決着と開戦
チカラを解除した瞬間、俺は
「そぉれっ!!!」
”いつも使ってる時の掛け声”と共に
思いっきり、
掴んでいた”あるモノ”を、
できる限り上へと、引っ張り上げた。
ーーヒュン!!!
チカラを解いたので、
俺と同じく
いきなり実体があらわれた”あるモノ”。
派手男は、
たぶん予想だにしていなかっただろう。
”あるモノ”は、
ヤツの足元から、一気にその身体に迫り…
「来たなっ…うぐぅ!!」
派手男を、一気に拘束して。
地面に転がった派手男は、
変なうめき声をあげた。
(成功したっ…!)
「っ…なん、だ。これ…っ!」
派手男は恨めしそうに
自分を締め付ける”あるモノ”を睨みつける。
「お前、自分自身だけじゃなくて…
”モノ”まで、消せんのかよっ!!」
そう、
派手男に睨まれている”あるモノ”とは…
…俺が愛用している、”魚を捕る投網”で。
今回の作戦は、こうだった。
まず俺は、小屋で
愛用の、川魚を捕る投網を触る。
普段愛用してるから、
何とか、(自分の一部)だと思って
服や靴のように、消すことが出来た。
そして実体のなくなった俺と投網は
派手男に近づき、
実体を消したまま、投網を
派手男の足元…
つまり、地面に。広げてセッティングした。
この投網は、
持ち手の紐を引っ張れば、
その網の口が閉まり、魚が逃げられなくなる…
そんな、魚を追い詰めて
捕獲するタイプのもので。
「絡まって、動けねーっ!」
今まさに、俺が引っ張ることで
投網の出口は閉まり、
派手男は、成人男性には窮屈な
その狭い投網の中で、もがいていた。
(このまま、締め上げる…!)
俺は、
地面に転がった派手男を睨みながら
手の力を緩めず、
さらにキツく引っ張り上げた。
「イテテ!ったく…!」
派手男は、相変わらず
変なうめき声をあげている。
あげてはいる、けど…
(気絶までは…程遠い、かっ!)
派手男をよく見ると…
その瞳は、黄色く
派手に、輝いたままで。
「いくら足元に、
いきなり出てきたからって…
こっちだって警戒して
ナナの紐、張り巡らせてたんだぜ?
実体が戻った瞬間…
俺のナナの紐に、触れた瞬間
この網にも反応して、
ちゃんと絡まってんだよ。」
派手男の言う通り…
よく見ると、派手男を守るように
ヤツの身体には、黄色の紐が、
身体と網との間に、
ガードするように、割って入っていて。
黄色の紐は
俺が投網を締め上げるごとに、
網に抵抗し、派手男を守るため
太く、柔らかく変化しているようだった。
「それに、防御だけじゃねー…
この距離なら、お前にも、届くぜっ!」
ーーヒュン!!
「ぐっ!!」
俺は、勢いよく飛んできた
1本の黄色の紐に絡め取られて。
派手男のすぐ近くで
ヤツと同じように、地面に転がった。
「んじゃー
さっさと気絶しろっ!!
消えんじゃねーぞっ!!」
派手男は、
また、俺に消えられる前に
一気に絞め落とすつもりなんだろう。
黄色の紐が、容赦なく、
ギリギリと、身体に食い込んでいく。
「くっ…!」
苦しくて、無意識に
喉から、悲痛な音が出た。
(またっ…消える、か…?
でも、同じ手は、もう使えない…っ!)
苦しくて、
冷静に考えるのが、難しくなってきた。
でも、俺は…
(消えたら、この網も、掴めなくなる。
この網だけは…離したく、ない…!)
俺は、握りしめる投網を
できる限りの力で、引っ張り上げた。
「ぐえっ!
まだこんな力が残ってんのか…
じゃ、何で消えねーんだ?
やっぱこいつ、無口だし、意味分かんねー。
まっ、俺は助かるから良いけど。
ほーら、いい加減、諦めろっ…!」
派手男の、高揚した声と同時に
黄色の紐の圧が、さらに強まっていく。
(っ…ここまで、か…。
叔父さん、ごめんなさい…。)
俺は、薄れていく意識の中で、
最後にもう一度だけ、
掴んだ網に、力をこめた。
網全体を締め上げる力は、
もちろん、残っていなかったけど。
(気絶しても…この網だけは…。
ギリギリまで、俺、諦めたくない…。)
そんな時…
「その状態で、手を離さないなんて…
アナタは、強い人ですネ。」
すぐ近くで、
聞いたことのない声が、聞こえた。
ーードカァ!!
「…!」
「ぐはぁっ!!」
一瞬の出来事で、
俺は、目の前で起こった事を
すぐには、理解できなかった。
だた、目の前で…
俺の網に絡まっていた派手男が
若い男…俺より、少し歳上だろうか?
その男に、
空高く、蹴り上げられたのは、分かった。
蹴り上げられたのと同時に、
俺に絡まっていた、黄色の紐が解除されて
「大丈夫ですカ?
アナタが拘束してくれていたおかげで、
とても上手に蹴りを入れられマシタ!」
突然現れた若い男は、
横たわる俺に近付き、
満面の笑みで、声をかけてきた。
「ゲホゲホっ!
はぁはぁ…あなたは、一体…?」
俺は、苦しかった呼吸を整えながら
初めてみる男の顔を、改めて、
下から覗き込んむように見つめて
頭に浮かんだ疑問を、そのまま口にしていた。
そこに…
「なーに、
お得意のチカラで、”読めば”いいんだよっ。」
次は、聞いたことのある声…
「…。」
「…あれっ!?俺は無視なのっ!?」
背後から現れたのは、
昨日の夜、突然家に入ってきた…
自称、近所に引っ越してきた人。
もちろんあの時、俺は
怪しい、自称隣人の付箋を、しっかり読んでいた。
本当は、知っている。この人は…
「ブラックアビスの、隊長…。」
「ピンポーン!
やっぱ”読んで”分かってたか。
優秀優秀〜!」
彼は、楽しそうにそう言って、
まだ地面にお尻をついたまま
動けないでいる俺の、隣に立って
「よく頑張ったな。
あとは…
あいつに、バトンタッチだ。」
嬉しそうに、
俺の頭を、ガシガシと撫でできた。
「あいつ…。」
「そ。まぁ”読みながら”応援してやってよ。
お前と同じ…
”禁色”のカラーズ持ち、だからさ。」
(俺と、同じ…?)
蹴り上げられた派手男が、
網から抜け出し、ゆっくりと立ち上がる。
その前に立ちはだかる、若い男。
「さっきは、不意打ちで失礼しましタ!
次は、正々堂々、いきまショウ!」
若い男は、礼儀正しくお辞儀をして
笑顔のまま、派手男に向かって、声をかけた。




