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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第2章(アーワの森、ザワワ湖、そして王都)

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第2章(9)実戦投入、オールレンジ攻撃!

作者: 刻田みのり

 爆発音に驚いてポゥが窓から離れて部屋の中を飛び回る。


 しばらく慌てふためいた様子で飛び続けていたがやがてイアナ嬢の前に降り立った。


 ポゥポゥと鳴いたポゥをイアナ嬢が抱っこする。


「よしよし、怖くない怖くない」


 でもそれを言ってる本人も声が震えていたり。


 俺は窓に寄って外を眺めた。


 少し欠けた月が夜空に浮かんでいる。星々が煌めいていたが薄い雲が遠くから流れて来ていた。


 窓の下に見えるのは中庭だ。やや離れた正面には石壁があり数カ所に窓が等間隔に並んでいる。


 左右には塔があり右手の塔はかなり高い位置の窓に明かりがついていた。俺の記憶が正しければそちらは宮廷魔導師たちの部屋があるはずだ。さらに渡り廊下で繋がった別棟には研究のための施設が設けられている。


 視界内に爆発の形跡はない。


 だとしたら、さっきの爆発音は?


 俺が首を傾げるとファストの愉快げな声がした。


「なるほど、闇のか。あやつも懲りておらぬようじゃのう」

「……」


 闇の?


 この場合、闇のって闇の精霊王のことでいいのか?


 俺がさらに疑問を深めていると。


「ふむふむ、闇のに群がるように集まっておるではないか。これは面白い」


 徐にファストが中空を見上げた。


「聞こえておるかの。この件は妾が預かった。そちらの手出しは無用に願うのじゃ」



『ふふっ、私の出る幕はありませんか』



 どこかで聞いたような声が応えた。若い女性の声だと思うが誰のものかは判別できない。


 俺の認識が阻害されているような妙な感覚だった。メンタルバリアだけでは対処できない何かが働いているのかもしれない。


 もちろん認識阻害云々が気のせいという可能性もある。



『わぁ、これ風の精霊王様の力を使っているぴょん? アン(ピーと雑音が入る)も風の精霊王様とお話したいぴょん』

『おい、店ちょ(ピーとまた雑音が入る)の邪魔すんな』

『ええっ、邪魔なんかしてないぴょん。そんな意地悪を言うシャ(ピーとまたまた雑音)にはこうだぴょん』

『うわっ、止めろ止めろ。俺のワンタンラーメンにニラなんて入れるんじゃねぇ』

『ふっふっふ、好き嫌いなくちゃんと食べるぴょん』

『やぁーめぇーろぉーッ! この実年齢三桁ウサギッ!』

『不老不死に年齢はタブーだぴょん』

『あらあら。二人とも仲良くしてくださいねぇ』



「……」


 何だろう。


 めっちゃ緊急事態のはずなのにすげぇ気が抜ける。


 あれか、新手の精神攻撃か。


 その割に魔力回復に還元されないんだが。


 ファストが慣れっこといった表情で告げた。


「ではまた後ほど。次は島で会おうかのう。あのブルーハワイとやらは美味じゃったし」



『ふふっ、そうですねぇ。お待ちしております』



 そこで会話が終わった。


 ファストが俺に向く。


 と、同時にあの中性的な声が聞こえてきた。



『お知らせします』


『風の精霊王ファストからクエストが提示されました』

『女神プログラムにより本クエストは臨時クエストとして処理されます』


『臨時クエスト「王城に侵入した悪魔を撃破せよッ!」』

『正体不明の存在により王城内に五体のグレーターリザーティコアと二十五体のリザーティコアが召喚された』

『このままでは離宮から来た侍女リアだけでなく城内の人々まで犠牲になってしまう』

『一刻も早く敵を殲滅せよッ!』


『クエスト達成条件 夜明けまでに全てのグレーターリザーティコアとリザーティコアを撃破』

『完全達成条件 前述の敵を全てオールレンジ攻撃にて撃破』


『なお、離宮の侍女リアの負傷が確認された時点で本クエストは失敗となります。ご注意ください』



「……」


 おい。


 何だよこの臨時クエストって。


 あと敵の数。


 多すぎるだろ。それにグレーターリザーティコアなんて普通は複数パーティーでの討伐が推奨されるようなモンスターだぞ。


 あとこの完全達成条件て。


 おいおい、俺はまだマジコンレベル1を獲得したばかりだぞ。


 それなのにこの条件はないだろ。


 おまけにリアさんが負傷したらクエスト失敗だぁ?


 ふざけてんのか?


 そもそもリアさんはシャルロット姫付きの侍女だぞ。確かに離宮の侍女だがこんな夜に王城にいる訳ないだろ。


「……」


 それとも、いるのか?


 何か用があって、こっちに来ているのか?


