放棄したのは
「もちろん、ヨウも一緒に。
ここで死ぬくらいなら…ホワイトノーブルに、協力するよ。」
アオ兄は、明るく大きな声で宣言する。
「ア、アオ兄っ!」
突然の流れに驚き。
勝手に自分の名前も出されて、さらに困惑する。
「なんでっ…。」
平気で…何の罪もない人も殺せる。
そんな組織に…さっきまで、怒っていたはずなのに。アオ兄は、本気で…?
「ヨウ…。シゲ叔父さんのことはもちろん許せない。
だけどな…
…ブレイズ隊長の言うことも、本当は分かるんだ。
大きな目的…”正義”のために、仕方のないこともあるんだって、こと。」
俺に背を向けているせいで、アオ兄の表情は分からない。
本当に、本心で…言っている?一体、どんな顔で…。
「”禁色”を知っているアオバ君なら、
私の”正義”も、分かってくれる気がしていました。」
ブレイズ隊長が、優しく微笑む。
「もちろん、ヨウ君も一緒に。歓迎しますよ。」
ブレイズ隊長の表情は、アオ兄と違って俺からもよく見える。
今まで見てきた、憧れの笑顔…
…でも、これも。本当に、本心…なんだろうか?
禁色って…人を殺してまで手に入れたい、そんなに大事なことなのか?
「それでは、早くここから立ち去りましょう。
今にも、誕生日会の招待客が、来てしまいそうです。」
そう言って、ブレイズ隊長は、そばに倒れているヒマリへ向き直る。
俺たちに、背中を向けた…まさに、その時。
ーーー「…!」
アオ兄はまた、無言で右腕を勢いよく振り上げる。
ーーー「…残念です。」
ブレイズ隊長も、アオ兄と同時に…左腕を勢いよく振り上げる。
ーーー「あぁっ!」
同時に起こった、2人の流れるような…同じ動きが。俺の位置からは…よく見えて…。
ーーザシュッ。
「ぐッ。」
一瞬、スローモーションのように重なった、2人の動き。
その一瞬の後。
まばたきをした一瞬で、景色がーーー赤く染まる。
「ひっ…。」
目の前には、大量の赤。
大量の…血。
これは、俺の血ーーーじゃ、ない…?
「…ッ!ッア、アオ兄!!!」
赤く染まる景色の中心で、見慣れた背中が…足元から、ゆっくりと地面に崩れ落ちていく。
「アオ兄ッ!」
倒れ込んだアオ兄の上半身を、抱きかかえるように膝に乗せる。
口からも、全身からも…大量の血が、流れ出している。
「アオ兄っ。アオ兄っ!」
俺はただ、必死に名前を叫ぶ。
アオ兄は目を閉じて、ピクリとも動かなかった。
身体中…細くて長い、真っ白の氷柱が突き刺さっている。
「アオ兄…っ。」
何とか目を開けてほしくて、抱きかかえる手に力を込めた。
「ひッ…。」
力を込めて、アオ兄の身体を押した時、
生暖かい…初めての感覚が。
アオ兄の背中から、とめどなく流れ出るソレは…
…俺の手と、アオ兄に突き刺さる氷柱を真っ赤に染め上げていく。
「アオ、兄ッ。しっかり、してっ!」
ただ、声をかけることしか出来ない俺の、やっとの呼びかけが通じたのか
「ゲホッ。ハァ…。くっ…。」
やっと、アオ兄から反応が返ってきた。
「くっ…。ヨウは、怪我…な…いか?」
血だらけの顔で、アオ兄は微笑む。
…こんな時にも、俺の心配だなんて…
「うんっ、うんっ、おれっは、大丈夫、だよっ。」
俺は、アオ兄の反応に安心したのか、
緊張の糸が切れて…いつの間にか、声を出して、泣いていた。
「…うえっ。ひっく…。」
自分では、もう止めることができないほど…大量の涙が。俺の、情けない顔を、伝っていった。
「だい、じょうぶだから…。泣くなって。」
アオ兄が、無理に笑っているのが分かった。
その事実に気付いて…さらに視界が、涙でにじむ。
アオ兄の顔が、涙で…どんどん見えなくなっていく。
まるで…アオ兄が、目の前から消えていくみたいで。俺は…
「どこにも、いかないでっ!」
泣きながら叫び、流れる血も気にせず、その身体を思いっきり抱きしめた。
「痛いよね?ごめん…でも、俺…っ!」
どこにもいかないでほしくて。
アオ兄は、ここに居るんだって思いたくて。
…力の加減もできずに、泣きながら、ただすがりついていた。
ーーー【黒の再来】まで、あと6分ーーー




