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【Case:07 学校の怪談】1

明けましておめでとうございます!


連載も再開です。













 九月に入り、ほとんどの学校で夏休みが開けて新学期が始まった。相談があったのはそれからしばらくしてからのことである。教育委員会事務局を通じて小学校から相談があったのだ。


「懐かしいですね。全部が小さくて不思議な気分です」

「向坂君、大きいからね」


 ともに小学校の廊下を歩きながらからりと笑ったのは、課長補佐の千草だ。相談があったのは、脩が卒業した小学校だった。河原町小学校という。


「鹿野君もここの小学校なんでしょ。懐かしい?」

「……そうですね」


 そう。三人で来ていて、もう一人は鹿野だ。寡黙な彼は脩と千草が話していてもあまり会話に入ってこない。どうやら脩と同じこの小学校の出身のようだが、年齢が離れているので在学期間が被っていない。なので、この件があるまで気づかなかった。さすがの脩も、この寡黙な男とそこまでのコミュニケーションを取れていなかった。彼に比べれば俐玖の人見知りくらい可愛いものである。

 学校はまだ授業中の時間なので、静かに職員室に向かう。一応校長にも挨拶をしたが、実際に話を聞かせてくれたのは教頭先生だった。


「学校七不思議が実際に起こる」

「ええ……どうやら、そのようで」


 初老の教頭は肩をすくめて繰り返した千草の言葉にうなずいた。ちなみに、公立学校なので鹿野どころか脩のころと教職員が入れ替わっている。

 学校七不思議と言うのは、大抵の学校にあるのではないだろうか。この学校の七不思議は、夜中に鳴るピアノ、増える階段、未来が見える鏡、おしりをなでるトイレ、廊下を徘徊する幽霊、真夜中の授業、なのだそうだ。例によって、七つ目はわからない、ということだ。

 脩のころは、トイレの花子さんとか、動く人体模型とか、笑うベートヴェンとかだったが、時代は変わるものだ。こんなところでジェネレーションギャップ。ちなみに、鹿野のころは走り回る二宮金次郎像もあったらしい。脩のころには像はなかったので、どこかで撤去されたのだろう。


「子供たちの間で、これらが本当に起こる、と夏休み明けのころから言われるようになって……最初は私たちも信じていなかったのですが、実際に遭遇した、という児童は増えるし、教職員の中にもそういうものが増えてきまして」

「具体的には、どのようなことが起こっているのでしょう?」


 千草が尋ねると、教頭は全員分ではないが、聞き取りした分の一覧をくれた。教職員と児童で分けているが、ざっと一覧にしているだけなので少々読みにくいし、内容がダブっているものも多い。とはいえ、それぞれA4一枚ずつにおさまっている。


「……後で詳しく確認いたします。それで、学校としてはどこまでの解決をお望みですか? 原因がわかること? もう起こらないようにすること?」

「できればすべて解決していただきたいですが……できなければ、原因を調べて対処方法を教えていただきたいですね」

「なるほど。わかりました」


 書いてもらった申込書にそれを書き込みながら、千草はうなずいた。ちなみに、脩は会話の記録を取っている。まあ、レコーダーにも録音してるけど。


「とりあえず、七不思議の現場に行ってみたいですね」

「……学校の中を歩き回るのは構いませんが、子供たちの邪魔にならないようにお願いします」


 普通に授業もしているのだ。当然の配慮であろう。相談室を一つ、荷物置きに借りて、学校の中を見て回る。


「向坂君も見えるんだったわね。注意しておいて」

「わかりました」


 そういう千草も見える人なのだそうだ。鹿野はほとんど見えないが、気配は感じる、という脳筋な回答をくれた。まあ、そう言う人は鹿野だけではないのだが。

 七不思議のうち半分が夜中に起こることなので、本当に現場を確認してきただけだ。しかも、ピアノは音楽室なので授業中で入れない。トイレは全て確認してきたが、それっぽいものはない。未来が見えるという鏡は、階段の踊り場にある鏡なのだが、別に自分が普通に見つめ返してきていた。階段の上り下りも複数行ったが、段数が増えたりしなかった。


「何も起きませんね」

「昼で人が多いから、っていうのもあるかもね。もしくは、いくつかは枯れ尾花なのかもしれないわね」


 幽霊の正体見たり枯れ尾花、のことだろうか。つまり、幽霊ではなく見間違いとか、気のせいとかそういう意味だ。


「いくつかは、と言うことは、千草さんは本当に起こってる怪異もあると考えているんですか」

「そうね……可能性は高いと思う。集団催眠だとしても、これだけ証言が集まるのは、やっぱり不自然だわ」


 それもそうだ。示し合わせたわけでもないだろうに、同じような証言が集まるのは、やっぱり不自然。脩もアンケートをパラパラめくる。


「子供たち……には無理でも、先生から話を聞いた方がいいですよね」

「そうよね……鹿野君も向坂君も、知ってる先生残ってないの?」

「俺はいません」


 脩が即答すると、鹿野も同じなのでうなずいた。事前に名簿を確認している。


「というか、今では俺たちの同級生とかが先生してるかもしれません」

「なるほど」


 千草が真面目な顔でうなずいた。それから、はあ、とため息をつく。


「こういう初動捜査は課長や鞆江さんの分野なのよ!」

「千草さん……」


 確かに、メンバーが悪い気がする。だが、仕方がないのだ。課長は会議で県庁に行っているし、俐玖と来宮は英語が話せるため観光課に連れて行かれた。特に、俐玖はネイティブなのでなかなか解放されないと思われる。ほかにも神倉や佐伯が見える人だが、この二人は別件で活動中だ。


