ヲタッキーズ132 音波刑のメロディ
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第132話「音波刑のメロディ」。さて、今回は処刑寸前のスーパーヒロインは無実と言い残し精神科医が惨殺されます。
処刑までの残された数時間で再調査に挑むヲタッキーズの前に、次々と明らかになるスーパーヒロイン達の私怨、怨念。遂に明らかになる真犯人は…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 19時02分
ハンバーガーのテイクアウト袋を手に歩く看守。
「ピクルス抜きのダブルバーガー。ポテトにシェイク。ホントにコレで良いのか?」
「最後に何を食べようが私の勝手でしょ?」
「ソレはそうだが」
特殊房は壁も扉も全てが樹脂製で透明だ。
中にいる女囚は水族館の魚のようなモノ。
「どうした?」
「ケチャップがナイわ」
「え?」
女囚は、受け取った袋をストンと床に落とす。
「いつも忘れるのょ」
「探してみよう」
「…」
看守は、歩き去る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「南秋葉原条約機構です」
「私は、精神科医のリンヘ・スタンと申します。極めて重要な情報があります」
「…超能力に覚醒した場合は"1"を、宇宙人に拉致された場合は"2"を、その他の革新的な発明の場合は"3"を…」
AIの自動音声だ。精神科医は舌打ち←
「誰か、急いでくれ!5時間後に音波刑が執行されるスーパーヴィラネス、ジョカ・ティスは無実だ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
通称"新幹線ガード下"と呼ばれる第2東秋葉原高架橋の下はストリートバスケの聖地。今宵も熱戦が展開されてる。
「GO!GO!GO!その調子だ」
「テリィたん、そのネクタイは必要?」
「見た目がシャープでないとね」
今、アキバでは御屋敷対抗のスク水バスケ大会の最中だ。
メイド服をスク水に着替えたメイド達が毎夜熱戦を展開。
僕は老舗"@ポエムカフェ"推しだ。
「足を止めるな!審判、ホイッスル!」
「テリィたん、落ち着いて。どうせ10の23乗ぐらい負けてルンだから。ソレに別の不安要素もアル」
「え。別の要素って…何?」
僕はスマホの小さな画面に向かって話す。相手は史上最年少で首相官邸アドバイザーに就任した超天才のルイナ。
彼女のトレードマークはゴスロリに車椅子。今回"@ポエム"の監督をお願いしてるが、指示は全てリモートだ。
「テリィたんにだけ、黒歴史を見せるね」
僕のスマホにヤタラ古そうな動画が流れる。
「実は、前にもバスケの監督をやったコトがアルの」
「知らなかった。で、結果は?」
「"こども科学フェア"があったから、途中で打ち切りになったンだけど、幸いなコトに…」←
突然"イカれてんの?!"と小さな画面から大きな声。選手に向けてボールを投げ、罵詈雑言を浴びせるルイナの画像w
さらにエスカレートし試合の興奮に合わせ監督用の折りたたみイスをコートに投げ入れる。頭を抱える選手、客、審判w
「コレ、ホントにルイナ?信じられないな。こりゃ君から目が離せないょ…作戦タイムだ。おーい、選手集合!さ、ルイナ監督。その勢いで一言お願いします」
「親愛なる"@ポエム"のメイドのみなさん!千里の道も1つの腹式呼吸から始まるわ。途中で仏陀に会ったらボールを渡すコト。同じ河に2度は入れないわ!」
「…ルイナ。何の話?」
国民的メイドの"ひろみん"から手が挙がる。僕の出番だw
「メジャーに逝くか、地下で終わるか。現場に出て自分で決めて来い。みんなの栄光時代はいつ?今でしょ!」
スク水のメイド達は一斉にうなずくw
雄(雌?)叫びを上げコートに出て逝く。
「テリィたん、メイド扱いが上手いね。さすがミユリ姉様のTO。ところで、さっきの予備校のCFだょね?古くない?」
僕は戸惑う。
「スラムダンクなんだけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンクに改装したら居心地良くて常連が沈殿。回転率が落ちてメイド長はオカンムリw
「もう勘弁してょ。ソレ信頼出来るの?」
「スーパーヴィラネスの音波刑の件?」
「YES。処刑の直前はいつもこうょ。もはや何者も彼女の音波刑を阻止するコトは不可能なのに」
何とコレは僕の推しと元カノの会話だ。ある意味、悪夢←
「OK。つないで…最高検察庁のミクス次長検事です」
「ミクスさん!私が電話をしたのは、確実な情報がアルからです。世に言うスーパーヴィラネスのジョカ・ティスは無実だ」
「わかりました。さようなら」
何とミクスは電話を切る。溜め息をつく。
「きっとジョカ・ティスに雇われた誰かね。多分ジョカは怖じ気づいてる。4年前に私の前任、ジャロ・ウェブ次長検事を殺したスーパーヒロインょ」
「あと数時間で音波刑でしょ?」
「YES。こんなイタズラ電話じゃ彼女を絶対救えない」
でも、カウンターの中でメイド長はスマホを抜く。
「エアリ?ちょっち調べてくれる?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「シーザーかチンギスハンか?」
ヲタッキーズの妖精担当エアリは、ロケットガールのマリレに質問スル。2人共メイド服だ。何しろココはアキバw
「何の話?」
「過去に戻れるなら誰を殺す?ただし弾は1発だけょ」
「タイムマシンがあるなら戻って弾を込めれば?」
Don't be that way!肩をスボめるエアリ。
「さすがはタイムトラベラーね。ヤラレタ」
"ラバウル医科"
派手なサイネージを横目に夜の病院に入る2人。廊下を歩くと…窓が粉々に割れている。音波銃を抜く。
ライトを手に奥へ進む。ソコは広いオフィスだ。デスクに突っ伏してる人影は…医師のリンヘ・スタン?