 俺が思考の迷宮で彷徨っている脇でイアナ嬢が気合いを入れた。


「よし、やるわよ。この臨時クエスト絶対にクリアするんだからねっ」

「ポウッ!」


 イアナ嬢がやけにやる気である。


 付属品……じゃなくてポゥも威勢が良くなっているぞ。たぶんイアナ嬢に感化されているだけなんだろうけど。


 俺は頭痛を堪えつつイアナ嬢に訊いた。


「あの中性的な声が聞こえたのか?」

「聞こえたわよ」


 当然でしょ、と言わんばかりに彼女は答えた。うわっ、何かムカつく。


「けど、あたしたちが確認していないのに敵がわかっているって状況はちょっと不思議。あたし、まだ敵の魔力すら感知していなかったのよねぇ」

「……」


 言われてみればそうだ。


 俺も探知をしてみたがはっきりグレーターリザーティコアを認識できていなかった。ただ、何かがいるっていうのは把握できている。それでもその何かが何であるかはわかっていないのだが。


 あの中性的な声は女神プログラムに基づいていると言っていた。それと関係しているのかもしれない。


 ファストがせっついてくる。


「ほれほれ、のんびりしておる場合ではないぞ。もう臨時クエストは始まっておるのじゃ」


 パンパンと手を叩いて急かしてくる。


「お主らがぼけらっとしておるうちに犠牲者が出るやもしれぬぞ。ほれほれ、早う出撃せぬか」

「……」

「……行くわよ。あ、この円盤使っていいんですよね?」


 俺と顔を見合わせるとイアナ嬢は軽くうなずいてからポゥを宙に放ち、部屋の外へと向かった。マジコンの練習に使っていた円盤を拾うのも忘れない。


 イアナ嬢を追ってポゥも飛び出していく。


 俺は銀玉を手にするとファストに目をやった。


 ファストがさらに二個の銀玉を放ってくる。


「……」

「お主なら可能じゃな?」

「……」


 つまり、戦いながらマジコンレベルを上げてこれらも操れるようにしろってことか?


 いいぜ、やってやる。


 俺はニヤリと不敵に笑った。


「当然だ」


 *


 俺たちは城内を慌ただしく走る騎士の一人を捕まえて爆発のあった場所を聞いた。


 どうやら薬草研究棟で襲撃があったらしい。


 薬草研究棟は王城の南側にある薬草園のすぐ近くに建つ研究施設で薬草の研究はもちろんポーション作成や農業用の肥料の開発などもしている。


 お嬢様がラーメン作りをするときにミソやショウユを求めてあちこち調べていたのだが、その一つがこの施設だった。まあ、残念なことにミソもショウユも見つからなかったのだが。


 そんなしょっぱい思い出のある場所が大量のモンスターの襲撃を受けていた。つーか泥のような獣のような生臭さがやけに鼻をつくな。


 建物の正面入り口には既に幾つもの死体の山が積み上がっていた。人の形をしたものが目立つが色合いが黒くてグロくておよそ人間のそれという気がしない。


 吐きそうなイアナ嬢を尻目に俺は奥へと続く廊下を凝視した。


 明かりの消えた廊下は暗いがそれでも完全な闇にはほど遠い。これならまだ戦える。


 ポゥが俺とイアナ嬢の頭上で旋回した。キラキラとした光の粒子が振り撒かれ、光のカーテンとなってすぐ消える。さしたる実感はないがたぶん俺とイアナ嬢の魔力が増幅しているはずだ。


 俺が銀玉を飛ばそうとするより早くイアナ嬢が腹いせとばかりに円盤を一番傍にいるリザーティコアに投げつけた。そのリザーティコアはこちらに背を向けている。何かを食べているようだ。具体的には……考えたくないな。


 円盤がリザーティコアの背中を抉った。


 あ、これって投擲だよな?


 それともオールレンジ攻撃にカウントされてる?


 俺が疑問に思う間もなく別のリザーティコアが二体揃ってサソリのような尻尾を振り上げながら迫ってくる。


 尻尾の先にある毒針が完全に俺を狙っていた。


 あんなでかい針に刺されるなんて御免だ。


 俺はマジコンを使い右手の上に乗せた銀玉を魔力で押し出した。前方へと飛んでいく銀玉が瞬時に飛行速度を加速させる。



 **



 俺の操る銀玉が加速しながらリザーティコアに飛んでいく。


 銀玉は途中でコースを変えて二体いるリザーティコアたちの後ろへと回り込んだ。


 軌道が逸れたからかリザーティコアたちの興味は銀玉ではなく俺たちの方に向けられている。まあ、自分たちに当たらなければ何てことのないただの銀玉だからな。


 しかし。


 俺へと飛びかかろうとした一体の真後ろから銀玉が急襲する。首と胴体の間に命中した銀玉はあっけないくらい簡単にリザーティコアの身体を貫通した。


 勢いをつけたままリザーティコアが前のめりに倒れて動かなくなる。


 もう一体のリザーティコアが動揺するよりも早く銀玉は今度は下から襲った。鈍い炸裂音を伴って背中側の首の付け根から玉が噴出する。そのリザーティコアは俺の足下まで辿り着いたがそこまでだった。ご愁傷様です。


