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2:この世界は

「・・・ろ」


「お・・ろッ」


「起きろッ!!!」


 バキッ、という音と痛みで目が覚める。


「うっッギゃあ〜〜ッっッッ?!!?!」


 悲鳴を上げながら、痛みの箇所に触れる。

 腕だ、腕がありえない方向に折れている。


「痛ッ゙てぇ゙ぇ゙ええッ!!」


 痛みに悶えていると、突如とんでもない悪臭が鼻を突き抜ける。

 あまりの臭いに一瞬意識を失うが、腕の痛みで覚醒し、また臭いに気絶を繰り返す。


「おい、起きたか?」


 その声に顔を上げると、2つの穴がある巨大な岩しかない。

 脳内にハテナのマークしか浮かばない。


 試しにとペタペタと触ると、この岩は熱を帯びていて、また少しだけ湿っている。

 恐る恐る穴の中に手を突っ込むと、気色の悪い草? 糸? のような感触と粘着質な何かに触れた。


「ふ、・・・ふがっ、ふががッ」

「ふが?」


 謎の声に再びハテナマークを浮かべた次の瞬間。


「ぶぁッくしょぃい゙ッッッ゙ツ!!!!」


 爆音が鼓膜を破壊した。

 ドロドロと耳や鼻、目から血液が流れ、脳が爆発し仰向けに倒れ・・・・・、ギュルギュルと気色悪い感覚が体を貫き、目を覚ます。

 そして驚愕した。


「えっ・・・? なん・・・で生き・・・」


 先程まで岩だと思っていたモノは岩ではなく、自分を殺そうとしていた醜い怪物だったのだから。

 トロルと呼ばれていた怪物。

 不潔な体に乱杭歯を剥き出しにしながらこそばゆそうに目を細めるソレに脂汗が噴き出す。


「ぅあわぁッ!!?」


 後退りしながらも恐怖でトロルから目は離せない。

 ふっ、と。

 突然の浮遊感に理解が追いつかないまま、気づくとパラシュート無しのスカイダイビングを始めていた。

 眼下には雲が見え、その下には大きな街が見える。

 日本では見たことがない建築様式だ。


「ぅっおおおッ?!!」


 そう言えばさっきから叫び声しか上げていないなと、やけに冷静になった頭で考える。

 それは走馬灯が流れているせいかもね。

 あー、お母さん、お父さん。

 ろくに親孝行もしなかったね、ごめん。

 異世界に来てもまたすぐに死ぬことになるとは、などと考える。

 そうそう、走馬灯って言うのは本能的に助かるために脳が見せるモノらしいのだけど、全く役に立つものがない。

 あのエロ本が良かったとかあのエロ本がクソだったとか。


「このままじゃ、死ぬじゃねぇかぁああああ!!?」


 手足をバタバタと動かし、少しでも落下速度を落とそうとあがく。


 バタバタ〜。

 バタバタ〜。


 おや、心なしか速度が落ちたようだ。

 つーか落ちるどころ浮いてるような感覚もある。


「まさか、背中に翼を授けてくれたのかぁぁあ?!! 我が愛ドリンク、レ◯ドブルよッ!!」


 そう口にしたとき紳士的な声が耳に入った。


「王よ、申し訳ありませんが落ち着いてもらえませんか?」

「ふぇっ?」


 自身の肩を掴む脚、光も吸収する黒い羽。

 金色に輝く目の巨鳥が俺を掴んでいた。


「醜い姿を晒してしまい、申し訳ありません。ですが王はまだ飛行が難しそうですので、このような形を取らせてもらいました」

「な、何なんだよッ!? お、お前はッ!」

「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。王に仕える異形が一匹、カラスと申します」


 カラスと名乗る巨鳥は「すこし、美しいモノを見せましょう」と言うと、ホバリングを止めて急加速を始める。


 ソニックブームを発生させながら、浮遊島の周りを飛んでいく。


 まず目に入ったのはキラキラと煌めく大地に住む、炎の巨人の群れだった。

 体中から噴煙を上げながら大地をガラス化させている。

 子供らしき姿も見える。

 じゃれ合い走り回っている。


 次に宇宙にすら到達する巨大樹と、その周りを8足歩行の亀に似た巨大生物が3匹。

 甲羅から生えた木々がザワザワと揺れると、実りを大地に振りまいていく。


 その他にも多種多様な異形が空を駆け、大地を走り、海を渡る。

 見たことのない景色と、大小様々な異形がそこにはあった。


 やがて浮遊島の中心部に、人工的な壁で囲う街が散見された。

 どこの街でもカラスが近づくと、気付いた人型の異形達が手を振ったり、涙を流し雄叫びを上げる声が微かに聞こえる。


「何をしているんだ?」

「もちろん、王の歓迎で御座います。このドブカス以下の世界で・・・浮遊島に住む美しく、清らかな彼らが王の降臨を心より喜んでいます。あ、私達もですよ、ふふ」


 チラリと浮遊島の真下・・・人間が住む世界を冷めた目で見てから、今度は浮遊島を見て穏やかに笑うカラス。

 人間としての自分は、彼の言っている事が理解できなかった。

 とても恐ろしいとさえ思う。


 だが、異形になった自分は人や獣の形からかけ離れたソレらを見て下腹部がじんわりと熱くなるのを感じた。


「・・・悪くないな、カラス」


 意識せずに出た言葉に、思わず手で口を覆う。


「ええ、ええ! そうでしょう。彼らこそが真のこの世界の民達なのです!! 故にッ! 私達を排斥したドブカス以下のドクソ神を殺さねばッッ!!!」


