『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品
おばあちゃんの和菓子
「お帰り。おやつに大福がありますよ」
「うん、後で食べる」
はあ……また和菓子かあ。
おばあちゃんは和菓子好きだから、おやつには決まって和菓子が出る。
ポテチとか洋菓子なんて絶対に出ない。
コーラとか飲んでみたいのに、家には熱いほうじ茶と冷たい麦茶の二種類しかないんだ。
この間、ゼリーかプリンだと思って喜んだら羊羹だったし……。
「ねえおばあちゃん、もうすぐクリスマスだよ」
「一年経つのは早いわね~。そろそろお正月のお餅の準備を始めないと……」
おばあちゃんは昔の人だからクリスマスには興味が無いんだ。
「ねえタカシ。クリスマスってケーキを食べるんですってね」
ある時そんなことを言ってきたおばあちゃん。これはチャンスだ。
「うん、そうだよ。ぼく食べてみたい」
「ふふ、じゃあ頑張って作ってみようかしら……」
クリスマス当日
「おばあちゃん……これは?」
降り積もった粉雪の上に真っ赤なイチゴがちょこんと乗ってろうそくの炎がゆらゆらとテーブルを照らす。
「すあまのケーキですよ。おばあちゃんケーキ作ったことなくてね。クリスマスカラーが紅白だっていうもんだからね、これはすあましかないって思ったのよ」
うん……たしかにクリスマスカラーだし、形がブッシュドノエルみたいだからそんなに間違っていない気もするけど……こんなのケーキじゃない!! 和菓子じゃないか。
でも――――
ニコニコ笑っているおばあちゃんにそんなこと言えない。僕のために一生懸命作ってくれたんだ。
「……美味しい!! 美味しいよおばあちゃん!!」
「そうかい。それは嬉しいねえ」
「明日はクリスマスか……」
この時期になるとすあまが食べたくなるんだよな。
「買って帰るか、すあま」
目に付いた和菓子屋の暖簾をくぐる。クリスマスイブに一人寂しく和菓子屋か……俺らしくて笑える。
「あ、もしかしてタカシくん!?」
「えっと……ユカリさん?」
二つ年上で近所の憧れだったお姉さんだ。まさかこんなところで会えるなんて。
「わあ、久しぶりだね引っ越して以来だから五年ぶり?」
「そうですね。ユカリさんも和菓子を?」
「うん、ちょっとすあまを買いに、ね」
「え? ユカリさんもですか?」
「あはは。やっぱりキミもか。マチコさんのすあまケーキが忘れられなくてね、毎年買ってるの」
おばあちゃんGJ
「ね、タカシくん近所に住んでるの?」
「はい」
「そっか……じゃあ一緒に食べない? 二人でお祝いしよ、メリークリすあま、なんちゃって」