 俺のすぐ後ろでイアナ嬢がぶつぶつと呪文を唱えている。攻撃力を上げる補助系魔法だ。


 すでに魔法自体は発動しているが追加詠唱で効果の持続時間を延ばしている。くっ、イアナ嬢の癖にやるな。


 奥からぞろぞろとリザーティコアたちが現れた。どいつもこいつも揃ってサソリの尻尾を振り上げて俺たちを威嚇してくる。うざい。


「オラァッ!」


 気合いの一声と共にイアナ嬢が円盤をぶん投げる。


 彼女はまだ二つ同時の魔力操作ができておらずマジコンのオールレンジ攻撃というより投擲で円盤を当てているといった感じだった。それでもまあ飛んでいる間はちょっとずつではあるが二つの円盤の軌道を動かせているようだから少しは成長できているのかもしれない。


 そして彼女の円盤にも攻撃力を上げる魔法がかかっている。どうやら俺の分だけでなく彼女自身も対象になるように効果範囲を設定したらしい。


 強化された円盤は斬撃力がアップしておりその凄まじい切れ味で新手のリザーティコアを真っ二つにしていた。縦に分断されたリザーティコアが左右に開きながら倒れる。これはなかなかにグロい。


 円盤がコントロールを失って床に落ちるがイアナ嬢は無視してもう一つの円盤を真一文字に走らせる。それだけで三体のリザーティコアが首を切り飛ばされた。


 イアナ嬢が大活躍である。オールレンジ攻撃恐るべし。


 ……って。


 俺も負けていられないな。


 ギュッと拳を握ると俺は迫り来るリザーティコアたちを睨みつけた。


 *


『確認しました!』


『ジェイ・ハミルトンのマジコンの熟練度が規定値に達しました』

『マジコンのレベルが1から2に上がります』



 八体目のリザーティコアを葬るとあの中性的な声がした。


 よし、これで二個の銀玉で攻撃できるぞ。


 俺は早速二つ目の銀玉を放った。


 意識して同時にコントロールしようとするが……ふむ、結構難しいな。


 これはあれだ、ある種の空間認識ができないと駄目かもしれない。


 最初はなるべく同じ動きをさせるようにして感覚を慣らしていき、その後で少しずつ別の軌道を描くようにしてみた。丁度良いことにリザーティコアが何体も向かって来ている。練習相手には事欠かない。


