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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第17話 普通のNPC

「ハヤト君……私、生きているよね? ちゃんと足もあるし、物にだって触れる。なにもおかしなことなんて、ないよね?」


 近くの鎧に触れ、アミは必死に訴えてくる。

 けれど、ハヤトは即答できなかった。

 アミが生きている――それこそが異常であると、口が裂けても言えなかったからだ。


「これはもしかしたら、バグの影響かもしれない」


 ハヤトはアミの問いかけには答えず、代わりに自身の推測を述べる。


「バグは……変になることだ、って前に説明したよな。理不尽なところもあるって。だから、これは、そのせいかもしれない」


 疑念の色を湛えた目でハヤトを見るアミ。

 彼女は鎧から手を離し、両手を自身の胸元に添えた。


「わからないよ、ハヤト君。私はいつからバグになったの? 私が……ダンジョンから出られないと気付いた、あのときから?」


 質問を投げかけるアミの表情を見て、ハヤトは真実を隠している罪悪感に苛まれた。

 彼はなんとか思考を働かせ、当たり障りのない言葉を探す。


「俺達でバグの原因を探すのは難しいことだ。開発者……つまり、この世界を作った神様でないと、わからないことだと思う」

「神、様?」


 アミは呆然と呟き、それからかすかに俯いた。


「……すごく壮大な話になるんだね」

「うん、まぁ、バグっていうのは、世界の異常でもあるから。俺達には、理解できないことが多いんだよ」


 ハヤトは頭を掻きながら、自身も理解していない事象をなんとか説明しようとする。

 すると、不意にアミが自嘲した。


「ほんとうにハヤト君は物知りだね」


 寂しげで、羨むような声にハヤトは動揺する。

 しかしなにか告げようにも、ハヤトにはアミの心情がわからないためうまく言葉を選べなかった。


 アミは顔を上げ、ぎこちなく口角を上げる。


「ねぇ、ハヤト君。ニレさんに装備を見てもらって」

「アミ……それは……」

「ハヤト君はニレさんと話ができるみたいだから、きっとその方がいいよ。私はここで待っているから。ね?」


 ハヤトはアミの申し出に戸惑った。

 けれど、アミがゲーム上で認識されない以上、他の選択肢を見つけられないのも事実である。


「ほら、ニレさんが待っているよ」


 判断に迷うハヤトの肩を、アミが優しく叩く。

 ハヤトは後ろ髪を引かれる思いで彼女から離れた。


「お客さん。気になる装備はあったかね?」


 ニレは、戻ってきたハヤトのことを笑顔で迎え入れた。

 急にハヤトが離れたことについては、あまり不思議に思っていない様子だった。


――これが《普通のNPC》の反応だよな。


 ハヤトはニレのことを見上げながら考える。


――アミは……なんというか、人間味が強すぎる。


 彼の頭の中でも謎が渦巻いていた。

 それはアミの抱いている疑念とは、別のものであった。


 アミという存在。

 彼女の思考や言動は、ほんとうにAIのままなのか。


――突拍子もないことを考えている自覚はあるけれど、どうしてか否定する気持ちが浮かんでこない。


 ハヤトがもの思いにふけっている間、ニレは手際よく彼の寸法を測り、適した装備品を選んでいく。


 やがてハヤトの装備は、身軽さを重視した小粋な様相に様変わりした。

 同時に、武器も長剣から片手剣に変更する。

 重量感のある長剣も悪くなかったが、俊敏性を重視するなら片手剣の方がいいとニレに勧められたからだ。


「グリーヴには魔術が施してあるから、すばやさが補助されるようになっている。効果が薄れてきたら、買い替えどきだぞ」


 足を守る臑当すねあてを指してニレが解説する。

 ハヤトはニレに感謝を告げ、チュートリアル時に受け取った皮袋を取り出した。


「それで代金は?」


 すると、ニレは歯を見せて笑った。


「アミちゃんの知り合いなら安くしとくよ」

「ありがとうございます、ニレさん」


 急にハヤトの隣からアミの声がする。

 いつの間にか、彼女はまたカウンターの傍まで近づいてきていたのだ。


 思わずハヤトは心配そうな眼差しをアミに向ける。

 それに気付いたアミは、わずかに陰のある笑みを浮かべた。


「大丈夫……とは言い難いけど、ちょっと落ち着いてきたから」


 そのように述べてから、アミはニレの方に向き直る。

 一切アミの方を見ようとしない彼のことを、アミは寂しげに見つめた。


 しかし、それからアミは深々と頭を下げた。


「……ほんとうに、いつもありがとうございます。これから、父と母のことをよろしくお願いします」


 アミは健気にも、届かない感謝をニレに送る。

 そこには、これまでのニレに対する信頼が感じられた。


 だからこそ、ハヤトは胸を締めつけられた。


 この短時間で、アミはバグのことを受け入れつつある。

 その順応の速さが彼女のよいところであり、悲しいところでもあると感じたからだった。


 モヤモヤとしたわだかまりを抱えたまま、ハヤトは代金を支払う。


「まいどあり! 今後もご贔屓にしてくれよ」

「はい。ニレさんもお元気で」


 アミが笑ってニレに別れを告げる。


 そして、ふたりは武具屋をあとにした。

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