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黒の悪魔が死ぬまで。  作者: 曖 みいあ
第三章:来たる日に備えて
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作戦のための作戦



俺が、ヤマトに抱きつき


勅令したのと、ほぼ同時に



「くそっ!」



「イタァッ!」



俺の、予想外の行動に


驚いたらしい2人は


それぞれが、違うリアクションをとった。





「ご、ごめん…!


でも、少しジッとしてて…。」



俺は、決意と共に

勢いよく抱きついたせいで


怪我をしてるヤマトの身体に

無駄に力を込めてしまったことを謝りつつ。




(ヤマトは、俺の一部…!


だから、一緒に、透明に…!)



さっき、

投網を透明にした時と同じ要領で



チカラと意識を、コントロールする。




そうして、

意識を集中するために黙った俺を



不思議に思ったらしい、ヤマトは…




「どうしたんデスカ?


ハっ!もしかして、怖いんデスカ?


ヨシヨシ…。」



そう言って、


右半身に抱きついて固まった俺の頭を


空いた左腕でポンポンと撫でた。





「ち、違うっ!


ちょっと、ほんとに動かないで…!」



ヤマトの左腕を静止しつつ。




すぐ目の前に立つ派手男の様子を、


息を潜めて、静かに見上げる。





(チカラは同時に使えないから、


付箋は読めないけど…。



…視線は、合わないな。


よし、ちゃんと、2人とも消えてる!)




派手男は、その場で


何をするでもなく。



ただ、

何かを考えてはいるような顔で


足元を見つめて、立ち尽くしていた。






「おーい。


聞こえてますか?」



そんな派手男に、


少し大きめの声で呼びかけてみる。





(投網の作戦の時は、


ひとまず、気配を消して近付いたけど…。



実体は消えてても、


音や声は、消えてない可能性もあるし…。)




俺は、

そんな実験の意味で、声をかけた。




すると…




「ハーイ!


聞こえてマス!」



隣で、嬉しそうに返事が返ってきた。





「…。


目線で分かるでしょ。


ヤマトに話しかけてるんじゃないよ。」




「エー!


シオンって、ちょっと冷たい人ですネ。」




「…。人付き合いは、得意じゃない…かな。」




こんな会話をしている場合じゃないのに。




ついつい、素直なヤマトに釣られて


素直に返してしまった。





「そ、そんなことより!



やっぱり、派手男には聞こえてないみたいだ。



ちゃんと、実体だけじゃなくて


声や気配も、透明になってる。」




「透明、デスカ?」




「そう、俺のチカラ。


さっきの勅令で、

自分を透明に…つまり、消したんだ。




あと、俺だけじゃなくて


俺が触れて(自分の一部だ)って、


強く思うことができれば、



そいつも一緒に、消すことができる。」





「ワオ!


つまり今…


シオンと一緒に


僕の身体も、消えているということですネ!」




ヤマトは嬉しそうに


目の前の派手男に左腕を伸ばした。




「その通り。だけど…。」




思いっきり伸びた、ヤマトの左腕は



ギリギリ届いた派手男の足元を…




やっぱり、すり抜けていった。





「そんな感じで…



消えてる間は、


相手から触れられない代わりに…


こちらから触れることも、できない。」




「オォ!面白いネ!


おばけになった気分デス!」



ヤマトは、

すり抜けた左腕の感覚を味わうように


少しだけ振り回して、


嬉しそうに微笑んで言った。






「ヤマトに、作戦があるんだ。」



「作戦、デスカ?」



俺は、ノヴァンさんの言っていた


”2人で戦う”ために。




思いついた作戦を、


”手短に”、ヤマトに伝える。




「…という、作戦なんだけど。


どうかな?」




急遽思いついた作戦。


そして、実行するのは、ほぼヤマトだ。



俺は、遠慮がちに、返事を待つ。




すると…




「…嫌デス。」



ヤマトは、


プイッと顔を背けて言った。





「…嫌?


ダメ…じゃなくて、嫌?」




俺は、作戦にダメ出しをするでもなく


”嫌”という言葉を使ったヤマトに引っかかり、問い直す。




「何が”嫌”なの?」





「だって、それだと…



シオンも混ざっての戦闘…


つまり、2対1デス。



卑怯者の、やることデス。」





「…。」



作戦内容、どうこうじゃない。


根本的に、何かが違う。




「…ヤマト。


これは、武術大会とかじゃないんだよ。」




「大会じゃないのは分かってマス!