 俺はあまり移動せずにオールレンジ攻撃の練度を上げていった。


 イアナ嬢も俺に倣ってか無理に前に出ようとせずにリザーティコアを迎え撃っている。相変わらず複数操作は下手くそだが徐々にその動きはましになってきていた。


 俺が十七体目のリザーティコアを倒したとき、またあの中性的な声が聞こえてきた。



『確認しました!』


『ジェイ・ハミルトンのマジコンの熟練度が規定値に達しました』

『マジコンのレベルが2から3に上がります』



「よし、レベルが3になったぞ」

「ええっ」


 イアナ嬢が目を丸くした。


「あたしまだ2のままなんだけど」


 と、メイスでサソリの尻尾を殴打して怯ませると彼女は円盤でリザーティコアの首を切り落とした。かなり手慣れてきているな。


 でもまだまだ二枚の円盤でというのは苦手なようだ。


 どちらかを操ろうとするともう一方がへろへろになる。ちょっと動きが良くなったと思えば何かの拍子に元に戻ってしまう。安定した複数操作ができていないのだ。


 これはもうむしろイアナ嬢は複数操作は諦めて一枚に集中して練度を上げるべきなのかもしれない。そんな気がする。


「……」

「あによ」


 ちょい可哀想に思っていたら睨まれた。怖い。


 八つ当たり気味にイアナ嬢が新手のリザーティコアを真っ二つにする。あの円盤はもう殺戮兵器だな。切れ味がやばすぎる。


「これでここのリザーティコアは全部のようじゃな」


 ファストが欠伸混じりに言った。


 こいつは俺たちが戦っていた間後ろで横に寝転がりながらふわふわと漂っていたのだ。いい気なものである。


「ほれ、階段があるぞ」

「いや、見ればわかるから」


 奥にある階段を指差すファストに俺はついつっこんでしまう。なーんか緊張感が無くなるんだよなぁ。


 落ちていた円盤を拾ってイアナ嬢が深くため息をついた。


「まだグレーターリザーティコアがいるのよね」

「ああ」


 今まで戦っていたのは全てリザーティコアだった。


 確かこの他にグレーターリザーティコアが五体いるはずだ。


 恐らく階段を上った先にいるのだろう。


 めんどい。


 *


 ……とか思ったんだけどなぁ。


 あっさり五体のグレーターリザーティコアを殲滅した俺は三つの銀色の玉を自分の傍に滞空させながら遠い目をした。


 影に沈むようにグレーターリザーティコアたちの死体が消えていく。残されたのは砕かれた魔石だ。ファストがもう瘴気を感じないと確認してくれた。


 建物の二階はなぜかだだっ広い空間になっている。明らかに床面積がおかしい。一階の五倍はある。これ、二階がやたら出っ張った形の建造物になっているはずだぞ。


 でも、外観はただの塔だった。少なくとも二階が一階よりも広いということはない。


 だとしたら、これはどういうことだ?


「ジェイ」


 イアナ嬢が声をかけてきた。


 彼女も疑問を抱いたのかもしれない、と俺が振り返ると。


「モンスターを全滅させたのにあの声がしないわね」

「……」


 うん。


 そうだね、しないね。


 けど、そうじゃないよね?


 もっと別のこと気にしようよ。ね?


 俺が返事をせずにいるとイアナ嬢が眉をしかめた。えっ、俺が悪いの?


「どうやら空間をいじくられたようじゃ」


 ファストが周囲を見回した。


「ここはあれじゃな、いわゆる異空間という奴じゃ」

「ポゥッ!」


 ポゥが同意するように一声鳴く。


「異空間?」


 俺が尋ねるとファストがうなずいた。


「どうも妾たちがここに入った瞬間を狙って転移させたようじゃ」

「いや転移って」

「あたしそんなの全然気づかなかったんですけど」


 イアナ嬢。


 ふん、とファストがつまらなそうに鼻を鳴らした。


「お主らに気づかれぬよう元の空間と異空間を繋ぐくらいあやつには朝飯前なのじゃ。普段はセーブしておるから感知できぬじゃろうがあやつも相応の力の持ち主じゃぞ」

「……」


 ファストの口ぶりだと「あやつ」は俺も知る人物なのかもしれない。


 だが、俺にはそれが誰かわからなかった。


 イアナ嬢も同じらしく頭の上に沢山の疑問符を並べている。


 彼女は訊いた。


「あたしたちを転移させた奴のことを知っているのですか?」

「何じゃ、お主にはわからぬのか」

「え、だって……」


 イアナ嬢が助けを求めるような目で俺を見る。わあ、やめろやめろ。


「……まあ良い。そのうち嫌でもわかるじゃろうよ」


 嘆息しファストが部屋の中央を見遣った。そこには上に続く階段がある。ワォ、いつの間に!


 めっちゃ怪しいんですけど。


 これ、上って大丈夫なのか?


 ここが異空間だと認識したせいで俺の警戒心も強まっていた。


 俺たちがなかなか階段に近づこうとしなかったからか階段の方から近づいてきた。音もなく滑るようにこっちに向かってくる様子はなかなかに怖いものがある。つーか、これってどういう仕組みなんだ?


 ポゥが俺たちの頭上を旋回しながらポウポウ鳴いている。「おい、どうするんだよ。上らないのか?」と言っているようにも聞こえるな。


 イアナ嬢がぎゅっとメイスを握った。


「い、行くわよ」

「あ、おい」


 決断した割にはぎこちない動作で階段を上がっていく。おいおい、右手と右足が同時に出ているぞ。そんなんで大丈夫か?


