根回し
士郎が恋人を作らないと宣言してから三日が過ぎた。
もともと女子にモテるほうではないと思っていた士郎にとって私生活にはあまり影響はなかった。
高校から帰ってきた士郎を優希が玄関で出迎える。
「ただいま、優希」
「お帰り。お兄ちゃん」
優希が目を輝かせている。
「お兄ちゃんただいまのキスは?」
「やっぱりやらなきゃダメなのか?」
「うん。キスしてよ」
「じゃあ手を出せよ」
「お兄ちゃん、ほっぺにしてよ」
士郎は渋い顔をした。
「手で我慢してくれよ」
「むぅ。お兄ちゃんの意地悪」
「そんな事言ったらキスしないからな」
「ウソウソ、ちゃんと手にして。お願いお兄ちゃん」
言われた通り手の甲にキスをする士郎。
優希はとても嬉しそうだ。
「あなたたち、仲いいわね」
真砂子も出迎えてくれた。
「さあ着替えてらっしゃい。ご飯の準備出来たから」
夕食が終わって食堂に士郎と優希の二人きりになった。
士郎はまだもやもやする部分があった。俺は妹として愛しているのに、優希は違うのだ。男として愛しているらしいのがなんかしっくりこない。なぜそうなったのかが疑問でしょうがない。
「なあ優希」
「何? お兄ちゃん」
「お前なんで俺の事を好きなんだよ? だいたい顔だってかっこよくないし、これと言った取り柄もないし」
「ちょっとお兄ちゃん、自分を過小評価しすぎだよ。お兄ちゃんはかっこいいよ」
そうなのか? 客観的な判断が自分ではできない。
「だって俺学校でモテた事ないぞ。学校の女子からバレンタインとかでチョコもらった事ないし」
「あー、それ? 聞いちゃう?」
「? 何の話だよ」
「実は他の女の子がお兄ちゃんにチョコ渡さないように根回ししてたんだ」
「はい?」
あまりに唐突な告白に士郎はすっとんきょうな声をあげてしまった。
「じゃあお前からしか貰えなかったのはお前のせいって事か?」
「うん。そう」
寝耳に水だった。妹から「女」を感じて少し怖くなった。
「あ、引いた?」
「ドン引きだそれ」
しかし納得が行った。モテなかったのは優希のせいなのか。
「まあまあ機嫌直してよお兄様」
「……怒ってないけどな」
ただ呆れるしかなかった。