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黒の悪魔が死ぬまで。  作者: 曖 みいあ
第三章:来たる日に備えて
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あの日の記憶




「もう少し離れて…そう…。



よし、じゃあ…解除するよ。」




ヤマトの肩をポンと叩いて、



派手男との距離を、

もう少し取ってもらってから




(ルナ、ありがとう。)




俺は、近くを漂っていた


クラゲのルナに、心の中でお礼を言って




発現していた

実体を消すチカラを解除した。






「はぁ。やっとかー。」



少し離れた場所にいた派手男は



いきなり現れただろう俺たちに


特に驚いた様子もなくつぶやいて




「久しぶりだなー。


元気にしてましたかー?」




軽い口調で、話しかけてくる。




ただし



「おんぶだなんてさー


…何のマネだよ?」




その顔は、


1ミリも笑っていなかった。







「元気でしたヨ!


お待たせシマシタ!



次は、僕たち2人で、仲良く戦いますヨ!


あ、でも全っ然、卑怯ではありませんからネ!」





真顔の派手男とは対照的に


ヤマトは、爽やかな笑顔で返事をした。





そんなヤマトの周り



透明になるチカラを解除した結果


心の声が、薄紫色の付箋となって舞い落ちる。





その1つを読んでみると



【派手な人、心配してくれるなんて優しいネ!】







…ヤマトって


(素で、こうなんだなあ…。)



少し、ホッとした自分がいた。






そして


本来の目的である、

派手男の付箋に視線を向ける。



【さっきの消えてた時間に…作戦会議か?】


【こいつら、何を企んでる?】


【卑怯じゃなく…2人で?どういうことだ?】




(よしっ!

この距離なら、ちゃんと読める!)



俺は内心ガッツポーズをして。




ヤマトの戦闘を


無事サポートできそうだと安心した。







「秘密の作戦会議か…。


それとも、体力の回復か…?



まあ、シオンってガキのチカラに


回復系は無かったは…。」





「うぉーっと!


ここからは、申し訳ないが2対1だ!」



派手男がうっかり


俺のチカラについて話しそうになったので



少し不自然なテンションになりつつ、


俺は、急いで言葉を遮った。




「ただ…2対1でも、


俺は…おんぶされているだけ。


卑怯なことは…しない。



正々堂々、戦うつもり…だよ。」



俺は、堂々と嘘をつくことに


少し罪悪感を感じて。




語尾が弱々しくなりながら


それでも何とか、言葉を繋いだ。







「その通りデス!正々堂々!



僕たちの苦しみは気にせず、


アナタは全力で戦ってくださいネ!」




ヤマトも、俺に続いて、


相変わらず爽やかな笑顔で宣言した。




「僕たちの、苦しみ…?」



1人、


流れがよく分かっていないらしい


派手男を待つこともなく





「いこう、ヤマト。」



そう言って俺は、


背中側からしがみつくように回した


ヤマトの肩周りにある両腕に、力を込め



ポンっと、合図のように、


ヤマトの右肩を叩いた。





「あいあいサー!」




そう言って



ヤマトは勢いよく


俺をおんぶしているとは思えないほど


素早いスピードで



派手男に、突進していく




「いきなりかよっ!


勅令するーーナナ、滑り寄れ。」




派手男は


少し後退りながらも、素早く勅令して。




ーービュンビュン!



一瞬で


派手男のまわりに、あの黄色い紐とヘビが現れた。





「タァッ!!」



そんな紐の波に怯むことなく、


ヤマトは足を蹴り出し



勢いそのままに、突っ込んでいく。






【まずは、厄介な右足を狙うか。】



「ヤマト!右足が狙われてる!」



【地面に沿って、死角から攻撃しよう。】



「地面から!死角から攻撃がくる!」



【左右から一気に攻撃すれば…。】



「次は、左右からの同時攻撃だ!」






俺はひたすら、


目に付いた付箋を

片っ端から大きな声で読み上げる。




「ラジャッ!」


ヤマトはその都度、軽い返事をして


ギリギリで、派手男の攻撃に対応していく。






(よし、この調子…。)





【次は、太陽を利用して上から。】



「上からくる!太陽の方向から!」



【一気に5本で攻める!】



「5本で一気にくる!避けて!」







「ヤァッ!」



ヤマトは、俺の指示を受けて


正確に、俊敏に動く。





(この調子…





…いや、やっぱりダメだ…!)