 ま、まあイアナ嬢一人に任せる訳にもいかないし、俺も行くか。


 俺はウマイボーで魔力を回復させると階段に足をかけるのであった。


 *


 俺たちが上りきった先はだだっ広い部屋の端っこだった。三階(?)は二階よりもさらに広大で俺たちのいる側の壁の他には果てがわからなくなっていた。


 うん、これは異空間だね。改めて納得したよ。


 床は白黒交互の石畳。目がちかちかしてくるし距離感も曖昧になりそうなので正直白か黒のどちらかに統一して欲しい。


 注意深く周囲を観察しつつ壁沿いに進むとやがて右斜め前方に黒い球体が現れた。二階の階段の時のようにいきなりです。


 そして……。


「ふむ」


 ファストが目を細めた。


「あれは確かケチャリムリザーティコアじゃな」


 黒い球体のすぐ傍にはピンク色のケチャがいた。騎士団の詰め所で戦ったあの色違いケチャだ。


 その足下にいるのは……。


「リアさんッ!」


 イアナ嬢の悲鳴が響く。


 ピンクケチャの足下でリアさんが仰向けに倒れていた。



 **



 ピンクケチャの足下でリアさんが仰向けに倒れている。


 すぐさま救出に向かおうとしたイアナ嬢の腕を俺は掴んだ。


「待て」

「待てないわよッ!」


 噛みつかんばかりの勢いでイアナ嬢が怒鳴るが俺は首を振った。


 もちろん腕は掴んだままだ。


 俺はあることに気づいていた。


 そのお陰で冷製さを保てている。


「ふむ」


 ふわふわと宙を漂っているファストが納得したように息をついた。


「随分と馬鹿にされておるようじゃのう」

「嘗められたもんだ」


 俺も同意して肩をすくめた。


「えっ、何?」

「ポゥ」


 ポゥも気づいているらしく一人わかっていないイアナ嬢を憐れむように見ている。


 仕方ないので俺は説明する代わりに銀玉をリアさん目掛けて投げつけた。外さぬよう微調整はマジコンで行う。


「ちょっと! あんた何を……」


 イアナ嬢が抗議の声を発するが俺は無視。


 リアさんに命中する刹那、金属質の音が響いて銀玉が弾かれた。透明な幕のようなものを展開して攻撃を防いだのだ。


「え」


 イアナ嬢が目を白黒させる。おお、驚いてる驚いてる。


「つまりあれは偽者ということじゃ」


 ファストの声が愉快そうだ。イアナ嬢の反応が面白かったのだろう。


 リアさんの偽者がゆっくりと起き上がった。


 ピンクケチャがそれをじっと見ている。


「俺様は親切にも手を差し伸べてやったんだ」


 リアさんだった者がその姿を変化させる。


 まるで二つの姿が入れ替わるようにリアさんの偽者は猫背の男へと変わった。服装まで侍女服からローブになっている。黒地に金糸の刺繍の入ったとてもお高そうなローブだ。


 トカゲとか蛇を連想させる顔つきのネンチャーク男爵が彼の後ろにある黒い球体を指差した。


「くだらない侍女なんて辞めて俺様の女になれば贅沢ができるのにあの馬鹿女は他の男と結婚した。それもこれもこの中にいるリアとかいう離宮のクソ女のせいだ。こいつさえいなければ……」


 つまりあれはネンチャーク男爵本人?


 俺はひょっとしたらこのネンチャーク男爵も偽者かもしれないと疑っていたのだがどうやら違うようだ。


 イアナ嬢が吐き捨てるようにつぶやく。


「どっちがクソよ。この女の敵」

「そもそもこのクソ女だって俺様の女に加えてやろうとしてやったんだ。それを生意気にも断りやがって。どこの出かもわからないクソ女の癖に」

「どこの出かもわからない?」


 俺の疑問にネンチャーク男爵が答えた。


「あ? 知らないのか? この女はどれだけ調べても素性が不明なんだよ。それなのに離宮で侍女なんてやってる。それも第三王女付きの侍女だ。おかしいと思わないか?」

「……」


 おかしいとは思ったが俺は黙っておいた。ネンチャーク男爵なんかに同調したくない。


 ファストがぼそりと。


「そのようなつまらぬことに気を配る奴ではないからのう」

「……」


 あ、これって。


 そういうことなの?


 よく考えたら怪しいところはいくつもあったからなぁ。


「リアさんっって誰かの隠し子だったとか?」


 イアナ嬢が何やら想像したようだ。


 けど、その推測はどうなんだ。


 ネンチャーク男爵がさらに恨み言を続ける。


「俺様が可愛がってやろうとしたのに離宮の女共はあの馬鹿女以外どいつもこいつも無視しやがって。あの馬鹿女も最終的には俺様を裏切りやがって。俺様の兄貴はこの国の宰相なんだぞ。俺様は宰相の弟なんだ。偉いんだぞ」

「……」


 いや、それ全然偉くないから。


 あくまでも偉いのは宰相だよ?


 あんたは偉くないよ。


 てか、こいつ離宮の他の侍女にも手を出そうとしていたのか。


 とんでもないな。


 ま、これではっきりした。


 こいつ有罪。


 俺はさらに二つの銀色の玉を投げた。マジコンで三つの銀玉を誘導する。狙いはもちろんネンチャーク男爵だ。


 適度に痛めつけて抵抗出来なくさせてから捕まえることにしよう。その後は騎士団にお任せだ。


 三つの銀色の玉がそれぞれ三方向からネンチャーク男爵を襲う。


 だが。


 透明な膜のような物が全ての銀色の玉を防いだ。金属質の音があたりに響き渡る。


 俺の下に戻ってきた銀色の玉を傍に対空させながら俺はネンチャーク男爵を睨んだ。


 俺の中で「それ」がささやく。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 これまで耳にしたネンチャーク男爵の悪事が頭の中で再生された。沢山の女性やそのまわりの人がこの男のせいで苦しんだのだ。こいつを許してはいけない。


