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【Case:13 占い師】10









「つーか、周りも助けてやれよ。千草さんとか」

「ああいうタイプは女が口をはさむと面倒くさいのよ」


 しれっとして千草は言った。まったくその通りであると思う。うまくあしらえそうだった汐見課長や幸島が不在であることも大きい。


「来宮さんと下野も俺のこと見捨てるし」

「俺が割り込むのか? こじれるぞ」

「俺なんて蔵前さんにとっちゃ下の下の男ですよ。めっちゃ下に見られてます」


 確かに宗志郎が間に入るとろくなことにならない気がする。基本的に彼は、俐玖と同じタイプなのだ。結婚してくれた紅羽に感謝するといいと思う。


 高卒でも下野や麻美のようにしっかり者もいれば、大卒でも蔵前のような人もいる。どちらがいいとは言えないが、人それぞれで人によると思う。俐玖だって大卒だが、自分がしっかりしているとは思っていない。


「対人能力低くないか、この課」

「だから脩や幸島さんが重宝されるんです」


 呆れた様子の瀬川に言うと、「鞆江もできるんだからもう少し頑張れよ」と言われた。自覚はある。


「何より、あれで社会人としてやっていけると思われているのが業腹だ」


 ため息をついて瀬川が言った。学生気分なんでしょうね、と千草。


「大学の延長だと考えているのよ。まあ、無理もないわね。社会人一年目と言うのは、そう言う人もいるわ」

「それで済むんですか、あれ」

「すまないかもね。ま、でも、一つ言えることはあの子は私の課の子じゃない、ってことよ」

「確かに」


 課長補佐二人がドライである。


「待ってください。俺には被害が出ています。このまま押し掛けられたら、課に迷惑が掛かります」


 真面目な顔で脩が主張するが、課長補佐二人はやはりドライだった。


「向坂君が蔵前さんと付き合うようになれば、ひとまず解決するわ」

「お前狙いだからな。手に入ればひとまず落ち着くだろ」

「俺にも相手を選ぶ権利をください……!」


 なかなか切実な叫びで、成り行きを見ていた俐玖と麻美は思わず笑った。


「もしくはお前ら二人、どっちかが仮に向坂の彼女になってやれ」

「そうすると、彼女役に敵意が向くのでは」

「うわぁ。あたしには荷が重いので、俐玖さんにお任せします」

「私がやると大いにこじれて絡まる未来しか見えない」


 俐玖は自分のコミュニケーション能力に難があることを自覚しているのだ。しかも、すでにやりあった後である。麻美の方が能力的に適任であるが、彼女は蔵前に下に見られているので抑止力にならない。


「あきらめて蔵前さんと付き合えばいいんじゃないですか。ていうか、向坂さんの好みってどんなもんです?」


 下野も対処法を口にした。脩は「蔵前さんとは違うタイプがいい」と消極的な好みを口にした。逆に難しい気がする。


「控えめで優しくてかわいいよりかっこいいとかきれい系ってことですか」

「もうそれでいい」


 下野が蔵前をどう思っているかわかる言葉だった。この反対の印象を持っているということだ。


「あの~」


 ひょこっと事務室に顔を出した女性がいた。市役所職員たちのくだらないやり取りを聞いていて、口をはさむ機会を逸したらしい。


「氷月さん、どうしたんですか?」


 尋ねてきたのは氷月ルナこと山田裕子だった。彼女は立ち上がって近づいた俐玖と脩を見比べると、俐玖を見上げて言った。


「忠告したのに、がっつり巻き込まれてるのね……」


 まあ、私の占いなんてただの助言だものね、と氷月は肩を落とす。しかし、占いの精度で考えるとかなり高いと思う。


「鞆江も巻き込まれてるなら向坂も巻き込まれてるものね。部署も違うのに」


 話を聞くために千草が立ち上がって氷月を小会議室に案内した。俐玖も一緒に入って話を聞くことにした。


「それで、どうしたんです?」


 千草が氷月に尋ねると、氷月は「実は」と身を乗り出した。


「怪しい占い師がいるんです」

「占い師って全体的に怪しいと思うわ」


 千草にバッサリと切られてうっと氷月は言葉に詰まる。その前にそっと俐玖はお茶を出した。


「なんというか……霊感商法って言うんでしょうか」

「霊験あらたかだとか言う壺を高値で売り付けてるとか? 消費者生活センターに相談しなさい」

「違います! 最後まで聞いてください!」


 ぐっとさらに身を乗り出して氷月は言った。


「同じ占いの館に店を構えてる占い師の若い男性なんですけど」


 若いそれなりに見目の良い男性なので、それなりに人気があるのだと言う。そして、それなりに占いも当たるので若い女性客が多いのだそうだ。


「なんというか……危険を避ける占いが多いんですよね」


 それ自体は珍しくないらしい。氷月のように人との縁が見えてそう言った占いが得意なもの、失せもの探しが得意なもの、千草は物語の中の探偵のような真相を見抜くような占いが得意だ。同じ超能力を持っていても、若干得意とすることが違ってくるのと同じことだろうと俐玖は解釈している。


「相談客に危険が迫っているから、これを持っていると避けられる、少なくとも最悪の事態にはならない、どこそこの方へ行くときは気を付けるように、って助言をするんだそうです」