「未だ血が流れてる。撃たれたばかりね」
「神田消防?ヲタッキーズのエアリです。神田花籠町1006に救急要請。大至急」
「銃槍は複数。最悪だわ」
その時!
暗闇の中で何かの気配を感じ音波銃を構えるヲタッキーズ。
気配を追って医局裏口から飛び出すと、いきなりステーキ…
じゃなかった、イキナリ緑色のレーザーを浴びる!
「危ない!伏せて!」
レーザーポインターにより照準された突撃銃の掃射!今、開けた扉が粉粉になり砕け散る。応射するヲタッキーズ!
犯人?は、レーザーポインターで物陰に隠れたメイド達を追い回し、連射を浴びせながら電動キックボードで逃走w
第2章 20時18分
数分後、ハデにサイレンを鳴らし、赤い警告灯を回転させながらパトカー2台が駆けつけ、直ちに非常線を張る。
「メイドさん達、大丈夫?」
「不意打ちょw突撃銃タイプの音波銃。プロの傭兵カモ。リンヘ・スタン医師は?」
「搬送中に死亡。防犯カメラには、犯人の後頭部しか写ってなかった」
万世橋警察署のラギィ警部は、前の職場では"新橋鮫"と呼ばれた敏腕だ。僕達とは何度も合同捜査で一緒にしている。
「リンヘ医師は、死刑囚の情報を検察に明かす前に殺されたってコト?」
「新橋時代にテリィたんと烏森で見た安物映画みたいだわ」
「ソレって昭和なロマンポルノ?デートでポルノ見るの?まるで倦怠期の夫婦ねwで、映画の結末は?」
「犯人は、マンマと死刑を免れて虐殺に走った」
全員に睨まれ肩をスボめるラギィ。
「タイヤ痕の確認を手伝ってくるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところが、ラギィはタイヤ痕の確認を手伝わない。
「どんな感じ?」
「あ、警部。どーも薬目当てのガキ共の犯行じゃなさそうです。処方箋もシッカリ残ってる。消えてるのは、手帳やパソコンの類ですね。カルテが盗まれた形跡もあります」
「カルテ泥棒が街中で突撃銃をぶっ放すかしら?」
ラギィは、医師のオフィスで鑑識と話し込む。
「どんな患者を診てたの?」
「リンヘ医師は、奉仕活動で前歴者の治療もしていたようです。スーパーヴィラネスも診てたようだ」
「蔵前橋(の重刑務所w)が情報を出し渋るようなら私に連絡して…で、ソレは何をやってるワケ?」
鑑識は、デスク上の大学ノートに何やら細工してる。
「ゴスロリ姐さんに言われて、デスクに残った白紙から情報を探しています」
「あらあら。どんな新技術なのかしら」
「分子が下の紙のインクにくっついて、他の分子に結びつくんだそうです。すると、大学ノートの上にあった盗まれた紙に何が描いてあったかがわかる、とか何とか」
鑑識もラギィも頭をヒネる。
「貴方、自分で何を言ってるかワカル?」
「いいえ。全然」←
「じゃソレはルイナに任せましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「ジョカ・ティスは、犯罪組織のボスで次長検事ジャロ・ウェブの殺人で初めて自ら手を下した…と思われる。今は年収5000万円でハデな暮らしをenjoy。検察は前から彼女に目をつけていたわ」
検察庁ミクス次長検事のブリーフィング。
実は、彼女は御屋敷なのでリモートだがw
「所轄が手間取ってたので、検察の方で盗聴や口座凍結で追い詰めて、ジョカ・ティス自身の自白を引き出した」
「上訴は?」
「人権擁護団体がやってたわ。彼女は、人殺しを鼻にかけるタイプょ」
ミクスは、ジョカへの敵意がむき出しだw
「医者が殺されたのに、検察はほっとくの?」
「音波刑までは数時間ょ?」
「だから?」
モニターの中で頭を振るミクス。
「時間の無駄ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
車椅子の超天才ルイナのラボ。
「悪いわね。でも、急ぎなの」
「OK!スク水バスケの試合前だし…"ガウスフィルター"で整理してみるわ」
「監督。説明して」
下手に出るヲタッキーズのエアリ。
ルイナは、小鼻を膨らませて語る。
「虹は、白い光が雨の粒を通り抜けて、屈折するコトで発生スル。光は、各色に分解されるけど、水の蒸発で崩れるの。アルゴリズムは、雨の粒のようにインクを各成分に分けルンだけど…あ、続きは試合の後で!」
「ルイナ!ジョカは12時には処刑されてしまうの」
「え。わかった、今やるわ」
僕が"現場"から割り込んだのは、このタイミング。
「ルイナ!次の相手の"メイドリーマー"チームの情報があるぞ。リーグでは最下位だが、ウチに比べればかなりの腕前だ…あれ?何やってるの?バイト?」
「ソレはバスケ。コレは"フィルター"ょ。テリィたん、ゲームが始まったら175秒毎にホイッスルを吹いて、思いついた罵詈雑言をお願い」
「罵詈雑言で良いんだね?わかった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後9時18分。"潜り酒場"。
「ミクス。貴女らしくないわ」
「そーゆー貴女も大勢殺して来た」
「ソレとは話が違うわ」
推し vs 元カノ。僕の悪夢は続く。
「陪審の判断を疑うワケね?」
「私達の場合は、やむを得ないのょ」
「SATOは最高裁より偉いってコト?」
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に対抗スル防衛組織でヲタッキーズを傘下に置く。