 俺の体温が上がった。


 ネンチャーク男爵を野放しにしていたらさらに多くの人が傷つけられるだろう。とても許容できないことだ。


 俺は拳を握った。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


「それ」が俺を煽ってくる。しかし、俺はその声をどうにか凌ぐ。並みの精神力では抗いきれぬだろうが俺には可能だ。


 今のところは、だが。


 マジコンに魔力を割いているため使える能力または魔法はあと一つだ。常人離れしてきている俺でもこのあたりの制約はまだかかる。人間が一度に発動できる魔法や能力は二つまでだ。


「やれ」

「キシャァァァァァァァァッ!」


 ネンチャーク男爵が俺に向けて顎で示すとピンクケチャが叫びながら突っ込んでくる。


 俺は咄嗟に銀色の玉を操りピンクケチャへと放った。


 命中した右肩がべこりと凹むがピンクケチャの勢いが止まらない。


 俺は防御結界を展開してピンクケチャの行く手を阻んだ。


 結界の壁にぶつかったピンクケチャが衝撃音とともに弾かれる。尻餅をついたピンクケチャだったがすぐさま起き上がり今度は結界の壁を魔方陣から出したサソリの尻尾で攻撃しだした。


 斬。


 背後から円盤が飛来してピンクケチャの首を切り落とした。


 追い打ちをかけるようにもう一つの円盤が頭を失ったピンクケチャの首を上から下へと斬りつける。


 先の円盤はコントロールを失って落ちていた。


 俺はイアナ嬢が操作対象を切り替えてもう一つの円盤を動かしたのだとわかった。


 彼女のマジコンは複数同時だとかなり難があるが一つに絞ればそれなりにスムーズに動く。


 うん、やっぱりこのやり方で練度を上げた方がイアナ嬢に向いていると思う。


 その思考を読まれた訳ではないだろうがイアナ嬢に睨まれた。何故だ。


「あたしだってこのくらいできるんだからねっ!」

「……」


 対抗されてるなぁ。


 ま、いいけど。


 ピンクケチャが影に崩れるように消え、欠けた魔石が残った。


 頭の中であの中性的な声が響く。


 おっ、ここで臨時クエストの報酬か? 一応指定されたモンスターは全部倒したからな。


 ちょい変なタイミングだけど……ま、いっか。



『警告! 警告!』


『ネンチャーク男爵(悪魔ジルバ)と他の複数の悪魔が離宮周辺に出現しました』


『風の精霊王ファストの提示した臨時クエストの延長として以下のクエストが追加されます』


『臨時クエスト(追加)シャルロット姫を守れッ!』


『ネンチャーク男爵(悪魔ジルバ)が複数の悪魔を率いて離宮に迫っている』

『現在、離宮内部は闇の精霊王によって異空間と分割されており、シャルロット姫は第三層にて保護されている』

『だが、ネンチャーク男爵(悪魔ジルバ)の率いる悪魔たちは異次元からの存在であるため異空間への侵入は可能だ。闇の精霊王も抵抗するが女神プログラムのルールがあるため完全には防ぎきれない』

『冒険者はネンチャーク男爵(悪魔ジルバ)の企みを打ち破りシャルロット姫を守り抜くことができるか?』


『クエスト達成条件 シャルロット姫の生存』

『完全達成条件 中ボス「悪魔ジルバ」の撃破。シャルロット姫の状態回復および生存。闇の精霊王の暴走阻止』


『失敗条件 シャルロット姫の死亡もしくは闇の精霊王の暴走』



「……」


 ええっと。


 俺は結界の外で俺たちを睨んでいるネンチャーク男爵を見た。


 ネンチャーク男爵が両手から火炎を放出して攻撃しているのだが、今は割とそんなことはどうでもいい。防げてるしな。


 つーか、こっちのネンチャーク男爵は本物?


 あと悪魔ジルバって?


 あのぅ、予告なしに新しい奴をぶっ込んで来るのは止めてほしいんですけど。


 あれですか?


 何かの嫌がらせですか?


 そうですね。


 きっと俺の知らないところで悪魔ジルバっていうのが暗躍していたのでしょう。うんうん、そう思うことにしますよ。こん畜生ッ!


 思わず丁寧語になっちまったよ。


 てか、このクエスト内容だと俺の敵は悪魔ジルバたちだけじゃないよな。


 ああもう、何だよ「闇の精霊王の暴走」って、めっちゃ不穏じゃねぇか。


 しかも何が引き金で暴走に繋がるのか、どう対処すれば暴走を止められるのか皆目見当もつかねぇよ。これどうすればいいんだ?



 **



 俺が新たな臨時クエストに困惑しているとイアナ嬢が叫んだ。


「女の敵はとっとと消えろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 魔力というより気合いで威力を高めたような円盤の一撃がネンチャーク男爵の防御を打ち砕く。いやこの場合は切り裂くと呼ぶべきか?