「地道に話を集めていくしかないわね……」

「録音していけばいいですかね」


 脩も話を聞く気満々だ。児童はわからないが、少なくとも教職員の数人くらいからは話を聞けるだろう。鹿野の話術に期待していないので、千草と脩がやることになる。こういう方面なら脩も役に立てる。

 日中の授業がすべて終わるまで、校内を調査する。最悪、夜の間レコーダーかカメラを置かせてもらうことにする。

 授業がすべて終わっても、教員にはやることが多い。教員の労働時間が問題になっているのだからもう少し何とかできればいいと思うのだが、難しいところだ。そしてそれでも、脩たちは話を聞かなければならない。


「あれっ、鹿野君?」


 放課後、職員室に入ろうとしたところで声がかかった。カジュアルスーツを着た三十歳前後ほどに見える女性教師だ。呼ばれた鹿野が少し驚いたように口を開いた。


野端のばた?」

「結婚したから、今は中林なかばやしよ」


 どうやら鹿野の同級生らしい。どうやら、名字が変わっているため、名簿を見ても気づかなかったようだ。しかし、顔を見てわかるのだから、それなりに仲の良い同級生だったのだと思われた。

 知り合いがいるのならちょうどいい、と千草は自己紹介して中林から話を聞くことにしたようだ。彼女は去年から母校であるこの学校に赴任していて、今は四年生の担任をしているらしい。ちなみに、名は朱音あかねと言うのだそうだ。


「ああ、学校七不思議ね。あれ、結構淘汰されてるんですよ」


 得たい答えが最初から出てきて、千草が身を乗り出した。職員室の応接スペースを借りて話を聞いている。


「学校七不思議、なんていうから、よく聞くものを七つ……というより六つ集めただけなんですよ。だって、私たちが通ってた頃に聞いたやつはないじゃない。でも、その話がなくなったわけではないわ」


 同意を求められた鹿野がうなずいた。やっぱり、トイレの花子さんとか、動くベートヴェンとか、そう言うのがあったようだ。そして、その話もなくなったわけではない。ただ、話されるのは少数になっていて、まとめた際に忖度されてしまったようだ。


「そう言うのも全部書いてほしかったですね」

「ですよね。そう言う話もあったんですけど、多すぎるのではってことになって」


 それで六つにまとめたらしい。絶対に集計したやつが残っているはずなので、それを提供してもらうようにお願いする。


「中林先生も、何か見たり経験したりしました?」


 さらに千草が尋ねると、中林は少し考えてから「思い返せばそうだったかな、というようなのはあります」と答えた。どうやら大らかな人らしく、ちょっとしたことは気にしないようだ。


「戸締りで理科室に行ったら、カーテンが揺れているのに誰もいないし窓も空いてない、とか、そう言うのなら」


 そう言うのでいいのだ。ほかにも後をついてくる足音とか、ピアノの音とかを聞いたことがあるそうだ。

 人間の脳は整合性を取ろうとする。こうしたちょっとしたことなら、特に大人は自分が理解できるように無理やり理由をつけて納得してしまう。そう言ったのは俐玖だった。だから、超能力者は子供の方が多いらしい。

 とはいえ、今は超能力ではなく霊能力がいる。物事の整合性を取りがちな大人がこれだけ経験しているのだから、子供たちに話を聞ければ、もっと情報が集まるだろう。一年生や二年生は難しいかもしれないが、六年生くらいからは話が聞きたい。

 応接スペースとはいえ、パーテーションが置いてあるだけで職員室の一部だ。話が丸聞こえだったため、面白がったほかの先生たちも顔をのぞかせていろいろと話を聞かせてくれた。子供たちに話を聞きたいと思ったが、子供たちから話を聞いている先生も何人かいた。


「うちのクラスに、トイレでおしりをなでられたって子がいたな」

「鏡を見たら後ろに誰もいないはずなのに人が映ってたっていう話も聞いたわね」

「誰もいないはずの教室の窓から、誰かが覗いてたっていう話も来たわ。教室まで行ったけど、誰もいなかったんですって」

「鍵がかかっていないはずなのにドアが開かないとか」

「蛇口から血が流れる、とかね」


 聞いただけでも色々出てくる。それは建付けが悪いのでは、というような内容もあるが、すべてを切り捨てることはできない。原因を調査するために、脩たちは来たのだ。

 いろいろと話を聞くことはできたが、話を聞くだけではどうしようもないため、やはりレコーダーは設置しておくことにした。それにしても、夜の学校と言うのは怖い。雰囲気がある。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


連載停止から約一か月。新年ですし、一章分ですが、投稿再開です。


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