「真実を究明スルために言ってるの。1歩間違えれば、国を挙げての復讐になる」
「目には目をと聖書にはアルけど」
「…ミクス。私、彼女に会ってみたいな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
風雲急を告げるスク水バスケ会場。
「ルイナ!僕達の守備モデルは上手くいってないょ!」
「マジ?データの破損だわ」
「でも、ディフェンスは機能してる。もう少し時間が必要なだけカモしれない」
ホイッスルを吹きながらラボのルイナに相談スル。
「確かに小惑星の地球衝突級の事態だわ。でも、パニックに陥るべきじゃない。テリィたん、何してるの?ちゃんとホイッスル吹いて!みんな、しっかりして。ぶちのめせ…あ、ラギィに電話しなきゃ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所。ゲートで暴れる面会客w
「俺は、何も持ってねぇ!文句あんのか?」
「静かにしろ」
「その汚ねぇ手を離しやがれ!」
ミユリさんが面会客をアッサリ後ろ手に絞る←
「痛ぇ!わ、わかった!離しやがれ!」
「ホントにわかったの?」
「俺は、ジュア・ティス!今宵、処刑されるジョカ・ティスの息子だ。お袋に別れを言いに来た。邪魔スルな」
右腕をまくり昔の傷跡を見せびらかすジュア。
「傷が8cm残ってる。12才の時、売人に刺された」
「わかったから、もう騒がないで」
「お袋に会わせろ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ブリーフィングは続く。
「… 実は、ジャロ・ウェブ殺害は目撃者がいません。現場の皮膚片や血液型もジョカ・ティスとは一致しませんでした。次長検事の遺体の近くで車が目撃されていますが、黒か紺のローバーと言う情報でした」
「ジョカの車は?」
「緑のキャデラック」←
ラギィ警部は天を仰ぐ。
「じゃ何で死刑判決が出たの?」
「自白です」
「モニターに出して」
ジョカの画像が流れる。
"…ジャロを駐車場で待ち伏せし…検察庁のセキュリティは甘過ぎるわ。銃を突きつけて神田リバーに向かった。ソコで死体を見つけたでしょ?到着して後頭部を撃った。車から転げ落ちても未だ息があったから頭を蹴って黙らせた。ソレで死んだわ"
ヒドい話だ。ラギィは溜め息をつく。
「有罪も無理ナイわね。心神喪失じゃナイの?」
「精神鑑定はパスしてます」
「にしても、現場にいた証拠はナイわ。自白がなけりゃ無罪放免なのに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
白熱のスク水バスケ会場←
「ボールを奪え!1人空いてるぞ!潰せ!」
「とにかくディフェンスょ!テリィたん、みんなを下げて」
「マークしろ。審判ちゃんと見ろょ…目に皆既日食が起きてルンじゃナイか?…タイムアウトだ」
審判がタイムアウトをコール。
「みんな集まってくれ。ルイナの指示通りにやるしかない。ユキナは最適軌道をハズしているぞ。JJは二等辺を意識し過ぎだ。さぁ行ってらっしゃいませ、お嬢様!」
スク水メイドを送り出す僕。その頃ラボでは…
「ルイナ、忙しい?」
「手は尽くしたわ。ココに情報が入ってる…がんばれ、リバウンドを取るのよっ!」
第3章 21時29分
蔵前橋重刑務所。
「きれいな足ね。お姉ちゃん、遊ぼ?」
「相手にしちゃダメょムーンライトセレナーダー」
「はい。大丈夫ょ」
左右両脇に並ぶ独房の女囚から卑猥な声がかかる。
無視して奥の面会室へ向かうミクスとミユリさん。
「ミクス次長検事とムーンライトセレナーダー。ようこそ」
死刑囚ジョカ・ティスが振り向く。
面会室内に凄まじい殺気が満ちる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後9時34分。ミユリさんが口を開く。
「貴女が無実だと聞いたわ」
「ソレを信じたの?」
「わからない。情報提供者は死んだから」
穏やかに会話は始まる。
「貴女の勘では有罪かしら?」
「自白がある。音波刑は当然ょ!」
「…アンタも検察官ね。ジャロ・ウェブとは深い仲だった?アタシも4年の監禁生活で色々学んだわ」
たまらズ割って入ったミクスの方を向くジョカ。
「あら。何をお勉強したのかしら?」
「死より辛いモノがアル」
「…精神科医のリンヘ・スタンを知ってる?」
鼻で笑うジョカ。
「知らない。ねぇアンタの良心が痛まないように話してあげるわ。私がジャロ・ウェブ"元"次長検事を殺した」
挑発スルような眼差し。
「コレで満足かい?」
「今宵の0時1分が楽しみだわ」
「同感ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
"…全く後悔は無いわ。ウチに帰ってお風呂に入り、晩ご飯を食べた。ソレだけね…"
モニターで自白動画を見ていたラギィは画面を停める。
「何処かヘンだわ。もう1回見せて」
「ラギィ。私達が襲撃された病院の外に残ってたタイヤ痕だけど…貴女の車のと良く似てルンだけど」
「え。私にはアリバイがあるわょ!…エアリだったら私なら証言しないとか言うトコロだけど」
マリレのツッコミにジョークで返すラギィ。
「誰もラギィの車だとは言ってナイわ(言ったょw)。重量や車軸から考えて、この車は警察仕様だってコト」
「私達を襲撃したのは警官だってコト?」
