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【Case:11 初詣】1









 正月二日。官公庁はカレンダー通りの休みであるので、脩も実家でごろごろしていた。積み上げた本などを消化している。


「脩、これから真由美が来る。適当にごまかしておくから、外出していいぞ」


 などと父に言われた。正月番組を見ていた脩は向かい側にいる父を見る。いいぞ、と言われたが、これは外に出ていろと言われているも同然だ。

 父の言う真由美は、父の妹だ。脩からは叔母にあたるのだが、この女性は人に縁談を進めるのが好きな昔ながらのおばちゃんなのだ。いや、世話を焼いてくれるのはいいのだが、余計なおせっかいと言うか、脩は、というか、脩の兄弟たちも彼女が苦手である。

 弟の透は友人と初詣に行ったし、妹の梢は受験生なので、正月でも自分の部屋で勉強中だ。脩だけがフリーなのである。これは必ず絡まれるし、むしろ妹のために自分が矢面に立つべきだろうか、とも思う。


「別に無理しなくてもいいわよ。梢は受験生だから、あの子には無理に出て来いって、真由美さんも言えないもの」


 母も最初に挨拶だけさせて終わらせるつもりのようだ。受験生、と言う言葉は強い。対して脩は対抗できる手段がない。


「……では、お言葉に甘えて」

「硬いなぁ」


 父が苦笑しながら、外出する息子を見送った。脩としてはいきなり家を追い出された感がある。いや、叔母に会うのも億劫ではあるのだが。


 正月二日だし、初詣にでも行こうか。しかし、一人で行くのもむなしい気がする。正月だと言うのに市街地はにぎわっていて、人通りが多かった。ひとまず市街地まで出てきたが、まだ三が日なので閉まっている店も多い。どうしろと。

 仕方がないので、開いているコーヒーショップに入った。普通のチェーン店のところだ。並んでいる間に空いている席を探し、窓際の席を見てぎょっとした。見知った人物がナンパされている。コーヒーを受け取った脩は、まっすぐそちらへ向かった。


「何してるんだ?」


 肩をつかんで話しかけたので、彼女はびくっとしたが、相手が脩であることに気づいてぱちぱちと目をしばたたかせた。


「……おしゃべり?」

「おしゃべりか」


 脩は「男いるのかよ」とつぶやいたナンパ男をにらむ。それなりに容貌の整っている脩が真顔でにらめば、なかなかの迫力だ。びくっとした男はそのまま引き下がっていく。脩はそのまま彼女の隣に座った。


「ええ……なんなの」


 本気でわかっていなさそうにつぶやいたのは俐玖だ。こんな見え見えのナンパに引っかかる知り合いなど、俐玖くらいしかいない。


「ナンパだ。本気で気づいてなかったのか?」

「えっ、そうなの? ナンパって、あれだよね。初対面に近い相手を口説くと言う……」


 ナンパは日本語なので、俐玖には意味が通じづらかったのだろうか。ネットに載っているような解説文を言われた。彼女と会話していると、たまにこういうことがある。


「まあ、そう言うことだ。ついて行くなよ」

「行かないよ。話は聞いちゃったけど」


 むっと子供っぽく唇を尖らせる俐玖は、仕事中に比べると少々子供っぽい。根がおっとりしているのだ。クール系の顔立ちなので、ギャップがすごい。


「というか、脩は何してるの?」

「家を追い出された」

「はい?」


 思わず、家を出たときに思った感想が口をついて出た。これでは俐玖もわけがわからないのは当然だ。


「父方の叔母が正月のあいさつに来るんだ。悪い人ではないんだが、やたらと人に結婚相手を斡旋しようとしてくる」

「ああ……」


 幸島や麻美などが冗談で言うようなものではなく、本当に実が伴っているので逃げてきたのだと言うと、俐玖は「いるよね、そう言う人」とうんうん頷いた。


「俐玖も似たような感じか?」


 脩が尋ねると、俐玖は「違うかなぁ」と手元のマグカップに口をつける。


「両親が母方の実家……ていうか、母の叔母の家かな。そこに行ってるの。祖母が国際結婚したからか、折り合いがよくなくて」


 ハーフの俐玖の母、そしてクォーターの俐玖と姉の恵那に対して、母方の日本の実家はあたりかきついらしい。なお、俐玖の母方の祖父母はスコットランド在住である。祖父がアイルランド人だ、と言っていたので、近いとはいえ矛盾しているのでは、と思ったが、何のことはない。祖父は確かにアイルランド出身のアイルランド人だが、在住はスコットランドなのだそうだ。本当に、俐玖はルーツがややこしい。


「今年は恵那が結婚する予定だし、絶対にもめるから来なくていいよって」


 そう言われて俐玖も正月二日の北夏梅の市街地に繰り出したらしい。正月なので、彼女は織部町の実家に帰っているが、母方の祖母の日本の実家は県外だそうだ。


「なるほど。というか、恵那さん結婚するのか。おめでとう」


 というか、恋人がいるのか。いや、いたらダメなわけではないし、いてもおかしくはない。あんなに美人なのだ。そして、俐玖が純粋に慕うほど性格がよい。


「うん。ありがと。私のことじゃないけど」

「確かに。式はするのか?」

「するよー。夏くらいかな。連休とるからよろしく」

「……どこまで行くんだ?」


 恵那はアメリカの企業で働いている、と昨年のゴールデンウィークに会った時に言っていた。ということは、アメリカで結婚式なのだろうか。


「アメリカ」


 ですよね。それなら連休でもおかしくはない。そして、恵那も国際結婚になるのだろう。だから余計にもめる、と俐玖の両親は考えたのだろう。


「気を付けて、楽しんできてくれ」


 言語の心配をするのは、俐玖に対して失礼だ。言語的にはどこに行っても彼女はコミュニケーションが取れるはずだ。ただ、その能力があるかはわからないが。


「ところで俐玖。俺もしばらく家に帰れないわけだが、よければ一緒に初詣でも行かないか」


 近所の神社になるが、と脩が提案すると、俐玖は勢い込んでうなずいた。


「行く。もし親戚に聞かれたときに、友達と初詣に行ってたって言い訳できる」


 はぐらかすことも可能だが、本当ではないが嘘ではない、友人と初詣、と言う実績があった方が言い訳しやすい。脩もそう言う下心があった。


「俺も同じことを考えていた。もしくはデートだな」

「なるほど。デートね」


 本気にしていなさそうな調子で、俐玖はくすくす笑った。ここまで相手にされないと、脩もちょっと面白くないところがあるが、大人げない気がしたので肩をすくめるだけにした。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本当に1か月ごとに更新している気がします……。


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