でも…


いくら彼らが悪の組織でも…



卑怯な方法で勝つのは、


僕の武術家としての精神が、ユルサナイ。」






「…。」



まっすぐに、目を見て言われると


俺も、どう返したらいいのか、分からなくなる。




(ヤマトの気持ちも、分かる…。



でも…


今は2人で戦わなきゃ、勝てない…!)






必死に、頭を働かせる。



何か、ヤマトを説得する方法を…



やる気の出る、言葉を…。




(そうだ…!)




「ヤマト。


俺たち、2人で戦っても


全っ然、卑怯なんかじゃないよ。」



俺は、ハッキリとした口調で告げた。







「エ?卑怯じゃ、ナイ…?」




「そう…。


だって、俺の考えた作戦



”ヤマトが俺をおんぶして戦う”



想像してみてよ…


これのどこが、卑怯なの?」




俺は、畳み掛ける。




「作戦、なんて


だいそれたこと言ったけどさ。



実際、俺をおんぶして戦ったって…


戦闘中に、視線が、一人分増えるだけだよ?



しかも、戦闘経験ゼロの素人の、俺の視線。



そこまで、卑怯なことなのかな?」





実はさっき、この作戦を


ヤマトに、”手短に”、説明した。




そう、簡単に。つまり…



”ひとまず、おんぶして戦ってほしい”


”派手男の攻撃が来る方向を伝えるから”


…とだけ。




「怪我人のヤマトが、


戦力外の俺を背負って戦う。


ちょっとだけ、

攻撃を見る”目の数”は増えるけど…



それ以上に、

背負ってるハンデの方が、大きいよね?」




俺はこのまま、


”本当の作戦”について、


深くは、説明しないことに決めた。




要するに、俺のチカラ…


『付箋を読む』と、『実体はあるが、姿は消える』


この、勅令放棄で使えるチカラを、



ヤマトには、教えない。




そう、ヤマトには悪いが…




(こっそりチカラを使って…


ガッツリサポートさせてもらう!)





ひとまず今は、


そんな心の中を、悟られないようにして




「ほら、想像した?


怪我した武術家のヤマトが


戦闘素人の俺を背負ったハンデ戦!



むしろ、修行じゃない?


強くなるために、追い込んでるよね?ね?」




俺は、一気にまくし立てた。




(俺の心を読むチカラ、


ノヴァンさんから、事前に聞いてませんように…!)




最後に一つ

気がかりだったことを誰かに祈り



一か八か、ヤマトの反応を待った。




すると…




「た、確かに…!


シオンの言う通りデス!」




ヤマトは、瞳を輝かせて


俺の肩を掴んで、元気よく言った。




「まさに!アレですネ!


勝つために

自分たちを不利に追い込んで…



火事場の馬鹿力…!


秘めたパワーを引き出す、アレですネ!!



すごい作戦…シオンは天才ですヨ!」




今にも立ち上がりそうなほど、


ヤマトは嬉しそうにソワソワし始めた。




「そうそう!


さすが武術家ヤマト!


逆境にこそ立ち向かう、男の中の男!」



俺は、ホッと胸をなでおろし


ヤマトと同じテンションで、返事をする。




(良かった…。


”作戦を実行させるための作戦”、成功…。)






「じゃあ…ヤマト、怪我は大丈夫?」




「ハイッ!


シオンのシャツで縛ったので、

血も少しずつ止まってきマシタ。アリガトウ。


それに、じーっと座っていたので、


すっかり体力も戻りましたヨ!」



ヤマトは笑顔で言った。



そんな、

ヤマトの怪我を見て、俺は気付く。




「血…。

そうか、流れた血は、地面に…。


それで派手男は、ジッと待ってるのか…。」




派手男が、


俺たちを探す素振りを

一切見せないわけが、分かった。




ヤマトから地面に滴り落ちた血は、


俺のチカラから離れて、実体として現れていたんだ。




だから、俺たちが逃げずに、


ここにいることが


派手男には、分かっていた。




そして今も、


チカラが解けるのを、待っている…。





「よし。


じゃあ、おんぶ、よろしく。


2人で戦おう。


もちろん…卑怯じゃない方法で。」





「ハイッ!


自らを追い込んで、勝つ!


僕は、武術家ですからネ!


シオンを守ったまま、勝ちますヨ!」




「…頑張ってね。


応援だけ…するから。」





そうして


俺をおんぶしたヤマトは


地面を見つめる派手男の前に、仁王立ちした。


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