「うーん現場にいただけカモ」
ソコヘヲタッキーズの相棒エアリが帰って来る。
「ただいま。ルイナの解析結果が出たわ」
「スク水バスケの試合の方は?」
「方程式とバスケの戦略は正反対の出来ね…でも、今回は解析結果がワケがワカラナイの。殴り描きで」
みんなで覗き込む。
「犯人の名前カモしれないわ」
「うーん"解読"には時間がかかりそうね」
「ジョカには、もう時間がナイわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スク水バスケ会場。
「ボールを奪って!審判、ファールでしょ?」
「誰だ?テクニカルファールを取るぞ」
「アンタは、まるでブラックホールょ!」
コートに響く喧嘩っ早い文句。実はリモート監督中のルイナが僕のスマホ経由で叫んでるのだ。審判が不審な顔をスルw
「叫んでるのは誰だ?誰がブラックホールだって?」
「アンタょ!アンタの重力波が強過ぎて電磁波も抜け出せナイって言ってるの!」
「テクニカルファール!」
審判が高々とホイッスルを吹く。
「何で?ブラックホールと呼んだだけょ?」
「ブラックホールって何だ?とにかく退場!」
「もう退場してるけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。エアリとマリレが地道に患者を洗ってる。
「亡くなったリンヘ・スタンは、ゴルフもせずに大勢の患者を観てたワケね?マリレ、お次は?」
「ステブ・オエム」
「うわ。いかにも悪人ね。はい、次は?」
マリレは、次の患者データをモニターに映す。
「ジョロ・ウリズ。なぜみんな精神科に通うのかしら」
「駐車場代わりとか」
「なるほど。チラザ・ログス。あら?リンヘ医師が亡くなった日に予約が入ってるわ」
データを読み上げるマリレ。
「暴行3回に過失致死ね」
「今度は何をしたの?」
「銀行強盗。先週出所してるわ…あら、次の名は?」
何人か続いた悪人面とは違う…正義系の顔←
「ビルザ・ダナエ?この人は、患者じゃなくて池袋警察だわ。ジョカ・ティスを逮捕したのがダナエだった。たまたま病院に来てたのかしら」
「患者さん?」
「リンヘ医師が呼び出したのカモ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
元カノのお呼び出しって緊張スルょな。
しかも、呼び出された先は最高検察局←
「久しぶりラッツ。コチラはジョカ・ティスの弁護士、トィニ」
「どうも。仕方なくジョカの国選をやってるトィニだ」
「あの大富豪が国選弁護士?リッチでヤリ手の悪徳弁護士はゴマンといるだろーに」
初老のトィニは苦笑スル。
「私も仕方なく受けたんだ。死刑廃止論者が私の分まで抵抗してるが、彼女の音波刑は時間の問題。顧問になったのは、今年最大の失敗だ」
「でも、上訴してルンだろ?」
「おいおい。あのジョカ・ティスが相手だぞ。奴の家族と会っただけでオフィスには銃弾が送られて来たw」
ミクスが口を開く。しかし、彼女のオフィス、デカいなw
「秘匿特権があるのでしょうけど、無罪を示す要因は何かあるの?」
「ミクス、特権なんてあっても知るか。ジョカは殺人鬼だ。ひどい女さ。先日なんかアイスピックを…彼女は死んだ方が秋葉原のためだ」
「トィニ。彼が犯人だと思う?」
検察と弁護士だけで勝手に判決が下るw
「当たり前だろ?自白してルンだぜ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続きスク水バスケ会場。
次々とシュートをキメられる"@ポエム"チーム。リバウンドを取られシュート。さらに、もう1本。
一方、リモートで僕のスマホから声を限りに"毒"を吐き続けるルイナ。ダークサイドに堕ちてるw
審判も、選手も、客も、僕も…頭を抱えるw
「回り込んで!相手の肘を見て。ハンズアップ…ダメか」
「…あのぉルイナ。ちょっと良いかしら?」
「協調と矛盾ばかりを見ているせいね」
毒吐き女子から思いがけない冷静な分析が飛び出すw
「え。何?」
「ミスジャッジ!審判、何歩歩かせるの?5歩?6歩.?」
「だから…ジョカの自白を分析出来ないンだけど。どーしたら良いかしら?」
途方に暮れるラギィ。
「ジョカの別の音声と比較し、不規則性を探すの。五角形じゃなく正三角形」
ますます途方に暮れるラギィ。
「ルイナ。バスケの例え話で頼むょ」
バスケ会場からリモートで助け船を出す僕。
「OK、テリィたん。ジャンプシュートには3つの要素が必要ょ。腕のエル字型、膝の屈伸でのフォロー。コレらがボールの軌道と回転を生み出す。1つでも要素が崩れるとシュートは外れる。同様に声にも3つの要素がある。認知的、感情的、生理的ね。ウソをつくと3つの調和が乱れて…」
「ウソがバレるのか!しまった!」←
「100%の精度じゃないけど、話し方に不規則性があれば、特定出来るハズ…ねぇ!守備はどうしたの?!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後9時42分。その女はジムでキックボクササイズw
「偽ブランドの靴を履いてるから捜査官ね。でも、メイド服だから万世橋じゃナイ。貴女達がヲタッキーズなの?ホントにメイド服なのねw」
「貴女、ジョカ・ティスを逮捕したわね?」
「その件で来たの?どうせ、ジョカが私が自白を強要したとか言い出したのでしょ」
