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【Case:13 占い師】1







「と言うわけで、梢ちゃん、大学合格おめでと~」

「ありがとうございます!」


 麻美の音頭に梢が嬉しそうに声を上げる。続いておめでとう、と同席者たちの声が続いた。


「俐玖さん、ありがとう。俐玖さんのおかげだよ」


 梢が初めて会ったときの警戒心が嘘のように人懐っこく言った。もともと、明るく気さくな性格なのだろう。梢の向かい側に座る俐玖は微笑んだ。


「梢が努力した結果だね。役に立てたなら何よりだけど」

「ほんとに、英語がずっと足引っ張ってたから」


 にこにこと言って、梢はショートケーキをほおばった。梢の合格祝いとして、駅前のホテルのケーキバイキングに来ているのだ。


「英語って毎日使うのが大事よね~」

「使わないと忘れるもんな」


 梢の兄である脩がいるのは当然として、芹香と拓夢も同席していた。たまたまあったわけではなく、ちゃんと誘ったのである。女四人の中に、脩が一人でケーキバイキングに行くのがちょっとかわいそうだったのだ。脩もそう思ったらしく、初めに彼の弟の透を誘ってみたのだが、就活があるからと断られたのである。


 次点として、脩の先輩である拓夢に声がかかったわけだ。俐玖の友人でもあるし、ついでに芹香もついてきた。芹香と梢は初対面だが、俐玖が話題に出したことがあるのでお互いのことは知っていた。互いに人見知りしないので、隣同士に座った二人はすでに打ち解けている。


「芹香さん、ほんとに美人ですよね……大学の時とか、何着てました? メイクは?」

「ええ~。普通の服よ。メイクは眉を描くくらいだったわね」


 これは本当の話である。社会人になった今はそれなりのメイクをするが、大学生のころの芹香はほぼすっぴんだった。それでも美人なのが芹香である。本物の美人は取り繕う必要などないのだ。


「そうなんだ……普通の服ってどんな服ですか」


 梢は兄二人が大学を卒業しているが、しょせん男兄弟なので参考にならないらしい。麻美は高卒であるし、俐玖はあまり参考にならないため、芹香を連れてきてよかったかもしれない。