互角に戦えている…ような、気がしていた。





でも、実際は


かろうじて、大きな攻撃を避けられているだけで



基本、防戦一方。




そして、細かい攻撃は、

確実に、ヤマトに当たってきている。






(俺から指示しても…


どうしても、タイムラグがある。



付箋を読んでから動いたって…


防御も、ましてやこちらからの攻撃も


戦闘に慣れた派手男相手には、間に合わない。




消える方のチカラも

使うタイミングが…俺には、分からない。



このままじゃ…負ける。)






少しずつ、追い詰められていく感覚。




(どうしたら…!)





そんな時




『あの派手男を

お前たち”2人で”どうにかしろよ。』




頭に響く、ノヴァンさんの、声…。




『”2人で”は、言葉通り”2人で”、だな!』







(そうだ…もっと昔に…


似たことを、誰かに、言われた気が…。)






『信じられる人と、”2人で”一緒に、ね。』






(そうだ。あの山で…あの日…


母さんのチカラを、初めて、共有した時に…。)





『私達一族の、

特別な、チカラの使い方よ。



シオンもこの先きっと…



チカラを共有できる人


信じられる人が、必ず現れるわ。



その時は、仲良く”2人で”、ね?』





(どうして、忘れてたんだろう。



いや、あの後すぐ、母さんは…。


だから、忘れたかったんだ。)




そうだ。


信じられる人と、チカラを共有する。



それが、俺のチカラの、使い方だ。




(母さんのことを忘れていても…


俺は、さっき…ヨウと。


自然と、チカラを共有したじゃないか。



ヨウとなら出来るって、思ったんだ。




そして、俺は、ヤマトとも…。)







「ヤマト、


あいつから、一旦離れて!」




「分かった!」




ヤマトは俺の指示を素直に聞いて


派手男から、かなり距離を取ってくれた。







「まーた作戦会議か?



ま、俺もさすがに5本の操作は疲れたから


休憩したかったとこだけどー。」



そう言って、


派手男も遠くで、一息ついているのが分かった。







「シオン?どうしましたカ?」



ヤマトは、俺を背中から降ろして


不安そうな顔で、俺に声をかける。




【シオン…大丈夫カナ?】


【身体、痛いのカナ?】


【助けてあげたいのに…悔しいヨ。】


【僕がもっと、強かったらナ…。】




周りの付箋からも


ヤマトの優しさが、伝わってきた。







「俺…


ヤマトに、謝りたい。」



俺は、まっすぐにヤマトを見つめる。



「俺の手…握ってくれないかな?」



そう言って、右手を差し出した。





「良いですヨ!」



ヤマトは、何の疑いもなく


俺の右手を、左手で握り返す。




手のひらの温もりも


ヤマトの優しさのように思えた。









「こ、れは…すごい、綺麗ですネ!」



ヤマトは眼を輝かせて、


キョロキョロと、周囲を見渡した。




「俺のチカラ…黙ってて、ごめん。


俺…。」



「シーっ!」



俺の謝罪は、ヤマトに遮られた。





「もう少し、読ませてくださいネ。」





人の付箋は、何度も、いつも、見ていた。



でも、自分の心を、人に見せるのは、初めてだった。






「シオン…。


謝らないで。怖がらないで。



アナタは、とっても繊細で、


とっっても優しい人ですネ!」



ヤマトは、笑顔で言った。




そして



「僕の方こそ…ごめんなさい。



シオンは、本気で

叔父さんを助けたいと思っているのに。



僕は、武術とか、


自分のプライドばかり、優先してイマシタ…。」




そう言って、手を繋いだまま、


勢いよく、俺に向かって頭を下げた。



「やめてよ!


俺の方が…っ!」




「でもっ!


シオンが信じてくれて、嬉しいデス!




信じてくれたから

こうして、共有できているんですよネ?」



俺の言葉を遮って、


今度は勢いよく、顔を上げたヤマト。



その顔は、心底嬉しそうだった。






「…うん。


ヤマトのこと、信じられるよ。」



俺は少し恥ずかしくて


うつむきながら、返事をした。





「はいっ!


僕も、シオンを信じてイマス!




では、今度こそ…


一緒に、あの人を倒しまショウ!



”2人で”、ネ!」




ヤマトは、握る手に


痛いくらいの力を込めて言った。





「本当に、”2人で”戦う…



今度は思いっきり

チカラを、共有する!



ここからが、本番だ!」




俺たちは、再度握手を交わして


力強く、同時にうなずいた。




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