 一転、笑顔から目を血走らせ怒りを口にした巨鳥に震えが止まらない。


「! これは申し訳ありません。・・・少し寒くなってきたようですね。皆の元に戻りましょうか」


 カラスは最後に甲高い叫びを街に浮遊島全体に響かせ、その場を後にした。







「お〜、デカい城だな」


 俺の言葉の通り、とてもデカい城が眼前にはあった。

 デカすぎて視界に入り切らないほどだった。

 うん、俺には城の外観を説明できるほど語彙力ないからデカくてデカい聖なる城とでもイメージしてほしい。

 ん? できない? はっははは、テメーらも語彙力ゼロのバカってことだな。


 全体的に巨大な異形ばかりのせいで、城もデカいのだろうか。

 そんなことを考えながらカラスとメイドに付き従う。


 しばらくして両開きの扉が目に入る。

 メイドが扉を開くと、少し前に会った異形達が再び頭を下げている。


 そして、あのトロルも。

 夢ではなかった。


「お、お前はッ!」

「くっ、くはははッ! さっきぶりだな、王よッ! なーにビックリしてんだよ」


 確かに殺したはずだ。

 記憶にモヤがかかるほどの戦闘だったが、確かに自分の中にあった不思議な力がこの異形を殺した。

 なのに、なぜ。


「俺はよ、不死身なんだぜ? 死なねぇ門番とは俺のことよ。でもビビッたぜ。鍛え直さねぇとな」


 ニヤニヤと笑い、悪臭を漂わせるトロルが立ち上がり、背中を叩いてくる。

 10mを超える巨人だ。

 手ではなく、指で叩いているのだが。

 ああああああ、不死身? 意味不明だ。


「トロルッ! 不敬だぞ!」  

「怒ってんじゃぁねぇよ、カラス。俺は王に掘られちまったんだ。これからは情夫として生きていくしかねぇ。少しぐらいは軽いノリだって許してもらえるさ」

「じ、情夫?!」

「あん? 王様〜、もう忘れちまったの〜? 俺のガバガバの穴でブッ飛んだじゃぁありませんか〜?」


 クネクネと気色の悪い女声を作り、豚鼻にしながら、大笑いするトロルを見る。

 その言葉と行動に、自身の顎を触りながら記憶を辿る。


 あれは何だ? 鼻の穴だ。

 思い出すのは、喋る2つの穴がある岩。


 鼻の穴からはみ出すあれは何だ? 鼻毛だ。

 思い出すのは岩の中にある、気色の悪い感触の草。


 鼻の内部や毛に付いているあれは何だ? 鼻クソだ。

 思い出すのは草に付いていた、ブヨブヨな粘っこいナニカ。


 つまり・・・・・・。


「ぅ、ゔぉ゙げろろろろろッ」


 トロルの鼻に手を突っ込んでしまったのだ。


「くははははッ!!! そりゃぁひどいぜ王様よ。この俺の処女を捧げたって言うのによぉ」


 キラキラと輝くゲボを吐く。

 メイドが慌てたように背中を擦る。

 優しいね。

 おっぱいも大きくて可愛い。

 やだ、好きになっちゃう。


「トロル〜、もういいかの? 本題に入れんじょ〜。あとカラスの言う通り不敬じゃないかの〜? わきまえよ」 


 その時、しゃがれた声で空気を破ったのは、6つの胸がある腰の曲がったババアだ。


 腕も4本あり、その内2本で杖を突きながら近づいてくる。

 黄味がかった目がギョロギョロと全身を舐るように観察した後、何かを呟いた。


「え? 何て言った?」

「ごにょごにょ、ごにょごにょ〜」

「え? ほんとにゴメン。もっかい」

「ごにょごにょ、ごにょごにょ〜」

「しつけぇッ!! はっきり喋れやっ」

「年寄りは労らんかいッ!!」

「不敬ッ!?」


 残った2本で脳天チョップを食らわせやがったババア。

 死ね。


「お主は、まさしく王じゃ。そして、母なる女王としても相応しい。・・・2つの希望じゃ、カラス。この娘は世界を救ってくれるじゃろうて」

「ありがとう、バァ様」


 バァ様と呼ばれたババアは、一瞬ゾッとするほどの真顔を見せたが、それもすぐにシワだらけの笑顔に変わった。

 気の所為ではない。


「・・・ところで、もう1度お風呂に入られますか?」


 思案していたカラスが、気不味そうに俺を見てそう言った。

 主に腕当たりを。

 それと自分の脚もチラチラと見ている。

 君も大概不敬だね?

 だけど、


「入ります」


 と即答した。





 王がメイドと入浴している最中。


「王としても女王としても、か」

「俺はよ、王が良いと思うぜ」

「だが女王がいなければ我々には後がない」

「俺達が負けると思ってるってか? あぁッ?!」

「そう言う訳では無い。だが、神が創りし人間達と比べ、圧倒的に数が少ない。足りないのだ」

「ならよ、どうするんだよ。王は強いぜ。女王にするにはあまりにも勿体ないだろうが」

「・・・・・・わからん。彼女が王であることは間違いない。女王であることも間違いではない」

「そうじゃ、見事なものじゃ〜」

「すんごいおっぱいだったねッ! 触りたいよ」

「へ、男なら乳より尻だろ」

「殺すぞッ!! ハゲ頭ッ!!」

「・・・もう少し見極める必要がある。もし王の器ではないと判断した場合、女王になっていただく。異論は?」


 王を守護する10匹の異形達。

 自分達が仕える王が入浴を終えるまで、その会話は続いた。

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