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【Case:20 引っ越し】3

あけましておめでとうございます!








「瀬川君、ありがとう」


 汐見課長がにこにこと礼を言う。中でいろいろやっても全くびくともしなかったのに、外からは開いた。まあ、怪異にはよくあることなのだが、なんとなく納得がいかない。


 俐玖は脩の胸を押して腕から離れる。脩も自分がまだ俐玖を抱きしめていたことに気づいたようで、手を離した。瀬川の後ろから宗志郎と藤咲がのぞき込んだ。


「災難でしたね」

「原因、わかってるんですか?」


 藤咲が首をかしげている。それがわかっていれば苦労していない。というか、ここに地域生活課の十二名のうち七名が集まっているわけだが。


「僕の腕時計、四時三十二分何だけど、あってる?」

「あってますよ」


 どうやら時間の流れがずれている、と言うこともなかったようだ。本当に閉じ込められていただけらしい。その一点のみに集中したため、力が強力だったのかもしれない。


「まあ、課長たちが無事でよかったんですけど、今、庁舎全体が怪奇現象の真っただ中なんですよね」


 さらっと瀬川がとんでもないことを言った気がする。宗志郎と藤咲を見ると、二人ともうなずいている。俐玖たちが閉じ込められた倉庫だけの話かと思ったら、庁舎全体の話だった。つまり、俐玖たちが閉じ込められたのは倉庫の中にあった呪物ではなく庁舎についた怪異のせいだったというわけだ。


「うん……まあ、この庁舎にはなにかいるなぁとは思ってたんだ」


 苦笑気味に汐見課長が言った。それには俐玖たちも気づいていたが、悪さをしてくることはなかったのでみんなが見逃していたのだ。それが、引越しをすることになって急に現れてきた。


「うーん、置いて行かれると思ったのかな? 環境が変わると急に怪異が出ることってあるけど」

「庁舎の歴史をさらってみましたが、いわれのある土地ではないんですよね……」


 宗志郎が困ったように言う。どうやら庁舎に怪奇現象が発生した時間と、俐玖たちが閉じ込められた時間はほぼ同じようだが、そこからこれまでの間に彼は庁舎の歴史を総ざらいしていたらしい。


 庁舎内でも怪奇現象が起きていたので、全然帰ってこない俐玖たちも何らかの怪異に巻き込まれたのだろうと思われたそうだが、まあ、たぶん大丈夫だろうという判断によりここまで救出が延びたらしい。確かに大丈夫だったが、もっと早くに救出してほしかった。寒かった。


 とはいえ、庁舎も停電しており、暖房が稼働していないためそれなりに寒かった。それでも、自分のコートなどを取りに行けるのでまだましだと思っておく。地域生活課に戻ると、はい、と麻美からカイロを渡された。開封してポケットに入れる。貼るやつじゃなかった。


「さてさて。どうなってるのかな?」


 いつもの調子で汐見課長が尋ねた。この人はいつも落ち着いているので、なんとなく安心する。


「停電中です。ブレーカーが落ちているわけではなく、配電施設も無事です。自家発電も動いていないので、原因不明です。現在、復旧を試みていますが見込みがないため、すでに市役所を閉じています」


 淡々と千草が説明をした。俐玖たちのように閉じ込められることはなかったようだが、停電したので当然、自動ドアなどは開閉できなくなる。ここは手動で開けることができたが、自家発電も動かないので役所が機能しない。そこで市長は今日は役所を閉めることにしたそうだ。おそらく、今頃ニュースになっている。


「なるほど。システム的な復旧は任せて、僕らは怪異的な面からアプローチしてみようと言うことだね。ここにいないメンバーは調査に出かけてるのかな」


 幸島と鹿野、下野は不在だ。この三人は調べに出かけているらしい。俐玖たちも落ち着いたら向かおうと思う。


「俐玖」

「ありがとう」


 脩にマグカップを差し出されたので受け取る。入っていたのはコーンスープだった。ケトルが使えないので、カセットコンロの薬缶で沸かしたお湯を使っている。


 両手でマグカップを包み込むと、じんわり指先が温まってくる。かなり冷えていたのだなと自覚した。


 庁舎内が怪奇現象の中にあると言うのなら、起こっている現象を拾い集めなければならない。すでに五時を過ぎているので、外は暗く、室内も非常用のランプの明かりだけだ。みんなの顔がぼんやりしている。


「あっ」


 マグカップに口をつけた俐玖は、ぼんやりと見つめていた書棚の方に影を見て声を上げた。麻美がびくっと飛び上がる。


「何々!? なんですか!?」

「俐玖は思わせぶりな態度が怖いよな」


 飛び上がった麻美に対し、脩は平然としているがさらっと言うことがひどい。


「いや……この部屋の中、いるなぁとは思ってたけど」

「ひぃぃぃいっ」


 汐見課長が俐玖の見つめていた方と同じ方向を見ながらそんなことを言うので、麻美が悲鳴を上げる。確かに彼女は怪奇現象を怖がるところがあるが、こんな過剰反応は普段はしない。もしかしたら、この雰囲気が怖さを増幅しているのかもしれない。


「怪異が怪異を誘発しているのかもしれないねぇ」

「どれだけ怪異がたまってたんでしょうね」


 のんびりと言う汐見課長に、ややうんざりぎみの瀬川。汐見課長の様子を見る限り、役所の全機能が停止している以外は影響がないのだろう。


「麻美は脩の側にいなよ。怪異の影響が少ないと思うよ」

「いや、俺だって自分が影響を受けないだけだぞ」


 確かに、脩の影響を受けないと言う特異体質は、本人の体質であるので周囲にいても別に恩恵はない。俐玖のように特殊な状況で影響がある場合もあるが、これは例外だ。


「いっそ、強引に引っ越しちゃってもいいんだけどねぇ」


 がたがたっと窓、と言うよりものが揺れた。これは怪奇現象と言うより。


「ポルターガイストかな」

「怪奇現象だな」


 俐玖と宗志郎の声が重なった。ただ、少し距離が遠かったので宗志郎は気づかなかったようだが。


「それってどっちも一緒じゃないのか」

「いや、まあ、ポルターガイストも幽霊だけどさ」


 俐玖の隣に立っている脩が尋ねてきたので答える。厳密に言うと、ポルターガイストを起こす幽霊は通常の幽霊と違うはずだが、俐玖はこの辺はそれほど詳しくないのだ。


「ポルターガイスト現象は幽霊が起こすものと、念動力の能力者が無意識に起こすものとがあるからね」


 そして、圧倒的に後者の可能性の方が高い。


「けど、ここに鹿野さんはいないぞ」

「鹿野さんがポルターガイスト現象を起こすとも思えないけどね」


 そう言うと、俐玖はマグカップを置いて立ち上がった。


「私も調査に行ってこようかな」

「俐玖、お前はこっちで資料を読み込む係だ」

「はーい」


 宗志郎からお呼びがかかり、俐玖は肩をすくめて宗志郎の元へ向かった。暗い中懐中電灯の光で探すので難易度が高い。


「じゃ、向坂君は私と一緒に調査に行きましょ」


 佐伯がじっとしていられなくなったのか言った。麻美は引き続き、連絡係として居残りだ。それを見て瀬川も名乗り出る。


「なら、俺も行こう。藤咲はどうする?」

「私も行きます。二手に分かれた方がいいですよね」


 なんだかんだで簡単に役割分担がなされていく。というか、藤咲は子供は大丈夫なのだろうか。一応外には出られるので、帰ることは可能なのだ。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


一応、外には出られるが、外からは入れない。


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