引き締まった精悍なボディ。汗を拭く肢体も爽やかだw
「現場のタイヤ痕が貴女の車とエッチする…じゃなかった、一致スルの。病院の外に残ってたタイヤ痕ょ」
「ソレだけよくある車でしょ」
「貴女の名前がローリ・ランズのカルテに描かれてた。丸印つけてね」
女キックボクサーは、ペットボトルを1口飲む。
「あの女を張ってたのょ」
「誰を?」
「ローリ・ランズ。やっと蔵前橋(重刑務所w)送りにしたのに、判決が覆って(塀の外へ)出て来ちゃったのょ」
質問を変える。
「精神科医は?リンヘ・スタンって医師。キックボクシングとかはやってなさそうだけど、貴女の闘う姿には興味アルかも」
「メイド服でリングに立てばね。どーせローリが私の文句を言ったんじゃない?」
「彼女はどこに?」
答えが笑える。
「近くのファーストフードの店の何処か。常に食べ続けている女だから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところが、ローリはファーストフード店にはいない。
「体重160kgだって!」
「ソレで人目につかないこんな場所に?」
「佐久間河岸の地下迷宮?」
神田リバー沿いに広がる神田佐久間河岸町の地下は、雑居ビルの地下室が不規則に繋がる地下大迷宮となっている。
「ココだわ。何だウチの御近所じゃナイの」
「突入準備。3, 2…」
「ヲタッキーズ!動くな!」
マリレは、地下ノイズカフェのメイド長ナンだけど同じ地下街?の1室の前で音波銃を抜く。相棒のエアリと突入!
「ローリ・ランズ!手を見えるトコロに出しなさい!」
「嫌ょ。アンタが出して」
「何やってんの?逆ジャバ・ザ・ハット?」
"星間戦争"の有名なシーンの逆だ。地下室一杯に入れたダブルベッドに巨女。ベッド一杯の巨女に侍る半裸の優男達w
コレが"逆ハーレム"って奴?初めて見るなw
「抵抗すれば撃つ」
「あら。マルコシの女を撃つの?」
「え…うーん確かに」
優男を払いのけて、ベッドサイドでシコを踏む…女相撲か?
力任せに飛びかかるエアリ…だが、一瞬でハネ飛ばされる。
「おかわり!次は…ぎゃ!」
凄まじい水の奔流が巨女をなぎ倒す!
マリレが消火用ホースを構えて放水!
「消防団をナメるな!防災訓練には必ず参加しなさい!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後10時39分。万世橋の取調室。
「精神科医のトコロ?行ったわ。だって、仮釈放の条件がカウンセリングだったから。お医者は未だ生きてた」
「アンタが最後の患者だったのょ」
「言っとくけどね、アタシは人を救おうとしただけょ」
手錠をかけられ神妙な巨女ローリ。意外な発言w
「アンタが人を救う?何の話?」
「今宵、音波刑になるスーパーヴィラネス、ジョカ・ティスは無実。アタシが断言スルわ」
「今更何を眠たいコト言ってンのょ?ジョカの公判には、顔も出さなかったクセに」
事前に裁判記録を確認しているエアリが指摘スル。
「ソレは…ジョカの命令だから」
「自分を見捨てろとでも言われてたの?」
「YES。ジョカの命令には逆らえない。あのね、あの夜ジョカは検察官には指一本触れてナイわ」
お手上げだ。
「意味不明。ジョカはワザワザ有罪になるのを見越して逮捕されたと言うの?」
「4年で蔵前橋をオサラバなら軽いモンだわ」
「でもね、アンタが何を歌っても、肝心のジョカが罪を認める限り、今宵の音波刑は執行されるわ」
巨女は、スーパーヒロイン達を見上げてニヤリと笑う。
「アンタ達、あの自白が本物だとでも思ってンの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びスク水バスケ会場。
「止めるんだ!止めろ、当たれ!当たれ!」
応援虚しくシュートが決まり、僕は頭を抱える。
「テリィたん。タイムアップとって」
"リモート監督"ルイナの勅命←
コートから続々戻るスク水姿のメイド達。
「みんな。申し訳ナイけど、コレで"リモート監督"を降ります。事件が起きたの。スク水バスケより人命の方が大切。コチラも厳しい試合展開だけど、後半には希望がアルわ。今の私はマッカーサーの心境ょ」
「シャルウィダンス?」
「アイシャルリターンでしょ」
唐突に会議アプリが切断される←
「参ったな。初めてルイナに見捨てられたぞ」
「テリィたん、私達、ルイナに見捨てられたの?ココからは誰がディレクションしてくれるの?」
「うーん確かに無実のスーパーヴィラネスが死刑になるかどうかの瀬戸際ナンだけど…」
今にも泣き出しそうなメイド達の目。しかも、全員スク水←
「わかった、僕に任せろ。ソレじゃ…この中でヲタ芸の"サンダー逆スネイク"を打てるメイドは?…え?"3段逆スライド方式"?電話は良い風呂?何だソレ?」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
オシロスコープの波形を見詰めるヲタッキーズ。
「波線は、習慣的な話し方を示してるわ」
「とすると…この波形は何?そこら中にアルけど」
「ウソをついてる?強要されてるとか?」
ジョカの自白動画の音声を分析中だ。
「うーん感情要因は圧力のサインだから…」
「殴られたとか?」
「ソレなら恐れや怒りが現れるハズょ」
メイド2人の会話にラギィ警部が加わる。
「ルイナは、自白は嘘の可能性がアルって言うのょ」
