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【完結・連載版】悪の組織の女幹部に恋をする余裕はない  作者: 中村朱里
第2章 悪の組織の女幹部に労災は下りない
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2-①

某月某日。本日曇天なり。

昨今世間で話題の悪の組織カオティックジュエラー、通称カオジュラのアジトである高層ビル、その隠し地下に存在する会議室。

カオジュラの女幹部レディ・エスメラルダこと、私、柳みどり子は、大変遺憾なる気持ちで、本日の作戦会議に参加していた。


「さて、今日の議題は、言わなくても解っているね?」


我らが社長サマにして悪の総帥、マスター・ディアマンがその輝かしい甘やかな美貌に優美な微笑みを浮かべて口火を切った。そのこれっぽっちも笑っていないまなざしがこちらへと向けられているので、私は全身全霊全力で視線を膝に落としてガクブル震える。こわいこいこわい。

別にしろくん……じゃなくて社長……でもなくて、この場においてはマスター・ディアマンと呼ぶべき彼を怒らせることなんて初めてではない。むしろわりと怒らせている自覚はある。

いやでもね、それはね、不可抗力な場合が最近めちゃくちゃ多いし、なんならただ単に理不尽なだけの場合が増えてきた気もするんですけれども。いやほんとに。あれもこれもどれもそれも私のせいじゃなくない? 反省も謝罪も猿でもできる芸当だとマスター・ディアマンは仰いますけど、そもそもその反省も謝罪も私がしなくてはならないやつなのだろうか。違う気がする。私はぜんぜん一切悪くな……。


「レディ・エスメラルダ。聞いているかな」

「はい申し訳ございません! 最近油断しきりのわたくしめがすべて悪うございます!!」


大きく豪奢な革張りの椅子に座って、にっこりと問いかけてくるマスター・ディアマンに、ピンッと姿勢を正して頭を下げる。勢いあまってガツンッ!!!! と目の前のテーブルに額がぶつかった。痛い。涙が出ちゃう。だっておんなのこだもん。

いやでもそんなことは言ってられない。反省も謝罪もいくらでもしますので、減給もクビも勘弁してください。「現場に出ないヤツは好き勝手言えていいですねぇ! 事件は会議室じゃなくて現場で起きてるってことをあの無駄に賢い頭はま~~~~~~~~だご理解していないんですかね!? は~~~~~~~うらやま~~~~~~うらめし~~~~~~ぽいずんぽいずん!!」って宅飲みで陰口を叩いたことは謝るのでほんとまじで減給は、クビは、まじまじのまじご勘弁を……!

事の次第によっては明日のごはんのおかずが梅干し一個になってしまうという極めて切実な現状に怯えながら、ずきずきひりひりと痛む額を押さえつつ、ぺこぺこと繰り返し頭を下げ続けると、ふう、とそれはそれはハイソでセレブな溜息が耳朶を打った。


「そこまで言ってないよ。油断しているのはまあその通りだけれど」


ねえ? とマスター・ディアマンは、私ばかりではなく、この作戦会議に同席している他の幹部達にも同意を求める。

わざと薄暗い照明にしてある地下会議室において、これまたわざとスポットライトが当ててある椅子についているのは、私、マスター・ディアマンと、残りの二人、計四名。その残りの二人のちみっちゃ……っていうとめちゃくちゃ怒られるので、まあなんていうか、ああうん、小柄? なほうが、ばくりとドーナツにかじりついて、私をじろりと睨み付けてきた。


「たるんでるのは腹の肉だけにしときなよオバサン。ボクが造ったストーンズの無駄遣い、ホント迷惑なんだけど?」

「仰る通りで……」


何度言われてもオバサン呼びは胸に突き刺さる。わ、私、もうそんな歳かな? まだアラサーにもなってないんだけど、やっぱりだめ? だったら余計にあの無駄無駄セクシー衣装きっついな~~~~って思うんだけどって話がずれた。

私が引きつった半笑いで遠い目をすると、私をオバサン呼ばわりした美少年はいかにも私を小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