「私はワンピースとか、ブラウスにスカートとかね。俐玖はパンツスタイルが多かったわよね」

「私の外見だと、可愛らしい格好と言うのが似合わないからね」


 少なくとも芹香のようなふんわりしたスカートが似合わない。マーメイドラインのスカートが似合うタイプだ。全体的に体の線が出る、大人びた格好が似合う俐玖である。


「俐玖さんのドレス姿とか、見てみたいけど……」

「俐玖、もうすぐ恵那さんの結婚式でしょ。写真撮ってきてね」

「はいはい」

「私も見たいです!」

「あたしも!」


 年少二人組も手を挙げて主張した。もうすぐと言っても、恵那の結婚式は六月だ。アメリカで行われる予定である。


「俐玖さん、国際結婚して出て行かないでくださいね」


 しみじみと麻美が言った。桃のタルトに苦戦していた俐玖は「なんで国際結婚限定なの」と苦笑した。


「だって、お姉さんの結婚式、アメリカなんですよね。アメリカンイケメンが来るわけですよね? そこで恋人できたりとか」

「ドラマの見過ぎじゃないかな」


 友人の結婚式に行って、相手方の友人と意気投合する、という事例は全くないわけではないので完全否定はできないが、純粋にドラマの見過ぎだと思う。


「俐玖さん、外国に行っても言語に困らないですよね。うらやましい……」


 この半年ほど俐玖に英語を教わっていた梢が本気でうらやましそうに言った。俐玖の多言語を操る力は一種の才能である、とは言われたことはあるが。


「そうでもないよ。日本に来たばかりのころは、意思疎通が取れなかったからね」

「だから人見知りになっちまったのか」

「それは元からだけども」


 拓夢に思わず即答してしまった。言葉の通じない日本での生活で、より引っ込み思案になったのは事実だが、もともと俐玖は内向的である。


「……あの、花森さんってお兄ちゃんの高校の先輩なんですよね」

「ああ。そうだな。一緒に剣道やってた」


 拓夢がにこりと笑って梢に答える。強面で口は悪いが、基本的に温厚な拓夢は、年下にも優しい。


「ええっと、警察官なんですよね? 怖い系の職業の人ではなく」


 この言葉に噴出したのは拓夢の対角線上に座っている脩だった。一番遠い席にいる脩を拓夢がにらむ。


「お前な、そう言うところだぞ」

「すみません」


 笑いながら脩は謝る。怒られたのは脩だけだが、俐玖と芹香も控えめに笑った。


「そうよねぇ。拓夢君って顔が怖いわよね」

「よく職質かけられたよね」

「市役所でも美女と野獣カップルで有名ですよ」


 女性陣に口々に言われ、拓夢がうなだれる。これでも結構気にしているらしい。


「……職質は俐玖もかけられただろ」

「フライトジャケットにサングラスだったからね」


 拓夢も似たようなもので、二人して公務員の身分証を出したので驚かれた。なお、職質をかけてきたのは県外の警察官である。


「見た目的には、俐玖と拓夢君の方がお似合いなのよね」

「お似合いと言うか、系統が近いのかもね」


 拓夢の恋人であるはずの芹香がそんなことを言うので、俐玖はフォローがてらそう言った。フォローになっているかわからないが。


「顔立ちは俐玖は理知的だからな。全体的な雰囲気が?」


 さらに口をはさんできたのは、先ほどまで笑っていた脩だ。どうも俐玖が職質をかけられる状況が理解できないらしい。


「遠目で見ると、純粋な日本人に見えないからじゃないかな」


 顔立ち自体は姉の恵那よりも日本的な雰囲気なのだが、やはり俐玖も外国の地が混じっているのだ。女性であるので、そう言ったことに巻き込まれることはめったにないけど。


「俺が職質されるのに疑問を挟まないのは、さすがはお前だよ」


 ちょっと遠い目で拓夢が言った。梢が「なんかすみません……」と小さくなる。


「いや、梢ちゃんのせいじゃねぇよ。梢ちゃんの兄貴のせいだな」

「俺ですか」


 部活の先輩後輩だったとはいえ、ここの二人も仲がいいと思う。


 話がぐるっと戻って、梢は俐玖や芹香、麻美に大学のことやバイトのことなどを尋ねてくる。高卒の麻美は「メイクやファッションやいい感じのカフェなら紹介できるんだけど~」とちょっと悔しそうだ。


「私は大学内のカフェでバイトしてたなぁ」

「お前のいる時間だけ人が多かったよな……」

「拓夢君も居座ってたじゃない」

「誰も寄ってこなさそうだな。逆に拓夢さんはバイトしてなかったんですか」

「してた。本屋で」

「本屋……」

「俐玖は通訳のバイトしてなかった?」

「たまにね。留学中にカフェテリアで働いたこともある」

「言語の壁がない」

「そうかもね」


 俐玖が今のところ、言語に困ったことがないのは事実だ。さすがに、アジア系の言葉は網羅していないので、通じなかったことがないわけではないけど。


「向坂さんはバイトしてました?」

「ああ。家庭教師」

「ぽい!」


 脩と向かい合った麻美が喜んで声を上げた。脩は人当たりがよく、根気もあるので人を教えるのに向いていそうだ。


「お前、教師になればよかったんじゃねーの」

「嫌です。教免自体は持ってますけど」


 持っているのか。いや、確かに教師にはならないが免許はある、という人は結構いるらしい。俐玖の大学時代の友人にもいる。


「同じ大学生って言っても、それぞれなのね」

「そうよぉ。バイトも変なバイトに捕まらないようにね。大学に行くと、宗教勧誘をしてくる人もいるし」

「き、気を付けます」


 しみじみと言った梢に、芹香は微笑みながらも釘をさす。さすがの梢も顔をひきつらせた。楽しいことも多いが、怖いこともあるのだ。


「皆さん、ありがとうございました!」


 たくさん話して、男性陣が少々ぐったりするころに解散となった。元気に梢が頭を下げて、兄とともに手を振って帰って行く。方向が同じ麻美も一緒なので、残ったのは拓夢と芹香のカップルと俐玖だ。


「じゃあ、私も行くよ」


 二人はこれからデートかな、と思って俐玖はそう声をかけたのだが、芹香に腕をつかまれた。


「ちょっと待って。せっかくだから、一緒に買い物でも行きましょ」


 ケーキバイキングでいいだけ食べたので少し歩こう、と誘われて、俐玖は首を傾げた。


「拓夢と二人の方がいいでしょう」

「拓夢君とはいつも一緒だもの。俐玖とも遊びに行きたいわ」

「なんか盛大に惚気られた気がする」


 さらりと言われたが、すごい惚気を聞いた気がする俐玖だった。拓夢は芹香と二人がよかったようだが、芹香の願いに水を差すことはなかった。恋人に甘いのもあるが、彼自身が俐玖とも仲がいいからだ。


「拓夢もごめんね。ありがとう」

「別に。俺はお前のことも友達だと思ってるし」


 憮然とした様子で言われても説得力はないが、俐玖は笑ってそれ以上突っ込まなかった。芹香が俐玖の手を引く。


「ねえ俐玖。双子コーデしない?」


 双子コーデってまだ死語ではないんだな、と思いながら、俐玖は「任せる」と答えた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


お話の中では新年度になります。


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