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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第10話 力の差

――覚悟を決めるしかないか。


 ハヤトはおもむろに長剣の柄を握る。

 しかし、その手の上にアミが自身の手を添えた。


「アミ?」

「ハヤト君、私に話をさせて」


 アミは息を整えながらリュカクを見つめる。

 彼女のその眼差しを受け、リュカクも足を止めた。


「リュカクさん……教えてください。なぜ私達を殺そうとするんですか?」


 アミは真摯に、そして切実に問いかける。


 リュカクはアミの問いかけに片眉を持ち上げた。

 それから、まいったな、と彼は心底困った声で呟いた。


「そんなことを聞かれるようになるのか。なるほど、これはたしかに厄介だ」


 リュカクは金髪をかき上げて苦笑いを浮かべる。

 だが、まもなく彼は笑みを消し、アミに冷たい視線を向けた。


「理由は簡単だ。それがオレの《役割》だからだ。それ以上も、以下もない」


 軽薄さの失せた声で告げるリュカク。

 その静かながらに圧のある口調は、一瞬でハヤト達の背筋を凍らせた。


――勝てる相手じゃない。


 ハヤトは直感で理解した。

 けれど、彼はアースタイガーと出会ったときほど動揺しなかった。


 自身の手に触れているアミの手が、かすかに震えていることに気付いたからだ。


 知人に殺されそうだからなのか。

 相手の強さに恐れを抱いているからなのか。


 理由はハヤトにはわからない。だが、NPCらしからぬその繊細な反応に、ハヤトの心は突き動かされた。


――俺はリスポーンができる。だから、せめて相討ちまで持ち込んで、アミだけでも守りきらないと……!


 ハヤトはアミの手を優しく脇に寄せた。


「アミは後ろに下がっていて」

「……ハヤト君」


 アミはなにか言いたげに彼の横顔を見つめていたが、やがてためらいがちに後退した。


 ハヤトは長剣を鞘から引き抜く。

 それを見たリュカクの口角が上がった。


「おとなしく殺される気はないってことか?」

「当たり前だろ」

「そりゃあいい。せいぜい――踏ん張ってくれよな!」


 言うや否や、リュカクは一瞬でハヤトとの距離を詰めた。


 短剣の刀身が迅速にハヤトの喉元に迫る。


 しかしハヤトとて、ただの初級冒険者ではない。

 VRMMOプレイヤーとして磨いてきたこれまでの操作技術は、この場においても遺憾なく発揮された。


――戦闘のコツは、予測とタイミング……!


 ハヤトは迫る殺気を辛うじて読みきり、長剣を構えて初手の攻撃を防いだ。

 そしてすぐさま一歩踏み込み、リュカクの懐に飛び込む。


 重量をもって振り上げられた長剣の一撃。

 だが、リュカクはその攻撃をそつなく避ける。


――くそっ! やっぱり当たらないよな!


 ハヤトは気合のこもった雄叫びをあげ、さらにリュカクに斬りかかった。


 リュカクは防具のたぐいを身に着けていない。

 そのため、一太刀でも浴びせられたらハヤトは優勢を取れる可能性があった。


 けれど、初期値とあまり変わらないステータスでは、長剣をすばやく振るうことも難しい。

 ゆえにハヤトの攻撃は、ことごとくリュカクに避けられてしまう。


――レベルさえ高ければ、対等に戦えるかもしれないのに……!


 ゲームにこなれたプレイスキルを持つからこそ、ハヤトはもどかしい気持ちに駆られた。


 一方のリュカクは、嬉々とした表情でハヤトと相対していた。


「初級冒険者のわりに動きがいいな! さすがは《プレイヤー》だ!」

「――なんだって?」


 リュカクの放った言葉に、思わずハヤトは反応する。


 チュートリアル以外でNPCが《プレイヤー》という単語を用いることは、ほとんどない。

 ハヤトのことをプレイヤーと認知できる者は、ハヤトと同じプレイヤーか、管理者側のプレイヤーであるゲームマスターくらいだろう。


――こいつ、ほんとうに何者なんだ?


 かすかな疑念が、おおきな隙を作る。

 次の瞬間、ハヤトの腹部にリュカクの鋭い蹴りが入った。


「しまった……!」


 体勢を崩し、よろめくハヤトに再び殺気が迫る。


 狙いはおそらく、初手と同じ首筋。

 長剣で防ごうにも間に合わない。


 だからハヤトは、咄嗟に片腕を振り上げた。


 直後、固い衝突音と共に短剣がハヤトの篭手を傷つけて通り過ぎていく。


「ははっ! よく反応したな!」


 リュカクは休む間もなく、攻撃を仕掛けてくる。


 風を切る短剣の音が幾度とハヤトの耳に届き、長剣や篭手と打ち合う音が袋小路に響き渡る。

 かと思えば、リュカクの蹴りや肘鉄が顔面に迫り、ハヤトは必死に身を仰け反らせた。


 斬りと突き、そして体術を織り交ぜた連撃。

 洗練されたその動きはハヤトに反撃の余地すら与えない。


――このままだと、押し切られるっ!


 ハヤトの胸中に焦りが生じる。


 後方に下がれば体勢を立て直せたかもしれない。

 だが、ハヤトはその選択を取らなかった。


 なぜなら、彼の後ろにはアミがいたからだ。

 アミを守るためにも踏み留まらなければならない――ハヤトはそのように考え、防戦に徹していた。


 硬い表情で戦いを見守るアミがどのような心境であるかなど、知るよしもなく。

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