 円盤はネンチャーク男爵の左腕に食い込んだ。


 ネンチャーク男爵の絶叫が響くがそんなものは無視。


 つーか俺も攻撃っと。


 防御結界を解除して滞空させていた銀玉をネンチャーク男爵目掛けて発射。


 避けられても避けられなくてもどっちでもいいフェイント的な攻撃なのですぐにマジコンのコントロールを切り、左腕の腕輪に魔力を流した。ダーティワークを発現させつつどんどん魔力を腕輪に充填させていく。


 俺の中で「それ」が騒ぐ。


 怒れ!


 怒れ!


 怒れ!


 俺は黒い光のグローブが波打つのを意識しながら狙いを定める。粗雑な攻撃ではまた弾かれてしまうかもしれない。相手は手負いだが油断は禁物だ。着実にダメージを与えていこう。


 まあ、一応殺さない程度には加減しないとな。こいつは騎士団に引き渡す。捕まえやすいよう動けなくなる程度に弱らせる方向で。


「ウダァッ!」


 左拳を発射すると轟音を伴って一直線にネンチャーク男爵へと向かっていく。心なしか黒い光がより禍々しく見えるのだが……うん、気のせいだよな。そうに決まってる。だって俺、手加減したもん。


「あれは死ぬな」

「……」


 あ、あれ?


 銀玉はネンチャーク男爵の頭と左肩そして右腕にかすっただけだったが左拳がネンチャーク男爵の胸に命中。


 そのまま嫌な炸裂音とともに胸をぶち抜いた。クリティカルヒット!


「あがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 ネンチャーク男爵の絶叫。正に断末魔の叫びだな。


 て、駄目じゃん!


 おいおい、ちゃんと裁きを受けさせないと。何やってんだよ俺。


 斬。


 追い打ちをかけるようにイアナ嬢のもう一つの円盤が今度は確実にネンチャーク男爵の首を切り落とす。わぁ、やめろやめろ。


 ネンチャーク男爵が黒い影に溶けるように消滅していく。マジか、せめて死体くらい残ってくれよ。


 これ、騎士団に説明して信じてくれるかなぁ。怒られる案件にならないよね?


「よしっ、悪は滅した」

「……」


 いやいやいやいや。


 イアナ嬢。


 滅してるんじゃねぇよ。


 ネンチャーク男爵は最低のクズだが俺たちが勝手に殺していい相手じゃない。こいつは法に則って罪人として罪を償わせるべきなのだ。


 それなのに……ああ、やってしまった。


 あ、殺ってしまったの方がいいのかな?


「のう、お主」


 俺があれこれと言い訳を考えているとファストが声をかけてきた。


「ここでのんびりしている暇はないぞ」

「ネンチャーク男爵は魔石を残さないのね。悪魔ジルバがどうのと言ってたみたいだけど、まだ人間だったってことかしら? それなら魔石はないわよね」

「こやつはこやつでいささか血の気が多すぎるのう。聖女というより妾の眷属のシルフどものようじゃ。こう、好戦的なところとかそっくりじゃな」

「……」


 え、そうなの?


 シルフって血の気が多いんだ。


 もうちょい可憐で優しくて虫も殺せないようなイメージだったよ。本に描かれているシルフって大抵白い衣姿の華奢で可愛らしい女の子だし、とてもそんなやばそうな感じはしないんだけどなぁ。


 ……じゃなくて!


 俺はいろんなものを脇に置いてファストに訊いた。


「これから離宮に向かわないといけないんだよな」

「そうじゃ。でないと確実に闇のが暴走するぞ」

「闇のって」


 俺は黒い球体に目をやった。


「リアさんのことだよな?」

「ほほう、よくそれに気づけたのう」

「いや、臨時クエストの説明とかあんたの口ぶりとかそんな感じだったしな。それにリアさんと話しているときに頭の中で鈴の音が鳴ったりしてたし。いろいろ考えるとただの人間て思うにはちょい無理があるんだよ」

「え」


 イアナ嬢が頓狂な声を発した。


「リアさん人間じゃないの? ああ、確かにポテチをくれたりバタークッキーをくれたりとまるで天使のようだったけど」

「……」


 イアナ嬢。


 お前、そのうち食い物に釣られて誘拐されたりするんじゃないだろうな。


 勘弁してくれよ。


 ……じゃなくて!


 ああ、うん。


 そうだな、精霊王ってウィル教的には十天使なんて言われてるもんな。そういう意味なら天使でも間違ってないんだろうな。


 妙に納得してしまい俺はうんうんとうなずいた。


 とかやってたら……。


 いきなり豪快な破壊音が轟いて俺たちからそう遠くない位置の空間が割れた。


 そこから真っ赤な炎に包まれたマルソー夫人が飛び出してくる。お付きの若い男たちはおらず単独だ。


 右肩には炎……じゃなくて愛と情熱の精霊ラ・ブーム。一仕事こなしたみたいに「ふう」と額の汗を拭う仕草をしているよこのイケメン精霊。


 俺たちを見つけるとマルソー夫人は身に纏っていた炎を消した。


「ジェイちゃん、こんな所にいたんですのね」

「え、ええ、まあ」


 突然のマルソー夫人の出現に俺が戸惑っていると彼女はこちらに駆け寄ってきた。わぁ、これ俺に抱きつく気満々だ。両腕を広げてこっち来るんじゃねぇッ!