「超天才と女相撲が共に偽証派か」
「女相撲はともかく、超天才は感情要因の話をしてたらそーゆーコトだと言ってた。今、数式を描き殴って証明中」
何となくアキラメ顔の3人←
「数式による証明じゃ私はともかく最高裁は納得しないわ。でも、当時の証拠だってDNAの1部だけなのょ。やっぱり自白があれば、ソレで死刑が決まるのね」
「リアルの法制度って意外に危ういわ」
「でも、死刑囚を無罪放免にスルなら、ソレだけの裏付けが求められて当然ょ。ねぇジョカはホントに有罪だと思う?」
いつの間にか背後に最高検察庁ミクス次長検事。
「貴女達は、無罪だと思うの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所。面会室にムーンライトセレナーダーに連れられてミクス。間も無く音波刑のジョカ・ティスと面会。
「だ!か!ら!アタシが殺したと言ったでしょ?」
「何で突然自分で手を下す気になったの?」
「ジャロ・ウェブの息子が我慢ならなかったから」
「金で買われた優男や高級車に囲まれた生活を捨てるほどに?」
ジョカは、顔色ひとつ変えない。数時間後に自分が死ぬコトなど、まるで忘れているかのようだ。
「昨夜、古いギャング映画を見てた。キャグニーの演じたギャングはやりたい放題だったわ。でも、アレは若い時だけね。無茶を続ければ、老いる前に何処かで野垂れ死ぬのがオチょ」
「…もう充分だわ」
「ねぇ検事さん。お友達のジャロ・ウェブは、私に必死で命乞いをしたわ。その惨めな姿が今も頭から離れナイ」
真っ向から挑発スル死刑囚。思わずミクスが詰め寄る。
「あのね。殺人音波って良く聞こえないらしいわ。だって、聞こえた時には、もう死んでるから。どちらにせよ、アンタは楽には死ねないの」
「最高検察庁の次長検事の命乞いスル顔、忘れランない」
「死ぬ瞬間まで苦しめば?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所の(塀のw)外。
「みんなが、あんな奴を生かそうとするなんて。ねぇ貴女も奴は無罪だと思う?ムーンライトセレナーダー」
「まぁまぁ。あのね…私が初めてパワーに覚醒して、人に対して"雷キネシス"を撃った時、私は変わったの」
「ムーンライトセレナーダーが腐女子だった頃の話?」
アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で、聖地巡礼スル腐女子がスーパーヒロインに覚醒スル現象が相次いでいる。
「脱獄犯が3人の子の親を殺し、車を盗んだ。隠れ家に突入すると奴はパパ活を人質に取った。万世橋はためらったけど、私は迷わず電撃を撃った」
「命の重みの話をしてるの?」
「いいえ。天命とは何かと逝う話ょ」
元カノは、今カノに尋ねるw
「ねぇジョカはホントに無実だと思う?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
第2東秋葉原高架橋下の"スク水バスケ"会場。
「そうだ!ボールを回せ、ソコだ逝け!ナイスシュート!」
「やったわ、テリィたん!」
「この"サンダー逆スネイク"のおかげで、武道館ライブはメッチャ盛り上がった。同じmoveでシュートすれば必ずウケる。勝たないけど負けない。不敗伝説を作るのは誰?君でしょ」←
試合は盛り上がってきたが、ココでルイナ。
「そっちはどーなの、テリィたん?」
「ちょっち"メイドリーマー"にかなわない。まぁやれるコトだけ繰り返すのみ」
「やっぱり?僅かに及ばないのょ。でも、繰り返すの?そうね、そうょね2分法だわ!」
きゃー!悲鳴を上げ突き倒されるスク水メイド。
ソレを見て何かヒラめく超天才&トキめく凡才←
「無実のスーパーヴィラネスの処刑は90分後だ」
「ごめん、テリィたん。私、行かなきゃ!」
「…またかょ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後11時6分。万世橋の地下駐車場。
「今日はもうお帰り?ビルザ・ダナエ刑事。またの名を地下プロレスの"蹴撃天使ダナエ"さん」
「ムーンライトセレナーダー?10人以上殺してきた奴が、今宵やっと処刑される。こんな正義があっても良いわ」
「アキバでは通用しない論理ね」
向き合う2人。蹴撃天使 vs 電撃クイーン。
「ジャロも、最後までスーパーヴィラネスの良い面を見ようとしてた。そーゆー人だった。バカな人」
「ジャロ・ウェブ前次長検事のコト?貴女達、推しとヲタの関係だったの?」
「お互い結婚してたから隠してたわ。だから、彼のお葬式にも出られなかった」
強気な女キックボクサーの頬に涙が一筋光る。
「想い出がアルのね」
「ムーンライトセレナーダー。貴女、結婚してる?」
「…いいえ」
涙を振り切る蹴撃天使。
「じゃ貴女にはムリ。ジョカの処刑は止められない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
超天才は捜査本部を呼び出す。
「ラギィ。捜査資料を読み込んでルンだけど、ミクスの前のジャロ・ウェブって次長検事さん、神田リバーで発見された時は体に重しがつけられてたのね?」
「YES。川底のサルベージ中に偶然発見されたの」
「今、発見当時の川底の写真を見てるけど、川底に残ってる足跡は犯人のモノかしら」
川底の足跡?潜水夫の足ヒレの跡だろうか?
