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【Case:20 引っ越し】6

最後!







 十一時ごろに事態は終息したが、帰宅したころには夜中の零時を回っていた。俐玖は唸ってソファに倒れこんだ。


「う~。さすがに疲れた……」

「俐玖、そこで寝るなよ。冷えているだろう。風呂に入った方がいい」


 勝手に部屋のエアコンを入れ、浴室に湯をために行きながら脩は俐玖の肩をたたいた。俐玖は身を起こして着替えを出すべくクローゼットを開けた。体力的に俐玖が先に入るべきだ。


「ごめん、後始末任せていい?」

「いいぞ。三十分経っても水音がしなかったら見に行くからな」

「うん」


 寝るな、と言うことだ。甘やかされているなぁと思う。


 先に風呂に入った上に先にベッドに入って寝ていた。一応、ベッドに入った時点では脩を待っているつもりだったが、いつのまにか寝ていた。体が痛くて目を覚ますと、脩と抱き合っていた。そう言えば、昨夜、客用の布団を出すのが面倒くさくて出していなかった。


 下にしている方がしびれている気がする。少し態勢を変えようと身じろぎ、脩の背中に手を回して縋りついた。


「……さすがに今日は無理だぞ」


 俐玖がもぞもぞしているのに気づいたのか、脩が俐玖の背をなでながら言った。俐玖は顔をあげて脩を見上げる。


「……腕が痛い」


 下になっている方の腕が痛いのだ。別に誘ったわけではない。脩は「なるほど」と苦笑して身を起こした。俐玖もベッドに手をつく。


「ダブルベッド、買おうかなぁ」

「さすがにこの部屋に入れるには大きくないか?」


 俐玖のアパートの部屋は一人で使うには大きめだが、ダブルベッドを入れるには少々狭いかもしれない。しかし、シングルベッドで二人が寝るから狭くて寝返りも打てないのだ。


「脩の体格がいいからだよ」


 芹香と寝たときはそこまでではないので、たぶん体格のせいだと俐玖は思っている。


「ベッドを買い替えるくらいなら、同棲しないか」

「……朝っぱらから真顔で言うことじゃないね……」


 そう言うことはもっと別の時に言うべきだと思う。まあ、最適な時と言うのは俐玖にもわからないが。


 とにかく、仕事に行かなければ。昨日の怪異について後始末がある。とりあえず封じた影も何とかしなければならない。


「仕事行きたくない……」


 脩の方に額を押し付ける。俐玖だってそう言う気分の時はある。脩は頭をなでながら「仕事は常に行きたくないものだ」と真面目なトーンで言い出すので、俐玖は笑ってしまった。ちょっと元気が出た。


 米を炊いていなかったので朝食はパンだ。スープとオムレツくらいはつけておく。二人で朝食を食べ、二人で出勤した。


「もはや二人とも取り繕う気もないですね」


 一緒に出勤してきた俐玖と脩を見て下野が言った。同じく早めに出てきていた麻美も「ラブラブですよね。うらやましい……」とちょっと恨みがましい。恋人とうまくいっていないのだろうか。


 昨夜長時間停電していたが、特にデータ等には問題がなかったようだ。なので、窓口も平常通りに開いている。あとは、怪異を何とかするだけだ。対処療法でいくつか処置したことと、現在朝であることが働いて怪奇現象は起こっていない。しかし、佐伯が昨日呪符で封じた影のようなものはそこにいた。


「では、照射します」


 業務用ライトが壁に照射された。昨日の俐玖の発言に基づくものだが、庁舎の廊下なので距離が短い。こんなに近くで照射してもいいのだろうか、とちょっと思ってしまった。熱くなって燃えたりしないといいのだが。


 しばらく照射していると、こもったような、しかし甲高いような悲鳴が脳内に響いた。耳から聞こえると言うよりも、脳に直接響いている気がする。耳をふさいだが効果はない。


 だんだん悲鳴が小さくなり、フェードアウトするように消えていく。悲鳴が消えた後も、しばらく照射していた。


「消えました?」

「いえ、一時的に力が弱まって、形を維持できなくなっただけね」


 確認した佐伯がそう判断したが、おそらく、引越しが済むまではこのままだろう、と言うことだった。宗志郎が頑張って調べた結果、前回も同じように力を弱めることはできたが、完全に祓うことはできなかったようだ。そのために封じ、封じた壁の前に棚を置いた。


 それがもう二十年以上前の話であること、そして引越しのために棚を動かしたことで影は動き出し、その力に引きずられて怪異が多発したようだ。


 大元の影を封じたので、これ以上怪異が増えることはないが、消えることもない。実害のある怪異は排除したので、残りはそこにいるだけの怪異なのだが……。


「ひぇっ!」


 窓の方を見た麻美が悲鳴を上げた。みんながそちらを見る。


「何?」

「い、今、窓に赤い手形が……!」


 俐玖は少し考えて「ああ」とうなずいた。俐玖も見たことがある、以前から出る怪異だ。


「大丈夫だよ。ちょっとぎょっとするけど」

「そうそう。気にしすぎると仕事にならないわよ」

「俐玖さんも藤咲さんもスーパードライですね!」


 席の近い二人に冷静に指摘され、麻美は涙目だ。いつも怪異事件にかかわっても気にしていないのに、これだけ囲まれて頻繁に目撃しているとちょっと違ってくるようだ。というか、麻美の霊視能力が上がっている気がする。


