愛しいあの子
「あ!そういえば今日は愛しいあの子の誕生日か!
それで俺が、薪割り担当なのねぇ〜。」
玄関に着き、水桶を降ろした途端、
”ひらめいた!”
と言わんばかりの顔で、アオ兄がこっちを見る。
「アオバ様の優秀な弟、ヨウ君は、
もちろんちゃぁんと作戦を、練ってるんだろうなぁ〜?」
今日一番のニヤニヤ顔を、向けてくる。
「なっ、何が”愛しいあの子”だよ!ただの幼なじみ!」
赤くなりそうな顔を必死で抑えて。
顔を背けることで、何とか誤魔化す。
…見られて…ませんように。
「はいはいっ。
じゃあまあ、家のことは俺に任せて!
夕方の誕生日会までに…今日こそ覚悟、決めてこいよっ!」
顔をそむけてたから。
必然的に、アオ兄に向けるはめになっていた、無防備な背中を。
軽く、”パンッ”と、叩かれる。
ーー覚悟。
…そうだ、今日こそ。
…俺は、言う!言ってやる!
「じゃあ...ちょっと出掛けてくる。」
そそくさと家に入り、準備を済ませ玄関に向かう。
いまだ水桶の近く、
玄関口に立っていたアオ兄が
「いってらっしゃ〜い!
ーーヨウの笑顔は太陽だから。自信持てよ。」
俺には絶対、
言う事のできないような、恥ずかしいセリフを。
真っ直ぐに、俺の目を見て。
真剣な表情で、伝えてくる。
…かと、思ったら
「ま、何事も、当たって砕けろってことだよ。」
コロッといつものニヤニヤ顔に戻り。
今度は痛いくらいに、”バシィッ!”っと、背中叩かれた。
「くっ、砕けないよ!」
そう!
砕けないために…
…ミッションを、クリアする!
「いってきます!」
頭の中で、再度作戦を確認しながら。
いつもより浮き足だつ気持ちを抑えて。
麓の街、ジャアナへ向けて、山を降り始めた。
ーーー【黒の再来】まで、あと8時間21分ーーー