悲劇はいつも、突然に
「アオバ、これも運んでくれ!」
シゲ叔父さん、本当に嬉しそうだな。
「え〜?このテーブル、
これ以上乗るとこないんですけどぉ?」
自分の家で、薪割りやジャムの仕込みを終えた俺は、
誕生日会に向けて、黙々と料理をする、
シゲ叔父さんの手伝いに来ていた。
「まだまだ作るぞ!
ほら、新しいテーブルを出せばいいんだ!」
ワハハ、と豪快に笑い。
笑い方以上に豪快な動作で、隣の部屋から、テーブルを引っ張ってきた。
一人娘の誕生日…まあ、上機嫌にならないわけがない、か。
「…あれ、ヒマリは?」
先程まで、大柄なシゲ叔父さんに隠れつつも、
テキパキと働いていたのに。
ふと気づくと、
働き者の金髪の少女、ヒマリは、
俺の見える範囲から、いなくなっていた。
「あ!あぁ…そろそろ5時半か…。」
シゲ叔父さんは、ついさっきまでの、豪快な笑顔を少し引つらせ。
大の男には可愛すぎるエプロンを、いそいそと脱ぎはじめた。
「え?なになに、なんかの準備?」
俺がそう問いかけている間にも、準備を整えた様子で。
シゲ叔父さんは、玄関に向かっていく。
(玄関?ヒマリを探しに行くのか?)
…っ!!ま、まさか…!!
「俺の可愛い弟の勝負を…邪魔する気!?」
「…。」
「シ、シゲ叔父さん!気持ちは分かるけどっ…!」
無言で出ていこうとする背中を、慌てて呼び止めた。
「分かってる。分かってるよ。
ヨウは、良い子だ…。俺たちなんかより、よっぽどな。」
「…じゃあ…。」
「ただ…
俺の見てないところで言うなんて、許せん!
男なら、俺の目の前で、堂々と言えってぇんだ!」
そう言って、ワハハと豪快に笑う。
なぁんだ。緊張はしているらしいが、話せばいつもの叔父さんだ。
「いやぁ、いくらなんでも、
初めての告白が、相手の父親の見てる前って…。
うちの可愛いヨウを、あんまりいじめちゃダメだよ?」
ひとまず止めるのを諦めた俺は、
せめてお手柔らかに…と、
叔父さんの背中を、笑顔でちょんっとつついた。
「まあ、アオバに免じて…
…隠れて見るだけに、してやるか!ワハハ!最初はな!」
何だかんだ、嬉しそうに玄関を抜け。
叔父さんは、ゆっくりとした足取りで森へ向かった。
「ヨウなら…ま、大丈夫か。なんたって、俺の弟だしっ!」
ウンウンと、自分に言い聞かせるように納得し。
作りかけの鍋を、一人で完成させるべく、キッチンに戻った。
ーードォォオン!!!
ミタ山の、中腹にて。
日が落ち始め、昼の空から、
夜空に取って代わろうとする景色に
ーー雷鳴のような音と、”黄色い光”が、溶けて…広がる。
…ただそれは、雷ではない。
音の発生源…”大きな切り株”の周囲には、
雷ではありえない…”黄色のモヤ”と、眩しい光が…。
麓の街ジャアナの住人で、
音やモヤに気づいた者は、一人もいなかった。
それに気付けたのは…
…山の中腹付近にいた、数人だけ。
ただ、それは確かに確実に…
”現実だ”とでもいうように、
ひっそりと、山に、ゆるく、鈍く、反響して。ーーー
ーーー【黒の再来】まで、あと31分ーーー