 害にならない怪異は放置していた。そもそも、鬼見の才がないと見ることができないから、いてもいなくても一緒なのだ。苦情があった際は対応している。


「もう仕事納めまで三日だからなぁ。三日の辛抱だ」


 幸島がパソコンから目を離さずに言った。あと三日で仕事納め。年始からは新しい庁舎に移動するので、この旧庁舎での仕事もあと三日だけなのだ。ほとんどの機材や資料を新庁舎へ運んでしまったため、ここには最低限のものしかなく、なんとなく空間が広く、寒々しい。物がないため、窓も余計に目に入るのだろう。


「ま、最後の最後に面倒なことには巻き込まれたよな。みんな、お疲れさん」


 幸島が笑ってみんなをねぎらった。瀬川も「今日は金曜だからな。土日はしっかり休めよ」と言うので、最後まで働かせるつもりなのかもしれない。


 帰り、更衣室のロッカーを開けると、中におじさんがいた。変な意味ではなく、おじさんの霊が膝を抱えていた。ロッカーの中にはすでに今日着てきたコートくらいしか入っていないのだが、俐玖は思わず一度ロッカーのドアを閉じた。


「え、どうしたんですか」


 隣にいる麻美が尋ねてくるが、俐玖は一列回り込んで佐伯に声をかけた。


「佐伯さん。呪符ありますか」

「あるけど、どうしたの?」

「ロッカーを開けたらおじさんが」

「おじさん」


 ぽかんとしながらも、佐伯は呪符を渡してくれた。礼を言って受け取り、自分のロッカーにペタッと張った。


「ええ……開けちゃダメな奴ですよ、見た目が」

「貼ったから開けてもよくなるんだけどね」


 三十秒ほど待ってから開けると、おじさんは消えていたのでコートを取り出す。呪符は張ったままにしておく。


「……おじさんがいたんですよね」

「いたね」

「俐玖さんのロッカーに呪符が貼ってあったら、隣に移動したりとかしないんですか」

「……するかもね」


 少し考えてから麻美の言葉にうなずくと、麻美は「佐伯さん、あたしにも呪符ください!」と佐伯の元へ向かっていった。確かに、月曜日に出勤しておじさんがいたら嫌だ。


「遅かったな」


 外に出ると、脩が待っていた。俐玖は「ちょっとロッカーでね」と先ほど見たおじさんの話をする。おじさんがゲシュタルト崩壊しそうだ。


「それは……気持ち悪いな」

「だよね」


 うんうん頷きながら一緒に歩く。寒い。星空がキレイだ。


「俐玖」

「何?」


 空を見上げていた顔を脩の方へ向ける。脩もこちらを見ていた。


「前に言った話。本当に一緒に暮らさないか」

「えっ」


 確かに、数日前にそんな話をした。したが……。


「やっぱり、こんな帰宅途中に言う話じゃなくない?」

「そうかもしれないが……だが、嫌ではないんだな?」

「……そうね」


 そう、嫌ではない。付き合うようになって半年近くがたつが、出かけるのも一緒に泊まるのも嫌ではなかった。喧嘩をしたこともあるが、今のところ長続きしたことはない。それに。


「親にももっとセキュリティーのしっかりしたところに引っ越せって言われてるし」

「ストーカーに遭ってるからな、お前」

「うん……」


 別に今住んでいるアパートがセキュリティーがしっかりしていないわけではないが、学生も住むようなアパートなので、中の中くらいだ。脩と一緒に住むと言えば、そんなに口出しされない気がする。


「俺も実家にいると、俐玖のことあれこれ聞かれるんだよな……」

「わあ」


 弟の透が間に入ってくれるそうだが、いろいろ聞かれてさすがの脩も辟易しているらしい。それは大変だ。


「それで思い出した。正月にでも、一度うちに来てくれないか。梢も会いたがってる」

「あ、梢、帰ってきてるんだ」


 進学で家を出た梢も、年末年始で帰ってきているそうだ。それは俐玖も会いたい。


「ありがとう。同棲のことも、話し合おう」

「そうだね」


 ゆっくり歩いていたが、俐玖のアパートの前に到着した。脩はつないでいた手を離す前に言った。


「明日、迎えに行くから」

「うん」


 明日はクリスマスイブだ。イルミネーションを見に行こう、と約束をしている。俐玖としては現地集合でもいいのだが、ほとんどの場合、脩が迎えに来てくれる。


「あと、部屋に入ったら連絡をくれ」

「脩、送ってくれたときいつも言うよね」


 安全確認のためであるし、前科があるので言い返さないが、ちょっと面倒くさいと思っている俐玖だ。


「じゃあ、また明日。お休み」

「うん。お休み」


 暗証番号のセキュリティーを突破し、エントランスに入る。エレベーターに乗って上に上がると、自分の部屋に入った。玄関で靴を脱ぐ前に脩に一報を入れる。面倒くさいと思っているが、そうしないと脩がそこから動かないのだ。


 面倒くさいと思っているが、大事にされているのだな、とも思い、少しくすぐったい気持ちになる俐玖だった。







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


いや、本当にありがとうございます。

これで完結です!

最後までお付き合いくださった方、誤字脱字を報告してくれた方、ありがとうございました!


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