キス
帰ってきた士郎を優希が玄関で迎えてくれた。
「お兄ちゃん、わたしはまだ諦めてないからね」
と言い出した。
「まだそんな事言ってるのかお前は」
士郎が呆れる。
「だってお兄ちゃん彼女いないでしょ。ポジション空いてるじゃない」
「空いてるけどお前は選ばないぞ」
「えー、なんで」
「なんでってお前は所詮妹なんだから」
「妹、妹、妹って女として見てよお願いだから」
「無理だよ。ずっと兄妹として育ってきたんだから。家族だろうが」
「むぅ」
「あんまりしつこいと嫌いになるからな」
「えーひどいよお兄ちゃん」
拓也の言う通りだ。主導権はこちらにある。
さあご飯にしよう。
その日の夕食が終わって食堂に優希と士郎の二人きりになった。
顔がかわいいと拓也は優希を褒めていたから、何気なく優希の顔をまじまじと見つめてしまった。かわいいのか? やはり判断がつかない。
「どうしたのお兄ちゃん。わたしの顔をそんなに見て」
「お前俺の事好きって言ったよな」
「うん。そうだよ。もしかしてその気になってくれたの?」
「違うけど。俺の事好きって『男』として好きって事だよな」
「うん。大好き」
「じゃあ俺に何をしてほしいんだよ」
男として好きなのは伝わった。しかし何を求められているかがわからない。
「キスかな。わたしお兄ちゃんとキスしたい」
優希の返事に士郎は身震いした。
「兄妹でキスってありえないだろ」
「兄妹だけど兄妹じゃないでしょ。なんでわかんないかなあ」
わかりたくなかった。ずっと普通の兄妹でいたかったからだ。
「俺はキスなんかしたくないからな」
そう告げると、優希は悲しそうな顔をした。
まだ士郎は気付いてなかった。優希が思い詰めている事が。