狂うなぁ」と苦々しげに呟いた。


 そのときハヤトとアミの身体が一瞬、金色の光に包まれた。

 次いで、リュカクが納得したような吐息をこぼす。


「あぁ、レベルアップか。アースタイガーにトドメを刺したのはハヤトだもんな」

「えっ!?」


 驚きの声をあげたのはアミだった。

 彼女は慌ててステータス画面を開き、戸惑いの表情を浮かべる。


 遅れてハヤトも右手を前方にかざして、自身のステータスを確認した。


「ほんとうだ。最初のダンジョンを出たときはレベル四だったのに、一気にレベル七まで上がったな」

「……私……なにもしていないのに、なぜ……?」


 ハヤトは顎に手を添え、考えを口に出す。


「俺達パーティだからだよ。経験値が分配されたんだ」

「そんな……ハヤト君のお手柄を奪うようなこと……」

「奪うだなんて、とんでもない」


 そもそもリュカクの攻撃を利用した勝利であったため、ハヤトはやんわりとアミの発言を否定した。

 しかし、アミは悲痛な表情は変わらなかった。


「でも、私! ……悔しいよ」


 アミはひどく落ち込んだ声を漏らした。

 彼女がそこまで気落ちする理由がわからず、ハヤトは困惑した表情を浮かべてしまう。


 気まずい空気が三人の間に流れる。

 リュカクは頭を掻きながら、話題の方向を変えた。


「あーっと。ちなみにお前ら、このまま先に進む気か?」

「え? あぁ、そのつもりだったけど……アースタイガーがまだいるようなら、引き上げることも考えているかな」


 ハヤトはちいさく唸りつつ、リュカクに問いかける。


「これもバグの一種なのか? こんな初期地点で、何度もアースタイガーに遭遇するなんてさすがにおかしすぎる」


 リュカクはすぐに答えなかった。

 彼は腕を組み、視線を彷徨わせながら、重たげに口を開いた。


「あれはおそらく、アミに附随する現象だ」

「アミに付随する……?」

「町の外にアミが出ると、アースタイガーが強制召喚される。バグというよりは……ゲームの意思だ」


 そのように言い切ったあと、リュカクはアミに視線を移した。


「なぁ、アミ。お前、冒険者を辞める気はないか?」


 突然の質問に、ハヤトとアミは目を見開く。

 アミはすぐに首を横に振り、辛そうな顔でリュカクを見上げた。


「なぜ急にそんなことを言うんですか? リュカクさんだって、私のことを応援してくださったじゃないですか!」

「お前が町から出なければアースタイガーは出てこない。安全を考慮すれば、それがいちばんだ」

「それでも私は――!」


 アミが身を乗り出し、さらに反論をしようとしたとき。

 ハヤトは木々の向こうから、なにものかが近づいてくる音を聞き取った。


「待て、ふたりとも。誰か来る!」


 彼の言葉をきっかけに、アミとリュカクもハヤトと同じ方向を振り返る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