「そうカモしれないけど、ソレが何?」
「足跡と遺体の沈められた場所を見る限りでは、犯人は約180cm90kg以上の体格ね。そして、多分…男だわ」
「ジョカ・ティスとは程遠い。彼女、そもそも女だし」←
本部のモニター画像は、ルイナから川底の足跡画像に転換。
「コレは、検事の水死体発見時の川底の写真?」
「YES。川底に残ってる足跡の深さに注目して。犯人は、恐らく左半身に頼っている。つまり、右半身に弱み、多分右手か右腕に傷を負ってるわ」
「右腕に傷?」
その瞬間、ラギィの脳内でフラッシュバック。
右腕をまくり昔の傷跡を見せびらかすジュア←
"傷が8cm残ってる。12才の時、売人に刺された"
"わかったから、もう騒がないで"
"お袋に会わせろ!"
ジュア・ティスだ。死刑囚ジョカ・ティスの愚かな息子w
「そうか。そうだったの」
"新橋鮫"は、唇を噛む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後11時22分。
「ジュア・ティスのアパートはモヌケの殻でした!」
「逃げられたの?」
「でも、ルイナ。古い傷跡だけじゃ証拠にならないわ」
ルイナの相棒でハッカーのスピアが話に割り込む。
「ジュア&ジョカ母子の通話記録をキャリアからハッキングした。とても仲が良くて毎晩話してる。気持ち悪っ」
「ホントだわ。毎日最低15分?ボクちゃん溺愛ママね。厄介な姑になりそう」
「マザコン極まれりって奴?でも、ソレが22日だけは15秒で電話を切ってる」
直ぐにピンと来るラギィ。
「事件の夜ね?」
「YES。通話時刻を見て。ジャロ・ウェブ次長検事の死亡推定時刻の10分後ょ。しかも、神田リバーの近くからかけてる。恐らくママに自慢を?」
「でも、母親は賢かった。愛する息子を守るために自白したのね。あぁ何て家族愛なのw」
ラギィ警部は天を仰ぐ。
「歪んでる。何もかもが」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最後の面会人はムーンライトセレナーダーだ。
「私を安らかに死なせて、ムーンライトセレナーダー。お願いょ」
「ジャロ・ウェブの遺体にかかった血のDNAは50%貴女と一致したわ」
「それだけ?」
鼻で笑うジョカ。
「息子は、両親のDNAを半分ずつ引き継ぐ。犯人は、貴女の息子ジュア・ティスね?」
「証拠は無いわ」
「私も映画を見た。処刑前、ジェームス・キャグニーは少年のために泣き叫んでいたけど」
ジョカは、初めて血の通った言葉を吐く。
「ムーンライトセレナーダー。私のママは、私の目の前で音波銃で撃たれて死んだ。でも、私はお葬式には出られなかったの。ファミリーの破滅をもくろむマルチバースの連中と戦っていたからょ。おばあちゃんは、万世橋の警部を撃ち殺した。200人の警官が見守る式典の最中だったわ。それがティス家なの。でも、ジュアは…あの子にはムリなのょ」
「息子を守るの?貴女、死ぬのょ?」
「64人。私は、あらゆる次元で合計64人の命を奪ってきた。でも、今宵で全ては終わるの。悪いけど1人にしてくれない?」
死刑囚にだけ許される"最後の慈悲"だ。
ムーンライトセレナーダーは、沈黙スル。
第4章 午後11時26分
捜査本部。堤防が決壊したみたいに続々情報が押し寄せる。
「リンヘ・スタン医師を撃った音波銃が割れた。5年前、別件の殺人で使用されてた。警官に向け発砲され、万世橋が押収、保管ってコトになってる。で、当時、殺人犯を挙げたのが、ビルザ・ダナエ」
「ダナエは、証拠品に手を出せる。そして、愛人を殺したジョカの釈放を阻止スルために使った?」
「愛は怖いわ。推しは盲目ね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その女は、今もジムでキックボクササイズw
「また、偽ブランド靴のメイドさんか。今度は何?」
「ビルザ・ダナエ。貴女、音波銃を盗んだ?」
「ええ。でも、ソレだけ?」
あっさり認めるダナエ。恋する女は強い。不倫だがw
「…あのね。ソレだけじゃナイわ。通話記録を洗わせてもらった。貴女、リンヘ・スタン精神科医から電話をもらってる。でも、冤罪の可能性を訴えるリンヘには耳を貸さず、あろうコトかジョカ・ティスの愚息、ジュア・ティスに連絡した。貴女、いつから真相を?」
「3年前、ジョカの件で話があった。私は、自白通りだと話した。でも、内心では息子のジュアを疑ってた。だから、ジュアに詰め寄って奴の目を見た時、全ての答えが出たわ」
「貴女は、真実に近づいた精神科医のジョカ・ティスを殺したのょ」
語気荒く詰め寄るエアリ&ミクス。
意に介さない女子キックボクサー。
「いいえ。私は殺してない。あの医師を見張ってろ、とジュアに話しただけ。殺人には関与してナイわ」
「愛人を殺した真犯人を逃して良いの?」
