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【Case:09 デジタルアート】2










 そうこうしているうちに、解析が終了した。脩の隣から芹香と来宮がのぞき込んでくる。


「やっぱりおかしなところはないですね」

「そうか……と言うか、音無が精神的に異常をきたしていない時点で、絵自体が原因じゃないんじゃないか」


 見た本人が原因だと、来宮が指摘する。しかし、芹香が絵の中に何かを見ているのも事実だ。


「こうなると、絵というより表示の問題でしょうか」

「パソコンか、スマホか、みたいな?」

「と、言うより、コンピューターもしくはスマホ内での信号の変換でしょうか。この変換が影響しているのかもしれません」

「……よくわからないわ」


 そう言って芹香が眉尻を下げる。そんな表情も美人だが、脩はこれ以上説明ができない。脩もコンピューター関係に詳しいわけではないが、やはり基礎知識が違うのだと思う。


「要するに、絵自体に問題はない。だけど、その絵を表示する機械側の機能に問題があるってこと」

「ですが、それだと見たもの全員に影響があるんじゃありませんか」


 どうやら来宮も理解しきれていなかったようで、口をはさんできた幸島にそう尋ねる。幸島は肩をすくめた。


「車だって、酔う人と酔わない人がいるだろ。それと一緒だよ」

「個体差と言うことですか」

「お前が言うと、学術っぽいよなぁ」


 幸島が苦笑して自分の仕事に戻る。芹香が「どうするの?」と尋ねる。


「出力方法を変えればいいんじゃないですかね」

「それ、配色変わらない?」


 さすがの私にもわかるわよ、と芹香。そうか、ダメか。


「ほら……印刷するとか」

「うーん……」


 だが、これは受賞作品を掲載しているもので、そう言ったことができない気がする。谷本と要相談だ。地域安全課としての回答を起案し、福祉課に提出するしかない。


「ま、私が気にすることじゃないわね。俐玖によろしく」


 芹香はカラッと笑って手を振って事務所を出て行く。脩は肩をすくめて回答を作成し始めた。










「あー、なるほどねぇ」


 脩の回答を見て谷本から預かったデータを確認した汐見課長が多角度から絵を確認している。そう言えば、斜めから絵を確認しなかったな、と脩は思った。


「うん。霊的な問題はないかな。けど、精神的作用は僕の専門外だなぁ。そう言うのは鞆江さんかな?」

「そこは千草さんや佐伯さんじゃないんですか」

「心理的な動きと言うのなら私も見られるけど」


 課長席と近い千草が口をはさんだ。いわゆるよく当たる占い師であるところの千草は、相手の心理状況を察するのがうまい。一方、巫女であるところの佐伯は心霊的な動きならわかるそうだが、精神作用的なことはわからないらしい。


「というか、鞆江が聞いても『わからない』って言いそうですけど」


 ばっさりと千草が言った。俐玖は超心理学の研究者であるし、どちらかと言うと千草に近いのだと思う。本人が感応能力の一種であるサイコメトリーを持つので、混同されがちであるが。


「彼女の受信能力は高いと思いますけど、それと、ある一定のものを見ての精神作用を調べられるかと言うと、難しい気がします。統計を取ることは可能でしょうけど」


 千草に冷静に言われ、汐見課長は困ったように「そうかぁ」とうなずいた。どうやら俐玖に無茶振りされることはなさそうだ。ただ、統計はとってみたい、とか言いそう。

 千草の言うことは、俐玖の言うことに近い気がする。もしかしたら逆かもしれないが、どちらにせよ、二人の言うことは人の主観であるものを説明するのは難しい、と言うことで一致している。

 結局、警告文などワンクッション置くことやそもそも掲載をやめる、などの方法をとるしかない、と言う回答文を持って福祉課を訪れた。谷本は「そうですか……」と心なしかがっくりしている。ここで、脩は彼に俐玖のことが好きなのか聞きたくなったが、隣の生活安全課で本人が英語の通訳をしていたのでやめておいた。


「上司と相談してみます。どうするかなぁ……」


 多分、掲載をやめることができないので警告文を置くことになるだろうが、谷本は困惑気味だ。気持ちはわかる。

 とはいえ、脩が首を突っ込みすぎるとややこしくなるので、後で結果を確認してみることにして、「失礼しました」と言って福祉課を出た。ちなみに、福祉課と言っているが、正式には障害福祉課である。

 カウンターになっている事務所から出ると、棚で仕切りをしているだけの隣、生活安全課から俐玖が出てきた。こちらも決着がついたらしい。


「俐玖、お疲れ様」

「お疲れ様」


 ちょっと微笑んで俐玖が返す。異国語話者が窓口にいて、俐玖が通りかかると、高い確率で彼女は巻き込まれる。おそらく彼女は、ヨーロッパ圏のほとんどの言葉を網羅しているためだ。


「でも、専門用語とか出てくるとわからないんだけどね」


 と、彼女は苦笑した。確かに、俐玖は入庁してから地域安全課にしか配属されたことがないため、他部署の業務にそれほど詳しくないのだ。


「なるほどな。確かに、知らないことを通訳するのは難しいよな」

「でしょ」


 話をしながら、課に戻る。数日後、福祉課のホームページを確認し、どのような対処を取ったのか確認した。結局、警告文とワンクッション置くことで対処するようにしたようだった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


次は長めの話になる予定。


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