死を選ぶ理由
「お前に…選ばせてやるよ!」
嬉しそうに、そう言うノヴァンの顔を。
状況が分からない俺は…ただ、見つめることしか出来ない。
(生きる…?死ぬ…?それって…)
混乱する俺を助けてくれたのは、
「何の説明もせずに…!ほんと”簡単に”、言い過ぎですよっ!」
ノヴァンの横に立っていた、サクヤだった。
「だって〜。回りくどいの、苦手なんだよな〜。」
「いくら何でも、すっ飛ばし過ぎです。
…ヨウ君。”2つの選択”、については。ちゃんと、順を追って…説明しようと思います。
ですが、まずは…”あの日”、ミタ山で。一体何があったのか。真実を…教えて、くれませんか?」
真剣に、そう頼まれて。
俺はいまだ、多分この人たちの手で…椅子に、拘束されたまま。なんだけど……。
(この人には、…嘘、つきたくないなぁ。)
どこか、アオ兄を感じさせる、サクヤの姿に。
気付いたら、”あの日”、見たこと全てを…何の嘘偽りなく、2人に話していた。
「…分かりました。やはり…ホワイトノーブル、絡みですね…。」
「も〜。あいつら、ほんっとにロクなことしないよなぁ〜。」
「しかも…”ヒュー・ブレイズ”が、直々に動いていたとは…。」
黙って聞いてくれていた2人は、話が終わると、それぞれに感想を口にした。
そして…
「んじゃ、まぁ!ここからが、本題だな。…おっほん!あーあー。」
喉の調子を整え始めた、ノヴァンに告げられる。
「ヨウ・オリーヴァー君!君を…
…”深淵の黒色隊”のメンバーとして、歓迎しようっ!」
ノヴァンは、嬉しそうなニヤケ顔で…そう、俺に言い放った。
「…え?」
さっきまで…俺、”生きる”とか、”死ぬ”とか…選べって、言われてなかったっけ…?
「あ、言い忘れてた!」
そう言って、”てへっ、うっかりうっかり!”、と言いながら。
自分の頭を、”コツン”と叩くノヴァンに…
「うちに入るの、断ったら、
…もちろん、”死刑”、だからなっ?」
…軽く、本っ当に、軽く…。とびきりの笑顔で。そう、付け加えられた。
(し、死刑…?だから、拘束されて…っ!)
俺は、人生で初めて突きつけられた宣告に、
驚き…そして、改めて、拘束されていることが怖くなって。
何も、言い返す事ができなかった。
そんな時…
「なーにが、”言い忘れてた!てへっ”、ですか!いい歳して!ま〜た説明も無しに…全くっ…。」
ノヴァンを押しのけるように、サクヤが俺の正面にきて。
どこからか持ってきた椅子に座り、目線を合わせて…
…いまだ状況についていけない俺に、ゆっくりと、説明を始めた。
「ヨウ君、辛いことを話してくれて…ありがとう。だいたいは、僕らブラックアビスの推測と、一致したよ。
そこで…君は、最後…。『紅いモヤの中で、長い時間過ごした』と、言っていたけど…。
本当は、その間…、君は…
…”黒の悪魔”、そのもの…だったんだ。」
…そこから、サクヤに説明されたこと…。
俺は、信じられなかった。
信じたく…なかった。でも…。
「一応…現場のミタ山の、写真です。君が倒れていたのが…このあたりで…。」
写真を…見た時に。
色々なことが、鮮明に蘇ってきた。そうだ…俺が。こんなに…ミタ山を、吹き飛ばして…。
俺が…みんなを…。
俺は…
「…”黒の悪魔”…なんですか?」
頭をよぎったことが…自然と、口に出ていた。
「…アオッ兄も…ヒマリもっ…!他にも、誰か…。俺がっ…黒の悪魔の、チカラでっ…?」
俺は、いつの間にか、泣いていた。
考えたく…なかった。
守りたい人たちを、守ろうとした…だけなのに。
その、大切な人たちを…俺が…伝承の、旅人のように…悪魔のチカラで…地上から、消し去った?
そうだ…あの時。悲しみと…怒りで、我を、忘れて。チカラを…止められなくて…。
俺が…みんなの恨む、”黒の悪魔”に…なって…しまったのだろうか?
写真を、もう一度見てみる。
写真の焦げた地面に、ポツンと写る…あれは、多分…紙袋。
そして、そこからこぼれ出ている…黄色のハンカチ。
でも、それはもう…他の人が見たらきっと、ただの、真っ黒に焦げ付いた、かたまりで…。
「俺っ…。死んだ方が…いいの、かな。」
俺はまた、思ったことが、自然と口から出ていた。
さっき言われた、”生きるか”…”死ぬか”。
”死ぬ”を選べば…”死刑”、だったっけ…。
俺は…”黒の悪魔”で…。
”生きるか”…”死ぬか”…。
そうだ、きっと…この人たちは。
俺がすすんで、死を選ぶようにって、説得して、くれてるのかな…。
そんなことを、考えていた時。
「お前…。
生きたくて、”ああ”なったんじゃ、ないのかよ。」
今まで、ずっとヘラヘラしていたノヴァンが。
真剣な顔で…俺に問いかける。
(生き…たくて…?)
俺は…あの時…。
そうだ、あの時…一番に考えていたことは…
「俺は…
…死んでも、良かったんだ。…みんなが…助かる、なら。」
俺は、あの時思ったことを、正直に伝えた。
あの時…俺だって、死にたいわけじゃ、なかったけど…。
でも、死んでもいいと思えるくらい、守りたい人がいたから。
「俺が死んでも…、アオ兄や、ヒマリが生きててくれるなら、それで…。
でも…なのに…。俺が、”黒の悪魔”のチカラで…。」
…命をかけて、守りたかった2人はもう…いない。
俺は…
(2人のいない世界なら…もう…。)
流れ続ける涙を頬に感じながら、
ぼぅっとした頭で…そう、思い始めていた。




