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私達はバグですか? 〜自我の目覚めは、悪夢か希望か〜  作者: ふりったぁ


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第1話 非日常の幕開け

 四足歩行のモンスターが雄叫びをあげる。

 空気を震わせるその咆哮は、地に伏すハヤトに敗北を悟らせた。


 モンスターの足元にはひとりの少女が転がっている。

 彼女の細い首から流れ落ちるのは、大量の血。


 即死だった。

 少女がなすすべなくモンスターに噛み殺される瞬間を、ハヤトはただ眺めていることしかできなかった。


 ザリッ、とハヤトの視界にノイズが走る。

 そのノイズは次第に激しくなり、ハヤトの視界全体を埋め尽くしていく。


 やがて彼の視界は真っ暗になった。





 惨たらしい死が訪れる三十分前。

 早坂裕斗はやさかゆうとは、ひとつのゲームを起動していた。


 VRMMORPG《ラジカルファンタジア》。


 メインストーリーが重厚で自由度が高い、と評判のそのゲームは、専用のヘッドギアを装着することでゲームの世界へ入り込むことができる。


 さすがに五感の直結とまではいかないが最新のAI技術と音声認識機能を搭載しており、ゲームのキャラクターや他プレイヤーとのシームレスな会話を進められることが、特徴として挙げられていた。


 裕斗は自分の年齢に近い十代後半の青年アバターを選び、淡々とキャラクタークリエイトを進めていく。


 赤い短髪。ヘーゼル色の勝ち気な目。

 それがいつも裕斗の作るアバターだった。


 キャラクタークリエイトを終えると、周囲がチュートリアル用のダンジョンの最奥に変わった。

 そこには中性的な容姿をしたゲームの案内人が待機しており、裕斗――もといハヤトに笑顔を向けてくる。


「ようこそ、【ハヤト】さん! チュートリアルを開始しますね!」

「こんにちは。よろしくお願いします」


 ハヤトは試しに当たり障りない挨拶をしてみた。

 すると、案内人は即座に口を開く。


「こちらこそ! ハヤトさんがこの世界を楽しめるよう、精一杯ご説明させていただきます」

「おお。ほんとうに反応してくれる」

「日々AIは進化しておりますので、今後のアップデートにもご期待ください」


 案内人が丁寧に頭を下げる。


「まずはステータス画面を開いていただきます。右手を前方にかざしてください」


 ハヤトは言われた通りに行動する。

 途端、空中ディスプレイが目の前に現れ、体力や攻撃力などの数値が表示された。


「こういう操作感は、他のVRMMOと変わりないんだな」


 なにげなくハヤトは呟く。

 すると案内人は興味深そうにハヤトを見た。


「なるほど。ハヤトさんはVRMMOで遊んだご経験があるのですね」

「まぁ、何回かね。没入感のあるゲームって、現実を忘れさせてくれるから好きなんだ」


 ハヤトはこの空間に案内人しかいないのをいいことに、さりげなく本音を零す。


「学校、勉強、学校、勉強の繰り返し。毎日が平坦で刺激がなくてさ。楽しいことがゲームしかないんだ」

「人生にも息抜きは必要ですからね」

「いっそ死んだ方が気楽かもしれない……って思うこともあるよ。もちろん、本気じゃないけどね」


 軽い調子でハヤトは告げ、案内人の方を見る。


「それで、ここからなにをすればいいんだ?」

「はい! お名前、職業、割り振っていただいたステータスの数値にお間違いがないかをご確認ください」


 ハヤトは案内人に言われた通り、ステータス画面に目を向ける。


「えぇと……名前、ハヤト。職業、戦士。ステータスは……攻撃力と筋力が多めで……よし、問題はないかな」

「それでは、一緒に最初のダンジョンを攻略していきましょう!」


 案内人は茶目っ気のある笑みを浮かべた。


 基本操作は他のVRMMOと大して変わらない。

 そのためハヤトは、特に苦労せずダンジョンを進むことができた。


 すこし意外だったのは、モンスターと戦っているときの描写が思いのほか生々しいことくらいだった。


 モンスターを斬れば血飛沫が舞い、ハヤトの鎧に付着する。

 ただ、その返り血は時間経過で消えるため、あまり不快感はなかった。


「チュートリアルは以上になります。それでは、これからの冒険を楽しんでください!」


 案内人はダンジョンの出口手前で立ち止まり、ハヤトに向けて手を振った。

 ハヤトは軽く頭を下げ、案内人に背を向けて歩き始める。


 そのとき、ハヤトの視界にメッセージウィンドウが浮かび上がった。


【メインクエスト︰初級の冒険者、を受注しますか?】


 ハヤトは文言を見つめながら腕を組む。


 VRMMOの醍醐味と言えば、ゲームシナリオに囚われない自由度の高さ。

 それゆえに、ここでメインクエストを進めないというのも、ゲームの楽しみ方のひとつであった。


――まぁ、このゲームはメインストーリーの作り込みも売りみたいだし。今のうちに軽く触れておいてもいいか。


 あとから戻ってくるのも面倒だしな、とハヤトは考えつつ口を開く。


「受注する」


 ハヤトの音声を認識すると、メッセージウィンドウはおもむろに消えた。

 直後にダンジョンの出口方面から声が聞こえてくる。


「すみません。あなたは初級冒険者の方ですか?」


 そこには、橙色の髪を揺らす少女がいた。

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