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【Case:19 感染】4








 麻美の恋人と鹿野の妹から返信があったのは昼だった。鹿野の妹は言われてみれば、と言う感じだったが、麻美の恋人は全く気付かなかったらしい。一緒に見に行った人は同じタイミングでスマホが鳴るのだとしたら、仕事中であろう麻美の恋人が気づかなくても仕方がない。履歴も残らないのだからわかりようがない。


「調べました」


 麻美曰く、怪異が起こっている人は全員男女の二人組だった。しかし、同じように男女の二人組でも怪異が起こっていない人もいる。その差は何なのだろう。脩のように、怪異を受け付けにくい体質だと言うことも考えられるが。


「俐玖さんは何かわかりました?」


 麻美が席から少し身を乗り出して尋ねる。俐玖は「うーん」とうなり、つぶやいた。


「感染、かな」

「かんせん?」


 漢字変換できていない口調で麻美が繰り返すので、「ウイルス感染の感染ね」と俐玖は注釈を入れた。


「え、え? 結局ウイルス感染してるんですか!?」


 麻美が慌てたようにスマホを見る。彼女の声が大きかったので、脩と鹿野も気づいて寄ってきた。まあ、脩は俐玖の後ろの席なので初めから会話が聞こえていた可能性がある。


「そっちじゃないよ。怪異の感染と言うことだよ」

「だけど、俺たちも日下部も鹿野さんも、全員違う映画館に行っているだろう。それに、全国各地に怪異の遭遇者がいる」


 脩が冷静に突っ込みを入れるが、俐玖も落ち着いて「映画館が問題ではないと思う」と答えた。


「こういう感染系の怪異ってたまに出るけど、条件とか経路を探すのが難しいんだよね。脩みたいな人がいると断絶されるし」

「映画が契機だとしても上映を止めたりできないですしね」


 麻美も納得したようにうなずいた。全国的に似たような怪異が蔓延した際は、打ち消す用の魔法陣を配るなどして対応したことがある。


「……あ」


 ファイルをめくっていた俐玖の手が止まる。脩が「何か気づいたのか?」と尋ねてきた。気づいたと言うか。


「電子チケットかな」

「電子? いや、確かに俺たちも電子チケットだったが」


 スマホで予約したので、そのままQRコードをスマホで取得して、それをピッとして入ったのだ。


「そう言えば、あたしたちもそうです」

「俺もだな」


 全員、電子チケットだった。現在では電子のものと紙のものと半々くらいだろうか。若干、紙の方が多いだろうか。


「確か、電子チケットを利用しているのは三十パーセント前後だったか?」


 思ったより少なかった。


「そのうちカップルで、と思ったら……やっぱり少なくありません?」

「他にも条件があるのかもしれないけど……多分、初速が落ち着けば被害も減ってくるだろうし、悪影響はないし……」

「ありますよ! 死ぬほどびっくりしました!」


 まあ、発信元の電話番号が不明なのは怖い。被害者の心臓には悪い。


「って言っても、これではどうしようもないんだよね……スマホケースに呪符でも入れておきなよ」

「雑!」


 これは俐玖の勘だが、おそらくそうしないうちにこの件は片付くだろう。感染力は強いが、条件が狭すぎる。すぐに条件を満たせなくなって消えていくだろう。


「電子チケットと……入場特典、かな」

「ちょいちょい増えていくの、なんなんですかぁ」


 麻美が半泣きで言う。俐玖に言わせれば、増える分だけ条件が厳しくなるので満たせなくなる。怪異が起こらなくなる、と言いたいのだが。


「俐玖、呪符をスマホで撮影するのは駄目か?」

「本体を持っているほどの効果はないと思うけど、大丈夫だと思うよ。まあ、脩は持っていても持っていなくても変わらないと思うけど」

「俺じゃないよ。鹿野さんだよ」


 なるほど。


「日下部、大丈夫だ。鞆江がそんなに気にしていないなら、本当に大したことのない怪異なんだろう」


 落ち着いた口調で鹿野が言った。いや、鹿野はいつでも落ち着いているが。


「こういう感染系の怪異は、よく発生するけどあんまり影響ないよなぁ。起こった方は死ぬほど怖いけどさ」


 幸島も口をはさむ。感染型と言うか、こういう怪奇現象と言えるかもわからない小さな怪異はよく起こるが、確かに人体などに影響があったとは聞かない。


「ないんですか、影響」


 麻美がすがるように幸島に尋ねる。幸島は「たぶん」と答えるので、麻美は絶望の表情になった。そんなに心配しなくても大丈夫だ。たぶん……。


「もうお前、千草さんに占ってもらえよ」


 あ、面倒くさくなって投げた。幸島に言われた通り、麻美は千草の元へ行く。千草は迷惑そうだ。


「鹿野さんはいいんですか?」


 脩が俐玖の後ろで鹿野に尋ねている。というか、男二人がそこに立っていると、見下ろされている感がすごい。


「……いい。大丈夫だろう。たぶん」


 鹿野はそれほど気にしていないようだ。というより、気にしないようにしているのかもしれないが。


 千草に占ってもらっても、大丈夫だと言う確信を抱けなかった麻美は、さらに佐伯に泣き付いてお祓いを受けていた。佐伯も迷惑そうにしていた。


「ええ~。大丈夫だと思うけど」


 そう言いながらもお祓いをして、呪符をあげていた。


「まあ、電波が届きにくくなるとか、不思議なサイトにつながるとか、電子機器に関する怪異はいろいろあるけどさぁ」


 と、佐伯は不安をあおるようなことを言う。それは普通にウイルス感染していても起こりうることなので、見分けが難しいところだ。


 しばらく様子を見ていたが、やはり大丈夫だった。そして、映画公開直後の入場特典がなくなった時点で、同じ怪異の報告は聞かなくなった。俐玖の推測にすぎなかったが、当たらずとも遠からず、と言った感じだったのかもしれない。


 ちなみに、いろいろと水を差された拓夢のプロポーズ大作戦(脩命名)であるが、翌週うまく言ったらしく、俐玖は芹香に満面の笑みで報告された。脩の方には、拓夢から特に報告がなかったらしく、俐玖から聞いて驚いていた。脩は拓夢を一発殴ってもいいと思う。







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


入場特典は特に考えていませんが、たぶんQRコードを読み取るタイプのやつ。

次の章で完結予定です。

今年中に…終わると…いいな…。


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