 それらも、氷月と同じようにネットで調べることができる。なので、氷月は彼が自分と同じようなホット・リーディングを使った占い師なのだと思った。


「で、これがそのお守りなんですけど」


 と氷月はキーホルダーのようなものを差し出した。男性占い師が危険を避けるために、と客に渡しているもののようだ。


 翼の形をした銀色のキーホルダーに見える。紐がついているので、鞄などにつけることを想定しているのだろう。見た目的に抵抗感が少ないので、付けやすいと言うのもあるだろう。


「その辺の雑貨屋で買ってきたのかしら」

「そうかもしれませんけど、そうではなくて」


 千草が手に取ったキーホルダーを眺めて言ったが、そうではない、と氷月は首を左右に振る。千草が俐玖にキーホルダーを差し出したので受け取った。途端に背筋がぞわりとして体が震えた。


「……これ、本当に危険を避けるためのもの?」

「でしょ! よくないものが染みついていると思うわ」


 と、氷月は俐玖の手の中のものをにらみつけた。彼女は本当に見える人なのだ。透視能力の一種なのだろう。


「つまり、ただの自作自演の詐欺師の可能性だけではなく、実害があるかもしれないのね」

「確かに、これ自体に何か細工がしてあると言うより、後付けのような気がしますね」


 何かよくないものをしみこませているというのが正しいだろうか。俐玖では感知できても、それが何なのかまではわからない。


「魔除けでも一緒にしておけばいいかしら」

「佐伯さんに払ってもらうという手もあります」

「瘴気の中にでも突っ込んでおいたのかしらね。私にはまったくわからないけど」


 千草はよく当たる占いをする人物だが、視えないタイプの人なのだ。


「それにしても、あなたもよく首を突っ込んでいくお人好しね」

「うぐっ」


 氷月が唸る。俐玖たちのことに首を突っ込んだと思ったら、次はこれだ。まあ、今回のことは氷月の客がその男性占い師に引っかかった結果らしい。


「……でも、鞆江さんも結局ぶりっ子女に引っかかったのね……」

「ああ、蔵前さんのことね」


 千草が肩をすくめた。


「あなたの力も大したものだと思ったわ」

「よいデータが取れました」

「……そう言ってもらえると、検査に付き合ったかいがあるわ……」


 疲れた顔で氷月が笑って言った。それから「そこでデータが取れたって喜ぶ当たり、突っかかられてるはずなのに強いわね」と言った。


「まあ、明らかに私よりも脩の方が大変なわけですし」


 実際、蔵前の目が芹香や俐玖から脩に向かったため、女性陣への被害が減っているのだ。多分、今、市役所のほとんどの人が脩に蔵前を引き取ってほしいと思っているだろう。


「ああ、あのイケメン君ね。つまり、彼が鞆江さんの好きな人ってことね」

「は?」


 何を言い出すのかと思って眉をひそめたが、そう言えばそういう話だった。氷月は芹香と俐玖の思い人が大変な目に合う、と言ったのだ。おおむねあっている占いなので、氷月の占いの精度は高い、と言う話なのだが……。


「まあ、外れることもありますよね」


 予知能力だって必ず当たるわけではないのだ。氷月の占いが外れている可能性だってある。まあ、俐玖も脩も被害を被ってはいるが。


「えー、そうかしら。見たときにぴぴっと来たんだけど」

「感覚的……」


 超能力とはそういうものだと言われるとそれまでなのだが。


 それから話をして、例のキーホルダーは預かることになった。俐玖や千草では詳しいことがわからないが、他の人ならわかるかもしれない。こういう時、神倉が異動になったのが痛い。


「じゃあ、あなたも気を付けるのよ」

「えっ、私も?」

「あなた、鞆江と同じタイプね……」


 なんかけなされてる気がする。俐玖は預かったキーホルダーをトレーの上に置いた。千草が氷月を見送ると、俐玖の後ろに立った。


「後で佐伯に見てもらいましょ」

「そうですね」


 俐玖はうなずいてトレーを保留中の結界の中に入れる。それほど強い影響はないだろうが、よくないことを引き寄せているのは確かなのだ。


「キーホルダー? さっきの人が持ってきたのか」


 お茶を入れるのに立ち上がった脩が俐玖の手元をのぞき込んで尋ねた。俐玖は「うん」とうなずく。それから隣に立つ脩の顔を見上げた。氷月がイケメン君と言うだけの顔立ちをしていると思う。蔵前が好きになるのもわからないではない。


「なんだ?」


 半笑いで脩が尋ねた。俐玖は首をかしげる。


「脩が持ったら浄化されるのかな、って」

「いや、俺にはそういう能力はないはずだが……」


 そう言えばそうだ。検証した結果、脩は影響を受けないだけで浄化するような能力はないのだ。だが、彼が影響を受けないということがわかっているので、いるだけで頼りになる。自分が信じられなくても、彼なら影響を受けていないので信じられる。


「……なんか俐玖と話してると和むんだよな」


 蔵前さんと話してたからかな、と脩が息を吐いて言った。俐玖はきょとんと眼をしばたたかせる。ちょん、と額を指で軽く突かれて俐玖は解せぬ、という表情になった。俐玖の方が年上のはずなのだが。二か月だけだけど。








ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


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