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【Case:07 学校の怪談】5











「それで、どう? あの鏡が大元なのかしら?」


 アリサを無事に帰してから、千草が尋ねた。両手でマグカップを持って中のお茶を冷ましていた俐玖は小首をかしげる。


「佐藤さんと話すことで力をつけていたようですけど、時系列を考えると、あれは違うと思います」

「そうよね……この学校で何かが起こって、鏡が佐藤さんに話しかけられるほどの力を持った、と考える方が自然よね」

「千草さん、わかってるんじゃないですか。なんで私に聞くんですか」

「確認よ」


 しれっと言う千草に、俐玖は唇を尖らせる。すねたようなしぐさがちょっと子供っぽくてかわいい。見た目がクール系なのでなかなかのギャップである。


「……話してもいいだろうか」


 ふいに低い声でそう言ったのは鹿野だった。寡黙なので存在感が薄いのだ。決して忘れていたわけではない。


「野端に話を聞いてきました」


 鹿野の同級生だという教員の中林のことだ。鹿野は呼び慣れた旧姓で呼ぶことにしたらしい。


「現在の五年生は、四年生の時にもいじめの騒動が起きているそうです」


 千草に報告するモードなので敬語なのだが、妙に淡々とした口調で自動音声を聞いている気分になる。

 四年生の時も、夏休み明けにいじめ騒動が起きたそうだ。無視される、からかわれるなどの精神的苦痛で、その子は不登校になった。この時いじめられていたのは男の子だったそうで、五年生に進級する前に転校した。

 この時、担任だった先生は一応、学級会などで解決を試みたのだそうだ。だが、それはいじめられていた子を追い詰めることにしかならず、その担任だった先生も、春の異動で別の小学校に移っている。

 去年からこの小学校に赴任していた中林は、この一連の騒動を知っていた。しかし、当時は三年生の担当で受け持ちの学年が違うため、特段関わっていたわけではないようだ。こういう問題は、クラスや学年を越えていいものか、確かに難しいところがある。

 もちろん、クラス替えがあるので、当時のクラスメイトは分散されている。それでも、いじめは起こるところには起こるのだ。現状、外から来た脩たちにも確認できるだけで、五年一組と二組でいじめが起こっている。


「……それと、俺がこの小学校に在学していたころ、一つ上の学年で女子児童がなくなったことがあります」


 学年が違う上に性別も違ったため、鹿野は覚えていなかったそうだが、中林は覚えていたそうだ。クラブが一緒だったらしい。当時六年生の女の子で、トラックにひかれて亡くなったそうだ。遺書のようなものが学習ノートから見つかったため、自殺ではないか、という話になったそうだが、結局、事故として片付けられた。


「……あるわね。二十二年前、十月。進藤しんどう香織かおりさん。当時小学六年生、十二歳」

「そんな名前でした」


 新聞のデーターベースを端末で調べた千草が読み上げると、鹿野がそれだ、とうなずいた。


「当時、いじめを受けていたのではないか、という噂もあったそうです。それに、彼女は黒いロングヘアだったそうです」


 以上です、と鹿野は報告を終えて口を閉ざした。まだ断定はできないが、アリサが見た鏡の中の女の子が、この進藤香織ではないか、と言うことだろう。


「二十年前の話だけど、ないとは言い切れないわよね?」

「そうですね……同じようなことが起これば、共鳴して出てくる、と言うことはよくありますし」


 涼花が超能力を発動したように、何かに影響されて別の現象が起きる、と言うことは、千草と俐玖によるとままあることなのだそうだ。


「向坂君の時はいじめってあった?」

「……そうですね。なかった、とは言えません」


 どうしても同世代の子供が集まると、そう言ったことは起きるものだ。日本は学校に対して不干渉を貫くことが多いから、表ざたにならない小さないじめなどが多々ある。脩が小学生の時も、不登校の子はいた。


「日本の学校は閉鎖的ですね。外国なら、警察や行政が介入してきてもおかしくありません」

「あら、そうなの?」

「日本の中学校に通うようになったころ、みんな見て見ぬふりをして誰も助けてくれないことに驚きました」


 日本の小学校に該当する年齢のころ、俐玖はドイツにいた。ドイツの小学校的学校にも、日本人学校にも通っていたが、どちらでも極端ないじめに発展する前に、警察や行政の介入があったそうだ。たぶん、俐玖はそれに助けられたのだろう。日本にいるとヨーロッパ系の顔立ちが目につく俐玖だが、ヨーロッパにいればアジア系の顔立ちに見えただろう。


「見て見ぬふりをする教職員も多いものね。息子の学校でもあったわ」


 千草は中学生の息子がいるシングルマザーだ。

 この学校の教職員も、そうなのかもしれない。見て見ぬふりをしている。もしくは、大した問題ではないと思っている、のかもしれない。

 しかし、これらは脩たちが意見することができる範囲にない。脩たちは、この学校で起こっている七不思議を解決するために来たのだ。いや、すでに七不思議の半分は勘違いだったと思われるのだが。


「隣のクラスから聞こえる異音だとか、ガラスにひびとかは超能力関連よね。やっぱり、糸口がつかめそうな鏡から攻めてみる?」

「私たちは警戒されて、話もできないと思うんですけど」

 何もしないことがわかっているアリサはともかく、脩たちは怪異を払いに来ているわけで。

「それと、明日は私は来れません」

「……」


 国際交流イベントのある一週間。抜けられたのは一日だけだったようだ。














 翌日は、脩たちが学校に行くまでに中林から鹿野へ電話がかかってきた。連絡先を交換していらしい。

 すぐに来て、という中林の言葉に従い、一時間目の授業が始まる前の河原町小学校にお邪魔した。


「えっ」

「あらら」

「……」


 大仰に驚くタイプがいなかったので、反応が薄いがかなり驚いている。学校のあちこちに手形や足形がついている。ここまでくると、ちょっと気持ち悪い。


「今日は臨時休校にしました」


 疲れたように校長が言った。これは仕方がないだろう。児童たちがやってくるまでに、これを片付けることはできない。

 いつもは上履きに履き替えていたのだが、今日は許可を得て靴のまま学校に上がる。あちこちについた赤い手形だが、血ではないようだ。

 玄関から廊下はずっと手形が続いている。だんだん、数が減り始めて手形は五年二組に続いていた。その教室に入る。


「うわぁ」


 思わず声が漏れた。あちこち手形だらけだ。壁も黒板も床も天井も机も椅子も関係ない。異様な光景だが、一つわかったことがある。


「どうやら、五年二組の関係者がかかわっているようね」


 だいぶ後手に回っているとはいえ、これで原因はだいぶ絞れてきた。ここからは五年二組について徹底的に調べて行けばいい。


「となれば話は簡単ね。向坂君、各クラスの名簿もらってたわよね? 写真付いてるやつ」

「はい、会議室に置いてあります」


 脩がうなずくと、千草はニヤッと笑った。


「持ち出し禁止だものね。会議室に行きましょう。鹿野君は手形の写真を撮っておいて」

「わかりました」


 玄関からここまで、すべての写真だろうか。それも大変そうであるが、後で資料にするので必要なことでもある。写真を撮っても、怪異が解消されるとその現象が消えることもあるのだが、現段階では判断できないので、写真は撮る必要があるのだ。頑張れ。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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