おしゃべりな鳥
「ヒュー・ブレイズの攻撃で、”本当の意味で”、亡くなったのは…1人、だけだぞ。」
ノヴァンは、頭を掻きながら、何でもないことのように、気楽に告げた。
そして、相変わらず軽い調子で続ける。
「言おう言おうと思ってたんだけど〜。ついうっかり、忘れてたわ。てへ」
(1人だけ…。それって…。)
「はぁ?!それって…どういうことですか?確かに、2人のはず…。」
サクヤも、俺と同じように。
ノヴァンの言葉を、上手く理解できないようだった。
「あー、もうっ!説明すんの…めんどくさいな。
まぁ…”百聞は一見にしかず”、だな!」
ノヴァンが、彼の中で、ウンウンと納得した様子で…
…椅子の肘掛けに固定されていた、俺の左腕…二の腕部分を、思いっきり掴んだ。
そして…
「勅令するーーー…。」
ノヴァンのその低い声は…あまりにも小さくて。
勅令は、うまく聞き取れなかった。
勅令は普通、自分の体内のカラーズに響くように、それなりの大きさで言わないといけないのに…。
…これも、アオ兄やブレイズがやっていた、”勅令放棄”って、やつなのかな?
やっぱり…この人、すごい人…なのか?
…そんなことを考えながら。
いまだに状況が理解できないまま、数秒の間、腕を掴まれたまま。じっとしていると…。
俺の…左腕が。
段々と熱を帯びて……太陽のように、光を放ち始めた。
と同時に…
『ふぁ〜。』
…よく、聞き慣れた声が。
左腕の、光の中から…
『なになに、俺のこと、誰か呼んだぁ?』
ハッキリと、聞こえた。
少し、離れただけなのに…
それは…ひどく懐かしい、アオ兄の、声だった。
「ア、アオ兄…!!!!」
「なっ!これは、一体…!?」
俺とサクヤは、光の中から飛び出した”それ”を見て。
同時に驚きの声を上げた。
「アオ兄、なの!?この…鳥…!」
光の中から飛び出した”それ”とは…
ハト…だった。ただし…深緑色の。
そして、アオ兄の声で、おしゃべりをする、ハト。
『おお!ヨウ!少し見ない間に…なんか、大きく…なったなぁ?
あれ…これ、俺が小さくなってんのぉ?』
深緑色のハト…もとい、アオ兄は。
その鳥類ならではの鋭い鉤爪で、俺の左腕に掴まったまま。
俺の顔を見上げて、その小さな頭と首を傾げた。
『そっか…。
ヨウが無事で、良かったよ。
あ!ついでに俺も!あの時は、絶対死ぬんだって思ったからさぁ〜。』
サクヤが、大まかな事情をアオ兄に説明して。
話が終わると、アオ兄はそう言って、俺の腕から飛び立って。
『鳥かぁ〜。一度はなってみたいって思うよな!飛ぶって、こんな感じなのかぁ〜。』
暗い室内をくるくると旋回し。
また、俺の腕に戻ってきた。
「アオ兄、…のんきすぎだろ!」
「…僕も、ヨウ君と同じ意見です。」
「ハハハ!ヨウの兄ちゃん、面白いじゃん!」
ハトらしい振る舞いと、人間らしいセリフが、何ともチグハグで。
室内には、なごやかな雰囲気が漂っていた。
他に聞いたこともないことが、目の前で起こっているのに。
「アオバは、見ての通り、ヨウの身体から出てくる…オーバーだ。
ヨウのオーバーに、アオバの精神がくっついている。」
ノヴァンが、ハトのアオ兄を突っつきながら、話を続ける。
「俺は、相手の身体に触れれば、そいつの体内のカラーズを読み取ることができるんだよ。
発現の”チカラ”とは別の…俺の、一族だけがもつ。ま、体質みたいなもんだな。
それで、ヨウが気絶してる間に触れて調べた時、ヨウの体内には…”禁色”の深紅のカラーズと…
明らかにヨウのカラーズとは違う、…深緑色の。コイツ、アオバ・オリーヴァーのカラーズがあったわけだ。」
ハトのアオ兄は、ノヴァンの突っつきに耐えられなくなったのか。空中に逃げていった。
「あの時、一瞬でもニセモノでも、”黒の悪魔”のチカラを使ったからなのか。
…他人のカラーズが体内に入るなんて、見たことも聞いたこともないから。さすがの俺も驚いたわけだ。」
ウンウン、と、自分の説明に頷きながら。ノヴァンは説明を続ける。
「その時は驚いて…報告しようと思って…。なんでだったか…忘れてて。てへっ。」
サクヤが、説明を邪魔しないようにだと思うが…無言で、睨んでいる。
「んで、ついさっき思い出したんだよ。
今度は俺の”チカラ”で…ちょっと、深緑色のカラーズに働きかけてみるかって。
どうなるのか、さすがの俺にも分からなかったけど。
まさか、こんなに…アオバの精神が、カラーズに乗り移ってるとはな!
ハハハ、おしゃべりな鳥、面白すぎだろっ!」
ノヴァンは終始笑いながら、目の前の信じられない光景について、説明してくれた。
「でも…そろそろ、だな。」
ノヴァンがそう言うと。
「あれ?アオ兄…色が、薄くなって…。」
深緑色だったハトのアオ兄は、だんだんと…その身体が透け始めていた。
「きっかけは、俺の勅令だけど。
チカラが維持できるかは、もちろん、発現者であるヨウ自身の問題だからな。」
「え!そっか、俺…発現者なのか…!
えっと…、えぇーい!!!!」
ひとまず、憧れて、ずっとイメージしていた感じで。
ハトのアオ兄の”濃さ”を取り戻すべく、パワーを振り絞って、叫んでみる。
「ぷっ…ヨウ君。掛け声じゃ、チカラは増しませんよ。」
「ぶははっ!お前、バカだなぁ!」
黒の隊服の2人には笑われ。
『ヨウ、その雄叫び、カッコいいなぁ!
俺…超かっこいい発現者のオーバーになれて、超幸せだなぁ〜。』
アオ兄も…左腕に掴まる、その見た目はハトだけど。
今までずっと見てきた、いつものニヤニヤ顔が…目に浮かぶようだった。
「ヨウは、ひとまず修行だな!
…”黒の悪魔”…本物は、生きてんだから。」
ノヴァンは、俺の方を見て、真剣に告げる。
「返事を…聞いてませんでしたね。」
サクヤも。少し微笑んで、俺の目を見て言う。
「俺…。
ブラックアビスに入るよ!そして…ヒマリを、世界を。
”黒の悪魔”から、守ってみせる。」
そしてーー
「あと…アオ兄も。
”黒の悪魔”のチカラで、俺の身体に入ったなら…。
俺の身体から…元に、戻せるなら。
全部の謎を知ってそうな、本物の”黒の悪魔”に、直接聞いてみる!」
俺は、まっすぐに前を見ながら。そう、高らかに宣言した。