「表面的な問題ね。どちらに転んでもジュアは逃げられない。アイツは腰抜けだから、ママの死を受け止められない。だから、メイドさん達は彼を逮捕するコトになるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
またまた第2東秋葉原高架橋下の"スク水バスケ"会場。
「ディフェンスだ!守れ!二等辺だぞ !…守備を固めるしかない。くそ"奇跡"が必要だ」
溜め息つく僕。その時"奇跡"は2人連れでやって来る。
「スポーツドリンクを飲み過ぎて幻覚を見てるの?アレはもしかして?」
「助っ人を呼んだ。第3新東京電力ジャックサンダース軍曹ズのチエコ・ファーマーとコズエ・ガアルノだ」
「来たわょテリィたん。その超天才とやらの立てた作戦ってどんなの?見せて。コレ?」
僕のボードを取り上げる高身長美女。スク水だw
「企業チームのプロ選手?こんなのアリ?」
「ルールブックを隅から隅まで読んだけど、プロでもスク水なら問題ナイみたいだ」←
「テリィたん!こんな馬鹿げた作戦、生まれて初めて見たわ。悪いけど作戦変更ょ!メイドさん達は、全員コートの右半分に集まって。後は私達に任せて」
「いいね!審判、選手交代だ」
「テリィたん。じゃ例の約束よろしくね。ホントに宇宙旅行に行けるのかしら。そのために私達、スク水になったんだけど」
「大丈夫だ。僕は、第3新東京電力の初代宇宙発電所長だぜ?市ヶ谷の宇宙作戦群にもちょっち顔が効く…でも、もしも身長制限に引っかかったらゴメンょ。ほら、宇宙飛行士って、みんな背が低いだろ?」←
ホイッスル。いきなりロングシュート!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バーガーにケチャップをつけてポテトを食べるジョカ。ベッドに横になり食べている。ストレッチャーが運び込まれる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裏路地に舞い降りるエアリ&マリレ。逃げ出すジュア。白熱のスク水バスケ大会で次々シュートが決まる!ジョカに真っ白な靴が差し入れられる。音波刑の立会人が続々と集まる。アイロンの効いた囚人服に袖を通すジョカ。逃げるジュア。追うヲタッキーズ。スク水でダンクシュートが決まる…
「逆点?マジか?」
絶句スル僕。走るヲタッキーズ。牧師がジョカを訪ね、聖書の朗読が始まる。次々とシュートが決まり会場の全員がウェイブに揺れる。おろし立ての囚人服に着替えたジョカは、警吏に連れられ廊下を逝く。囚人達の祈りの声。音波銃を構えるヲタッキーズ。ジュアが両手を上げる。音波刑のベッドに横になるジョカ。見下ろす立会人。ミクスとムーンライトセレナーダーもいる。手足を拘束されるジョカ。ヘッドホンを装着し音波を流す準備。パトカーの横で跪き、両手を頭の後ろで組むジュア。エアリが後手に手錠をかけスマホに叫ぶ。次々とディフェンスをかわすスク水の高身長美女。死刑台を見下ろす人々。ジョカは目を閉じる。3つのシリンダーから音波が流れる。5人をごぼう抜きしてロングシュート…と見せかけてダンク。目がうつろになるジョカ。口を薄く開く。スク水バスケの会場にゲームセットのホイッスル。歓喜が渦巻く。僕は、スク水のメイド達と手を取り合いハグ。死刑台横の赤い電話が鳴る。待てと指示する警吏。コートの真ん中では僕が胴上げされる。ジョカがゆっくりと目を閉じる。立会人が立ち上がる。受話器を手にした警吏は時計を振り向く。
12時01分。
警吏は、首を横に振る。絶命した死刑囚の遺体を載せたストレッチャーが逝く。やがて、塀の外に出たムーンライトセレナーダーとミクスは、ビルの谷間から差す朝日に目を細める。母は、自らの命を賭して息子を守る。しかし、その思いは、時として届かない。
朝焼けが窓を染める。アキバに新しい朝が来る。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"死刑"をテーマに、偽証により死刑を買って出るスーパーヒロイン、その愚かな息子、真実に気づく精神科医、惨殺された次長検事、真相の前に立ち塞がる謎の巨女、地下の蹴撃天使、過去の真相に迫る超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに所轄の敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公が巻き込まれるスク水バスケ大会などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、元気なインバウンドを中心に、マスクがスッカリ減った秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。