 その笑顔もやめろやめろ。


「いきなり城の外に出されてあたくし吃驚したんですのよ。それでもう一度城内に戻ったら近衛の団長さんに捕まってしまいまして。あの方ったら昨年ご結婚されたのに未だにあたくしを飲みに誘うんですのよ」


 さいですか。


 俺は走りながら話しかけてくるマルソー夫人の言葉を聞き流し、問答無用で防御結界を張った。もちろん無詠唱です。


 その結界をマルソー夫人があっけなく突破。


 うん、わかってた。でも張らずにはいられなかったんだよ。


「この人やばいわ」


 イアナ嬢が新たに結界を張った。ぐっジョブ!


「あたくし、仕方なく少しだけ、ものすごーく嫌だったんですけどほんの少しだけお酒をお付き合いしたんですの。だってほら、あの団長さんはメラニア様を愛でる会の会員ですもの。無碍にもできないでしょう?」


 妨害なんぞ全く意に介さないといったふうにマルソー夫人は喋り続けている。当たり前のようにイアナ嬢の結界も破壊したよこの人。悪魔より怖いよ。


「ようやく団長さんから解放されてジェイちゃんのところに行こうとしたら今度はあたくしの前にトカゲとサソリを合わせたような化け物が現れて……あたくし思わず超爆裂魔法を放ってしまいましたわ」

「……」


 え。


 この人、城内で超爆裂魔法なんて使ったの?


 えっ、あれ?


 超爆裂魔法ってめっちゃ危険な魔法だよね?


 しかも拠点攻略とかドラゴン相手に唱えるような魔法だよね?


 それ、城内で使っちゃったの?


 ファストが「ふむ」と息をついた。


「あれじゃな、集まっていたはずのリザーティコアが一体だけ群れからはぐれたのじゃな。いわゆるハーミットドルフィンならぬハーミットリザーティコアか」

「……」


 ハーミットドルフィン?


 聞き覚えのない言葉だったが何となく「群れで行動しないで一体だけで動いたんだな」と思うことにした。


 あとマルソー夫人ならラ・ブームもいるし高火力のやばい魔法を撃っても大丈夫かもしれない。あいつ、ご都合主義的な精霊だし。うん、信じるって大事。


 変な話、仮に王城が大破しても俺関係ないし。それにお嬢様が絡んでいないので無問題です。


 そう思うことにしようっと。


「あぁ、あの爆発音ってそうだったんだ。凄い音がしてたものね」


 イアナ嬢が納得したようにポンと手を打った。


 俺とイアナ嬢が部屋でマジコンの練習をしていた時に聞いた爆発音のことだ。あれ、マルソー夫人の仕業だったんだな。


「お主らまずいぞ」


 切迫した声のファスト。


「あやつがいなくなってしもうた。早く妾らも追わぬと手遅れになるのじゃ」

「え?」

「いなくなった?」

「?」


 俺とイアナ嬢が揃って黒い球体のあった方を向き、マルソー夫人が釣られるようにそちらを見る。


「……」

「……」

「何ですの?」


 黒い球体が消えていた。


 ちょい前までは確かにあったはずの黒い球体が跡形もなく消えている。


 てか、あの中にリアさんがいたんだよな? ネンチャーク男爵がそう言っていたぞ。


 リアさんはどこだ?


 ファストが俺に詰め寄った。


「お主らがもたもたしておる間にあやつだけが離宮に行ってしもうたのじゃ。やばい、やばすぎるのじゃ」

「リアさんが闇の精霊王で暴走したらまずいってのはわかった。じゃあ、俺たちはどうしたらいい? ここから離宮に行くにしてもすぐって訳にはいかないぞ」

「緊急事態ゆえ妾が送ってやる。それくらいならルールにも引っかからぬじゃろう」

「送ってやる……て、おい、そんなことできるんなら最初からそうしてくれよ」


 そしたらリザーティコアの群れとも戦わずに済んだろうに。


「それではお主らのオールレンジ攻撃の修練にならぬじゃろうが」

「別にそこまで急いで修得しなくても……あ、おい」


 俺が言い返しているうちにあたりが急に暗くなった。


 次の瞬間、周囲の景色が一変する。


 星のない夜空にぽっかりと白い満月が浮かぶ草原地帯に俺たちは立っていた。

 

 

 


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