このクールな眼鏡と白衣がお似合いの、天使のような美少年。その名を、ドクター・ベルンシュタイン。

カオジュラの頭脳と呼ばれる今年で十二才になるのだという天才児は、そんな仕草も小生意気でかわいい! と世間では評判らしい。世も末だ。どうみてもクソ生意気なクソガキでしかないのに。今ドクターが食べてるドーナツは、私が昼食用に持ってきたおからドーナツだ。作戦会議が始まる直前に、ま~~~~た研究に打ち込んで食事を抜いていたらしいドクターに、「食べる?」と一つ差し出したところ、一つどころか全部まるごと持っていかれてしまったやつだ。想定外にお気に召したらしい。

嬉しいけど複雑でもあるのは、私の心が狭いせいだろう。今日のお昼どうしようかな。近所のパン屋さんのおいしいパンの耳まだ残ってるかな。帰りに寄ろ。

それにしてもこのおなか、そんなに言うほどたるんでいるだろうか。セクシー衣装とて制服は制服、ちゃんと着こなすのは業務だと思って日々自主トレに励んでいるけれど、そろそろ限界が来たということか。

さすさすと腹をなんとなしにさすっていると、ふと視線を感じた。そちらへと視線を向ければ、いつでも笑っているように細められた瞳とばちりと目が合う。


「……何かしら、アキンド・アメティストゥ」

「いいえぇ? いいおなかだと思っただけですぜ」


グッとサムズアップする美青年はにっこり笑って、私からその視線を、気付けばブスッとした不機嫌そうな顔になったドクターに意味ありげな視線を向けた。


「ドクター、それは言い過ぎざんしょ。レディの腹は別にたるんでナイナイ。どこに出しても誰に見せても恥ずかしくない引き締まったナイスバディだと思いますヨ。アタシが保証するから安心するでござんすレディ」


何をどうやって安心しろというのかこの野郎。さりげなくセクハラ発言をかまされているような気がするのは気のせいではない。

そんなセクハラすら、世間では「きゃっ♡ お上手なんだから♡」と老若男女にオオウケらしいシュッとした美青年が、アキンド・アメティストゥ。

カオジュラにおける、多方面の営業や広報を主に担当する、本人曰くの『なんでも屋』である。

絵本に出てくるキツネのような細目の、シュッとした長身のイケメンだ。繰り返し失礼。シュッとしたってなんなん? と問われてもなんかそんな感じとしか言えない語彙の無さをお許し願いたい。

話によるとどうも、マスター・ディアマンとはまた異なる、アジア系の海外の血が混じっているとかなんとかいう話だけれど、興味がないので割愛。どこでその方言ですらないよくわからんヘンテコな言葉遣いを覚えてきたのだろう。それがまたおちゃめで素敵なの♡と社内のお姉様がたには大人気。これまた世も末。ぽいずんぽいずん。

で、何の話だったか。そうそう、オバサン呼びだオバサン呼び。そんでもって私のストーンズの無駄遣いについてだ。


「……それは本当に申し訳ないと思ってます……ストーンズを無駄遣いしてるつもりはないんだけど、結果的にそうなってしまっているのは本当にすみません……」


意思のない、よくわかんないエネルギーで動くモブ戦闘員達、通称ストーンズ。

そのよくわかんないエネルギーが、私達カオジュラがお国からの密命により集めているカオティックエナジーだということを、私は最近になってようやく知った。

道理でストーンズ一体倒されるたびに、一枚ずつ始末書が増えていくわけだ。ほんのわずかだって無駄に『しない』『できない』『したくない』の三拍子が揃っているのがカオティックエナジーなのだから。

だからこそストーンズをいたずらに、ドクターの言葉を借りれば『無駄に』している私のことを、カオティックエナジーの収集と管理を担うドクターが馬鹿にするのは当然のことなのだ。実際私よりぜんぜん頭いいし。

しろくん、じゃなかった、マスター・ディアマンほどではないけれど、その知能指数はかなりのものであり、彼の協力がなければカオティックエナジーの発見には至れなかっただろうとマスター・ディアマン自身も太鼓判を押すくらいだ。

だから仕方ない。仕方ないのだけ、れ、ど!

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